鬼滅の伝説   作:織姫ミグル

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第七章

 

 

「はぁッ! はぁッ!!」

 

 

ハイラルではない何処か。

 

冷たく澄んだ空気に包まれた静謐の森。

 

人の手が入っていない自然、生命力に溢れた木々の奥深く。昼と比べ、ただでさえ頼りない光源がうっそうと茂る木々によって遮られ、ほとんど地面が見えなかった。

 

あたりは真の闇に近い。

 

鬼は、その闇の中を必死に駆けていた。背の低い小柄な体では、ただの藪さえ目の高さに届く障害物と化す。

 

棘や葉で手足が切りついても、しばらくしたらそこは塞がる。

 

だが息はあがり、心臓は破裂しそうになっていた。

 

 

「はぁ、 はぁ······くそッ!!」

 

 

夜陰の中から今にも『あれ』が飛び出してくるのではないかと背後を見ながら必死に走る。人を殺すことができるその鋭い爪と牙を喰い殺す、圧倒的な存在。

 

決して足を止めるわけにはいかなかった。

 

命懸けの鬼ごっこ。

 

異形の化物でも必死に逃げる。

 

 

「ぐあッ!?」

 

 

盛大に足が何かに引っかかり、鬼はつんのめって顔から腐葉土に突っ込んだ。

 

それでもう、この鬼の運命は決まったようなものだった。

 

───バキッ、ベキッ!

 

異音が聞こえた。

 

それは後ろの木の根が、それもかなり太い根がへし折られる音。

 

 

「ひ、ヒィッ······!?」

 

 

追いつかれた。

 

鬼すらも恐怖する、想像もつかないような、とんでもなく重い何かがのしかかって木が悲鳴を上げている。深い森の中に響く謎の音は、恐ろしいほどはっきりと響き渡った。

 

それと同時に、動く影。

 

 

「······ほう」

 

 

ゾワリ! と。

 

体の底から、いや、足の裏から頭のてっぺんまで得体の知れない何かが貫いていった。体の中心に穴が開いたのではないかと思うほどの強烈な───恐怖。

 

転んだ鬼は顔を上げる。

 

そこには六つの瞳を持つ異形の鬼がいた。 真っ赤に燃えるような、火傷しそうな赫い色の髪、深い闇へ誘われそうなほどに悍ましい六つの瞳。本来、生物学上人間体であるのなら正しい位置に瞳があるべき二つの眼窩には、左目側には『上弦』とあり、右目側には『壱』という数字があり、『上弦の壱』という階級を証明する文字が浮かぶ眼球が収まっていた。

 

歴戦の猛者であり、全ての鬼の中でも特別な存在だということが一目でわかる風貌。

 

『孤高の闇月』を思わせる、人を寄せ付けぬような殺気を持った鬼は、目の前に転がっている下っ端を睥睨する。

 

 

「お、お願い致します! た、助けて───!?」

 

「······鬼をも超える邪気。我が刃がどこまで通ずるか······」

 

「!?」

 

 

助けを求めてきた鬼のことなど最初から存在しないかのように無視し、そいつは森の奥へと視線を向ける。

 

すると。

 

闇の中から『手』が伸びてきて、ずっと追っていた獲物の鬼の足を掴むと、目にも止まらぬ速さで森の奥へと引き摺り込んでいった。

 

 

「う、ウワァァァアアアアアアアアッ!!???」

 

 

悲鳴、悲鳴、悲鳴の連続。

 

連れてかれた鬼の悲鳴は闇に呑み込まれ、気配もそこで消え去った。

 

待ちわびていた相手の気配を捉え、鬼は嗤う。

 

視線の先には、森の奥より乾いた喉を血肉で潤すために現れた、禍々しく闇に染まった『黒い沼』。沼の中から五本の腕が飛び出すと、それは一箇所に集まって次第に人のようなモノを形作る。足元に広がる『黒い何か』が草木を枯らし、生きとし生ける者達の全ての生命を拒絶する。

 

顔付きはわからないが、その鬼と互角以上の殺気を感じ取った。手に握られている刀のような武器から発せられる異様な殺意。

 

感じた殺気で解る。こいつは圧倒的だ。感情に呼応し、大気に散る邪気。意識せずともあふれ出すオーラの力。こいつの前に、鬼の常識など『ない』に等しい。アリと象、まったくもって比較にならないほどの重圧。

 

同じ尺度で測ることすら馬鹿馬鹿しい。

 

しかし、

 

 

「相手にとって不足はない······」

 

 

相手は強敵中の強敵。難敵中の難敵。

 

鬼は魂の具現である刀を抜く。刀身にあるいくつもの瞳がギョロギョロと獲物を睨み、目の前の未知なる強敵に誓う。 

 

──────証明しよう。

 

鬼には勝てない。鬼は特別な存在だ。 

 

そんな自己欺瞞が空々しくなるほどの、絶対的な敗北で、自分の強さを証明してみせる、と。

 

 

「いざ············参る」

 

『············』

 

 

鬼武者と影の視線が交錯した。

 

月と影。

 

闇側同士による前代未聞の戦いが始まった。

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

「月の呼吸、壱ノ型────闇月・宵の宮」 

 

 

開幕と同時に鬼は影に走り寄り、一度抜いた刀を納めて再び抜刀し三日月を纏う一刀を横薙ぎに一閃する。

 

単純な居合斬り。 

 

力任せに叩き付ける一撃は、一見粗暴に見えながらも恐ろしく鋭い。

 

 

『············』

 

 

しかし大振りは大振り。影はその剣筋を正しく見切り、赤黒い瘴気を纏った剣で受け止め、

 

 

『············』

 

 

ようとしたが行動を突如中止し、バク宙をして後ろへ逃げた。瞬間、鬼の刃から幾重にも放たれる三日月型の衝撃波が後ろにある木々を全て切り裂き、

 

ずおんっ、と。

 

森全体が激震した。

 

 

「良い、見切りだ···········当たっていれば、ただでは済まなかった」

 

『············』

 

「言葉はいらぬ············か。それもまた、一興」 

 

 

にやりと笑い、追撃の構えを見せる鬼。 

 

影は間合いを再び取るために、バックステップする。

 

奴が見つめるのは、趣味の悪いデザインをした刀。

 

その刀身が描く軌跡だ。 

 

それは研ぎ澄まされた剣技の軌跡。純粋な剣術を極めた上で、異形な反則技で昇華させた。正攻法で鍛えることに時間を使うくらいなら、同じだけの時間を使って異能の力を取り入れて鍛錬を行った方がずっと強くなれるし、なにより人の道を外れた鬼はもはや誉はなく、剣士としての評価基準に真の剣術を盛り込んでいない。 

 

だがそれは、半端者の考えだ。ごく少数の本当に強い化物は、ほぼ全員が異能だけではなく武術も剣術も修めている。彼らには、強さに対する飽くなき渇望があるからだ。己の力になる全てのモノに手を出し、それを修め、さらなる高みを目指す。 

 

この鬼がまさにそれだった。 

 

鬼の独特な戦法、『呼吸法』は神楽の舞のように美しく、しかし全てを切り裂く刃の如く苛烈に影を追い立てる。影は隙無く飛来する鬼の剣閃を避けていく。後ろへ後ろへと、後退し続ける。

 

一方的な展開の前に、鬼は過大評価だったかと肩を落としそうになる。

 

だが、

 

 

(何だ··········この感覚は?) 

 

 

その展開に鬼は耐え難い違和感を覚えていた。

 

一撃で大地を根こそぎ抉り取る鬼の剣撃は、問答無用で相手を押し潰す一撃のはずだ。押されっぱなしなどという展開は本来起こり得ない、起こり得るはずがない。

 

当然だ。

 

鬼の一撃はそもそも目にも止まることを許さないのだから。 

 

ならば、

 

この現状はどういうことだ?

 

 

(奴の動きが、読めん?)

 

 

一方的に攻め込んでいるはずの鬼の目に、本来なら見えるはずの透き通った世界が映らない。 

 

ただ逃げ回っている。防戦一方。一方的な攻撃。 

 

それが何を意味するのか、鬼武者は今になってようやく影の意図に気が付く。

 

 

(まさか··········遇らわれている··········!?)

 

 

鬼は目の前の敵に刀を打ち下ろす。

 

対する影はそれを剣でなんてことのない態度で受け、だが決して受けきらずに、受けた衝撃を後ろへ進む力として鬼の間合いからスルスルと逃れていく。

 

 

「ッ!?」 

 

 

側から見れば、鬼の美麗な剣術に影が押し込まれている構図にも見える。 

 

だが現実は違う。

 

影の小賢しくも完璧な技巧の前に、鬼の攻撃力が封殺されているのだ。力を受け流す柔らかい防御。口で言うのは容易いが、行うは至難。僅かでも受ける力が強すぎれば、鬼が放つ猛攻の前に四肢を切り裂かれ、弱すぎれば問答無用で斬り伏せられる。 

 

力加減、角度、タイミング。

 

いずれか一つが微細にでも狂えばすぐに致命傷とする綱渡り。しかし鬼の前の影は、それを顔色一つ変えずにおちょくるように易々とやってのけている。その事実にじわりと、鬼の中に恐れとも、怒りとも形容できる感情が染み出す。 

 

 

「ッ!!」

 

 

鬼の中の第六感が、自分の目の前にいる敵が自分よりも危険な存在だと告げていると同時、自尊心がそれを認めぬ故に起こり得る揺れ。

 

 

「身躱しだけで、私をここまでさせるとは··········舐めた真似をしてくれる!!」 

 

 

その動揺を誤魔化すように、鬼が斬撃の手を休めずに迫ってくる。 

 

 

『············』

 

 

影は何も返さなかった。

 

鬼がその姿を消したと思ったら、次の瞬間には目と鼻の先におり、刀を振り下ろそうとするので影は鍔迫り合いに応じる。

 

 

「月の呼吸、伍ノ型────月魄災渦」 

 

 

振りは受け止めたというのに、鬼は何の動作も無しに技を放った。周囲に竜巻の様な斬撃を出現させ、予感すら許さず、神の御業とは程遠い反則的な不名誉な力で影を捩じ伏せる。

 

だが、

 

既にそこに影の姿は無く────幻影の如く、実体を疑うほど常識を超えた動きで鬼を翻弄する。

 

 

「ッ!?」

 

 

瞬間、

 

唐突に戦闘の流れが激変する。斬り合いが始まってから、はじめて影が攻めに転じたのだ。だが、たとえ卓越した剣技の冴えを有する剣客といえど、正面切っての斬り合いで圧倒的な攻撃力を誇る技をいくつも持つ相手になにができよう。 

 

振りなしの斬撃を繰り出すことができる化物相手に、いくらあの影でも太刀打ちできるはずもない。

 

ただその破壊力の前に倒れ伏すのみ。

 

そのはずだ。

 

そのはずなのだが。

 

 

「ぬぅ!?」 

 

 

あろうことか、鬼の足が後ろに下がる。

 

正面切っての剣戟で、力で勝る鬼が押し込まれる。刀を狙った、突進連撃に鬼は守勢に回るも、その顔から動揺を消すことは出来なかった。やがてその流れが確実に影に回ったとわかった瞬間、影の浮かべる愉悦の笑み、その口角がより上がる。

 

 

「月の呼吸、漆ノ型────厄鏡・月映え」 

 

 

刀を斜めに一閃し、近距離から複数の方向に地を這う高速の斬撃を放つ。

 

それさえも当たらず、影はたった一本の剣で鬼の放つ連撃に勝るとも劣らない────いや、それ以上の速さで繰り出される凶刃の嵐。一転して守勢に回らされた鬼はなんとか防ぎつつも、少しずつ後退していく。

 

得体もしれない相手。

 

だがそれも、影と同じ位置まで立てれば違和感なく呑み込めたかもしれない。

 

しかし。

 

その悪魔じみた太刀筋、さながら有無を言わせぬ凶人が如く。それだけのことを目の前の影は一切の異能なしで行っている。この影にとっては、何百年生きてその間鍛錬を欠かさず幾多もの強者を葬ってきた『上弦の鬼』を凌駕することも、『月の呼吸』という極めて破壊力も殺傷力もある技の猛攻をあしらうことも、ただの普通の剣術でしかないのだ。

 

一体どれほどの修練を積めばそこまでの境地に至れるのか。鬼はまだ見ぬ世界の広さに思わず心を揺さぶられる。

 

もはや疑いようがなかった。 

 

こと剣術の腕に限ればこの影は自分よりも数段格上。

 

初動だけですでに影は次に来る刀の角度も威力も技の効果も、完全に見切っている。

 

 

「············くッ!!」

 

 

咄嗟に身を引く鬼は、影の間合いから僅かに遠ざかった。

 

この自分が後退するなど············これまで生きてきた中で、『自分の弟』と対峙した時以来だ。

 

 

(憎い············ッ!!)

 

 

苛ついた態度を顕わにし、鬼は距離を空けると大上段に構えた。膨れあがる圧力に空気が震え、ちりちりと殺気が肌を刺す。

 

 

「この技を使わせることになろうとは············認めよう」

 

 

持っていた刀が形状を変える。

 

三箇所から枝分かれした刃が生えてきて、その禍々しさから明らかに今までこちらも本気でやれていなかったことを自覚した。

 

 

「お前は私を本気にさせた············そのことを誇りに思い、死んでいけ」

 

 

全力の一撃が来る。 

 

言葉通り、その実体ごと斬り裂き、影の命を奪うために。

 

 

『············』

 

 

ニチャア、と。

 

影がようやくわかりやすい表情を浮かべる。

 

嗤笑。

 

カラコロと、乾燥した口元が三日月のように嗤う。

 

対照的に、呼吸する音が空気を震わせる。

 

 

「参る!!」

 

 

言葉と同時、その場から鬼は消えた。

 

木の枝を押し除け、その弾みで頭上にあった木々の囲みの一角が破れ、月の光が差し込んできた。

 

真っ赤な満月。

 

真の闇に慣れた影の目にはその月明かりで充分だった。充分、月は自分の味方をしてくれ、異形の刀を振り下ろす鬼の巨体を影の目に映してくれる。

 

空を切り裂き、闇が疾る。 

 

 

「月の呼吸、玖ノ型────降り月・連面」

 

 

渾身の力を込めた斬撃が、夜影を切り裂き叩き込まれる。

 

下から上へと無数の斬撃を放ち、降り注ぐ雨のように上空に三日月が展開される。

 

上下からの同時攻撃により相手の回避行動を大幅に制限でき、空間を支配するような攻撃で、広範囲に斬撃を繰り出す技は逃げ道を完全になくす。

 

 

「············終いだ」

 

 

裂帛の気合いを込めて、鬼は全力を振るい、眼前の影を斬りつけ、

 

その刃は────何もない空を薙いだ。

 

 

「!?」 

 

 

確かに目の前には影がいたはずなのに。 

 

鬼の渾身の連撃は、影の後ろに垂れ下がっている赫い髪を僅かに掠めただけで、ほとんど届かなかった。間合いを間違えたのか。いや、そんなことはない。確かに影の逃げ道は塞いだ。だがその影は蜃気楼のように消え去り、その後ろからもう一人の影が走ってきた。 

 

鬼の頭が真っ白になる。もう何が何だかわからない。

 

だが、それも無理はない。

 

影は、光の具合によってその見える形を増やすことができる。影ができる面の角度に応じて、正確に形作ったり、歪んだ像とさせることができる。

 

自然現象のような存在に、常識を当てはめること自体お門違いというもの。

 

 

「···········素晴らしい」 

 

 

瞬間、対峙する無数の瞳の刀を持つ鬼武者が、本当に感動したように感嘆のため息を零した。

 

歓喜の言葉を送ると、影は引き裂くような笑みを浮かべ、

 

時間の流れさえも超越した一撃を放ち────鬼の頸を捉え、切り裂き、打ち砕いた。

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

死に至ることはなかった。

 

だが、圧倒的な敵の前に、自分は死んだも同然の身。

 

頭が汚い地面を転がり、対峙していた好敵手がそれを持ち上げる。眼前まで持ってこられて、ようやくその輪郭をはっきりとさせる。

 

木乃伊。

 

パキパキに乾燥した皮膚に、脆そうなほど細い身体。額には『黒い勾玉』が埋め込まれており、瞳は人外のように赫く染まっていた。

 

鍛錬が足りないとか、能力不足だとか、そんな次元ではない。

 

最初から勝負は決まっていたようなものだ。実体もないのに刀を振っても当たるわけがない。それくらいのレベルで影は鬼を圧倒し、そして見事打ち破ってみせた。

 

 

「私の、負けだ···········潔く認めよう」

 

 

敗者は勝者に従うのみ。ずっと頭を撫でられていた鬼は我が生涯に一片の悔いなしとでも言いたげに目を閉じる。

 

そこに。

 

渇いた声が聞こえてきた。

 

 

『この世界の月はまた一段と美しい』

 

「!?」

 

『我が瘴気に呼応するように、真っ赤に染まっておる』

 

 

ゾワリ、と。

 

木乃伊の口が開かれたと思ったら、殺意を伴って膨らんでいく。

 

粘ついた愉悦の感情をたぎらせ、木乃伊は嗤う。

 

 

『我が名は··········“ガノンドロフ”。我が力を取り戻すため、異界よりやってきた魔の王··········その血肉で生まれし人形』

 

 

一番恐ろしかったのは、実はその脅威性であったのかもしれない。

 

鬼は目の前の好敵手を打ち負かそうとするのに必死だったが、それを凌駕する邪悪さの方がある意味では恐ろしかった。だが、目の前にいる脅威は強欲であるが故に、強者を叩き潰して満足するような人格者ではなかった。

 

糸を垂らしてのんびり釣りを楽しむより、湖水を全て飲み干してすっかり干上がった泥濘を跳ねる魚を一匹一匹確実に捕らえる。そんな存在なのだ。

 

木乃伊は鬼の頭をそこらに放り投げると、背を向けてどこかへ去っていく。

 

 

『此度は我を楽しませてくれた礼だ。だがいずれ、お前達全てを取り込み、闇に染まりし世界を創造するための贄となってもらう··········それまでは束の間、精々人を喰らって力をつけておくと良い』

 

 

去り際に残した影の言葉。

 

鬼はそれを最後まで聞いていた。

 

闇の奥へと消えていった影の気配が消えると同時、赤い月は本来の輝きを取り戻す。

 

 

「···········」

 

 

自分が敗れたのは、ある意味必然といえる。鬼は頸のない体を動かして自分の頭を拾うと切られた部分にくっつける。五感が全て戻り、手には自分が今日撃ち放った『月の呼吸』の会心の手応えが残っている。そしてその手応えが教えてくれる、まだまだ強くなれるのだと。 

 

その差はいつかは埋まる。

 

いや、埋めてみせる。 

 

次に戦うときまでには、必ず。 

 

追い抜いてみせよう。

 

あの『魔王』と呼ぶのに相応しい存在を。

 

 

「···········フフッ」

 

 

自分が全力で戦い、それでも及ばない強敵。 

 

ようやくだ。 

 

ようやく全力で戦える。 

 

ようやく全力で────刀を振れる。

 

 

「ふふ、ははははははッ!!!」 

 

 

殺気立った周囲の空気は刺すほどに冷たいというのに、身体を奥底から滾らせる熱が収まらない。いや、冷めない熱ならばもう無理に冷ますのはやめよう。

 

鬼は己が身を焦がす情炎に身体を預け、迫る戦いの愉悦に唄うように嗤い続けた。

 

 

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