鬼滅の伝説   作:織姫ミグル

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第十三章

 

 

ひょっとこのお面を被った者達は今日も元気に働く。

 

鞴が炉に空気を送り、赫く燃え始めたらそこに特殊な鋼を放り込み、充分熱せられたところでヤットコで金床の上に移す。片膝をついて平頭ハンマーを取り上げて熱された鋼を叩き、引き伸ばして形を整えていく。火造りが終わると刀身の形をせんと呼ばれる器具で整え、焼き入れを行う。焼き入れを行うことによって、刃文や反りが生じる。焼き入れが終わると、刀身を研磨する鍛冶押、及び柄に覆われる茎にやすりをかける茎仕立てを行い、それを下地研ぎし、刀剣の姿や形を整える。次に仕上研ぎという工程に移る。

 

あちこちに散らばるひょっとこ達は、それぞれが刀や槍などの手入れを行っていた。普段は『滅する』事を旨とするため、ある程度の刀鍛冶としての能力が必要なのだが、それと同時に硬い鬼の頸を斬るために補強を行わなければならない。

 

鬼が使う血鬼術にも耐えられるほどに強く頑丈にせねば。

 

 

「刀を········折った。刀を········失くす。今度は········刃毀れ?」

 

 

ボソリ、と声が聞こえた。

 

とある鍛冶屋部屋。そこにいるのはなぜか包丁を二本頭に巻いて般若っぽい形相で刀を研いでいるひょっとこがいた。彼は俯いたまま怨念を込めて刀を作っていた。

 

 

「許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない」

 

 

もはや呪詛。

 

彼の刀は丹精込めて作るためとても良い出来になるのだが、その一方心込めすぎているため壊したり失くしたり刃毀れなんかさせたら自分の魂が侮辱された気がするため、すぐ癇癪を起こす。表面を丁寧に磨いているが、その作業がとても刀鍛冶には見えない。殺意を込めているように聞こえて、見るものがいたら背筋に寒いものを感じるだろう。

 

ひょっとこや般若というより、まるで夜中に人喰い山姥が包丁を研いでいるような、それほどの威圧感が出ている。

 

 

「あ、あの········“鋼鐵塚”さん?」

 

 

入り口に別のひょっとこが現れても見向きもしない。というよりかは集中しすぎて気付いていないのか。

 

鋼鐵塚と呼ばれた男は俯いたまま、表情の読めない顔でこう言った。

 

 

「今度俺の刀をコケにしたら········殺してやる。絶対に········殺す」

 

 

のっぺりと、ものすごく平坦な声だった。

 

言葉はそれっきりで、再びジャリジャリと刀を研いでいく。振りやすいように、使いやすいように、殺しやすいように、少しずつ刀は形を整えて進化していく。

 

ひぃぃぃぃいッ!! と全身で震える“鉄穴森鋼蔵”。彼宛に届いたその刀の持ち主である少年が今この『刀鍛冶の里』に向かっているという手紙が来たのだが、何だか今日の彼はやけにバイオレンスなので、鉄穴森はこそこそと手紙を置いて退散しようとした時、

 

 

「········何の用だ?」

 

 

ボソッと。

 

刀の補強を終えた鋼鐵塚蛍が、ほとんど振り返らずそう訊ねてきた。

 

 

「あ、あぁ········えっと、竈門炭治郎君がここにいらっしゃ───」

 

「なんだと?」

 

 

殺気を感じた。

 

それも眼光で殺せそうなほど強烈な。

 

 

「········そうか」

 

 

それだけを言い残して彼は刀を置くと、鉄穴森を通り過ぎてどこかへ去っていく。言葉には出さなかったが、その背中はこう語っていた。

 

カクゴシロヨ。

 

そう言外で宣告され、鉄穴森はいつも以上の殺気にガタガタと震える羽目になった。

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

「セェイッ!!」

 

 

気合い一閃。

 

リンクは駆け寄りざまに兵士の剣の切っ先を突き出した。 

 

陽光を吸収して育った『ヒダマリ草』を纏う刃が、前傾で身構えていた魔物の頭部をかすめる。

 

 

「ぐはッ!?」

 

 

怯んだ魔物の顎を、手首を返して鋭く斬り上げる。斬撃と共に逬った閃光が、飛び出してくる血飛沫を蒸発させた。 

 

手応えあり。

 

 

「ガァァァアアアアアアアッ!!!??」

 

 

身体中から火を噴いた。 

 

至近距離からの陽光を纏った攻撃を受け、魔物が甲高い悲鳴を上げた。

 

巨体が、地響きを立てて地面に崩れ落ちる。リンクは舞い上がる土煙から反射的に顔を庇い、ついさっきまで圧倒的な力と生命力とを誇り、彼と対峙していた新種の魔物が徐々に力を失って燃え尽きていく。それはいつもと同じ、討伐が終わる実感がこみ上げてくる瞬間だった。

 

 

「ふぅ、思ったより手こずったな」 

 

 

そう言いながら、リンクは目の前に横たわる獲物を見て頷いた。 

 

全身を硬い筋肉で覆われた大型の魔物。とても大きく特徴的な角を持ち、そんな奴でもこの『ヒダマリ草』を塗ったら骨すらも残らない。

 

別にリンクが手こずる相手ではない。もちろん特別強靱な個体だったわけでもない。今回の討伐の難度が上がったのは、魔物が原因ではなかった。

 

すると、

 

瞬きをする間もなく、武器の耐久値が限界を超えて悲鳴を上げ、刀身が見事にひび割れて四散した。

 

 

「あ、壊れた」

 

 

持っていた剣が砕け散った。

 

まあ安物だし。

 

別に気にすることではないが、時間がかかったのはこれが理由。いつもの退魔の剣でなく、普通の、それも朽ちた兵士の剣を使ったためだ。いつ壊れるかわからないほどの耐久性で、リンクの優れた腕では一振りで折れてしまう可能性があった。それを気にして一撃一撃を大切にし、魔物の隙を突いて敢えて弱点だと思われる首を避けて腕辺りに傷をつけた。すると、傷口から『ヒダマリ草』から採取した成分が入り込んで、魔物の体は自然発火して跡形もなく消え去った。

 

これで、どんなに腕の覚えのない者であろうと『ヒダマリ草』さえ塗って傷を一つつけただけで倒せるということが証明された。

 

ここに来たのはいつもの如く生態調査兼実験。シーカー族が奴らの弱点は陽光であることから、陽の光を吸収して育った『ヒダマリ草』を奴らに喰らわせれば一瞬で片が付くのではないかと思い、それを実行してみたところ成功したという報告が相次ぎ、リンクもそれを試すためにわざわざ襲われやすい森の中で無防備な姿を晒していた。獲物に喰い付いたのが巨体でラッキーだった。個体差があるのではと思っていたが、どれも例外なく倒せるらしい。

 

それが証明されただけでもこれからの役に立つだろう。

 

さて。

 

もう用事は済んだし、あとは帰るのみ。

 

リンクは急いで近くの馬宿に預けてきた少女の元まで走っていく。

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

「オ、お願いシマース! お嬢サン!! そのガンバリカブトヲテリーにゼヒ譲ッテイタダケマセンカー!?」

 

「ムン!!」

 

 

フィローネ地方の馬宿。

 

そこで少女は片言と時折正確なイントネーションで喋る行商人に絡まれていた。

 

リンクがここに着く前に近くの幹に留まっていたガンバリカブトを捕まえ、馬宿に着いて魔物がうろつく時間である夜になるまで待っていたところ、少女が覚醒して木箱から出てきたら彼が出ていく直前だったため無論泣きながら引き留めた。今日はお留守番だと説得されても応じず、抱きつかれてぐずってしまって宿泊者に迷惑がかかるので、金色のガンバリカブトを渡したところすぐにご機嫌になり、少女はしばらくそのガンバリカブトを眺めて遊んでいたら、今の場面になった。

 

 

「こ、交換ニ、テリーノ売ッテイル物ノドレカヲ格安デお譲リイタシマース!!」

 

「ムン! ムン!!」

 

 

頑なに首を振る少女。

 

これはリンクから貰った大事なもの。どんなに代りの物を用意されようと応じるつもりはない。

 

 

「ソ、ソンナ!? あなたニトッテ悪イ話デハナイノニ······こうなったら寝ている所を見計って······いやいっそ賊を雇って身ぐるみを······」

 

 

なんか物騒な企みをブツブツと呟き始めたところ、

 

 

「········うちの子になんか用か?」

 

 

後ろを見ると、目元が前髪で隠れて背後に黒いオーラを漂わせているリンクが立っていた。

 

そして都合よく風が吹いて隠れた目元が現れると、その瞳は殺気立っていた。

 

それも眼光だけで人を殺せそうなほど。

 

 

「オゥ、失礼。何デモナイデース。デハ、マタ気ガ向イタラヨロシクお願いシマース」

 

 

そう言って営業スマイルをして立ち上がる行商人。

 

なんか何事もなかったかのようにして去っていくが、さっきの会話は実はリンクには聞こえていた。だからこれ以少女に関わるなら容赦しねぇ的な目を向けたら、彼は快く立ち去ってくれた。

 

 

「········ごめんね、また一人にして」

 

「ムー!」

 

「でも今回のはちょっと危なかったから。もし間違って『ヒダマリ草』を塗った刃で君が傷ついたら取り返しのつかないことになってたし、どうか許して」

 

「ムン!」

 

 

ちゃんと言葉は通じているらしいのだがそれってどういう感情? って思う時がある。腰に手を当てて上目遣いで見てきているもその目は険しく、睨んでるのかうむよろしい的な偉い立場からのお許しなのか判断に迷う。

 

今さらのように途方に暮れるリンク。

 

少女と過ごしてだいぶ経っても、未だコミュニケーションが取れない。そもそも名前すらわからないから一度も呼んだことがなく、それでもなんとかやり取りが成立していることに驚く。

 

すると、

 

 

「おーい、相棒!!」

 

 

馬宿の外からバサバサという羽音が聞こえてきたと思ったら、そこには大きな鳥がいた。

 

灰色や白といった羽毛を持ち、嘴は大型で長く下嘴から喉にかけて袋状に伸長する皮膚が特徴的なリト族がこちらに向かって来ている。飛んでいる最中に風で目をやられないようにゴーグルをつけているそのリト族はたしか、シロツメ新聞社の記者兼配達人の“ペーン”。

 

 

「よう、元気にやってるか?」

 

「あぁ、おかげさまで」

 

「そりゃあよかった·······それでちょっと用があって来たんだが、今話せるか?」

 

「うん大丈夫」

 

 

ペーンは少女にリンクを借りるからごめんなと一言謝るも、少女は気にせず二人について行く。まあ別に内緒話というわけではないから良いのだが。

 

机や椅子は他の人が使っていたため床に座り話し合おうとしている中、少女が後ろから襲来してくる。というかいきなりすべすべした何かがリンクの頬を直撃。脚絆だった、と理解が追いつく前にのしっとした重さと体温が彼の両肩や首の後ろに丸ごと乗っかってくる。

 

そう、肩車を要求しておられたのである。

 

特に少女は悪気もなく、脚絆の上にある太股をほっぺにむぎゅーっと挟み込んできているということは今日のことはそれで許すということなのだろうか?

 

人様の上でガンバリカブトを眺めているし、リンクはちょっと話の邪魔になるので自分の両手を頭方向から後ろへ回し、肩に乗っかっている少女を掴んで前へと持ってくる。逆さまにぶら下がり不思議そうに見てくる少女にリンクは言う。

 

 

「これから大事な話があるから、しばらくどこかで遊んでて」

 

「ムン」

 

 

自分のお願いに対して素直に聞いてくれたのか、割とあっさりと退いてくれる。

 

だけど少女の遊び場はリンクの上しかないらしく、

 

 

「ムフー」

 

 

ニコニコした笑顔で太股辺りに彼女の綺麗な髪がハイリアのフードから流れ込んでくる。警戒心もなく、何の問題もなさそうに遠慮なく膝枕をされにくる少女。

 

もうこれには流石のリンクさんもお手上げだ。少女は構わず膝枕されながらリンクの頬をつねったり顎触ってきたりやりたい放題。

 

ペーンなんてその様子を見てケラケラと笑ってきている。

 

 

「なんか異様に懐かれちまってるなー相棒!!」

 

「·······らしいね」

 

「ま、それだけ平和ってことだな!!」

 

 

話を戻して、リンクは少女に顔を弄られながらペーンの話を聞く。

 

彼はクチバシを滑らかに動かし、

 

 

「さて、最近出ている新種の魔物について何だが、日に日に増える一方だ。今のところ犠牲者はあまりいないが、それぞれ個性があるように持っている力はバラバラで対策しても討伐するのに時間がかかる。カガヤキの実が一番の有効策でも光が届かなきゃ火傷程度しか負わせられない」

 

「その件はインパ達が新しく対策法を見つけたんじゃなかった? ヒダマリ草の成分を刃物に仕込んでさ、矢の鏃に仕込んで遠距離から討伐する手だってある」

 

「それなんだがな相棒。知っての通りヒダマリ草は空島にしか咲かない。未開拓の地に足を踏み入れているのは今の段階でお前しかいない。俺たちリト族くらいしか空島まで行けないし、行ってもどこに咲いているのかわからない」

 

 

つまりは情報提供。

 

大量に咲いている場所を教えて欲しいということでリンクの元まで訪ねて来たということが容易に察せれる。

 

しかし、教えてもいいものか。空島は言ってしまえば神の末裔『ゾナウ族』にとっての聖地。そこに咲いているヒダマリ草を大量に採取すれば生態系が崩れるなんてこともある。無論、リンクはヒダマリ草がたくさん咲いている場所を知っている。

 

話しても良いものなのか、と悩んでると、

 

 

「商売人もある程度入手しているみたいだがプレミアム品としてどこも高く売ってくるし、集めるのにも金が足りない。だったら一番空島のことを知ってる相棒なら何か知ってるんじゃないかと思ってな」

 

「·······」

 

「頼むぜ相棒。俺たちは空島のことについて何一つわかってない。魔物達を倒すために力を貸してくれ」

 

「ふぇもあみゃり採りすぎりゅとしぇいふぁいけいが」

 

「ちょっと相棒? その女の子にばかり構ってないでこっちを見てちゃんと喋って欲しいんだが?」

 

「ムー!」

 

 

少女は難しい話ばかりしているリンク達に少々不満気なのか退屈でしょうがなく、構ってアピールのために彼の眼前までやってくると口角を無理やり上げたりほっぺをムニムニと揉んできている。会話についていけてるということは少女の遊び相手になりながらも一応聞いていたらしい。

 

リンク本人としても少女から一旦目を離したいがそういうわけにもいかない。

 

だが、少女の我慢ゲージが限界まで溜まったのかついにはリンクの頬に自分の頬を押し付けてくる始末だ。

 

遊びながら話を聞くという策を取ってみたがやっぱりやめだ。

 

今は話に集中しなければ。

 

 

「あのさ、後でいくらでも遊んであげるから今だけは我慢して?」

 

「ムー!!」

 

「お願い」

 

「ムー、ムン!!」

 

 

プンプンと頭から何か出ていたが少女は渋々リンクから離れ、そのまま歩いていってしまう。その背中を見ながらリンクはあまり遠くにいかないようにとだけ言っておいた。

 

 

「相棒も大変だな。女の子の世話をしながら旅をするっていうのは」

 

「未だに慣れないよ。どう接してもあの子は満足しないから、魔物退治の方がもの凄く簡単に感じるよ」

 

 

リンクは疲れたように言うが、拾って来たのは自分だし預かると決めたのも自分。

 

一度決めたことから逃れるのは勇者としてあってはならぬこと。だからあの少女の世話を最後までするという使命からは逃れられない。

 

けれど今までの人生で子供と一緒にいるなんてことなかったから、それも魔物の女の子なんて。

 

どこかに女の子&魔物に対してのマニュアル本を出していたらそれを譲ってもらいたい。世の親達はこんな高難度ミッションをこなしているのか、と。リンクは改めて親という偉大さを知った。

 

 

「·······それで、ヒダマリ草の件なんだけど──────」

 

 

話が逸れてしまったが、ヒダマリ草の採取場所を教えるのは構わない。けれどあまり採りすぎないことを条件にということを伝えるとペーンは顎に手をやって悩む。

 

あそこは聖地。

 

許可なく他人の土地で山菜を採ると、森林窃盗罪になるなんて堅いことを考えるのはおかしいか?

 

でも神聖な場所のものを採るというのは気が引けるし、過剰な採取は植物の減少だけでなく、動物たちの食料源を奪い、生態系全体のバランスを崩す原因となる。

 

だから必要な分以外は採りすぎないようにという条件を出したわけだが、

 

 

「わかった」

 

「え?」

 

 

あっさりと。

 

あまりにもあっさりと、ペーンは了承した。

 

 

「相棒がそこまで言うんだ。だったら従うさ」

 

「いいの?」

 

「まあ、魔物達が増えてるのは事実だが被害はそこまででもないし、地道に討伐していけばそのうち何とか絶滅するだろう」

 

 

それに、とペーンは続けて。

 

 

「あの女の子·······あれが相棒にとっての切り札なんだろ?」

 

「!!」

 

「あの相棒が女の子連れてるっていうだけで、情報収集が基本な俺たちシロツメ新聞社が見逃すわけないだろ? もちろん調べたさ。だから、あの子が一体何者なのか知ってる」

 

 

リンクは思わず睨む。

 

喉の奥が少しずつ渇いているのが自分でもわかる。

 

 

「だからと言って俺たちは何も手出ししないし口外したりしない。単に興味あるから調べたってだけで──────」

 

「それ以上は?」

 

「何も。だからあまり睨むなよ相棒ー!」

 

 

ペーンの言葉に嘘というのは感じられない。

 

リンクはそれが少し引っ掛かったが、ここで言い争っても仕方ない。

 

 

「·······まあいいや、教えるよ」

 

 

リンクがそう言うと、ペーンの方も嬉しそうに頷いた。

 

 

「南オルディン空諸島とミナッカレ空諸島。この辺りにある島でよく採れたよ」

 

「ふむ·······南オルディン空諸島とミナッカレ空諸島、と」

 

 

ペーンはメモ帳を取り出すと、リンクから聞いた情報を素早く書き留めていく。

 

一通り座標や位置を聞いて、最後にリンクが荒らさないようにと念を押すと、ペーンはアイアイサーと敬礼する。

 

 

「情報ありがとな相棒。これで魔物を殲滅するのが大分楽になるよ」

 

「あまり無理はしないで」

 

「そっちもな。一刻も早く、ハイラルが真の平和になることを祈ってるぜ! それじゃ、サラバード!!」

 

 

独特な挨拶をして、ペーンは馬宿から出ると空へと羽ばたいていった。この国は多種族が暮らしているためか文化の違いもあって礼儀作法がよくわからないのだが、案外その辺は誰も気にしていないようである。

 

挨拶が上手く伝わってるのかどうかは判断がつかないが。

 

と、長話を終えたリンクは少女を探して辺りを見渡すと、

 

 

「ムフン!」

 

 

なんかいつの間にか戻って来ていた。

 

何故かニコニコして。

 

その上機嫌さに嫌な予感がしたリンクは少女の腕辺りをよく見ると、なんか見たことある植物が握られていた。

 

黄色い花の植物。それは今巷で騒がれている魔物達が嫌う陽光を吸収して育った『ヒダマリ草』。地上ではほとんど手に入らず、高級品として売られているからめちゃくちゃ高い。

 

それが今少女の手にあるということは。

 

 

「どこから持って来たのそれ!? とにかく元の場所に戻し────────」

 

「ムー!!」

 

「めっ!! そんな自慢されるような笑顔で迫られても、褒められたことじゃ──────!!」

 

「オーウッ!! お買イ上ゲ、アリガトウゴザイマース!! 『ヒダマリ草』五ツデ、八〇〇〇ルピー二ナリマース!!」

 

 

ドサッ! と。

 

カブトムシの形をしたリュックを背負っている行商人がとても良い笑顔でやってきて死刑宣告をしてきた。行商人の前で膝からまっすぐ崩れ落ちたリンクに『ガンバリカブトヲテリーにクレタラお安くシマース』と追い討ちまでかけてくる。

 

それでリンクの体力はゼロになった。

 

燃え尽きるように真っ白になって地面に倒れるリンクを、少女は屈んで楽しそうに指先でつついてくる。

 

少女を蔑ろにした罪は重かった。

 

 

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