鬼滅の伝説   作:織姫ミグル

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第十四章

 

 

「────けさん·······のすけさん!」 

 

 

誰かが呼んでいる。 

 

体がだるく、石のようだ。

 

 

「“伊之助”さん!! しっかりして!!」 

 

「!?」

 

 

どうしたんだ、自分は? 

 

寝台に横たえられているようだ。全身が痺れるような震えが走る。重い目蓋を懸命に開く。ぼんやりしていた視界が次第に焦点を結んでくると、髪を両側に束ねた少女が覗き込んでいるのが見えた。

 

 

「··············?」 

 

 

なにがあったんだ? 

 

問いかけようとしたが、喉が焼かれていて声が出せない。ヒュウヒュウと、乾いた息を吐き出すばかりだ。

 

 

「よかった、気が付きましたね。待っててください、皆さんを呼んできますから」 

 

 

朝靄が晴れていくように、じんわりと記憶が蘇ってくる。

 

瞼に焼き付くようにこびりついた悍ましい獣。襲いかかってくる灼熱の烈風。

 

 

「あ··············アッ!!」 

 

 

跳ね起きると、額に乗せられていた手拭いが落ちた。体には大量の包帯が巻かれ、傷つけないように柔らかい素材で作った布団が掛けられている。自分が得意気に蜘蛛のように張りついていた天井に、嗅ぎ慣れている消毒液の匂い。

 

ということはここは·······蝶屋敷、か?

 

 

「あら、まだ寝てなきゃだめですよ?」 

 

 

ふと横を見ると、この屋敷の主人であり蟲柱の“胡蝶しのぶ”がいた。落ちた手拭いを水桶にひたして、固く絞る。

 

 

「·········ナンデ?」 

 

 

掠れ声は、自分のものではないようだった。虚脱感に囚われていて、力が出ない。

 

 

「無理しないでくださいね。たった今目を覚ましたばかりなんですから」 

 

 

しのぶに肩を支えられ、嘴平伊之助は寝台に再び横になる。

 

全身の気だるさは続いていたが、どうやら事情は把握できた。あの怪物が襲いかかってくる寸前、自分はその爆風に吹き飛ばされたのだろう。喉を焼かれてお得意の『呼吸法』が使えなくなり、息も絶え絶えになって酸素不足になりそのまま気を失った。そして、隠達によって深傷の自分を背負い現場から撤退して、蝶屋敷に戻ってきたわけだ。

 

外から足音が聞こえてきたかと思うと、ずっと看病してくれていた“神崎アオイ”が息を弾ませながら戻ってきた。その後ろにはお馴染みの三人娘に片側にしか髪を束ねてない少女の姿も見える。

 

 

「災難でしたね、伊之助君」 

 

 

しのぶは一同の先頭に出ると、伊之助の傍らにある椅子に座り込む。

 

伊之助の額に手を当てて熱を測ってから、慎重に首筋へと指を下ろしていって彼の太い喉仏辺りをなぞる。

 

 

「ガアッ!?」

 

 

伊之助は思わず顔を歪める。あの怪物に焼かれた箇所が疼いたのだ。

 

 

「新しい包帯と、例の薬を」 

 

 

はい! とアオイは伊之助の首に巻き付けられていた包帯を外すと、しのぶは三人娘から薬皿を受け取る。そこには鼻に突き刺さりそうな匂いのする、赤黄色をした練り薬が入っていた。

 

 

「少し染みますよ」 

 

 

しのぶは人差し指で練り薬をひとすくいすると、伊之助の首筋になすりつける。 

 

途端に、伊之助は声にならない悲鳴を上げていた。

 

 

「──────ッッッ!!!??」

 

「染みると言ったじゃないですか。男の子なんだからこれくらい我慢ですよ」 

 

 

しのぶは構わずに薬を塗り広げてから、新しい包帯を巻きつける。

 

すると少しだけ呼吸が楽になった·········らいいのにな。

 

 

「この塗り薬は表面から浸透して内側の粘膜を再生する効果があるので、今のあなたのように喉を焼かれてしまった場合の症状を緩和します」

 

「·········ゴメンネ、迷惑カケテ」

 

「あら。いつも猛進するあの荒々しさも無くなってしまったんですか? ········あなたみたいに呼吸を使えなくする鬼もいますからね。幸い肺はやられていませんでしたし、しばらくは安静ですよ?」

 

「·········ワカリ、マシタ」 

 

 

薬の刺激は強烈だったが、確かに効果はあるようだった。さっきと比べると、声の出も良くなっている。

 

 

「今日はこのまま喋らず安静に·········と言いたいんですが、今はそうも言ってられません。鬼の減少、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、少しでも確かな情報が欲しいので」

 

「·········」 

 

「────伊之助君、何があったか話せますか?」

 

「·········ウン」

 

 

片言でゆっくりでありながらも、彼はあの時の状況を報告した。ようやく自分の前に現れた鬼が突如苦しみだし、それから別の何かに変わった顚末を語った。実際に一部始終を目撃したのは伊之助だけだったので、柱であるしのぶも改めて目を丸くして聞き入っている。

 

 

「·········信じられませんね。鬼が別の生き物に変わるなんて」

 

 

その姿を思い出して、伊之助の首筋に熱いものが走り抜けた。赤黒い血管が膨れ上がって苦しみに包まれた鬼は血走った赤い目をして、滅茶苦茶に暴れ回ってた。まるで、あいつ自身ですら行動を制御できないみたいだった。

 

そのことにしのぶが、興味深げに目を細める。

 

 

「それは早速上に報告しておかないといけませんね。それと、あなたの見たという赤黒い血管というもの、現在目撃されている他の怪物を連想させずにはいられません」

 

 

各地に現れた怪物。

 

姿を眩ませていた鬼と未知なる怪物。

 

二匹の化物の共通点は、今のところ赤黒い血管のようなものに覆われているということだけだ。具体的な証拠があれば、関連性がさらに明確になるのだが、今のままではなんとも判断できない。

 

 

「ッ!!」 

 

 

伊之助の胸が熱くなったのは、体のだるさだけではない。『山の王』である自分が敵を前にしてなにもできなかった、その不甲斐なさに腹が立つのだ。

 

奴の動きは尋常じゃなかった

 

変化した鬼は一撃が凄く重く、信じられないほどの身体能力を発揮していた。思い出しただけでも鳥肌が立つ。仰向けがちに天井を眺め唇を嚙みしめていると、それまで沈黙していた大人しい少女が口を挟んだ。

 

師範であるしのぶに報告するように。

 

 

「最新の報告だと、伊之助が目撃したような症状を発症させる鬼が各地で急増しているそうです。お館様が推薦した手練れのチームがいくつも現地に向かっているけれど、まだ有力な調査結果は入っていないです」 

 

 

手にした報告書をめくりながら、“栗花落カナヲ”はそう告げた。

 

しのぶはそのことに顎に手を当てて、重く悩むように考える。

 

 

「前代未聞の事態に、さすがのお館様も焦燥を募らせているみたいですね。鬼達の消息が途絶えてしまった以上、それとの繋がりが解明できるかもしれない伊之助君が遭遇した鬼をなんとか捕まえたいところです。他の地域でも担当の隊士達が柱と共にいろいろ進められているし、被害がこれ以上広がらないようにしないと」

 

 

伊之助も負けたことに腹が立ってすぐにでも討伐に向かいたいと思ったが、全く力が入らなかった。伸ばした左腕が痺れ、力を失った途端に倒れて横にいるしのぶにぶつかりそうになる。

 

しのぶは易々と受け止め、

 

 

「伊之助君、安静にしてくださいと言ったでしょう。気持ちはわからなくはないですが、死んでからじゃ遅いです。それに、戻ってきた時に比べたらだんだんと顔色もよくなってきています。この分なら、あと数日もすれば快復するでしょう。それまでの辛抱です。わかりましたね?」

 

「·········ハイ」

 

「お利口ですね、偉い偉い」

 

 

しのぶは聞き分けの良い伊之助に布団を掛けてやりながら、宥めるように何度も頷く。それに対して伊之助は、天井を眺めることしかできなかった。 

 

悔しい。 

 

みんなの前でこんな無様な姿を見せるなんて、『山の王』として失格だ。

 

こんな無様な姿を見せてしまうとは。

 

伊之助は頑健な体格を丸めるようにしてうなだれた。

 

それにしのぶは、慈愛に満ちた目で見ていた。

 

 

「伊之助君、今は生きて帰って来れたことを喜びましょう。死んでしまったら元も子もありません。あとは私達が引き継ぎますから、今は治療に専念してくださいね?」

 

「·········ハイ」

 

 

しのぶの申し渡しに、伊之助は頷く以外に道はなかった。実際体は本調子からほど遠く、任務に行けるはずがないことくらいわかっている。あの異様な怪物を相手にするには、一日でも早く万全な体調に戻す必要があった。そのために安静が必要というのなら、それに従うのはやぶさかではない。

 

しのぶは診察が済んだら次の患者の元へ向かうために部屋から出ていく。 

 

それにしても、あの怪物をどうやって討伐すればいいのだろうか。 

 

明らかに今まで戦っていた鬼とは違う攻撃力を見せているだけに、有効な手段が思い浮かばない。

 

 

「伊之助さん、まだ疲れが残っているでしょ。少し眠った方がいいです。任務のことはしのぶ様やカナヲ達に任せて、今はとにかく元気になってください」 

 

 

伊之助の頬をさすりながら、アオイが心配そうな視線を送る。しのぶが出て行ったあとで、アオイは耳元に口を当ててこう囁いてきた。

 

 

「·········生きて帰ってきてくれて、ありがとうございます」

 

 

それだけを言って、彼女はどこか顔から火が出そうなくらいに頬を染めた。

 

黙りこんだ伊之助の気持ちを察したのか、アオイは力づけるように微笑んだ。そろそろ夕食の支度をしなくちゃと言い残して、アオイは静かに立ち上がる。

 

 

「それじゃあ、安静に」 

 

 

その背中を見送りながら、やがて伊之助は深い眠りに落ちていった。

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

「ぐわァァァアアアアアッ!!!??」

 

「アツ──────ッ!!!!!」

 

 

未知なる敵を討つために森の中へ入りこんだ隊士たちは、敵に近づくこともままならずに次々と討たれていった。 

 

隊士たちはいずれも階級が高く、最低でも戊までの者達が集まっていた。彼らの太刀筋は他の隊士よりも正確で、たとえ鋭い爪でも受け止められるはずだった。 

 

だが、敵は強大だった。 

 

まず、動物図鑑にも載ってないほどの巨大な獅子が姿を見せ、炎を吐いてくる。 

 

岩ほどの大きさの炎の豪球は、おそろしい武器だ。体に当たっただけでも致命傷とわかる。避けれるとはいえ、連発で放つその体力は無限のようにも思えた。そうして逃げる隊士達を追って怪物は突進してくる。逃げるもの達は木々の間に張られた枝に引っかかり、バランスを崩したところを狙われて聳え立つ木々ごと隊士達の脇腹や胸にその刃のような角を突き刺して猛進する。 

 

どこへ逃げても無駄だった。

 

逃げたところに、高い空の上から、あるいは遠くから電気を帯びた矢が射かけられるのだ。足がすくんで動けないでいると、敵は位置を変え、横から炎を飛ばしてくる。数十人以上がやられ、さらに森の外で待機している隊が敗走しはじめたことを知ると、彼らもついには刀を捨てて森から逃げだした。

 

 

グルルルゥゥゥウウウウウウウッッッ!!!!

 

 

逃げ散っていく人間を見ながら、怪物はまた深い闇の中へと戻っていく。

 

伊之助が遭遇したという変化した鬼。

 

そこは幸いにも村も里もないただの山奥だったので、人に知られることはなく被害も出なかったが、討伐に向かった鬼殺隊はほとんど全滅。

 

現れたその日から、鬼殺隊は怪物が潜む森に幾度となく攻めよせた。 

 

刀を振り翳して敵の武器を防ぎ、効果は薄いだろうがこちらも銃を用意して空間を覆うのではないかというほどの特殊な銃弾を浴びせるが、期待したほどの効果はない。視界を破壊してもすぐに目を再生し、壕を作って炎から身を防ごうとしても上からの電気の矢の豪雨で脳天串刺し。怪物は森を出て戦うつもりなどなく、縄張り意識が強いのかそこから一切離れずに防戦に努めるという守勢ぶりだ。 

 

大きな業火や電気を帯びた矢の塊、それらを余す事なく撃ち出してきて、鬼殺隊は何度も何度も後退するしかなかった。鬼殺隊は寄せては返す波のように攻めと撤退を繰り返し、怪物は巨大な岩のごとく揺らぐことなく、前進も後退もしない。 

 

貴重な時間ばかりが、ただ空費されていく。 

 

戦況はほぼ完全に膠着状態に陥り、隊士達の顔に焦りが浮かびはじめ、そのような状態で数日が過ぎた。 

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

その日の討伐も失敗に終わり、鬼殺隊は疲れきった隊士達と共に幕営へと帰ってきた。近くに寝泊まりできる宿も、鬼殺隊の休息地である『藤の花の家紋の家』もないので、近くに野営地を設置した。

 

 

「ふぅんそうか、ふぅん。それで逃げ帰ってきているわけだ。それでも一応は向かって行っている、と。実に勇敢な事だな、負けてるわけだが」

 

 

隊士達にネチネチとしたねぎらいの言葉をかけ、隊士の最上階級である甲がいる幕舎へ向かう。幕舎が見えてきたところで、眉を顰めた。いつもなら階級が下の数人の隊士が幕舎の周りに立って見張りについているはずが、一人も見当たらない。 

 

その上、中から口論しているような声が漏れ聞こえてくる。 

 

歩調が自然と早くなり、彼は幕舎の中へと入った。

 

 

「そんなこと許せるはずがないだろう!?」 

 

 

突然男の怒声が幕舎の中に響き渡り、彼は不快さに目を鋭くさせる。甲の隊士が瞳に激しい感情を宿して部下を睨みつけ、下の隊士はやや気圧されぎみながらも毅然として上官の視線を受け止めていた。

 

 

「やかましいぞ、何を騒いでいる?」

 

「!? へ、“蛇柱”様!?」 

 

 

甲の隊士は最上階級の自分よりもさらに高い特別な鬼殺隊である『柱』がやって来たことで驚きに目を瞠る。蛇柱、と呼ばれた彼が叱られていた隊士を見ると、そいつは汗まみれで目を合わせようともしない。目上の者に挨拶もなしか、やはり今の隊士は見込みがない奴らばかりだ。そんなことすらできないとは、と彼は深い溜息を吐く。

 

 

「戦況を報告しろ」 

 

 

敢えて声を潜めず、彼は甲に訊ねた。

 

甲の隊士はむしろほっとした表情で答える。

 

 

「蛇柱様も言ってやってください! こいつらが束で囮になってあの怪物の隙を作るなどとおっしゃるのです!!」 

 

 

蛇柱は鼻を鳴らし、呆然と横にいる隊士を見つめた。確かに、鬼殺隊である以上、その命が尽きるまで戦うのは当たり前だ。だがしかし、そんな子供でも思いつく作戦を立てるこいつらの脳に辟易する。無意味な死で何も成せなかったら何の役にも立たず、代わりの人材を確保するのに時間がかかるというのに。しかし、甲ともあろう者がこんなことすら解決できないなんて、と。彼はまた溜息を吐く。

 

 

「だとしたらどうすればいいんですか」 

 

 

下の階級の隊士は俯きながらそう言う。

 

悔しそうに。

 

 

「我々は鬼殺隊、鬼を倒すためならこの命を捧げると誓った身。それなのに鬼でもない未知なる怪物に時間を取られ、今もなお立ち往生。早いとこ解決して本来の目的に戻すべきです。あの怪物を倒すのにの我々が囮になったところで上官達が背後に回り込みトドメを刺す、我々下のものなどことごとく斬り捨ててくれればいい」 

 

 

無茶苦茶だと甲は目を剥いた。彼が止めるのも当然である。

 

 

「駄目だ」

 

「では、代案があるとでも言うんですか?」

 

「代案はない、しかしそれでも駄目だ」 

 

 

まるで子供の喧嘩だと思いながらも、甲は強い口調できっぱりと言い切った。

 

 

「鬼を倒すためならこの命を捧げると誓った身だと、そう言ったな? ならばこんなことに命を懸けるな。お前達が死ぬのはここではない」

 

「ですが他に手がないでしょう!? あの怪物が現れてからどれほど経ちました? 討伐しようとして何日が過ぎたと思ってるのですか!? 今もなお鬼共がこの国を脅かしているというのに、我々は本来の目的から脱線している!! 私だって、こんなところで命を捨てたくないです。しかし、お館様が倒せと命じられているから我々だって────」

 

「貴様·········」 

 

 

一歩も引かず自分の意見を言いまくっている隊士が、ついには責任を自分達の総大将のせいにしようとしたところで、柱は前に進み出て隊士を蛇の如く睨みつける。手を伸ばし、隊士の首をおさえつけ、息をできなくして動きを封じてから顔を覗きこんだ。

 

 

「それ以上言ってみろ。今ここで俺がお前を斬ってやってもいいんだぞ?」 

 

 

緊迫した空気が、緊張した肌を撫でる。首を放して突き飛ばしたところ、隊士がゆっくりと息を吸ったのを見て言う。

 

 

「俺は今気が立っているんだ。数日前に同僚が刀鍛冶の里に行ったきり定期報告もくれず、何かあったのではとしんぱ··················サボっているのではないかと余計なことを考えさせられてな。これ以上俺を不快にさせるようなら、容赦はしない」

 

 

完璧に私情。

 

だが虹彩異色の瞳に宿る激情が、隊士を窒息させんばかりに叩きつけられる。

 

とはいえ、だ。

 

行き詰まっているというのは事実。あの怪物の特徴がまだわかっていない中、無闇に突っ込んで犠牲をこれ以上増やすわけにもいかない。

 

でも代案はない。

 

どうすればいい。 

 

迷い、悩んだ末に、柱は背を向けて出て行こうとしていた。

 

 

「お前達がいたんでは足手纏いだ」

 

「「!?」」

 

「俺がやる」

 

 

厳つい顔をして眼光を鋭くさせながら、彼はそのまま出ていった。柱といえども、未知なる怪物に太刀打ちするのは難しいのではと思ったが、甲は説得を断念した。せざるを得なかった。襲いくる威圧感を前に何も言えず、その気迫さから自分たちよりも異次元な存在であること証明された。 

 

もう空からは青さも白さも消え、急速に暗くなりつつあった。

 

柱は鬼殺隊の中でも特別な存在。

 

十二鬼月を倒すほどの実力がある。

 

だからこそ、柱の能力による勝利は確実であると隊士達に教え、鬼殺隊を支える柱であるという拠り所をつくりたいと、彼は密かに考えていた。

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

「大蛇?」 

 

 

昼頃。

 

寝泊まりしていた馬宿の店主の一報に、リンクは思わず唸った。 

 

 

「はい。近くのカズリュー湖、大蛇喰らいし龍と言われているあそこで目撃されたようです」

 

「勇気の泉近くか··········そういえば、最近立ち寄ってないな」 

 

 

リンクは新種の魔物退治を任されている身ゆえ、たまたまその近くを通ることはなかったのだ。

 

あそこに最後に立ち寄ったのはいつだったか。ハイラル復興のために姫と共にあちこち現状を見て回った時以来か。復興のための調査といえば聞こえはいいが、半分は思い出の地巡り。あそこでよく姫様は力を目覚めさせるために、無理をしながらも修行をしていた。冷たい泉に体を浸かせ、体の熱が奪われながらも真剣に取り組んでいた。

 

苦しかったろうに。

 

周りからの重圧で、皆を束ねる姫君として、『無才』と罵られても期待に応えようと必死に努力していた。

 

あそこは謂わば彼女の汗と努力の結晶の地。

 

そこが魔物の手によって汚されている。

 

それを聞いた途端にリンクは店主から更なる情報を聞き出す。

 

 

「それで、その大蛇ってのは一体どんな魔物なんだ?」

 

「私も詳しくは知らないのですが··········あ、ちょうど調査隊から回覧されてきた絵を見てみますか?」 

 

 

店主は手にした書類をリンクに手渡す。 

 

そこには、遭遇した討伐隊の証言に基づいて再現されたと覚しき魔物の姿がスケッチされていた。

 

 

「うわ··········恐ッ!!」 

 

 

顔面はもろに女の顔つき、それで蛇のような尾が下肢にある。マジで蛇の人相書きに、多くの魔物と戦ってきたリンクでさえも恐ろしいと感じてしまう。

 

 

「こんな魔物がいるのか·········」 

 

 

だがもしこれが本当に新種の魔物なのだとすれば、リンクの知っている魔物とは明らかに常識が異なっている。今まで人型だったのに、今度は動物を掛け合わせた異形。もしかしたらライネル並に手強いかもしれない。

 

 

「遭遇した討伐隊はどうしたんだ?」

 

「あそこはただでさえ熱帯雨林の地域でしょう? 降水量も多いので足場が不安定だった時にいきなり現れたらしくて。戦っている最中に足を滑らせて一人が気を失って、仲間に助けられたんですが逃げるのに必死で前後のことはよく覚えてないそうで」 

 

「·········犠牲者はいないんだね?」

 

「はい、もし出ていたら今頃リンクさんに頼んでいたでしょう。それがないということはつまりそういうことです」

 

 

確かに。

 

危険度の高い魔物であった場合、この国で一番の剣士と言われているリンクの耳に届いてたっていいはずだ。それがないということは、討伐隊にとって危険度が低いと判断したのか。それとも後回しにしているだけか。

 

 

「とにかくその大蛇が現れて以降、現在は監視砦の要請で森の奥への一般人の立ち入りは規制されております。近くの道に現れてないということは降りて来ていないみたいですが、いつそうなってもおかしくありません。できれば早めに対処していただけるとありがたいのですが··················」

 

「わかったよ」

 

 

今日はできればウオトリー村に向かってバイトするつもりだったのだが、気が変わった。 

 

強引に商品を買わされて財布が軽くなってしまったからお金を稼ごうとしたが、姫様との思い出の地を汚されているというのであれば話は別だ。

 

リンクは早速討伐に向かうと言い、店主にもし討伐隊が応援に来ようとしていても向かわせないようにとだけ言った。

 

万が一ライネル並に強かったら彼らの身が危ない。

 

リンクの頼みに店主は応じ、少女が眠っている木箱を背負って馬宿を後にする。

 

姫様の修行場をできれば荒らしたくない。けれど、魔物がその神聖な地を縄張りにしているというだけで腹が立った。

 

もし勇気の泉が血で汚されているのならば、容赦はしない。

 

そのことを繰り返し頭の中で言い聞かせながら、リンクは前のめりで討伐へと向かっていった。

 

 

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