鬼滅の伝説   作:織姫ミグル

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第十五章

 

 

森は湿気に包まれていた。

 

多くの蛇、特に熱帯系の種は乾燥した環境を苦手としている。湿度不足は脱皮不全や脱水症状を引き起こす可能性があり、逆に高すぎるとカビや細菌の発生に繋がるため、適切な湿度を維持することが大切としている。

 

故に、環境として良さそうなここに住み着いたのだろう。

 

フィローネの森は見た目通り手つかずの自然が広がっている水と緑の豊かな土地だ。そこにかつてあった遺跡は今や自然と還っている。湿った土の匂いと、纏わり付くような空気。一歩進むたびに原始の木々の匂いが鼻をつく。風に曝され苔むした、いつ朽ちたとも知れぬ巨大な遺跡が景色を覆い、ここでしか見ることのできない奇観が訪れた者の目を見張らせる。 

 

馬宿を離れ、順調に移動していたリンクは、やがて儀式の場として相応しいように便宜的に『勇気の泉』と呼称されている場所の手前にたどり着いた。店主から聞き出せた情報はさほど多くはなかったが、大蛇が有する特殊な霧に気をつけろとのことだった。

 

どういう意味なのかは不明だが、しっかりと心に刻みつける。 

 

 

「大丈夫?」 

 

 

そう背中にある木箱に訊ねても返答はない。

 

やはり眠っているのだろう。静かな寝息が聞こえてきて、リンクは背中の木箱の底を人差し指でトントンと優しく叩いた。

 

背負った木箱の重みを感じつつ、リンクは顎に手をやって考え込んだ。

 

 

「霧·········瘴気の霧のことかな。ということは新種の魔物じゃないのか? でもあんな魔物見たことないし」

 

 

瘴気。

 

魔王が有する邪気を纏った魔物は地上にいる個体と違って手強く、もしその魔物によって負傷すれば細胞が破壊されて傷が全く治らず、陽光に当たらなければ回復しない。

 

呪い。

 

魔王が長年蓄えた怨念を自らの部下である魔物にも分け与え、力を増幅させた。

 

しかし、そいつらが出てくるのは地下世界。太陽の光に遮られた空間にしか現れず、地上で見かけることはない。

 

だがそれが地上にいるという。

 

前例がないことだ。ここ最近は前例のないことばかりなので特に珍しくはないが、だとしてもこんな生態系が崩れるようなことが起きるなんて。

 

改めて気をつけなければならないとリンクは思った。

 

すると、

 

バキリッ!! と。

 

足が何かを踏み砕いた。

 

頭骨。

 

トカゲのような形状に見えることからして、おそらくは“リザルフォス”の死骸だ。

 

ここは元々リザルフォスの巣なのか、だが今は新種の魔物の餌場の可能性が高い。周囲にもリザルフォスの死骸があり、そのおこぼれにありつこうとしているのか小さな蟻達が束になって残りの肉片を解体している姿も見えた。

 

随分前からここにいると見た。

 

人間が近付かず喰えないから代わりにリザルフォスを喰ったのか、何体もの死骸を見て流石のリンクも顔を顰める。

 

と、目撃情報のあるカズリュー湖に向かって歩いていたリンクは、そこでふと奇妙な物音に気づいて足を止める。周囲はいつの間にかぼんやりと桔梗紫色の霧に包まれていた。広大な湿原が広がっているフィローネの森は、常に雲と大地で水分が循環しているため、視界不良の日が多い。

 

そんな中、何かが地を這って進んできているような音がする。

 

 

「·····················」 

 

 

目を凝らすが、物音の正体はよくわからない。細かい砂と肌を擦り合わせたような音が断続的に聞こえるだけだ。 

 

この霧、何か嫌な予感がする。

 

前にコログの森に発生した霧に似ていた。迷いの森に踏み込めば不思議な霧によって侵入者を惑わし、気付いた時には入り口まで戻されるあの霧。正しく進めば迷うことはないが、そこに瘴気が混じり込んだ影響によってどの道を進んでも強制的に戻される。

 

その霧が、ここでも発生している。

 

太陽の光も届かぬ濃霧。

 

これが、例の警戒すべき霧なのだろうか? 

 

緊張を孕みつつ、リンクは背中のマスターソードを抜き、左手にある盾を構える。しかし、それでいてリンクは歩みを止めない。姫との思い出の地、聖地を荒らす魔物の討伐に向けて憤る気持ちを抑えかねて、足が勝手に動いていくかのようだった。

 

いつどこでも襲われてもいいように身を低くしてさらに忍び足で進むと、不意に前方の物音が途絶えた。

 

 

「·····················!」

 

 

それに合わせるようにして、リンクも咄嗟に足を止める。静寂が辺りを包み込んだが、それでいてリンクの肩には見えない重圧がのしかかってくる。 

 

────近くにいる。間違いない。 

 

本能が最大級の警告を発し、ごくりと唾を飲み込んだ。 

 

次の瞬間、

 

 

「キシャアアアアアアアアッッッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

押し寄せてきた強烈な風は、鋼鉄で殴られるのと同じ衝撃をリンクに浴びせた。頑丈なはずのハイリアの盾がみしみしと軋んだ音を立て、リンクは後ろに弾き飛ばされる。

 

衝撃を逃すために自ら飛んで威力を半減させたが、一拍遅れて左腕に電流が走る。

 

思わぬ奇襲を受けてしまい、リンクは前を睨む。

 

マスターソードを胸元に引き寄せながら、奇襲者を睨みつけた。 

 

奴の最大の特徴は、女のような体に蛇のような尾を持つことだ。 

 

女の口から生えている舌は、信じられないほど長い。あの舌ならば、いかなる獲物も捕らえることだろう。蛇は嗅覚と味覚を補完する役割を担っており、空気中の化学物質を捉え、口の中にあるヤコブソン器官で分析することで周囲の状況を把握する。この霧の中でその索敵能力は厄介だ。体表は森に溶け込むような色をしており、環境に適応していることが窺える。その体は地を這うために鱗によってびっしり覆われ、全体が堅い筋肉のようになっていた。

 

上半身は女だが、下半身は大蛇。

 

首から胸元にかけては人間の皮膚で覆われているが、腰から下はまさしく大蛇。

 

その上、体には瘴気の魔物と同じく赤黒い模様が浮かんでいる。瘴気に蝕まれているのか、だとしたらあれの攻撃を受けて傷を負ったら回復できない。

 

正面からリンクを睨む蛇のような縦に伸びた瞳。獲物を捕らえるため鋭い眼光で目が険しいように感じられ、結果として凶悪な容貌を作り出していた。 

 

近寄る者への一切の容赦を感じさせないその迫力に、さしものリンクも背筋が凍る。

 

 

「あな嬉しや、私の元に久方ぶりの人肉がやり来たか」

 

「!!」 

 

 

思わずリンクは呆然としていた。 

 

巨大な壁に見えたそれは、新種の魔物の塊だったのだ。大小様々に混じり合った鱗がリンクの眼前で右から左へと動き始めるのに合わせて、またしてもあの霧が濃くなった。

 

鱗はうねうねと、いつ果てるともなく動いている。

 

 

(こいつが目撃された魔物か!)

 

 

そうと悟った時には、リンクは反射的に剣を構えていつでも攻撃できるようにする。

 

素速く視線を動かすが、あまりにも体長が大きいためその全貌が摑めない。

 

人間部分と魔物の境界線さえよくわからないのだ。

 

 

「大人の男、二〇前半ほどか? 舌飽かずにだろうがまあよかろう」 

 

「·············」

 

「じゃが、その背に入っているものは何じゃ? 赤子か? 舌から感じる気配で大体わかるが·············ん? これは、“鬼”か?」

 

「?」

 

 

鬼、とは?

 

聞き慣れぬ名前だが、蛇女は舌なめずりしてご馳走の獲物であるリンクを睨む。

 

 

「まあいい。今は何でも良いから舌を満足させたい。赤子に比べれば血肉は硬かろうが、お前のようなものでも腹の足しにはなるだろうねぇ」

 

 

体が動くたびに鱗が擦れ合い、地を張るズルズルと神経を逆撫でする音を奏でる。未知の魔物と遭遇して、リンクの全身の血が沸騰する。

 

 

「·············」

 

「しかしここに来てからというもの、ずっと訳のわからぬトカゲのような者ばかり喰うておったが、それでも喰えば喰うだけ力がついた。やはり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『あの方』の瘴気。

 

魔王の持つ瘴気のことか?

 

新種の魔物にも瘴気の影響が及んでいるというのか。

 

何にしても魔物である以上は討伐せねば。

 

こいつが新種の魔物ならば『ヒダマリ草』を塗った剣で斬りつければ一瞬で終わるだろうが、木箱にいる少女が間違って出てきてもしも当たってしまったら彼女まで燃え尽きてしまう可能性がある。下手に扱い慣れていない武器を使うより、手に馴染んだ愛剣を振ったほうがいい。

 

狙うは首。

 

マスターソードでも首を落とさねばトドメを刺せない。

 

しかしその首が高く遠い。まずは体勢を崩して倒れさせ、首が届く距離にまで引き寄せなければ。

 

マスターソードを振りかざす。

 

相手があまりにも巨大なため、空振りする心配は皆無だった。 

 

 

「ッ!? アアアアアアアアアッ!!!??」

 

 

小気味のよい音と共に、斬れ味鋭い刀身が蛇女の鱗を削る。しかし、やはり首を切り落とさねば効果は薄い。いくら瘴気に有効とはいえ首を落とさねば意味がなく、巨大な蛇女に対してはあまりにも心許なく感じられた。野太い胴体を滅するには、首を切らねばと改めて判断する。

 

マスターソードを構え直すと、再び躊躇うことなく蛇女の懐深くに飛び込んでいく。 

 

蛇女の腹に狙いをつけ、斬り上げから斬り下ろしの連続斬りを繰り出していく。無駄のない動きは体が覚え込んでいて、無心のままに行動できた。

 

 

「ッ!! この下賤風情がッ!!」

 

「セィヤッ!!」

 

「くッ!!」

 

 

立て続けの斬撃を喰らった蛇女は、尻尾で地を掻きながら体を斜めに傾ける。

 

自分の剣筋が蛇女に痛手を浴びせたのかとリンクは反射的に考えた。

 

しかし、それは回避行動ではなく、蛇女の次なる挙動の前動作に過ぎなかったのだ。

 

蛇女はリンクに対して斜に構えたかと思うと、そのまま巨体を器用に横滑りさせて体当たりをしてくる。

 

 

(速い!?)

 

 

蛇のように地上での動きが素早い蛇女の動きはリンクにとっても予想外のものだった。繰り出されたショートタックルによって巨大な尾に視界を塞がれたと思った次の瞬間、その全身筋肉の尾に跳ね飛ばされる。盾でガードをするにも遅すぎた。

 

 

「ぐっ!」 

 

 

鋭い痛みが体を走り抜け、リンクは横倒しになって湿気た地面を転がった。細かな水飛沫が大量に服の隙間から入りこんでくる。それを払いながら急いで立ち上がり、いったん距離を取るべく後退した。

 

 

(あの子は木箱の中、なら『カガヤキの実』の光に灼かれることはない!!)

 

 

リンクは一度後退する足を止めると、ポーチから『カガヤキの実』を取り出す。それを投げた瞬間、リンクの目の前で金色の光が沸騰した。世界が白く染まり、蛇女の残像だけが目蓋の裏に残る。同時に激しい痛みと共に、目の奥からとめどなく涙が零れてきた。

 

正面で炸裂した光は強く、手の甲で溢れる涙を拭い、ようやくリンクが目を開けた時には魔物の姿は消えていた。

 

 

「やったか──────」

 

「小賢しい真似をしおってッ!!」

 

「!?」

 

 

はっとして振り返った瞬間、ドゴオッ!! という音響が鼓膜を貫いた。それは直接的な圧力となってリンクを襲い、まっすぐ後方に吹き飛ばされる。何が起こったのかもわからないまま、側頭部を遺跡の岩肌にぶつけてしまう。

 

激しい衝撃と痛みに頭から熱い感触がした。

 

ちょっと出血したか。

 

しかし瘴気を纏った一撃ではなく、岩にぶつかったことによる怪我のため大したことはない。 

 

仰向けの姿勢で倒れたせいで背中の木箱が僅かに軋む。そんなリンクの元に蛇女が近づいてくる。魔物はリンクがカガヤキの実によって目を眩ませているうちに、いつの間にか背後に回り込んでいたのだ。

 

その巨体と細く黄色い目を持つ頭部は擡げて、リンクを冷たく見下ろしていた。

 

 

「陽光に似た光、確かに驚異だが地に潜ってしまえば届かぬな」

 

 

リンクは小さく舌打ちをする。

 

地面に潜って即座に光を回避し、そして掘り進めてリンクの背後に現れたのだ。

 

総合的に見て蛇女の思考は、これまでにリンクが出会った他のどんな魔物よりも異なっていた。新種の魔物、その中でもさらに知性が高そうな存在によって魔物の新たな分類がなされたのだと。

 

リンクはごくりと唾を飲み込む。 

 

未知の魔物と遭遇した恐怖よりも、焦燥が先に立っていた。

 

今までの奴らより手強い存在に、リンクもどう対処するか迷ってしまっている。

 

 

(カガヤキの実を投げたら地面に潜られて回避される。ヒダマリ草の剣はあの子に当たったら危ない。だとしたら必然的にマスターソードに頼るしかないけど、それだと弱点である首を切り落とさないと意味がない。周囲も瘴気の霧で覆われてるし、陽光が差し込んでくる気配はない。あの魔物が生きている以上いくら待っても晴れる感じはしないし、やっぱり──────)

 

 

跳ね起きたリンクは、剣と盾を構えながら蛇女目掛けて突っ込んでいく。 

 

とにかく首だ。

 

そこを狙うしかない。

 

 

「突っ込んでくることしかできぬようだな!!」

 

 

蛇女が身をよじって、自らリンクにその巨体をぶつけてくる。 

 

咄嗟に盾で受け止めようとしたものの、圧倒的な重量の前では無力だった。衝撃と共に、リンクは大きく弾き飛ばされる。

 

 

「くッ!!」 

 

 

辛うじて転倒は免れたが、体勢を立て直そうとするより早く蛇女がゆらりと上体をくねらせた。

 

蛇女は今度は上半身の手にある爪を大地に深く食い込ませた。下半身の尾の先端が、空に向かってぴんと逆立つ。危険を感じたリンクは盾を構えたまま数歩後退した。蛇女は爪で地面を固定しつつ、ゆっくりとした動作で体を左方向へとひねっていく。体が斜めに移動したかに思えたが、一拍遅れて尻尾がリンク目がけて飛んできた。風を払いつつ地面すれすれに迫ってくる。

 

横殴りに襲いかかってきた蛇の尻尾は素早く、視界の外から突然出現したかに見えた。 

 

充分距離を取っていたつもりのリンクだったが、その尻尾は思っていた以上に長かった。体の半分が蛇に分かれた尻尾の先端に脇腹を引っかけられて、リンクは再び湿った大地に叩きつけられる。側面からの襲撃に、胸の前に構えていた盾はなんの役にも立たなかった。

 

 

「ぐはッ!?」 

 

「まだじゃ!!」

 

 

転倒したところに、さらに蛇女のショートタックルが飛んできた。それは辛うじて盾を使ってガードをしたが、蛇女はリンクを牽制するように肩を斜めに振って体を入れ換えると、今度は反対側の肩をぶつけてくる。

 

リンクは膝立ちで盾を前に出し、もう一度その衝撃を受け止める。

 

蛇女の硬い筋肉が盾にこすれて火花が散った。 

 

立て続けの回避行動に、リンクの体力が急速に奪われていく。湿気った空気に喉を圧迫されて呼吸が乱れ、意識を清明に保っているのが困難になる。蛇女はその特徴的な体から移動が遅いように思えるが、実際は尻尾を使っての地上を移動する速度は侮りがたいものがあった。

 

 

「手強い、な············ッ!!」

 

 

防戦一方。

 

攻撃ができない状況に悩まされたが、またもやリンクの身に危険が迫っていた。

 

はっと気づいた次の瞬間には、螺旋状に体をうねらせた蛇女に自らが包囲されていたのだ。

 

 

「まずいッ!!」 

 

 

大地と蛇女の皮が擦れる音がリンクの神経を逆撫でする。今頃気づいても手遅れだった。頭部と尻尾の隙間から脱出しようと試みるが想像以上に蛇女の動きは素速く、なかなか隙が見出せない。とぐろを巻いた蛇女は獲物を絞め潰そうとするかのように、次第にその包囲を絞ってくる。リンクは立て続けに腹に破魔の斬撃を加えたが、蛇女はびくともしなかった。 

 

 

「奇怪な剣じゃ。『日輪刀』ではないくせに血肉を抉れるとは··········じゃが!!」

 

 

そして背後に殺気を感じた瞬間、

 

 

「ウッ!?」

 

 

首筋に鋭い痛みを感じる。 

 

直後、体が冷たく痺れていた。 

 

意識ははっきりしているのだが、全身の筋肉が弛緩して前のめりに倒れていくのをどうにもできない。 

 

 

(毒!?)

 

 

やられた。

 

奴の持つ蛇の牙には神経性の麻痺を発生させる毒の器官があったのだ。それだけじゃない、傷口から瘴気が流れ込んでいるのがわかる。それで獲物の動きを封じ、ゆっくりと飲み込んでから消化するのだろう。

 

リンクは両手で地面を支えると、全身の力を集中させる。歯を食い縛り、懸命に上体を持ち上げていく。ふらつきながらも立ち上がり、蛇女を睨みつけると、魔物はリンクの眼光に押されて怯んだかに思えた。

 

しかし、立ち上がったと思ったのは錯覚だった。

 

実際には地に伏したまま身じろぎ一つできていない。蛇女は冷徹な目で、獲物に襲いかかるタイミングを測っている。

 

そしてリンクに襲いかかろうと動きかけた、

 

その瞬間。

 

 

「ムゥゥゥウウウウウッ!!!」 

 

 

背中から叫び声が響き渡ると同時に、影が蛇女目掛けて突っ込んできた。

 

 

「ぬッ!?」

 

 

木箱に眠っていた少女が覚醒し、蛇女の頭にしがみつく。そして蛇女の視界を遮りつつ、連続でその鋭い爪を繰り出していった。

 

この陽光も届かぬ霧の中なら動けると思ったのだろう。

 

少女はリンクが危険だと察知して、木箱から飛び出してきた。

 

 

「助かった、よ!!」 

 

「ムー!!」

 

 

リンクはもつれる舌で感謝を告げる。

 

毒による体の痺れはまだ残っているが、気合いで今度は立ち上がることに成功していた。体が痺れ、このままでは全ての器官が停止して酸素すら取り込めなくなって、最後には心臓さえ止まってしまう。

 

ふらつく足取りで、安全と思われる場所まで後退する。

 

 

「くそっ!!」

 

 

早く毒を消さないと。

 

瘴気を含んでるからか首筋から垂れてくる血が止まらない。

 

リンクは予め料理しておいたヒダマリ草で作った料理を口に含み、瘴気の毒を消す。

 

 

「ゲホ、ゲホッ!! これで、動ける············!!」 

 

 

毒が消えたことで痺れていた気管が開き、肺が酸素欲しさに暴れている。

 

少女はリンクの安否を確認するために蛇女の目を潰すと、急いでこちらに戻ってくる。

 

 

「くっ!! 小癪な鬼の娘がッ!!」

 

 

蛇女は少女に引っ掻かれたことで目標を見失って戸惑ったのか、とぐろを巻いた姿勢を維持しながらその場を動かない。

 

少女がリンクの背中を摩る中、彼は急いで回復するために片手で一口で食べられる料理を口にする。

 

ごくん、と。

 

食べ物を飲み込むと負っていた傷が和らぎ、充分に動けることを確認して退魔の剣を握り直す。

 

 

「よし、行くぞ!!」

 

「ムー!!」

 

 

それから二人は今度は慎重に蛇女と対峙した。 

 

とにかく正面に立つのは避けた方がいい。蛇女の首に視線を集中させながら、リンクは左回りに尻尾側へと走り出す。その過程で、右手に握りしめた退魔の剣を使って分厚い壁のような鱗を削っていった。それから蛇女の左後脚に狙いを定める。蛇の体では人間の上半身を上手く支えることができないようだが、それだけ肉質が柔らかいのではないかと考えたのだ。

 

 

「シェアアアアアアアアッッッ!!!」 

 

 

雄叫びと共にマスターソードを振り下ろす。 

 

リンクの予想は的中し、刃は滑らかに絞の後脚に沈んでいった。

 

 

「もういっちょう!!」 

 

 

二撃目はさらに会心の一撃だった。

 

その力強い手応えに、リンクの心は勇み立つ。 

 

 

「ぐぅッ!!」

 

 

だが、蛇女はすぐに体をくねらせ自らの後脚を腹の下へと押し込んでしまう。立て続けに放った斬撃の狙いは外れて地面に突き刺さる。

 

 

「くッ!!」 

 

「やってくれたな!!」

 

 

そこにさらに、波打つような動きで蛇女が体当たりをしてくる。

 

先程と同様わかっていても避けられなかった。

 

そこに、

 

 

「ムー!!」

 

 

間に挟み込むように入ってきた少女が盾となり、しかし腹部に衝撃を喰らった彼女は、その勢いのまま二度、三度と大地を横転する。 

 

頭が地面に打ちつけられるたびに、激しい血を流した。

 

 

「大丈夫か!?」 

 

「ム、ムゥ······················ッ!!」

 

 

投げ飛ばされる少女に声をかけると、痛みで強張る体を動かして首の向きを変える少女は大丈夫だとばかりに見てくる。

 

しかし、その体から血が流れており傷が治りきっていない。

 

瘴気にやられたか。

 

急いで何とかしたいが、ヒダマリ草を含ませたものを飲ませたりしたらあの子が消えてしまう。

 

それを見た蛇女は呟く。

 

 

「············どういうことだ?」

 

「!?」

 

「鬼ならばこの程度の怪我などすぐに治りそうなものじゃが··········もしや人を喰っておらぬのか」

 

 

先ほどから鬼、鬼、と。

 

それがもしかしてこの新種の魔物達の固有名なのか。

 

それはどうでもいいが、それを聞いて確信したことがある。

 

 

少女は人を喰っていない。

つまり襲ったことがない。

 

 

それを聞いてリンクは一瞬安堵するが、だとしてもまずい。

 

彼女は瘴気に蝕まれている。放っておけば傷口から流れる血が止まらずに最終的に失血死する。

 

 

「ッ!!」

 

 

リンクはとにかく急いだ。

 

破魔の輝きで斬れ味が向上しているマスターソードを手にして蛇女の懐深く潜り込むと、刃先を掬い上げるような感じで蛇女の胴体を斬り上げる。さらに空中で旋回させ、弧を描いてから今度は上から下へと叩きつける。軽快な動きが可能な剣筋は、首元が高い蛇女には有効だった。

 

 

「ッ!! 鬱陶しい!!」

 

 

爪で引っ掻いてくる蛇女の攻撃を紙一重で避け、とにかく怪我を負わないことを重点に動く。かすり傷でも危険だ。すれすれの距離に迫ってくる爪や尻尾を躱し、迎撃できる策を考える。

 

後脚を集中的に狙えば、蛇女を転倒させることはできないだろうか? 

 

そう考えて背後に回り込んだものの、激昂状態の蛇女は持ち前の警戒心からかとぐろを巻いてしまっていた。これでは後脚がどこにあるのかさえわからない。やむなく目についた尻尾に斬撃を加えたが、怪我の功名と言うべきか、そこの肉質は想像以上に柔らかかった。

 

 

「ガアアアアアアアアッッッ!!!??」

 

 

退魔の刃に苦しみ悲鳴をあげる。

 

休まず攻撃を続けるリンクの額に汗が滴り、無我夢中で斬りつけ続けた。 

 

かなりの痛手を与えることに成功したものの、ほどなくして蛇女は体勢を立て直してしまう。 

 

 

「人間風情がアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 

悲鳴にも似た高音の咆哮に、リンクはその場に釘付けになる。

 

そんな彼を取り囲むように、蛇女が動き始めた。

 

 

「くそ! またか!!」 

 

 

逃げ場を封じられ、その隙間を狭くしていく。

 

しかも蛇女の牙にも警戒しなければならない。鋭い牙から注入された神経毒の強さを文字通りリンクは身に染みて思い知っていた。包囲されたリンクは自然と腰を低くし、必死に脱出口を捜し続ける。時折蛇女が首をもたげて牙を剝き出しにして襲いかかってくるので、そのたびに冷たい汗が滴り落ちた。

 

それでも、いくら考えても逃げ道となる瞬間は見つからない。

 

 

(···········こうなったら!!)

 

 

腹を括る。

 

こうなった以上、これを利用するしかない。

 

蛇女の円環が狭くなる。

 

リンクは逃げ道がないことを悟り、盾を構え直す。蛇女が囲い込みの範囲を狭めてくる前に、少しでも多くの斬撃を与えることに決めたのだ。首筋に蛇女の牙が迫った気配がした瞬間、身を翻して盾で弾く。

 

返す刃で、蛇女の眉間を斬り裂いていた。 

 

 

「ッ!!」

 

 

蛇女の頭は高い位置にあるため通常ではなかなか手が届かない。流石の蛇女も不意を打たれたのか、その黄色い目が一層冷たく細められる。

 

そして、その報復はすぐに訪れた。上体をくねらせつつ大地に潜り込ませた蛇女の顔が、リンクの足元から出現したのだ。

 

真下からの攻撃。 

 

女の頭が足元から現れたと認識した瞬間、地中から弾き飛ばされる岩塊と共に天高く放り上げられる。

 

 

「ッ!!」 

 

 

咄嗟に盾で防いだとはいえ胸骨を圧迫されて突き抜ける激しい痛みに、ふっと意識を失いかけた。

 

だがリンクはこれが狙いだった。

 

リンクはマスターソードを頭の上で振り回す。空気抵抗が変な方向に働くも、それが上手いこといって空中で器用に方向を転換させると、蛇女目掛けて急降下する。

 

 

「エアァァァアアアアアアアアッ!!」

 

 

突風と共にマスターソードの刃が、尻尾を支えとして高く立っている蛇女の首を捉えたかに見えたが、狙いは外れてその喉に叩きこまれた。 

 

 

「ギャアアアアアアアアッッッ!!!??」

 

 

だとしても弱点の首には当たった。

 

そこに入り込んだ退魔の輝きで肉は灼かれ、斬られた傷から血が噴き出す。

 

瘴気に有効な破魔の輝き。

 

蛇女は溢れ出る血を止めるために喉を抑え苦しむと、その腹を地面にこすりつけながら暴れ回る。

 

うねる尻尾が辺りを叩きつけ、下手に近づけばそれに巻き込まれる恐れがある。しかしリンクは確実にトドメを刺すべく弱点である首を切り落とすために突っ込んでく。右手首を縦横に回転させながら、マスターソードを軽快に振るう。連撃のために渾身の一撃に比べると一つ一つの攻撃力は弱いが、手数の多さの効果によって暴れて迫り来る尻尾を斬り落としている。正確な剣筋で狙いを定めて蛇女の腹に連続で斬撃を食らわせてから、斜めに薙ぐように人型の皮を削った。

 

ようやく半分。

 

戦慄を感じながらも、リンクは蛇女の腹に刃を突き立てる。

 

 

「はぁ···········はぁ···········ッ!!」

 

 

迫り来る猛攻を捌きながら何とか下半身を細切れにしたリンクは、これ以上暴れないように固定し、その上体を踏みつける。

 

 

「··········ッ!?」

 

 

蛇女はわけのわからぬ恐怖に襲われ、そしてわずかに残った思考を回転させて打開策を考えた。

 

しかし、残念ながら起死回生の一手になりそうな手段は思いつかない。

 

ここで、死ぬ?

 

こんな所まで来て?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そんな···········!?

 

 

「し、死にたく────────!!」

 

「それは喰われた奴らもそう思ってただろうな」

 

「!?」

 

「お前がどれほど喰ったのかは知らない。けれどあの子を飛ばした時に言ったよな? あれはつまりあの子とは違って自分は人を喰ったということ。人の命を奪っておいて自分は助かりたいなんて··········そんなこと許されるはずがないだろう!!」

 

 

リンクは無造作に剣を振り上げる。

 

その刃に付いた蛇女の血がぼたぼたと滴る。それがその蛇女が何人も人を喰らった証拠だった。

 

生きるために人を喰い殺し、自分の養分とした。自分の血肉と化した。自分の生きる糧とした。

 

垂れてくる血が異様に熱い。

 

剣を構えているリンクの顔を呆然と見上げ、彼の鬼神の如き形相が見下ろしてくる。

 

 

「報いだ」

 

 

リンクが、手にした退魔の剣を振りかぶる。 

 

最後の最期。

 

蛇女はその目に隠れた、冷たい殺意を見た。

 

 

「償え」

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

首を落とされて魔物は跡形もなく消え去った。

 

討伐したことを確認するとリンクは慌てて駆け寄り、瘴気に蝕まれたの少女の身体を抱き起こす。

 

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

「ム、ぐぅ··········ッ!?」 

 

 

ごぼり、と。

 

返事の代わりに少女の口から、血泡が吐き出された。必死に討伐に夢中になったせいで気付かなかったが、彼女はがくがくと痙攣まで起こしている。その全身はひどく熱を持ち、身体中に瘴気に蝕まれた魔物特有の血管のような模様が浮かんでいる。

 

時間がない。

 

ヒダマリ草の薬があっても、それを使えばこの子は陽光の成分に灼かれ塵になる。瘴気を消すには太陽の光に当たればいいが、それでもこの子にとっては殺人光線だ。

 

霧もあの魔物が死んだことで晴れていき、いよいよ一刻の猶予もない。

 

どう対処したらいいかわからない。

 

 

「··········はっ!!」

 

 

その時、リンクは蛇女が話していた言葉を思い出す。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()··········()()()()()()()()()()()()()

 

 

あれはもしや、人を喰えば回復するということなのだろうか。

 

だとすれば、

 

()()()()()()()()()()()()()()··········。

 

 

「ッ!! ごめん!!」

 

 

一言謝ってリンクは少女の口元に巻かれている竹筒を取る。あれだけ嫌がっていたのに今は弱っているのか抵抗はせず、すんなりと口枷は外された。

 

そして、彼女の隠された口が現れ、新種の魔物と同じく鋭い牙が見えた。

 

これであとは、

 

 

「喰え!! 俺を!!」

 

 

そう言ってリンクは左腕を差し出すも、少女は一向に噛みつかない。

 

それどころか嫌がっているように見える。

 

もしかして噛みつく余力も残ってないのか?

 

そう思ったリンクはマスターソードを手に取り、袖を捲って露出した自分の腕を斬りつけて直接その口に血を垂れ流そうとする。

 

が、

 

 

「ぐ··········ガァッ!!」

 

 

ガシッ!! と、

 

少女はない力を振り絞ってリンクのその手を止めさせる。瘴気に蝕まれて苦しいはずなのに、彼女は上体を起こしてリンクの腕を掴み、首を横にふるふると振った。

 

断続的な荒い息をその口から吐き、それと同時に喉が血泡でゴボリと鳴って唇が震えながら倒れ込む。

 

 

「な、なんで········?」

 

 

どうして喰おうとしないんだ?

 

そうしないと自分が死ぬというのに。

 

まさか人を喰うぐらいなら死んだ方がマシだとでも思っているのか?

 

 

「くそっ!!」

 

 

少女が死にそうになっている中、気を遣われて見殺しにしてしまうなんて、そんなのあんまりだ。

 

また、自分は何もできずに仲間を失わなければならないのか。

 

かつての仲間たちが厄災の分身にやられ無惨に死んでいき、自分は何も守れず百年間も眠らなければいけなかった。その間の記憶も失い、仲間のことなどすっかり忘れてしまっていた。記憶が戻り、それに気付かされた時にはもう遅かった。

 

失ったものは帰ってこない。

 

あの時と同じような苦しみ。

 

その罪悪感、無力感に苛まれ、リンクは思わず両手を顔に持ってきて懺悔の言葉をただ小さく繰り返していた。

 

すると、

 

 

「ガッ!! ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

少女がけたたましい叫び声を上げると、()()()()()()()()()()()()

 

 

「!?」

 

 

驚愕に染まるリンクは一瞬思考が吹き飛んだが、すぐさま正気を取り戻した。

 

 

「な、何だこれ!?」

 

 

かのように見えたが冷静さは失っていた。

 

急に少女が叫んだかと思うと体から炎が燃え上がり、その体を燃やしていた。周りを見てもまだ霧は完全に晴れてなく、陽光は差していない。

 

陽光に灼かれているわけではない。

 

であればこの現象はなんだ?

 

何にしてもリンクは慌てるようにして必死に考え、近くの川の水を拾ってきて鎮火させようと動こうとした時、違和感を感じた。

 

よく見ると、()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

炎は完全に少女を包んでいるというのに、一切焼け焦げたような臭いがしない。

 

すると徐々にその炎の威力が弱まってきた。

 

この森は熱帯雨林。よって雨がよく降り、その空を分厚い雲で覆い隠して信じられないほどの雨粒が地面に叩き落とされる。

 

全身を雨粒に打たれたと同時、少女の体を包んでいた炎も完全に消えた。

 

少女を見ると、その体には傷一つなかった。

 

そして、あれだけの業火に焼かれていたというのに一切の火傷もなく、服も焦げて塵となっていなかった。

 

これは········どういうことだ?

 

 

「君は········一体?」

 

 

それだけだった。

 

混乱する頭の中、出てきたのはそれだけ。

 

周囲が雨音で響き渡る中、ついには雷鳴さえ轟き始めた。外にいては危険だと考えたリンクは、急いで背にある木箱を下ろして気を失って倒れている少女を抱えて収納すると、近くの洞穴に隠れる。

 

しばらくは放心としてしまっていたが、ようやく落ち着きを取り戻したリンクは少女が眠っている木箱を見る。

 

あの蛇女は彼女をこう呼んでいた。

 

 

鬼。

 

 

それが各地に現れた新種の魔物達の固有名なのか。

 

鬼とはなんだ?

 

どういう意味でそう呼ぶ?

 

そういえば他にも気になることを言っていた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

あの方とはおそらく『魔王』だろうが、“あんな血”とは一体何を指すのか。

 

それがどうにも引っかかる。

 

あの言い方だと、魔王の瘴気とは別の力によって力をつけたみたいな口ぶりだが。

 

もしかして········ロベリーの言っていた感染源というやつだろうか。

 

 

「本当に········君は一体何なんだ?」

 

 

もう一度、繰り返すように木箱を見つめてリンクはそう呟いた。

 

だが、わかるわけない。

 

素人がいくら考えたところで、答えが出るわけがない。

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

「ゼェ·······ゼェ·······ッ!!」

 

 

息が乱れる中、蛇柱は血だらけになりながらも化物の対処に当たった。

 

奴の猛攻を潜り抜けるのは一筋縄ではいかなかった。正直、舐めていたとも感じた。これほどの化物、今まで戦ってきた鬼よりもタフで、頸らしき部分を斬っても怯むことなく突進してきた。自分の命がどうなっても構わないのか、それとも関心がないのか、どれだけ傷ついても一向に威圧感を放ち続け、そして蛇柱に深傷を負わせた。奇妙なことに負った傷から流れる血を止めようと回復の呼吸を試みるも止血できなかった。そればかりか傷口が痛み、そして気のせいでなければ体力まで奪われた。

 

それでも、彼は諦めなかった。

 

蛇の如く異様な太刀筋で翻弄し、その化物の体に幾度も刃を刺し込み、最後にはその獅子の頭を切り落とした。

 

それが夜明け前のこと。

 

日が昇ると同時、化物の体は崩れ、跡形もなく消えた。

 

そして、

 

そして、

 

負っていた傷の痛みも和らぎ、呼吸で止血を試みると傷口が塞がった。

 

何だったのか。

 

血鬼術にしては持っている数が多すぎる。

 

電気の矢に、それを分身させて五つに増やし、口から吐く炎。

 

そして傷口を塞がせない毒まで持ってるとなると、相当厄介だ。

 

だが、勝った。

 

歯を食い縛り、無事だった左手で必死にぬかるんだ地面を掻いて匍匐前進を続ける。

 

その姿はまさに蛇。

 

皮肉なことに、自分をご馳走として捕らえていた蛇の鬼のように、地面に腹を擦り付けて進む。 

 

人の身ではあり得ないほどの俊敏性を発揮した蛇柱は太刀筋をうねらせ、正確な狙いで確実に急所を捉えた。

 

しかし、流石に無理しすぎた。

 

ふっと音が耳から消え、目も眩むほどの疲弊が発生。坂道となっているところに転がり、そのまま降って行く。

 

そして見た。 

 

何人もの隊士と隠達が傷だらけの自分を必死に呼びかけている中、蛇柱の意識は次第に遠ざかっていった。

 

 

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