鬼滅の伝説   作:織姫ミグル

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冒険日誌・二日目

 

 

調査日誌、二日目。

 

言語について。

 

この国に住んでいる種族達の多くはハイリア語を話しており、しかし種族によっては彼ら特有の文化的専門用語が使われており、それでも意味さえ理解できてしまえば基本的に誰にでも伝わる。よって言葉の壁に悩まされることはないと思うが、魔物達にはそれは通用しない。魔王の血肉から生み出された魔物達は人間よりも知能が劣っており、推定五歳程度しかなく、人の言葉を話すことがない。

 

よってコミュニケーションを取ることは不可能。

 

しかし、新種の魔物達は相当高い水準で人語を理解している。

 

ロベリーの見解では、奴らの正体は元々人間である可能性が高いと言っていた。何故そうなったのか、どうやってそうなるのかは未だに不明であり、その感染源を突き止めることこそが新種の魔物達を殲滅する鍵となる。

 

新種の魔物達から情報を引き出そうと会話を試みたことがあるが、奴らは血肉に飢えているのかこちらのことを獲物としか思っておらず、いくら会話しても聞く耳を持たない。

 

それでも戦っている最中に新種の魔物達が話している内容を一部聞き取れたことがあるのだが、理解不能な言葉を話していた。

 

聞き取れた言葉はこの国では聞き慣れない単語ばかりで、いくつか紹介すると『にほん』『たいしょう』『にちりんとう』『あおいひがんばな』等、意味のわからないことを言っていた。

 

二本と言いたいのか大将とでも言いたかったのかはわからないが、『ここは大将の二本ではないのか』なんて声にするとこのように明らかにおかしな文章になるので、文脈からしておそらくは別の意味で使われていたのだと推測する。『ひがんばな』についてはおそらくは植物の『彼岸花』のことだと思うが、『青い彼岸花』というのはこのハイラルで見かけることはなく、白い彼岸花ならばカカリコ村の民家に飾られているのを見たことがある。

 

何故魔物が花について話していたのかは不明。手がかりを探しに近いうちにカカリコ村に行ってみようと思う。

 

ちなみに。

 

新種の魔物達と同じ種族である少女は、一切人の言葉を話してくれないため何の手がかりも掴めそうにない。

 

それだけでなく。

 

少女の言っていることを理解できなかっただけで命取りとなるので、やはり少女の世話ができるのは自分しかいないのだと改めて感じた。

 

現段階での調査報告は以上となる。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

「ムー! ムー!!」

 

「·········う〜ん」

 

 

何やら訴えてきている少女に対し、リンクは呻き声を上げている。

 

この国には多種多様な種族が暮らしていて、所々で専門用語やら種族特有の方言を使っているのを聞いたことがあるのだが、皆ハイラル王国に住んでいるから基本の共通言語はハイリア語である。

 

それで、一般的な魔物は普通言葉を話せないが、新たに現れた魔物達は流暢にハイリア語を話している。新種の魔物達も自分達と同じ言葉を話しているからこの少女も話せるはずなのだが、やはり口元の口枷が邪魔で何を言っているのかわからない。

 

一応それらしい仕草をして伝えようとしてきているからある程度は理解できるが、ほとんどが憶測だからたまに間違える。

 

たとえば、今現在リンク達は休息のためにハテノ村に滞在しているのだが、リンクが買い物に行こうとしたら寂しがった少女によって激しい妨害を受け、仕方なく夜になるのを待って一緒にお店に出かけることにした。大体欲しいものを買えたリンク達はそのまま家に帰ろうとしたところ、少女が何やら彼の前に出るとこちらに手を伸ばしてきており、リンクの顔を覗き込むように見上げてきた。

 

少女が何かを伝えようとしているのはわかる、だが一体何を伝えようとしているのかは理解できない。

 

両手を上に上げて何度も飛び跳ねているからハイタッチでもしたいのかな、と考えたリンクは両手を出して少女のその手に合わせてみる。

 

すると、

 

 

「ムッ!! ヴ〜! ヴ〜ッ!!」

 

 

リンクが両手を合わせると少女は忽ち不機嫌になり、目を鋭くして頭から変な煙がプンプンと上がっている。

 

どうやら不正解だったようだ。

 

少女は自分の言いたいことがリンクにうまく伝わっていないことに不満を抱き、そこらに置いてあった壺を持ち上げる。そしてそのままこちらに戻ってきてフン! フン! と鼻を鳴らし、まるで『これでわかるでしょ!?』と言ってきているみたいだった。

 

 

「·········」

 

 

いくら頭を働かせてみても、少女が何をして欲しいのか理解できない。こちらに向かって背伸びしながら両手を伸ばし、ハイタッチをしてみたら怒り、それで壺を持ち上げてやって欲しいことを表現して見せていることはわかる。

 

でもやはりリンクは首を傾げるだけで何にもわかっていない。

 

完全にお手上げだと思ったリンクは申し訳なさそうに少女の目線に合わせるように屈んで、

 

 

「ごめん、何にもわからな────」

 

「ムー!!」

 

 

言い終わる前に少女は壺を落とし、リンクは慌ててそれをキャッチする。

 

そして彼女は何やら『もう! 何でわからないの! このわからず屋!!』とでも言うように右手の中指を深く折り曲げて親指の腹で支え、屈んだリンクのおでこに軽くコツンと小突き────

 

 

バッッッゴォォォオオオッ!! という轟音。

 

 

空間が罅割れるような衝撃が前頭葉から後頭葉にかけて走り抜けたと思ったら、激しい余波を撒き散らしてリンクの体がありえないくらいの高さまではじき飛ばされる。

 

たった一人の少女がやったとは思えない。

 

────これが魔物の力か。

 

ただのデコピンにこれだけの力があるとは。

 

たった一本の指によって空に打ち上げられたリンクは、勇者とは思えないような何とも情けない声を出して星空の彼方へと消えていく。

 

 

「ム、ム〜!!」

 

 

少女は『しまったやりすぎた!』と思いながら、このまま星となって消えてしまいそうなリンクを追いかける。ただ“抱っこ”して欲しかっただけなのに、それを全然わかってもらえなかったから不満が募っていき、それでつい彼のおでこを突いてしまった。

 

リンクの落下予測地点まで走っていく少女。

 

しばらくした後、ハテノ村の裏側にある海岸に打ち上げられているリンクを発見するのだが、その顔は恐怖に怯えたように真っ青になっていた。

 

 

 

■□■□■□■

 

 

 

このままではまずい。

 

言葉が通じずに少女の機嫌を損ねたらこちらの身が保たない。

 

なんとか太陽が昇る前に目覚めて、申し訳なさそうに起こしてくれた少女を木箱に入れて無事に戻って来れたリンクは、そのままこの村で唯一の学校がある場所へと向かい、今は教師として子供達にハイラルの歴史を教えている“シモン”にどうしたら良いかを相談する。

 

 

「なるほど、そういうことですか·········ところで、大丈夫ですか?」

 

「うん·········一応」

 

 

リンクの姿に思わず引いてしまうシモン。

 

全身びっしょりで、しかもおでこが信じられないほどに膨れ上がっている。骨にこそ異常はなかったものの、拳ほどの大きさまで腫れているリンクの顔はなんとも滑稽だった。

 

日陰となっている校内に避難し、シモンにタオルを渡されて体を拭いていると、少女が木箱の中から出てきてリンクの隣までやって来る。心配そうな目でリンクを見てきたから、彼は大丈夫と微笑みかける。

 

それで子供達が登校してくる前に相談してみたわけだが、流石にシモンでも魔物の言語については専門外だったようで。

 

 

「お力になりたいのは山々なんですが、魔物の言葉はこちらも詳しくなくて。ましてや新種の魔物となるとまだわからないことだらけですし」

 

 

とはいえ、と一拍置いてリンクの隣にいる少女に目を向けると、

 

 

「ここに教師として就任してからというもの、子供達との接し方についてはかなり詳しくなった方です。魔物であるこの子に通用するかは分かりませんが、まずはなるべくその子の心に寄り添ってあげることが大切です」

 

「えっと、例えばどうやって?」

 

「そうですね、まずは形だけでも良いので気持ちを理解してあげることですね。気持ち、つまりは言ってることをいつまでも理解してくれないと、誰でも落ち込みます。最低限何か反応してあげないと自分は今無視されていると思われてしまいます。ですがそこで逆にわかっていないような仕草をしてしまうと、さらに傷ついてしまう可能性もあります。だからたとえ言葉がわからなくともちゃんとこちらは聞いているということをわかってもらうために、会釈でもいいので何か反応してみるのが大切です」

 

「なるほど」

 

「あとは二人だけの合言葉を決めておくというのも良いですね。言葉でなく手と指の動きだけで会話する方法というのもありますし、それを予めやっておくというのも一つの手です。まあやったことがないので効果があるかは保証できないんですけど、なんでも試してみるのが良いです!」

 

 

それではどうぞ、とシモンはリンクにやってみるように促すが、なんだかそれっぽいことを言っているようにしか聞こえないのは気のせいなのだろうか。

 

そもそもシモンは元研究者であり、教師の経験もまだまだのはず。ここに通っている子供達も少ないし、色んな子供達と会ってきたと言っても本当に数人だろうし、まだ本の知識で知ったことを充分に試さず、手探りの段階から語っているようにしか思えない。

 

だが妙に説得力があるのも事実。

 

本の知識と実際にやるのとは違うのか、彼なりのアドバイスに一回従ってみようとリンクは頷く。

 

リンクは少女の目線に合わせて微笑み、とりあえず何か話しかけてみる。

 

 

「さっきはごめんね。君の言っていることを理解してあげられなくて」

 

「ムン!」

 

「これからはちゃんとうまく会話できるようにお互い頑張っていこう。まずは挨拶をしてみたいんだけど、君にとっておはようやこんにちはってどうやるのかを教えてくれる?」

 

「········ムー?」

 

 

そう言われて少女は小首を傾げる。

 

彼女もそんなことは一度も考えたことがなかったのか、どう表現すれば良いのか迷っている。そもそもおはようという言葉がなんで朝の挨拶になったんだっけ? みたいに起源の段階から考え始め、目を点にして困ったように悩み始める。

 

なんだか少女にだけ苦労させるのは申し訳なく思えてきた。シモンが言った通り、その子の心に寄り添ってあげないといけない。

 

相手に頼りっぱなしでこちらは特に何もしないのは悪いし、リンクは少女が普段話している言語で意思疎通を試みてみようと、

 

 

「むー」

 

 

と言ってみたら少女が、

 

 

「ムッ!?」

 

 

と、驚きのあまり目を見開き、慌てるようにリンクの口を触っては心配そうな目をしてくる。

 

 

「ム、ムー!? ムー!?」

 

「········」

 

 

これはどういう意味だろう。

 

膨れ上がったおでこに掌を当てて熱を測るようにしたり、リンクの喉の調子を確かめるように触ってきたり、ペシペシと頬を叩いてリンクの顔色を窺ってるし。

 

そのやりとりを見たシモンも顎に手を当てて考え、

 

 

「う〜む········おそらくですけど、今その女の子はリンクさんが急に言葉を話さなくなったから心配しているのではないでしょうか?」

 

「え?」

 

「その子の話し方を真似するというのは良い案だとは思いますが、新種の魔物達は相当高い水準で人語を理解している種のようですし、こちらの言いたいことはちゃんと理解していると思うんですよ。だからリンクさんが今やったことを一言で表すならば、馬鹿にした、ということになりますね」

 

「!? そんなつもりは────ッ!!」

 

「あ、別に失礼なことではないと思うのですよ。現にその子はリンクさんを心配しているみたいですしね。ただ、第三者から見たらお二人のやり取りがまるでお母さんが風邪を引いた子に対して心配そうに声をかけているような構図に見えて不覚にもちょっと滑稽に思えましてですね」

 

「そこはかとなく馬鹿にしてるのはシモンじゃないか!? 何で言われた通りに合言葉から今後のコミニケーション方法を決めていこうと俺なりに必死に頑張ってみたのにこんな悔しい想いしないといけないんだよ!?」

 

「もしくは優しいお姉さんが可愛い弟に対して慈愛の篭もったような眼差しで見て『大丈夫? 頭ぶつけて言葉わからなくなっちゃった?』みたいな感じにも────」

 

「馬鹿にしているな!? 何でいつの間にか俺の方が言葉を理解していないみたいな展開になってんの!? 実は相談に乗るように見せかけて本当はこの状況楽しんでるだろ!?」

 

「でしたらおばあちゃんがお孫さんに────」

 

「関係性変えて表現しようとしてもシモンが結局は俺とこの子のやり取りが面白おかしくて笑えるってことは充分伝わったよ!! やっぱり楽しんでるだろ!? こっちは真剣に悩んでるのにそれらしいことを適当なアドバイスで済ましてどんな展開になっていくのか楽しみで仕方ないんだろ!? 言葉が伝わらないことがどれだけ命取りになるのか本当は理解していないんだろうッ!?」

 

「ムーッ!!」

 

 

と、冷静さを失ったリンクが頭を掻き毟ってシモンに大声で叫んでいたところ、少女がそんな彼の顔を両手で掴んで強制的に方向を戻してくる。

 

目を鋭くし、まるで『相談に乗ってもらってるんだからそんなに怒っちゃダメでしょ! めっ!!』のような顔になって、悪い子にはお仕置きだという感じで右手の中指を深く折り曲げて親指の腹で支え、リンクのおでこに軽くデコピンを────

 

 

バッッッゴォォォオオオッ!! という轟音。

 

 

同時に、つい先程までそこにいたリンクの姿も一瞬にして消えた。

 

唐突に教室の壁が崩壊したかと思えば、そこには何やら人の形をした穴が空いていた。大の字に空けられた穴の先からはリンクの断末魔の叫び声が木霊してくる。確かこの学校の裏にはカイゲン池と呼ばれる所があったはずで、その証拠に遠くの方からバッシャーン!! という水が弾ける大きな音も聞こえてきた。

 

 

「ム、ム〜!!」

 

「········」

 

 

シモンの口の端が引きつった。

 

少女はまたやってしまったって感じで慌てているが、今外に出たら太陽の光を浴びてしまって消えてしまうから助けにいけない。それで少女はシモンのズボンを引っ張り、リンクが吹っ飛んでいった方向を指差して理解できない言葉で何かを訴えてきている。

 

少女の言っている言葉は理解できなかったが、リンクがどうしてあれだけ必死になっていたのかは理解できた。

 

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