ここ最近、元気がなくて何もできていない。
何かをやろうとしても、何かを任されても、少年のやる気は回復しない。
「ね、禰豆、子············ちゃん」
頭の上に何やら薄暗い靄のようなものが浮かんでいるタンポポ頭、“我妻善逸”は昼過ぎの野道をとぼとぼと歩いていた。
手紙を運輸する人や、米俵や箱といった大型の荷物を運ぶ台車が彼の横をすれ違い、畑にある鴉避けの案山子達が彼を憐れそうに見てくる。昼の大空には雲がいっぱい浮かんでいて、太陽がその雲の一つに隠れてしまって彼が今立っている場所に影が差し込む。それがなんとなく先行きに不穏な気配を感じてしまう。実際雨でも降りそうだった、都合よく彼の頭上にだけに。
それほどにまで落ち込んでいるのには理由がある。
「どこにいるんだよぉ············禰豆子ちゃ〜ん」
彼にとっての生き甲斐、今一番に大事に想っている女の子の名を悲しげに呟く。
竈門禰豆子。
その女の子は自分にとって恐怖の対象である『鬼』であり、だが野蛮な鬼共とは違って純粋な人間の心を持っている。さらには自分好みの可憐な女の子で、その姿を目にした瞬間に衝撃のあまり身体中に電流が走った。
息を呑むほどに可愛く、自分のお嫁に相応しいとしてずっと告白の機会を窺っていたところ、そんな彼女は行方不明となってしまった。
「禰豆子ちゃん············禰豆子ちゃぁ〜ん」
と、言うのがここ最近での彼の口癖。
善逸はとある事情から鬼を滅する組織に属しているわけだが、彼はとにかく臆病であり、いつもいつも死ぬ死ぬと連呼して弱気になっている。
真の力に気付いていない彼にとっての唯一の癒しである女の子、その姿を全然拝んでいないからか、今の少年の姿を一言で言い表すのなら木乃伊のように干からびている。禰豆子の姿を見るのが彼の栄養補給方法であるため、それがここ最近全く摂取できていないとなるとこの少年はいつ栄養不足で倒れてもおかしくない。
そんな状態に陥って夢遊病の如く任務を終えて帰ってきたものの、今日も会えないのでは生きている意味などないとして、がに股の千鳥足で体を引き摺るように蝶屋敷に向かっていた。
ちょうど屋敷の入り口まで帰ってきた彼は─────
「いてっ」
と、何やら軽いものが落ちてきた。
別に気にするほどの痛みではないものの、頭を摩りながら落ちてきたものを拾うと、それは乾燥した竹で出来た玩具だった。両手のひらで心棒を挟み、前方に勢いよく押し出すように滑らせて回転を与えると飛ぶ玩具が屋敷の方から落ちてきたことを確認すると、それを拾いにきたのか中から三人の女の子が出てきた。
「あら、善逸さん! 任務から戻られてたんですか?」
「お疲れ様です!」
「無事に戻って来られたようでよかったです!!」
蝶屋敷に住み込んで負傷した隊士達の看病をしてくれている“寺内きよ”に“高田なほ”と“中原すみ”は、純粋な瞳を向けて善逸が無事に任務を終えて帰ってきたことを喜んでいる。
そんな彼女たちに対し、善逸は相変わらず意気消沈としている。
「うん、ただいま·········きよちゃん、今日のお風呂何?」
「え? お、お風呂? ですか?」
夕飯の献立を訊ねるような口調でそう言うが、奇想天外な質問にきよは目を丸くする。
「あぁ、それとも先に汗を流しにご飯に入った方がいいかな?」
「ぜ、善逸さん!? さっきから文章がおかしいです!! どこか悪いのかもしれません!! 急いで診察室へ!!」
「うん、そうだね·········じゃあ早く三途の川へ体を洗いに─────」
「行こうとしないでください!? とにかく一旦落ち着いてぇッ!!!??」
これは正気ではない。
明らかに我妻善逸は我を失っているとして三人は身柄を押さえて急いで連れて行こうとするが、そのひょろひょろとした体は泥酔者の如くクネクネと不自然な動きをされて全然捕まえられない。
そんな騒ぎに怒る声が一つ。
「ちょっと!! 入り口で何を騒いでるんですか!? 近所迷惑も考えて─────って、善逸さんでしたか。四人とも一体何を騒いでるんです?」
「ア、“アオイ”さん!! ぜ、善逸さんがなんだか正気じゃないんです!! さっきからずっと支離滅裂な発言ばかりしててッ!!」
「あ、アオイさん。今日も天の聖杯って感じで太陽が眩しく輝いてていい天気だね。ところで話は変わるけど夜の家の窓なんかでよく見かけるヤモリってなんだか兄貴みたいに思えて、しかもその張り付いている姿見たら家ぇぇがあああああ!? っていう気持ちになって笑えてくるよね」
「·········本当に何言ってるんですか善逸さん?」
もはや言葉が意味を成していない。
なんだろう、この感じ。異国の外人の言語を何とか翻訳しようとしても、そもそもその知識がないから読解しようとしても意味がなく、結局わからなかった時のような感覚になる。
接続詞の可能性信じて事実っぽいことを連ねながら馬鹿みたいな文章を作っているが、こっちには何も伝わってこない。
脈絡も人語ですらない状態になっている善逸はやはり重症だ。
ここで放棄していたらとんでもないことになる。
具体的に言うとどこかから文句が飛んでくるとか普通にあり得る。
直感で“神崎アオイ”はそう判断し、呆れながらもこれ以上の発言は許さないとして口を閉じさせるために羽交い締めにしていたところ、
「
『女の子』の辿々しくて幼い声色が彼の耳に入ってくる。
「·············································え?」
間が異様に空いた。
彼の耳は常人の何倍も発達していて微量な音にも即座に気付けるのに、その声に気付くまで脳内時間でおよそ一時間は経った気がした。実際は五秒ほどしか経っていないのに、それほど思考を空白にしてしまったのにはワケがある。
─────目の前の現象が信じられないのだ。
幻覚を見ているのではと自分の目を疑った。
その瞳が見せている『想い人』の幻覚は、どこの国のものなのかわからない頭巾を被り、だがそれ以外は見慣れた日本の和服だった。
桜色の麻の葉模様、そして市松柄の帯をした『女の子』は子供のように可愛らしい微笑みを浮かべ、
彼女にとっての象徴とも言える竹の口枷は外され、その小さな口からまた癒される声が飛んでくる。
「お、おかえり!!」
「えええええええええええぇぇぇええええッ!!!!??? 禰豆子ちゃぁぁあんんんんんんッ!!!???????」
雷鳴の悲鳴。
その声をもう一度聞くと、目の前にいるのが縋るような思いで願い続けた虚しい錯覚などではなく、本物の『想い人』の“竈門禰豆子”であることがわかった瞬間に善逸は興奮のあまり今まで以上に大声で叫ぶ。
至近距離で彼を押さえつけていたアオイ達はその大声によって鼓膜が破れそうになり、思わず耳を塞ぎながら『うるさい!!』『『『静かにしてください!!』』』と叫ぶものの善逸の悲鳴に呑み込まれて掻き消される。
四人の必死の抗議も届かず、善逸はその姿が本物かどうかをちゃんとよく見るために電光石火の如く駆け出す。
あまりの駆け出しに押さえつけていた四人は吹き飛ばされ、そんなことはどうでもいいと構わず禰豆子の目の前にあっという間に近づいてその小さい手を握り締める。
「今までどこ行ってたの禰豆子ちゃん!? しかも喋ってるじゃない!! 俺のため? 俺のためかな? 俺に会うために頑張って帰ってきてくれたんだね!! とても嬉しいよ! 俺達ついに結婚かなァァァァアアアアアアアアッ!!???」
「あっち行ってください!!」
「その頭巾も禰豆子ちゃんにとてもよく似合ってる!! もう可愛すぎて死にそぉぉぉぉうッッッ!!!!!!」
「どうぞご自由に!! いいから離れなさいよ!?」
アオイが引き離そうと後ろから引っ張るが全然びくともしない。それどころか禰豆子の顔をよく見るために前に進もうとする意志が強くてどんどん引き摺られる。
善逸は興奮のあまり血の流れが早くなったせいか顔から火が出そうなほどに真っ赤になり、目玉なんかその美しい姿を正確に見るために今にも飛び出しそうだった。
眼球が半分ほど飛び出して血管が罅割れるように浮かび上がり、善逸は荒い鼻息を鳴らしながら叫ぶ。
「月明かりの下の禰豆子ちゃんも素敵だったけど、太陽の下の禰豆子ちゃんも堪らなく素敵だよ!! 素晴らしいよ!!」
「しつこい人は嫌われますよ!? さっさとその汗まみれの手を離しなさい!!」
周りの声なんてどうでもいい。
こんなにも美しい少女が帰ってきたのだ。
善逸はこの上なく変態染みた表情で叫びまくる。
「結婚したら今まで会えなかった分生涯ずっとそばにいてあげるから!! 安心して嫁いでおいでぇぇぇぇえええええええええええええええッッッ!!!!!!」
抑えられない衝動に身を任せて次々と想いを放つ善逸に、禰豆子はなんて事なさそうに笑って答える。
「
ピキリ、と。
空気が一瞬で凍りつく。
予想外の名前が出てきて唖然としている善逸、そんな彼を鼻で笑うアオイ。きよ達は善逸があれだけ熱く自分の想いを語っていたのに、まさかの同期の隊士である“嘴平伊之助”の名を呼んでしまったことに対して青ざめている。
「ぃ、のすけ······?」
案の定放心状態になっている善逸。
聞き間違いかなと思って禰豆子の言った名前を確認のために擦れ声で復唱してみたところ、
「いのすけ、おかえり」
正しく発音されたのは間違いなく伊之助の名。
ちょうど彼も任務に出ており、予定通りに上手くいけば今日帰ってくるはずだったので禰豆子は覚えたての伊之助の名を呼んでしまったらしいが、状況は刻一刻と変化する。
彼の思考が追いつかないほど、世界は彼を置いていく。
開いた口が塞がらない善逸を置き去りにして、さらに修羅場な展開がやって来る。
「あ、すみませ〜ん!!」
後ろからまた別の声がする。
その声に振り向くアオイ達。
こちらに手を振ってやって来る、鬼殺隊を支えるために存在する隠の者達がいれば、
「先に鴉から手紙を受け取っていると思いますが、“この人”が今日からここでお世話になる─────」
と、背中に背負っていた“外人”を下ろすと、
「“りんく”ッ!!!!!!」
「うわッ!?」
禰豆子が駆け出す。
その姿を見た瞬間に彼女は嬉しそうに微笑み、どこからどうやってここへやって来たのか全くわかっていないような顔をしている異国の青年の“リンク”の胸に飛び込んでいく。
少女の勢いに負けてリンクは地面に倒れ込む。
リンクからしたら昨日の事のように感じるが、実際に会うのは久しぶりであったため、禰豆子は今まで会えなかった分を埋めるように彼の胸の中に自分の顔を押し付ける。
それほど強く抱きつかれたリンクであったが、彼はすぐに笑ってその背中に手を回して少女の体を優しく叩く。
「久しぶりだね、元気にしてた?」
「うん!!」
その声にまた禰豆子は彼の胸に顔を埋める。
とても微笑ましい光景、それを見ていたアオイ達は二人の仲の良さに和んでいるのか慈愛の籠った眼差しで見守っている。
ただ一人を除いて。
「え、なにこれ。え? 一体なに? なになになんなの一体??????」
一部始終全てを見ていたというのに、目を点にしている善逸は理解が追いつかない。
自分が一途に想っている女の子が、見知らぬ外人の青年と仲睦まじく抱き合っている。
それも恋人並みの距離感で。
世界から置いてけぼりにされたそんな少年のことは無視して、アオイはリンクに話しかける。
「お館様からのお手紙で先に聞いておりますが念のため確認させていただきます、貴方がリンクさんでよろしいですか?」
「うん、そうだよ」
「日本語がとてもお上手ですね。それではお部屋にご案内しますのでこちらへどうぞ」
アオイに言われて頷きながら立ち上がるリンク。
立ち上がる際に禰豆子もゆっくりと退いてくれ、隠の人達も役目を終えたのか預かっていた装備一式を彼に返却すると礼儀正しく一礼して去っていき、そのまま彼女は嬉しそうにリンクと手を繋いで屋敷の中へと消えていく。
「············」
さっきからずっと固まっている我妻善逸。
今までの熱量はどこへ行ったのか、輝いていた両目からは光が失われ、禰豆子に振り解かれた両手は宙を彷徨い、止まらず想いを吐き続けた口は消滅したかのように固く閉じられている。
善逸は、見た。
見てしまった。
竈門禰豆子が外人に嬉しそうに抱き着いているのを。
竈門禰豆子が外人の手を握って楽しそうに歩いていくのを。
竈門禰豆子が外人と顔を合わせて互いに微笑み合っているのを。
それも恋人並みの距離感で。
恋人並みの距離感で。
恋人並みの距離感で!!
「ぜ、善逸さん?」
「大丈夫ですか?」
「生きてますか?」
そんな彼を最後まで心配していた娘三人組であったが、情緒不安定な善逸はぶるぶると小刻みに体を震わせる。
最悪のタイミングであった。
告白同然のことを言ったのに自分じゃなく同期の名前を呼ばれるわ、それだけじゃなく急に知らない登場人物によって場の空気どころか片想いの相手すら奪われた。
よく考えたら、どちらも超美形である。猪のくせに顔は美少女並みに美しく整っており、そんで今出てきた新キャラは心配してくれたきよ達でさえも息を呑むほどに顔が素晴らしかった。
それだけで、我妻善逸の中にある『黒い何か』が暴走するには充分だった。
「ねぇ、あいつなに? 急に現れたと思ったら禰豆子ちゃんに馴れ馴れしくして············」
ドス黒く染まった低い声。
悔しさと怒りが融合して血反吐を吐く善逸に恐怖を覚えるきよ達は、それでも三人は抱き合って怖さを緩和させ、なんとか声を絞り出す。
「えっと、ちょうど今日鬼殺隊に入隊したばかりのリンクさんという方です」
「ずっと行方不明だった禰豆子さんの面倒を見ていたそうです」
「炭治郎さん達と一緒に上弦を倒したそうですよ」
そのことは彼女達もついさっき知らされたばかり。
まだ一部の鎹鴉しか伝わってなく、鬼殺隊全体に知れ渡るのもそう遠い話ではないが、善逸は聞かされていなかったということは伝達が運悪く間に合わなかったらしい。
そもそも彼の場合は雀だし。
だがそんなことはどうでもいい。
自分の。
自分の恋人が。
まさか。
寝取られるなんて。
「············ふざけんなよ? 俺が必死に禰豆子ちゃんを探している中で、仲良く毎日ウキウキウキウキと楽しく過ごしてたとか、ふざけんなよ?」
「いえ、お世話をしていただけでおそらくそんなつもりはないと思います」
「しかも鬼殺隊に今日入隊? いい度胸だなぁ············先輩に挨拶もせず、しかも俺の嫁を目の前で奪おうとするなんて、いい度胸だなぁ」
「いえ、禰豆子さんはまだ善逸さんのお嫁さんじゃないです」
なほとすみが弁明しても善逸は聞き入れない。
自分が追い求めている立場を奪われたことで理性を失いつつある善逸の怒りは最高潮であり、静かに腰にある得物へと手を伸ばす。
引き抜かれる稲妻模様の刀身。
それを血涙流しながら握り締める善逸の顔は、まさしく殺人鬼のような形相であった。
「鬼殺隊はなぁッ!? お遊び気分で入るところじゃねぇッ!! あんなふざけた野郎は粛清だよ!! 即粛清!! 鬼殺隊を舐めるんじゃねぇぇぇええええええええええええええええッッッ!!!!!!!!」
「落ち着いてください!! そんな理由で日輪刀を抜いたりしないでください!!」
「チュンチュゥゥゥウウウウンッ!!」
怒り心頭の我妻善逸と半泣き寸前の娘達がギャアギャアと騒ぐ中、彼の伝令役の雀が遅れて突っ込んで来たおかげでその場は収まった。
額に穴が開くほどの強烈な嘴攻撃によって。
□■□■□■
何やら先ほど入ってきたところが騒がしい。
汚い高音を撒き散らしているのはさっきの少年のようだが、アオイは無視してくださいと言って構わずリンクを案内する。
リンクが案内された屋敷は医療施設のようで、あちこちから消毒液みたいなものが匂う。
玄関を潜った先は産屋敷家と同等の広さで、やはり貴族でも住んでそうな雰囲気だった。
だがここに運ばれてくる患者の心を気遣ってか、暗い色で落ち込んだりしないように白を基調とした壁や天井がやけに目立つ。そしてさらに配慮してるのか、元々行儀正しいのか単に防音効果が高いのか、建物の中は神殿のような静けさに包まれている。
「リンクさんの寝床についてなのですが、実は今日急に言われたばかりだったので今はまだ準備ができていないんです。ですから申し訳ありませんが、個室が空くまでの間は他の患者の皆さんと一緒の病棟で過ごしてもらうことになるのですが、大丈夫ですか?」
歩きながらそう説明してくれたアオイという少女にリンクは笑って答える。
「いいよ、お世話になるのに贅沢は言えないから」
「ありがとうございます、ではこちらへ」
そう言って案内された病棟の入り口。
扉は患者の容態を常に外からチェックするためか敢えて外しており、だからか中からこんな声が聞こえてきた。
「ブチ殺すぞ貴様ァァァアアアアアアアアッッッ!!!??」
「すみませんすみませんもう本当にごめんなさァああああああああああいッッッ!!!!!」
「落ち着いてくださいよアンタ何歳ですかッッッ!!!??」
さっき静けさに包まれていると言ったが、そんなことはなかった。
中から三人の男の声が聞こえてきて、現在進行形で揉めているようであった。なんなら一人すっごい物騒な言葉を吐いていたし、もしかしたら一触即発の一歩手前なのではないかと思ってしまった。
「あの人また騒いでるんですか···········」
はぁ、とため息をつくアオイ。
彼女は呆れるようにしてリンクが泊まる病棟へと入っていくと『静かになさってください!! 病院内で暴れるなって何度も言ったでしょう“鋼鐵塚さん”!?』という強気な声が響いてきて、まるでさっきの騒ぎが嘘みたいに止んでいた。
確かに気が強そうな子だとは思ったがまさかその声ひとつで鎮めてしまうとは、怒らせたら怖い系なのかもしれない。
すると中からアオイが出てきて『お騒がせしましたどうぞお入りください』と言われたので、お言葉に甘えて病棟へと足を踏み入れる。
リンクは部屋を見回す。
清潔なベッドが一◯ほど並んでおり、寝ているのは二人ほど。その中の一人のところに人が集まっていたので、おそらく騒いでいたのは彼らだろう。うるさくて眠れないのか、隣の傷跡を追っている男の子は迷惑そうな顔をしている。
入院患者用の白衣を着た『少年』は何やら膨れ上がった頬を痛そうに押さえており、その隣で汗まみれの仮面の男を宥めている隠の男。
彼らはリンクと禰豆子が入ってきた事に気がつき、そんな少女も彼らの存在に気が付いて小走りで走っていく。
「おにいちゃん!!」
「禰豆子!!」
竈門禰豆子のことを呼んだ少年は飛び込んでくる彼女を受け止める。
ベッドの上に座り込む禰豆子の頭を優しく撫でている少年のことは知っている。確かキンググリオークとの戦いで助太刀してくれた少年だ。彼の剣技はリンクでさえも目を見開くほどで、あの堅い鱗を持つキンググリオークの頭を斬り落としていた。
禰豆子が彼のことを『おにいちゃん』と呼んでいたことから兄妹だということがわかったが、まさかあの時の少年が彼女の肉親であったとは驚きだった。
あれほどの凄い技を持っている少年が彼女に残された唯一の家族、だから二人ともこうして無事に再会できたことが嬉しいのか、ずっと離れずに笑い合っている。
「···········」
その光景にリンクは微笑んでいた。
彼女が幸せそうに笑っているのを見ると、こちらもなんだか気分がいい。ともかく二人の時間を邪魔してはならないと先に歩いていたアオイの後についていき、自分の寝床である少し離れた場所のベッドまで行こうとする。
「あの!! 待ってください!!」
「?」
あの少年に呼び止められた。
リンクは首を傾げながら少年の方に振り返ると、なんだかその顔は太陽のように輝いており、
「ありがとうございました!!」
「え?」
何の脈絡もなく感謝されて戸惑うリンク。
その前後の説明もないまま感謝されたから、一体何に対してありがとうと言われたのかリンクはわからなかった。
そんなリンクに少年は禰豆子を撫でながら、
「俺、禰豆子の兄の“竈門炭治郎”って言います!! よろしくお願いします!!」
急に自己紹介までし出した。
しかも固い言葉遣いで。
純粋で良い子なんだろうなと思いながらリンクも一度頭を下げて名を告げる。
「俺はリンク、よろしくね」
そう言うと炭治郎は『はい!!』と元気よく頷いて、
「それであの時、あの三つ首の竜に喰われそうになっていた俺を助けてくれましたよね!!」
「あ、あぁ···········」
「それだけじゃなくて、今まで行方不明だった禰豆子のことも世話をしてくれていたんですよね!! 前に失くした禰豆子を入れておく木箱を背負っていたし、禰豆子がずっと被っている頭巾から貴方の匂いがしたのですぐにわかりました!! 本当に貴方には感謝してもしきれないです!!」
「いいよ別に。たいしたことじゃないからさ」
「いいえ!! この恩は必ず返します!! この命にかけても必ず!!」
「いやいいよ、そこまでしなくても」
「まずは少ないですがお金を─────!!」
「いいよそこまでしなくても!?」
「でも払います!!」
「いやいいってば!?」
「払いますッ!!」
「いいってッ!?」
最初は柔らかく受け答えしていたのに、頭がカチカチな少年がヒートアップしていくにつれてリンクのテンションも高くなって思わず叫んでしまっていた。
いらないと言っているのに何度もお金を払いますと言う少年。
隣の机に置いてある財布から問答無用でお金を取り出そうとしてくるので止めに入るリンクと絶対に自分の信念を曲げない炭治郎の攻防が繰り広げられ、それを見て楽しそうに笑っている禰豆子。
騒がしい状況になってきたことで、後ろでわなわなと体を震わせている少女は、
「いい加減にしてください!! ここは病院なんですから静かになさってくださいと言ってるでしょうッ!?」
「あ、ごめんなさい··········」
「す、すみませんアオイさん··········」
アオイの叫びに二人は深く反省したのか虚しそうに俯いた。
思わずアオイ自身まで叫んでしまう事態になったわけだが、そのおかげで場の空気は収まったのでそれで良しとするようであった。
すると、
「お前がリンクか」
急に仮面の男が声をかけてきた。
男は何やら仮面の下で荒い息を繰り返しており、体が風邪を引いて寒さに耐えられないかの如く小刻みに震えていた。仮面の突き出た口からは視認できるくらいの煙が噴き出されており、その様子を見てリンクはつい引いてしまった。
それで固まってしまったリンクに男は、
「お前がリンクかと聞いているんだ」
「あ··········はい、そうです」
肯定するようにリンクが頷いたら彼は急に背中に背負っていた『細長い布包み』を下ろして、ふんっと鼻息を鳴らしながら身を屈めた。
ごとん! といかにも重そうな音を立てて床に置かれたことから、ずっと背負っているのが相当きつかったのではないかと思った。
分厚い包みを直立させると、立たせただけで上半分がずり落ちる。
箱のようであった。
それを完全に出すために震える手で解いていくと、細長い長方形の箱が現れ、それをゆっくりと男は開けていく。
中にあったのは、
「それ、もしかして『日輪刀』ですか“鋼鐵塚さん”?」
誰よりも早くそう訊ねたのは少年だった。
彼のその質問に鋼鐵塚という男はうん、うんと魘されるような声で答えてくれる。やっぱり無理してないかこの人とリンクはさらに一歩引いてしまった。
それでも構わず鋼鐵塚は続ける。
「お、お前のその『剣』に惚れた」
「え?」
震える指でリンクの背中を差す鋼鐵塚。
その指先が示しているものに視線を追っていくと、先ほど隠の人に返された退魔の剣『マスターソード』があった。
「そ、それだけじゃない─────お、お前がその剣を振るっている姿にも感動した」
「え? あぁ、えっと·········ありがとうございます」
たっぷり間を取ってから鋼鐵塚がそう言ってきたのでそんなふうにしか答えられなかったリンクに、彼は箱の中から取り出した『日輪刀』という武器をこちらに差し出してきた。
「う、受け取れ」
「はい?」
「受け取れと言ってるんだ」
「は、はい」
半ば強引に押し付けてくるように渡してきたので、リンクはつい受け取ってしまった。
渡された『日輪刀』という武器をよく見ると、中々個性的な武器に感じた。
柄は黒い組紐で巻かれており、赤い菱形が綺麗に並んでいる。その先の刀身を納めている鞘も黒く仕上げており、そこにいる少年が持っている刀とそう変わらないデザイン。
唯一違うところがあるとすれば鍔だった。
少年の場合は炎のような形をした鍔が嵌められており、リンクに渡してきたものは『三つの三角形』のような鍔だった。
思い違いでなければ、これはハイラル王国の王家の紋章だ。
この世界には確かハイラルはないはず、ならば偶然なのだろうか。何にしてもそんな日輪刀と呼ばれる武器を渡してきた鋼鐵塚は震える声で言う。
「お前のその剣と洗練された技の数々、見事なものだった。竜を翻弄するあの姿に感銘を受けた俺は傷だらけのままでも急いで刀を打った。お前に使って欲しいがために」
「あ、ありがとうございます」
「それでお前の持っていたあの盾に描かれていたものの中で特に印象的だった三角形の紋章を参考に鍔も製作した··········だからどうかこいつを使ってやって欲しい。俺の後生の頼みだ」
「··········」
そう言われてリンクは日輪刀を見下ろした。
確かに、この刀からは強い存在感を感じる。自分に使われることを望んでいるような、それともリンク自身がその込められた願いに惹かれているのか。
その願いを受け取るように、リンクは力強く頷いた。
「わかった、ありがたく使わせてもらうよ」
「じゃあ今すぐにそいつを抜いてみろ」
素早い切り替え。
リンクも流石に瞬きをしてしまうような彼の言葉の素早さに固まっていると、鋼鐵塚は深く重い声で、
「日輪刀ってのは別の名を持っていてなぁ、持ち主によって『色が変わる』ことから色変わりの刀と呼ばれている」
「へぇ、そうなんだ」
「それでお前はあの時その剣の刀身を赫く染め上げていた··········だからもしかしたらお前が持てば俺の刀が赫く染まるかもしれん」
「あ、いや。あれはおそらくその子のおかげで─────」
「抜いて見せてくれ、お前の刀の色を」
リンクが炭治郎の上に乗っている禰豆子の方を見てそう言うも鋼鐵塚は聞き入れない。リンクに見られた禰豆子は可愛らしく首を傾げ、炭治郎の方は何だか呆れるように頭を抱えていた。
それで鋼鐵塚から『早く抜かないと殺す』と脅すように背中から真っ黒な蜃気楼のようなものが浮かび上がっているので、リンクは渋々右手の五指を一本ずつゆっくりと握りに巻き付ける。
そのまま刀を鞘から一気に抜き取り、金属が擦れる音を鳴らしながら刃を明かりに翳す。
リンクはこれまで無数の武器を手にしてきたが、だからこそ、その武器の刀身を見て伝わるものがある。
鋭くも美しい刀。
手首を返して切っ先を天に向けてみると、微かに刀身が唸る。
と、
「ん?」
それは誰の声だったのか、低い唸りが聞こえてきた瞬間。
刀身の色が─────
「え?」
「「「えぇ!?」」」
「何ぃ!?」
リンクに続いて炭治郎とアオイ達が驚きの声をあげ、鋼鐵塚は仮面の下で信じられないみたいな顔をしていた。
皆がそんな声を零しまうのも無理はない。
窓から差し込む陽光を通過するように刀身が薄くなっていく日輪刀はわずかながらも色を付け、ある程度のところで止まった。
変化が終了したのか、それ以降は何も起きない。
最終的にリンクの日輪刀は─────“
角度によっては淡い水色を呈する日輪刀の刀身は、一言で言い表すと硝子細工のようだ。蒼く澄み切った日輪刀はリンクの瞳と英傑服と同じような色であるものの、透明感があるせいで刀身が硝子にしか見えず、正直に言ってしまうと脆そうに見えた。
「何だこれ!? こんなの初めて見たぞ!?」
「珍しいなんてものじゃないです!! あり得ない現象です!?」
ずっといた隠の男とアオイが驚きのあまり声を荒げる。
リンクはよくわかっていないのだが、そこまで驚かれたら逆に不安になる。
「そ、そんなにおかしいの··········?」
「色が変わらないとかそういうことはありますけど、半透明になるなんて聞いたことがないですよ!?」
炭治郎でさえもそう言うということはこれは前代未聞のことらしい。
確かに、刀にしては硝子のように見えてすぐに粉々になりそうに思えてしまうし、だが左手の指で切っ先を摩ってみると切れ味は変わっていないのか指先の皮膚が切れて血が溢れ出る。刃の鋭さは言うには及ばず、だが光さえも通過してしまう異様な刀身によって、床に屈折した蒼い陰影が落ちている。
誰もがその異常現象に戸惑う中、
「··········よくも」
ようやく、鋼鐵塚が低く声を発した。
皆がそちらに目を向けると、何だか鋼鐵塚の背中から黒い靄が上がっている。怒りのあまり周囲の空気を燃やしているかの如く、気のせいか焦げ臭い匂いまでしてくる。
鼻がいい炭治郎はその匂いを何度も嗅いできたはず。
だから炭治郎はギョッとしてリンクに叫ぶ。
「リンクさん!! 今すぐ逃げてッ!?」
え? とリンクが思う前に何やら目の前が真っ暗になる。
反応が遅れてしまったものの前を見たリンクが目にしたのは、ボコブリンが獲物に襲いかかるように飛びついてきた鋼鐵塚の姿だった。
「よくも俺の刀を硝子みたいな姿にしてくれたな貴様ァァァァァァアアアッッッ!!???」
「えぇッ!?」
殺してやるぅぅぅうううッ!! と物騒なこと言いながら襲いかかってくる鋼鐵塚をリンクは上手くよけたものの、彼は諦めずに追いかけてくる。
「ちょっ!? ちょっと!? 急に何をッ!?」
「俺はあの時みたいに赫い刀身が見れると思ったのにそれを貴様という奴はァァァアアアアアアアッ!!!??」
「危ないって!? 一体何歳だよアンタ!?」
「三七だァァァァァァアアアッ!!!!!」
病棟を走り回るリンクと鋼鐵塚。
リンクはできるだけ物を倒さないようにしているが、理性を失った鋼鐵塚は凶暴化し、前にどんな障害があろうと構わず突っ込んでいく。
猛獣のように両手で引っ掻こうとしてくる鋼鐵塚。
獲物を捉えるまでその殺意が収まる事はない、そんな鋼鐵塚を落ち着かせるために彼らは立ち上がった。
「お、落ち着いてください鋼鐵塚さん!?」
「アンタもまだ傷治ってないんだから暴れんなよ!?」
「ああもう!! 結局またこうなるんですか!?」
話が通じないのか、それとももう声が届かないくらいに暴走しているのか、そんな鋼鐵塚を止めるために怪我人の炭治郎含め、隠の後藤さんと神崎アオイが見兼ねて飛び込んでくる。
三人で押さえ込もうとしたが鋼鐵塚は止まらずリンクを追いかける。
そんな光景を見て、禰豆子は子供らしく笑っていた。
「み、みんな、たのし、そう!!」
「いや、楽しそうとかの次元じゃねぇだろあれ」
少女の言葉についツッコミを入れる同室の男の子。
“不死川玄弥”
騒がしすぎて眠れず、耳を塞ぎながら歯軋りしていたが、どうにもならないらしい。
もう何もかもぐっだぐだのめっちゃくちゃだった。
□■□■□■
今日はいろんなことがありすぎた。
結局鋼鐵塚を止める事はできなかったが、傷がまだ治りきっておらず暴れたせいで開いてしまったのか、痛みのあまり気を失った。
ようやく静かになったことに安堵し、隠の男とアオイという少女によって彼は連行され、別室に連れて行かれた。そこで彼は治療をするみたいだが、暴れないように縛るだけでなく二四時間体制で監視されるということらしい。
まぁ、そうなるかとリンクは思う。
ベッドに寝そべったまま、窓の外を見る。
暗くなってしまった空、その光景はハイラルと似ていたが何かが違う。
空に浮かぶ星空も、大きな月も、何もかもハイラルと異なっている。それを実感した時、リンクの頭の中にあることが思い浮かぶ。
─────自分は元いた場所に帰れるんだろうか。
こっちで『鬼の始祖』を滅すれば、ハイラルにいる鬼共も殲滅できると教えられたが、もし仮に倒した後でその後は自分はどうなる?
こちらに来た方法もよくわからず、心当たりがあるとすればあの時禰豆子を連れて行こうとした『瘴気の手』ぐらいで、あれがなければ帰れないのだろうか。『魔王』が異界を渡れる術を身に付けたのだとしたら、『瘴気の手』から現れる『魔王の分身』に聞けば何かわかるかもしれないが、あれに理性はないし、何よりどこにいるのかもわからない。
どれだけ考えても、結局帰る方法はわからなかった。
あの時消えてしまった“姫”もこんな気持ちだったのだろうか。自分が掴めなかったばっかりに遥か過去のハイラルに飛ばされ、戻る手段が分からなくて彼女は『禁断の術』を使って時を超えるという策に出た。
永遠の命を得る代わりに、代償として自我を失い、そして未来永劫人間には戻れなくなってしまった。
禁術へと手を伸ばしてしまった彼女は一体どれだけ苦しんだだろう、どれだけの覚悟を持っていたのだろう。
そんな彼女の苦悩を、今更ながらよくわかった気がした。
「··········」
リンクはベッドの横に立てかけているマスターソードを見る。
彼女の覚悟を代償に蘇った退魔の剣は、鬼を倒すこともできた。
だからここに来てお館様から真実を告げられた時に確信した、自分はその為にこちらへやって来たのだと。
何を考えているのかは知らないが、『魔王』の企みを阻止するために鬼を全て滅ぼし、そしてこれ以上神聖なハイラルの地を血で汚さぬようにここに送り込まれたのだと。
それが、今の自分に課せられた使命なのだと。
そう、思ったリンクは眠りにつく。
流石にもう限界だった。
目が覚めたばかりで真実を聞かされ、納得ができていなかった剣士達を説得するために戦い、そしてわけもわからず変なお面をした男に追いかけ回されて、リンクの体力は底を突いていた。
瞼が重くなる。
意識が闇に沈んでいく。
そして。
『また会ったな』
低い男の声が耳に滑り込んできた。
そのあまりにも奇怪で意味不明な状況に、リンクは理解が追いつかなかった。
『しくじった私に代わって【鬼の始祖】を倒してもらうお前には伝える剣技がある、と。そう言っただろう』
「··········っ!!」
ようやく、リンクは今自分が仰向けに倒れていることを自覚した。
慌てて飛び起き、そして息を呑んだ。
周囲の風景がおかしい、確か自分は先程まで蝶屋敷と呼ばれる場所の病棟で眠りについたはず。
それなのに、今いる場所はなんだ?
まるでどこか─────“かつての賢者達と会話した特殊空間”に似ていた。
『秘石』を託されたかつての賢者達と話すことが出来た空間のように、足元は丸みのある白い石で埋め尽くされており、山水の風景を表現するように独特な波模様が描かれている。
その空間に佇むのは、あの“謎の剣士”だった。
以前の時のように骸骨の姿で、だがあの赫い衣服は纏っており、そして特徴的な長い赫髪は後ろで束ねている。
骸骨なのに服を着ていることに対して、これほど違和感を覚えないのは何故なのだろう?
髪も普通に生えてるし、肺もなしに呼吸の音も聞こえてきて、目の前にいる奴が別の意味で不気味だった。
リンクは目の前の剣士を睨むような目付きで見つめ、
「お前は、なんなんだ?」
『人生において為すべきことを為せなかった何の価値もない者だ』
正体を聞くが、剣士ははぐらかすように答えた。
普通はそんなことをされたら怒りを抱くはずなのに、リンクにはそんな感情は一切湧いてこなかった。骸骨の言ったことを素直に信じてしまうほどの『何か』に惹かれ、ならばとリンクは質問を変える。
「“しくじった”ってどういう事だ?」
『··········』
「何にしくじったのかは知らないけど、それを俺に託していいのか? 俺は、この世界とは違う場所から来た余所者なんだぞ?」
そんな風に聞いたリンクであったが、剣士は答えない。
代わりに。
轟!! と。
瞬きする間に近付かれ、その手に持つ『赫い刀』がリンクの首筋を狙ってくる。
剣の軌道は見えなかった、見えるはずもなかった。
でもリンクは受け止めた。
ガキン!! と金属同士がぶつかる音が響く。
背中にいつの間にかあったマスターソードを鞘から引き抜き、目にも止まらぬ速さで放たれる一撃を咄嗟でも受け止めたことに対して、剣士は一度一歩下がると刀を下げる。
『それが私の答えだ』
それだけだった。
ただそれだけを言って、リンクに告げる。
『今の攻撃を受け止めた··········それだけで、お前でなくてはならないという証となる』
「··········っ!!」
『だが今のはまだ小手調べ、それでもお前はわずかに反応が遅れた。今のままではこれから戦うであろう者達に手も足も出ずに敗北するだろう』
骸骨の剣士は静かに刀を掲げ、
『鬼にはそれに対抗する剣技がいる。お前が真の意味で人々を救いたいと願うのならば─────』
勢いよく振り下ろし、その赫い刀をリンクに向けて告げる。
『我が剣技、その身をもって習得してみせろ』