鬼滅の伝説   作:織姫ミグル

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第三章

 

 

「ちょっと! お願いだから大人しくして!! それつけたままだと何も聞けないでしょう!?」

 

「ヴ〜!! ヴ〜!!」

 

 

鳥望台一階からそんな騒ぎが聞こえてくる。

 

ようやく目を覚ました少女。その子から事情を聞くためにプルアはいくつか質問をしたが口元の竹筒が邪魔で聞き取れないので外してやろうとしたら想像以上に嫌がり、少女は外そうとしてくる彼女の手を掴んでは首を振って抵抗している。

 

と、そこに。

 

 

「プルア!?」

 

 

食料や道具の買い物から戻ってきたリンクがその手を止めさせ、一旦離れさせる。

 

 

「何やってるんだ!? 嫌がってるだろ!!」

 

「でもそのままじゃその子から何も聞けないでしょう!? どこから来たのかとか、事情を聞かないと······」

 

 

確かに。

 

事情を聞きたいが、当の本人がその竹筒を外したがらず、こちらから外そうとしても抵抗されるのであれば聞きたいものも聞けない。だが、だからと言って嫌がるようなことはしたくない。

 

リンクは少女の目線に合わせるように膝を曲げて、プルアに聞こえるように言う。

 

 

「外したくない理由はわからないけど、本人が嫌がってるんだ。無理強いはしたくない」

 

「フン! フン!!」

 

「ごめん、嫌な思いさせて」

 

「······ムゥ!!」

 

 

そう言いながらリンクが頭を撫でて謝罪すると、少女はプイッと横を向いてしまう。

 

 

「······でも、だとしたらどうすんの? その子の思考でも読むっていうの?」

 

 

と、どこか棘のあるような言い方をしてくるプルアにリンクは、

 

 

「幸い、言ってることは理解しているようだし······なんとかなるよ」

 

 

どこか楽観的に考える青年は慣れていないながらも、ハテノ村にある学校で培った子どもに対してのコミュニケーション力を発揮する。まず子供の目線に立ち、愛情を持って接することが大切だ。具体的には明るく話しかけ、子供の気持ちに寄り添うことが重要である。

 

 

「君はどうして木箱の中で眠っていたんだ? ······どこかにお父さんかお母さんはいない? 兄弟は?」

 

「ムゥ······ッ!?」

 

 

そう聞かれて少女は目を見開き、黙り込んだ。

 

すると、

 

しばらく沈黙した後、

 

 

「ム······ムゥゥゥウウウウッ!!」

 

 

急に嗚咽のようなものが聞こえてきたと思ったら、栓が外れたかのようにその瞳から涙を流した。抑えようもなく声を上げながら、膝を突いて床にうずくまって子供らしく大声で泣き出したのだ。次々と地面に溢れ、弾ける涙の粒が床に染み込む。

 

無論、二人はギョッとした。

 

普通に聞いただけなのに、ここまで泣かれるとは思っていなかったからだ。

 

 

「ちょ!? アンタ何泣かしてんの!? なんとかなるんじゃなかったの!?」

 

「いや、俺もそんなつもりじゃ······!?」

 

「ムゥゥゥウウウウッ!!」

 

 

止まらない涙に泣き声。子供というより、まるで物心ついたばかりの幼児だった。

 

堪らず泣き続ける少女にもうどうしたらいいかわからない。

 

二人は対処に困ったように慌てるが、リンクの視線があるものに行った。

 

 

「! プルア! それちょっと貸して!!」

 

「え? ちょ────!?」

 

 

返事を聞いている余裕はなかった。

 

リンクはプルアが持っていたリコーダーを半ば強引に奪うと、口を唄口へとつけて指を音孔に置くと、息を吹いて音楽を奏でる。

 

 

「〜〜〜♪」

 

「ム······ムゥ?」

 

 

少女の耳に滑らかなメロディが聞こえてきた。

 

王家に伝わる子守唄。

 

ハイラル王家の使者を意味する曲でもあり、眠れない子供にこの曲を演奏すると良いことが起きると言われている。今では各地でも歌い継がれており、泣いている子供をあやしたりするのにはとても落ち着くメロディだった。

 

正直、異国の子供に効果があるかはわからないが、少女はそれを聞いた途端に目に溜まっている涙をゴシゴシと拭く。

 

 

「······ムゥー!!」

 

 

彼女に届いたのだろう。

 

言語の壁を超えたところにある、安心させるような気持ちを、少女は確かに感じていた。

 

それからずっと黙って聞いていたが、その曲が気に入ったのかリコーダーの音と重ねるように微かなハミングでメロディーを口ずさんでいた。一拍たりともずれていない、ご機嫌な表情を浮かべながら少女はリンクが奏でるメロディーに合わせて歌っていた。

 

 

(······ほっ)

 

 

機嫌を取り戻したことに安堵し、リンクが演奏をやめると。

 

 

「ム!! ヴ〜ヴ〜!!」

 

「え?」

 

 

大ブーイングが起こった。

 

少女は演奏が止んだ途端に癇癪を起こしたように不機嫌になり、リンクの服を掴んでは引っ張って何かを抗議している。

 

それに対し、リンクは一度泣き止んだのにまた不機嫌になったことに戸惑い、いよいよキャパオーバーして頭から熱が出てきそうになっていた時、

 

 

「プッ! 気に入ったんじゃない? アンタの演奏」

 

「え!?」

 

「ま、気が済むまで続けてあげることね。じゃ、ちょっと私この子の身元を調べるために木箱のこと調べてくるから、よろしくね」

 

「ちょ!? プルア!?」

 

「あとその笛洗って返してね。人のものに勝手に口付けるなんて、それも女のものに。普通だったら死刑よ死刑」

 

「そんな理不尽な!!」

 

「ムゥ〜!!!!!」

 

 

拒否権はねぇと言われてるみたいだった。

 

少女はこちらの事情など構わず、プルアのリコーダーに触って吹けとでも言いたげに見てきていることから、リンクは渋々アンコールに応えてあげる。

 

ちなみに、鍛えているとはいえこういうことに肺活量を使ったことがなかったので、少女が納得いくまで演奏は続けられた結果、体力の限界が来て過呼吸気味になったのは言うまでもない。

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

リンクの演奏に満足した少女は再び眠気を覚えたらしく、椅子の上で頭を揺らし始めた。

 

寝息を立て始めた少女を見やり、珍しく肩で息をしているリンクは額の汗を拭ってため息を吐く。椅子で眠り始めた少女は完全に熟睡しており、気のせいかその寝顔はどことなく安らかなものに見えた。すると、睡眠状態に入ったせいなのか、体を縮ませてしまい、椅子から転げ落ちる前にリンクは少女を抱えると落とさないように梯子を上り、ベッドの上に寝かせて毛布をかけてあげた。

 

 

「ちょっとー、話があるんだけどー?」

 

 

と、下の階からプルアの声が聞こえたために梯子を降りると、彼女は作戦会議用に設置された机の向かい側に座って前の椅子に座るように指を差して命令する。

 

言われた通り彼女の目の前に座ると、プルアは頬杖をつきながら訊ねてくる。

 

 

「これからどうするつもり?」

 

「どうって······」

 

 

当然の質問だった。

 

ここはあくまでも砦、避難の場所としては最適だがいつ敵が襲ってくるか分からない。何せ、目の前には厄災の元凶の根城があるんだ。ここは謂わば最前線。戦地の中に子供を置いておくわけにもいかない。

 

であれば、安全な地域に置いておくのがいいだろう。

 

何より、自分もやることが山積みだ。一緒にはいられないし、然るべき施設に預かってもらおう。

 

リンクはそう判断して、プルアの目を見て答える。

 

 

「明日にでもハテノ村に連れてくよ。あそこなら学校もあるし、シモンになら任せられるから」

 

「アイツに任せてもいいもんかね。子供に戻った私をいやらしく触ってきたような奴だけど」

 

「“姫様”が選んだんだ、信用に値するよ。授業内容も見たけど癖の強い子とも上手くやれてるしね」

 

「······そ、アンタがそう言うならそうしなさい。今日の夜ペーンが来るから、先に手紙を渡して伝えておくわ」

 

「助かるよ」

 

「······でも、気にならない?」

 

「? 何が?」

 

「アンタ言ってたじゃない······あの子、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? おかしいと思わない? そんな力がある種族、今まで聞いたことも見たこともないけど。魔物の類だったりでもしたら────」

 

 

そう懸念してしまうのは必然だった。

 

そもそもとして、何故あんな小さな女の子が木箱の中で眠っていたのか。

 

ひょっとして────と、最悪の事態を想定する。

 

仮説として、彼女がもし魔物だったとしたら、あの子は恵まれない環境にいたはずだ。魔物として見られて人々から迫害され、恐怖の対象として扱われていたのかもしれない。たかだが体の大きさを変化させられることができるだけで大袈裟に思うかもしれないが、通常の人間にはそんなことはできない。たったそれだけで人々は自分と違うからと言う理由で差別し、仲間外れをしてしまう習性がある。木箱の中にいたのは、そう言ったことから隠すためなのか、それを背負っていた者はそういった事情を知っていたからなのか。

 

なんにせよ、何か複雑な事情があるのは間違いない。

 

けれどだとしたら、尚更ここに置いておくわけにはいかない。

 

ここには魔物討伐隊もおり、少女を魔物だと認定したらおそらく彼らは血眼になって彼女を倒そうとするだろう。世の平和を第一に考えているのもあって、少しでも脅威を排除しようと動くはずだ。

 

ならば、今このことを知っているプルアと自分だけで内密に動くべきだ。

 

 

「今日の夜にでも、早速ハテノ村に向かうよ」

 

「いきなりね」

 

「プルアの言う通り、万が一魔物だとしたらあの子はみんなを襲う。今のところそんな様子はないし可能性は低いけど、もし危害を加えるようなことをするなら────」

 

 

口に出して宣言するのは、覚悟を決めたものでもある。

 

リンクは拾った以上、その責任を容易く考えているわけではない。

 

 

「俺が、あの子を斬る」

 

 

少女の苦しみがどれほど深いものであっても、自分がそれを救ってあげることはできない。万が一人を襲うようなことがあれば、拾ってきた自分に責任がある。しばらくは一緒にいて様子を見るが、人を襲った場合彼はあの少女を斬らねばならない。

 

しかし、そう思うと、リンクは不意に耐え難い胸の痛みに襲われた。

 

まだ幼い少女の命を奪う。

 

それは常人には耐えられないほど荷が重いだろう。

 

だからこそ、彼はその覚悟を持っていた。

 

他の誰でもない、彼があの子の命を奪う。

 

勇者として選ばれた彼にしかできない使命。

 

それを胸に、内心そんなことは起きないようにと僅かに願いながらプルアに言う。

 

 

「あの木箱の紐を直しておいてくれ。直り次第一秒でも早くここを発つ。できるだけ人に見られない時間にあの子を安全な場所に連れていく」

 

「······」

 

 

それだけを聞いて、プルアはため息を吐くと無言で頷いて椅子から立ち上がり、隅に置いておいた木箱の紐の修理に取り掛かる。

 

それを見ながらリンクは身支度を始め、あの子を送り届けるという使命を胸に、退魔の剣をその背に背負う。

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

時刻は深夜の二時を回っていた。

 

星の散った夜空を眺める。

 

日中の陽気とは違い余寒を残す夜にリンクは背中に木箱を背負ってハテノ村に向かって歩いていた。

 

端的に言って、木箱を背負うには盾と剣は邪魔だった。

 

スペースがなくて背負うことができなかったのだ。故に、背中にピッタリとくっつくように調整されていた紐を少し長めにしてもらい、盾は左手に常時装備することでなんとか背負えた。眠っている少女を起こさないように木箱に入れると、プルアには帰ってきたら今後の活動について話し合おうとだけ言って監視砦を後にした。

 

リンクは暗闇の中、月明かりだけを頼りに草木も生えていない道を進んでいく。

 

しばらくすると、ハテノ砦が見えてきた。無論捨てられた廃墟のためそこは砦としての役割はなく、ただの記念物としてそこに残されているだけだ。今から百年前、それも自分が本当に若かった頃、ここで自分も剣を携えて戦ったらしいが、その記憶は残ってない。そう考えると、一抹の寂しさを感じる。

 

 

「グワァァァァアアアアッ!!」

 

「······」

 

 

反射的に背中から剣を引き抜いたリンクは声のした方に刃を振るう。

 

 

「ギャアッ!?」

 

 

腕を斬られて苦しんでいるのは、ハイラルの地のほぼ全域にわたって至る所で民を襲っている“ボコブリン”だった。赤い皮膚をした奴に青や黒、角もそれぞれ違いがあり、ハイラル中を跋扈する脅威であるため見つけ次第討伐するように命じられている。

 

トドメとばかりに、リンクは躊躇なくその喉笛に剣を突き刺す。呻く余裕も与えずしばらく痙攣した後、血泡を吹き出して息絶えた。

 

一人倒されたことで危機感を感じたのか、それを合図に物陰から一匹、また一匹と出てきては増えていく。

 

 

「グルルル······ッ!!」

 

「ウゥゥゥウウウ!!」

 

「······」

 

 

リンクは油断なく魔物達を見ながらあたりに目を配った。数が多いためちょっと面倒だ。しかしこの程度ならばなんの問題もない。

 

 

「ギャア!!」

 

 

一匹の青ボコブリンが矢をそこらの枝で作った手製の弓に番えると、引き絞って放ってきた。何の工夫もされていないような粗雑な石の鏃。稚拙ではあるがあれでも当たりどころによっては重傷になる。

 

 

「フッ!!」

 

 

けれども彼は余裕で左手にある盾を上に放り投げて空中でキープさせると、放たれてきた矢を掴み、すぐさま自分の弓にそれを番えてその舐め腐った顔面に撃つ。

 

 

「ギャッ!?」

 

 

脳天を貫かれたことで一撃で絶命し、弓を背に仕舞うと空中に放り投げた盾が落ちてきてそのまま彼の左手に納まった。

 

 

「「「「「······!?」」」」」

 

 

矢で射られて倒された仲間を見て本能的に危機感を覚えるが、狙った以上奴らは退くということをしない。

 

だから先手は自分からだった。

 

地を蹴って駆け出して助走を付けて跳びかかっては一匹のボコブリンの脳天目掛けて剣を振り落として真っ二つに切り分けると、隣にいた奴の顔面の向かって左手の盾を裏拳気味に放って軽い脳震盪を起こすと、その脳に容赦なく刃を刺し込んで抉り取った。

 

それは討伐というより作業に近い。

 

次々と飛び出してくるボコブリンは集団で来られると厄介だが、慣れれば普通に倒せる。行動パターンが単純なのだ。知能は精々四歳ぐらいで、しかしそれでも悪知恵は働く。一匹が小石を投げては注意を逸らして引きつけたところ、その隙に他の仲間が襲ってリンチにする。つまらない策を思いつくのが奴らだ。

 

けれど。

 

そんなの彼の前では子供騙しでしかない。

 

 

「ッ!!」

 

 

先ほど倒したボコブリンが持っていた槍を拾うと残りの奴らのうち一匹に投げつけて、首元を串刺しにしたところ即座に駆け寄ってその槍を再び掴み、首に突き刺さった状態でそれを捻り、首を折って確実に仕留める。後ろから次に襲いくる奴には振り返る暇はないので垂直方向に身体ごと一回転して敵を両断した。

 

こんなの戦いにもならない。

 

遊びに付き合う暇はない。

 

頭蓋を切り裂き、首と胴を泣き別れにさせ、腹を裂いて臓物を吐き出させて斃れさせる。

 

 

「グルワァァァアアッ!!」

 

「!!」

 

 

背筋から殺気を感じ、急いで振り返ろうとするもすでにその手に握られている得物は振り下ろされており、このままでは背中に背負っている木箱が破壊されて中にいるあの少女がやられてしまう。

 

と、

 

バッキィ、という凄まじい音がして二つの塊が激突すると、擦過音を立てながらボコブリンの首は面白いほど回転して捩じ切られる。

 

 

「ッ!?」

 

「!?」

 

 

驚きの声も断末魔さえも上げられず絶命するボコブリンだが、リンクは何が起こったのかと思い後ろを見ると。

 

 

「ムゥ!!」

 

 

木箱の扉を蹴り開けて出てきた桜色の瞳の少女が、顔中に血管を浮かび上がらせてボコブリンを睨んでいた。

 

 

「ふぅ······ふぅ······ッ!!」

 

 

息を荒くして睨みつけている少女は、何かを我慢しているようだった。目の前の敵を襲うことを躊躇しているかのような、そんな彼女を残党の魔物は今晩のおかずとでも思っているのか涎まみれの口を拭って、

 

 

「ギャァアッ!!」

 

 

瞬間、ボコブリンは飛び上がって一瞬で距離を詰めると有無を言わせずに棍棒を振り下ろして少女の体を叩きつけようとする。

 

 

「!? 危ない!!」

 

 

と、リンクは少女を守ろうと前に出て立ちはだかろうとした。

 

が、

 

そんな心配は無駄に終わった。

 

 

「フンッ!!」

 

 

狙い過たず放った蹴りが襲いかかってきたボコブリンの顎に直撃。威力が絶大だったのか、蹴りの衝撃を逃しきれなかった首は千切れて遠く彼方へと飛んでいった。

 

 

「フゥ······フゥ······ッ!!」

 

 

少女はしばらく倒したボコブリンの死体を睨んでいた。

 

 

「お前、は······!?」

 

 

そんな少女の背に、リンクは震える声を投げた。

 

少女は小さく息を吐きながらリンクに向き直り、足を進めてくる。その姿は幼さの残る美しい少女だったが、リンクは一瞬、その少女を『人間』と認識することができなかった。一瞬前と一瞬後。あまりにもギャップのありすぎる現実が思考を混乱させた。

 

およそ少女が出せる威力ではない。

 

そこで気付いた。

 

こちらを見つめてくる少女のその吸い込まれるほど美しい色をした瞳の中にある瞳孔が、猫のように縦長になっていた。

 

それを見て察した。

 

彼女は、人間ではない。

 

それを知った途端に彼は戸惑い、思わず右手に持つ退魔の剣を握り締めた。

 

······斬るべきか。

 

その選択を迫られて息を呑むリンクだったが、

 

ちょうどその時、

 

遠くの山脈の向こうから紅い朝焼けが射し込んできた。

 

その瞬間、()()()()()()()()()()()

 

 

「ヴ、ヴゥゥゥヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッッッ!!!??」

 

 

悲鳴だった。

 

聞くに堪えない程の少女の苦しむ甲高い悲鳴。それと同時に肉の焼けるような嫌な匂いが漂い、少女のその雪のように白かった皮膚を焦がしていた。立ち上る肉の灼ける臭いと煙。その異様な光景に言葉を失っていたが、ようやくリンクの目が現実にピントを合わせた。

 

 

「ッ!!」

 

 

気付いたら体が勝手に動いていた。

 

陽光に灼かれる少女の体を抱き寄せ、昇る太陽の陽射しの陰となって語りかける。

 

 

「落ち着いて!!」

 

「ヴゥゥゥウウウッ!!」

 

「大丈夫、大丈夫だから······」

 

「ヴ、ヴゥゥゥウ······ッ!!」

 

「前みたいに体を小さくするんだ。俺が日陰になるから」

 

「ヴ、ゥゥ······」

 

 

苦しんで悶える少女とは対照的に、青年の声は穏やかだった。声をかけつつ右手で優しく少女の体を支え、陽射しを遮るように覆い被さる。それが功を奏したのか、痛みで泣き出している少女を安心させるようなその声に、彼女も冷静さを取り戻してこくりと頷く。

 

少女の体が小さくなるのに合わせてリンクは、被っていたハイリアのフードを脱いで、それを少女に被せる。ハイラルの伝統的な製法で織られた丈夫な布を使ったフード付きマントで、雨風や強い陽射しから頭を守るために旅人に愛用されているそれは陽光を通さない。

 

彼女の陽光灼けは止まっていた。

 

肉を灼いた臭いを吸い込んだせいか、鼻の奥がツンとした。

 

ハイリアのフードに包まった少女を安全に運ぶため、リンクは背負っていた木箱を隣に置くと扉を開いて入るように指示する。

 

 

「······入れる?」

 

「······ムゥ」

 

 

そう言われて少女は、ハイリアのフードを被ったまま木箱の中へと戻っていった。

 

しっかりと木箱の奥へと入ったのを確認したリンクはゆっくりと扉を閉めると、緊張が解けたのかその場につい膝をついてしまう。体が軽くなったような、安堵に包まれたような心地良さ。

 

だが、

 

リンクは今の出来事が脳裏に焼き付いて離れないのか、思わず隣に置いてある木箱を見る。

 

彼はそのまま顔を上げると、ゆっくりと掌を朝日に翳し、燦々と照らす陽光を眇め見る。

 

この日、

 

なんの因果か、

 

魔を滅する選ばれし勇者リンクは、

 

生まれて初めて魔物を助けてしまった。

 

 

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