素人童貞からはじめる脱童貞計画   作:ダブル亮禅

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1.物語のはじまり

飛田新地。

高校2年生の僕はその存在を知ったその日、その妖しいほどに非現実的な街の中で天啓を得た。

 

高校に入り、高校2年生にもなると裏切り者が出てくる。

昨日までクラスの女子の誰々がヤッたらしいとか馬鹿話で散々盛り上がっていたはずの友人が、次の日には「お前らまだなの?ププッ」と見下してきやがる。

そうやって一人、また一人と仲間だと思っていた奴らに裏切られるという地獄の日々の中、僕は女友達の1人すらできず、悶々と激しい焦燥感と劣等感に苛まれていた。

そんな鬱々としたある日、童貞仲間のうちからまた1人裏切り者が出る。

自らの老け顔を武器に風俗デビューしたのだ。

勝ち誇るそいつを前に僕は「法を犯すなんて外道め!」とか、「所詮素人童貞だろ」と負け惜しみを言ったが、内心は敗北感に打ちのめされていた。

 

そんな気持ちを引きずっていたある日、帰宅すると家に叔父がいた。

智史叔父さんは独身貴族を謳歌していて、今回もフィリピン旅行のお土産を持って遊びに来たらしい。

普段から叔父とはグラビアアイドルで誰が好み?とか話す仲だったので、誰かに愚痴を言いたくて仕方なかった事もあり、母が夕飯を作ら為に席を外した隙に、学校での出来事を叔父に話した。

叔父はニヤニヤしながら話を聞いていたが、「よし!貞雄、メシ食ったらええ場所に連れて行ったる!」と言った。

夕飯が済み、叔父は母には「貞雄と久々にボウリング行ってくるわ」と伝え、僕を連れ出した。

 

叔父は車を駐車場に止め、「お前、今日は見るだけやぞ」と言うと、先導するように薄暗い路地に入って行く。僕は慌ててついて行った。交番を通り過ぎてしばらく行ったら一際明るい場所に出た。

 

天国

 

真っ先に浮かんだのはそれだった。

そして、次に考えたのは、

 

えっ?これ大丈夫なの?

 

という法治国家日本の国民として当然の自制心だった。

時代劇で見た遊郭、吉原。

そのまんまのそれが目の前にあった。

 

店の中から綺麗なお姉さんが艶かしく手招きをしている。

店先ではヤリ手ババアが「おにーさん、寄ってって」と客引きをしている。

まあミニスカポリスや看護婦さんは江戸時代にはいなかっただろうけど。

でも、初見で分かる。

ここは、「そういう事」をする場所。

 

明らかにキョドっている僕を見て叔父は

「ここはなあ、旅館や。旅館で仲居さんと恋に落ちてまう。そういう事があっても悪い事では無いわな」

とわざとらしく説明する。

流石にそんなの詭弁では?と

「いや、でも、え…」

と言い淀んでる僕に、叔父はさらに

「さっき交番あったやろ?セーフって事や」

とちょっと悪い顔をしながら言う。

「こ、これがセーフだと!日本、最高だな!」

あまりの興奮に訳がわからなくなっている僕。

そんな僕に追い打ちをかける様に、

「今からいう事は、絶対姉さんには内緒やぞ!」

と真剣な顔をして言った後、

「今日はアカンけど、貞雄が高校卒業したら奢ったるわ」

ニヤリとしながら言う。

 

き、き、来たあああぁぁぁーーー!!

それを聞いた瞬間それから頭が一気に沸騰した。何度も

「ほ、本当?嘘じゃ無い?絶対?」

と叔父に縋りつき確約させる。

叔父は予想以上の食いつきっぷりに

「我が甥ながらなさけない」

と言う顔でドン引きしていたが、そんな事どうでも良い。

俺の大人への階段は今、約束されたのだ!

約束されし脱童貞!

言うなれば僕はもう名誉非童貞だ!

 

それからもう一度叔父とぐるり一周店を見て回ることにした。

僕は大興奮していた。

叔父からは今日は見るだけと再度念を押されていたが、それでも今まで女の子と話す事すら出来なかった、もはや自分には一生涯縁が無いのでは無いかと思い始めてすらいたその行為を、今は美しい女性たちを前にどの子にしようかなと選ぶ立場になっているだ。その奇跡のような事実に僕は有頂天になっていた。

しかし、ふと教室で老川に自分が言った

「所詮、素人童貞だろ」

と言う言葉がブーメランとなって突き刺さる。

一応仲居さんとの自由恋愛って体裁なら素人童貞ではないのでは無いだろうか?とか都合のいいことも一瞬考えたが、そんな事が詭弁であるのは自分でも分かっている。

「祝!脱童貞!」

のバラ色の未来が一気に色褪せて見えた。

 

そんな事を考えていると、前から30代前半くらいの中年男性のグループとすれ違う。

「今日もみさおちゃんにいくんか?」

「当たり前や。俺はみさおちゃん一筋や」

「そんだけ通っとったら、結構仲良くなったんちゃうか?」

「おう。実はな、LINE交換してん。今、飯食いに行こうって誘っとる最中や」

と興奮気味に話す男。

その会話を聞いて僕の体に衝撃が走った。

通い詰めて仲良くなる?

そんな事が出来るのか?

LINEだと!俺、女の子とのLINEなんて無いぞ!

LINEやりとりして、一緒に飯食って

…ってもう恋人じゃないか!

 

飛田に通い詰め、

仲良くなって、

LINEやりとりして、

ご飯を一緒に食べて、

店外デート。

そうすりゃ、それは客と風俗嬢じゃない!

一人の男と女だ!

その時点で店での行為は商取引の産物ではなくなる!

情の通じ合った者同士の行為。

すなわち素人童貞ではなくなると言うことだ!

 

悶々とした日々から僕を救い出す、

まさに天啓を得た瞬間だった。

 

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