キヴォトスおじさん   作:小説好きー

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カイザーがいろんな意味でひどい目に合います
それに巻き込まれた形でホシノとアルが可愛そうなことになります。


カイザー理事叫ぶ

ねぇ!? 先生!なんでなの!? なんでユメ先輩が先生を襲ってるの!?

おおおおお、落ち着くんだ小鳥遊さん!

「ホシノ先輩落ち着いて!」

 

 取り乱したホシノが陽介に掴みかかる。

 陽介とノノミがホシノを落ち着かせるべく声を上げるが今のホシノに声は届かない。

 

「くっ、奥空さん。秩序の精霊にお願いして小鳥遊さんを落ち着かせるんだ!」

「わ、わかりました先生。お願いします秩序の精霊さん。ホシノ先輩を落ち着かせてください!

「あっ…」

 

 陽介の指示に従いアヤネは|秩序(コスモ)魔法を行使する。

 するとさっきまでの取り乱しが嘘のようにホシノが落ち着く。

 

「ホ、ホシノ先輩。大丈夫?」

「ホシノ先輩…」

「…ごめんね皆。ごめんね先生…」

 

 物静かになったホシノにシロコとセリカが壊れ物に触れるようにホシノに触れる。

 落ち着いたホシノは体を震えさせながら全員に取り乱したことへの謝罪をする。

 

「それで、さっき言ってたユメ先輩って?」

「あの人は…あの人は梔子ユメ。アビドスで生徒会長をしてた人なんだ…」

「せ、生徒会長!?」

 

 ホシノが落ち着いたことを確認できた陽介はホシノが取り乱した理由を聞く。

 ホシノの答えにアヤネが思わず叫ぶ。

 

「前生徒会長が先生を襲うなんて…」

「生徒会長は…ユメ先輩は、色々と問題を起こしてばっかりの人で…簡単に言うと、すく騙されちゃうタイプだったんだ。それで、いつもトラブルに巻き込まれてたんだ」

「そ、そうなんだ…よく卒業できたわね、その先輩」

「卒業、できなかったよ。ユメ先輩は…ユメ先輩は、卒業前に死んだから」

 

 ホシノの言葉にセリカ達は絶句する。

 

「えっ…!?」

「死んだ…?」

「死んだって!?どういうこと!?」

「突然行方不明になって・・・・・それから33日後に、アビドス砂漠で発見された。ヘイローが破壊されていてさらにはお腹には大きな傷があって…」

 

「それは?」

「なにがあったの!?」

「わからない。砂漠で遭難して…見つかった時には…死んでいたんだ」

「どうして?ヴァルキューレとかは動かなかったの?」

「もちろんヴァルキューレに通報したし捜査してもらったんだ。私もあの頃はユメ先輩は殺されたんだって思って犯人を血眼になって探したんだ。だけど見つかった凶器はキヴォトスではありえない材質でできていてそれ以外は分からなかったんだ。そもそも何で砂漠に行ったのか…何を考えていたのか…どうやって遭難したのか…犯人も見つからず結局捜査は砂嵐によって飛んできたものによる事故だって結論になったんだ」

「そんな…」

「もしユメ先輩の真相を知るとしたらユメ先輩が所持していた手帳だけかもしれないんだ。」

「手帳?」

「ユメ先輩は何かがあると、絶対手帳に記録しててさ…」

 

 そうして場がどんよりしていると

 

「ん、あぁ…」

「あれ?なんで、私…」

「ナツミちゃん、ミオちゃん! 良かった」

 

 陽介達から少し離れた場所でハイランダーの生徒たちが目を覚ました。

 

「ホシノ先輩…」

「小鳥遊さん…」

 

 ハイランダーの生徒に見たホシノの目が鋭く細まる。

 ユメに繋がることを知っているかもしれないと考えると気が気じゃないのだろう。

 

「君達、ちょっといいかな」

「「「ひぇっ!?」

 

 陽介は少女たちを怖がらせないように笑顔で少女たちの元へと歩むがその笑顔の圧が強すぎるあまりに少女たちは怯える。

 

「実はさっきの眼帯の子について聞きたいんだ」

「ス、スオウ監督官のことですか?」

「そう、そのスオウさんのことで聞きたいんだ。カイザーが乗ってたことと緑で長髪のことでなにか知らないかい?」

「カイザーについては特になにも。天井を壊してきた人も知りません。ナツミちゃんはミオちゃんは?」

「それがその、監督官がカイザーを連れてきたのは覚えているんですけどそれ以降の記憶がないんです…」

「私も…」

やはり操られていたからその辺は曖昧か…ありがとう。ところで電車は大丈夫なのかい?学園まで送ってあげようか?」

「あ、いえ。天井は破壊されていますが学園までは動きます」

「そうなの? じゃあ学園に連絡だけでも…」

「いえ!いえ!それもこちらでやりますのでそれじゃ、失礼します!!」

 

 

 

 

 ハイランダーの生徒達を見送った陽介たちはカイザーに襲撃の経緯など諸々のことを含めたこと問い詰めるべくアビドス砂漠へと向かっていた。

 

『もう少ししたらこのアビドスにおける、砂漠化が進む前から元々砂漠だった場所。アビドス砂漠です。ホシノ先輩ここからは空への攻撃を避けるために変身を解除してください』

 

 ホシノは通信機からのしたアヤネの声に従い陽介たちを降ろし元の姿に変化する。

 

「ここは普段から壊れたドローンや警備ロボット、オートマタなどが徘徊してるので、危険な場所なのですが……今は強行突破するしかありません。皆さん、今一度火器の動作チェックをお願いします。アビドス砂漠で、カイザーコーポレーションが一体何を企んでいるのか、そして前生徒会長である梔子ユメ先輩になにをしたのか──実際に行って、確かめることにしましょう」

 

 そうして少し歩き出すとアヤネの言う通り無数のドローンや警備ロボット、オートマタが徘徊しているのを陽介たちは発見する。

 

「ここは俺がやろう。炎凰殲(バライブート フォルグ)…」

「ん。待って先生」

 

 陽介はさっそくとばかりに殲滅魔法でオートマタ達を破壊しようとするがシロコに止められる。

 

「突然どうしたんだ。シロコさん?」

「ここからなにが起きるかわからないから先生は魔法を温存して欲しい」

「そうね。あの程度なら先生どころか私たちが魔法を使う必要はないわ」

「先生はそこで見ていてくださいね~」

「それじゃあ。殲滅しようか」

 

 ホシノの言葉を皮切りにホシノ達が一斉に飛び出す。

 襲ってくるオートマタを撃っては破壊、撃っては破壊とセリカの言う通り魔法はいらなかった。

 

「ねぇ、アヤネちゃん。よく考えると、カイザーがアビドス砂漠でなにかをしてるって情報をくれたのってゲヘナの風紀委員長でしょ。それってなんかおかしくない? いくら風紀委員長とはいえ、どうして他の学園の生徒が、うちの自治区のことをそこまで知ってるわけ?」

『うーん、あくまで推測に過ぎないけど……ゲヘナの風紀委員会はかなり情報収集能力に秀でてるって聞いたことが……だから、アビドスみたいな小規模な学校では考えられないような情報網を持ってる、とか……?』

「まずったな、そういうのとか聞けばよかった」

 

 オートマタ達が絶え間なくホシノ達を襲うが当のホシノ達は余裕なのか雑談の片手間で殲滅する。

 そうして襲ってくるものをことごとく破壊していくとアヤネが何かを見つけたのか叫ぶ。

 

『……っ?皆さん、前方に何かあります!……巨大な町、工場・・・・或いは駐屯地?と、とにかく物凄く大きな施設のようなものがあります!』

「こんなところに施設?何かの見間違いじゃなくて?こっちからは特に何も見えないけど……」

『見間違いでは無いと思うのですが……取り敢えず肉眼で確認できるところまで進んでみて下さい!』

『…………』

『何、これ……』

 

 通信機越しに聞こえるアヤネの微かな絶句と、目の前に広がる光景に圧倒されたセリカの呟きが重なる。広大な砂漠の只中、荒涼とした大地に似つかわしくない巨大な施設が暴力的な質量をもって鎮座していた。どうやって資材を運び込み、これほどのものを建設したのか。その威容は異様としか言いようがない。

 

『この張り巡らされてる有刺鉄線、優に数キロ先までありそう……』

『工場……?石油ボーリング施設、ではなさそうな……一体何なのでしょう、この建物は……?』

『こんなの、昔は無かった……』

 

 ホシノの言葉が正しければ、少なくともこの二年の間に極秘裏に建設されたものなのだろう。砂嵐の絶えない環境にありながら、外壁に付着した汚れや傷は比較的少ないことが、その真新しさを証明していた。

 

「あれは……」

「これって……」

 

 砂埃が舞う中、陽介が指差した先には、施設の壁に刻まれたロゴがあった。予想通りではあるが、カイザー系列のものだ。ただし、よく街で見かける金融や建設管理部門のものではなく、かつて便利屋68やヘルメット団を雇っていた武力部門のロゴだった。

 

「……カイザーPMC」

「ヘルメット団とかをけしかける前から、ここに基地を建ててたとはな」

 

 陽介は低い声で唸った。なぜ、こんな辺鄙な場所に基地を建設する必要があったのか。単なる野良機械(オートマタ)への対策にしては、施設の規模が過剰すぎる。何かを探そうとしているのは間違いなさそうだが、それほどまでに危険、あるいは重要な何かなのか。思考を巡らせたその瞬間、施設内にけたたましい警報音が鳴り響いた。

 

『みな、さ……忙、……で……』

「通信妨害か!」

「これ、何だか大事になりそうな予感なんだけど……」

「これは……ヘリの音……?」

 

 上空から複数の軍用ヘリが接近してくるローター音に加え、地響きのような重いエンジン音が周囲を取り囲む。装甲車だけではない、この振動は特有の大質量が大地を擦り潰す音だ。

 

「この地面の揺れ……恐らく戦車だ」

『こ、ち……を、包囲し、て……』

 

 対応が数手遅れたようだ。基地から脱出しようとした彼らの行く手には、すでに無数の銃口が待ち構えていた。包囲網は完成している。

 

「侵入者とは聞いていたが……まさかアビドスだったとは」

 

 整列した兵士たちが左右に割れ、道を空ける。その奥から現れたのは、高級スーツを小奇麗に着こなした、図体だけで二メートルはある屈強な機械化歩兵だった。

 

「何よ、こいつ……」

「お前がカイザーPMC理事でいいのか?」

「すでに知られていたか。嶋崎陽介。いや今はシャーレの陽介とお呼びするべきかな?」

 

 アビドス高等学校が抱える莫大な借金、その債権者側の幹部がホシノ達の前に姿を現す。

 

「なぜ、俺を襲撃した」

「襲撃?ああ、以前貴様に私の部下の記憶回路をやられたことへの追及をしたかっただけだ。襲撃に関してはこちらは関与していない。大方現場の独断だろう」

「ならば確認するぞ」

「好きにしろ」

 

 カイザー理事の軽口に付き合うことなく、陽介は一切の躊躇いを捨てて前へ踏み込んだ。そして身長差をものともせず、驚愕で硬直する機械の頭部を鷲掴みにする。

 

「おい、貴様なにを」

 

 不敬な接触に焦る理事の制止を完全に無視し、陽介は魔力を練り上げた。極度の緊張感が走る砂漠の空気に、不可視のエネルギーが収束していく。

 

記憶走査(イキュラススラドラーチ)

 

 陽介の魔法が、チタンの頭蓋を透過して直接電子頭脳へとアクセスする。それは比喩ではなく、文字通りの物理法則を無視した侵入だった。膨大なデータログの海を瞬時に泳ぎ、陽介は該当の記憶領域を読み取る。どうやら理事の言葉に虚偽はないようだ。襲撃は現場の暴走であり、組織的な命令ではなかったと確認した陽介は、あっさりとその頭から手を放した。

 

「私になにをした」

「魔法だよ」

「魔法だと、まさかあの噂は本当だというのか?……次から事前に言ってくれ」

 

 機械の身でありながら、理事の光学レンズが小刻みに震えている。未知の力に対する純粋な戦慄。それと同時に飛び出したひどく人間臭い泣き言に、張り詰めていた場に一瞬だけ奇妙な弛緩が生まれた。

 

「カイザーコーポレーションの……」

「正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、そしてカイザーコンストラクションの理事だ。今は、カイザーPMCの代表取締役も務めている」

 

 強引に威厳を取り戻すように、理事は己の肩書を並べ立てた。要するに、これまでの騒動における全ての元凶である。

 

「んで、だ。俺たちはこのアビドス自治区に申請されていない建物があると聞いてな、それの調査に来た。こいつはシャーレからの依頼でアビドス高等学校のメンバーを動かしたんだが……」

「ほう、つまりは、これらの行為は違法ではないと」

「そうだ。勝手に私有地に入ったことに関しては申し訳なく思うが、この施設はなんだ?」

 

 シャーレの権限。それはキヴォトスにおけるありとあらゆる規約や法律、罰則を免れる超法規的な力だ。悪党のような自分が持っていてもいいのかと、陽介は自嘲気味に連邦生徒会長の顔を思い浮かべながら、そのジョーカーを切った。

 

「ふっ……なるほどな。シャーレの権力で、私たちのことを調べようとした。そんなところか」

 

 目の前の理事は不愉快そうに鼻を鳴らし、全てを見透かしたように言い放つ。この調査がシャーレ主導であり、アビドスの生徒たちがそれに加担している図式を理解したらしい。

 

「無駄で、浅ましい努力だな」

 

 嘲笑を隠そうともしない理事の態度が、生徒たちの琴線に触れた。シロコが怒りを露わにし、鋭い声を上げる。

 

「……要はあなたがアビドス高校を騙して土地を奪って、搾取した張本人ってことで良い?」

「……ほう」

「そうよ!ヘルメット団と便利屋を仕向けて、ここまで私たちをずっと苦しませてきた犯人があんたってことなんでしょ!?あんたのせいで私たちは……アビドスは──!」

「シロコ、セリカ。そこまでにしろ。俺たちは今シャーレの一員だ。なにより、土地の売買をふくめて合法な取引として、記録してあった」

「どうやら、陽介は随分と協力的なようだ」

「事実を言ってるだけだ。それよりも気になるのはテメェがここで何をしてるのかってことだな」

 

 アビドスの私情を挟めば、カイザーはそこを起点に正当性を主張し、責め立ててくるだろう。生徒たちには悪いが、今は耐えてもらうしかない。少しでも相手の情報を引き出す必要があった。

 

「まぁいいだろう。教えてやろう、私たちはアビドスのどこかに埋められているという、宝物を探している」

 

 ロボットの理事は、そう断言した。宝物。何十年もの間、企業の総力を挙げてまで見つけようとしているナニカ。

 

「宝探し……」

「ばかなこと言わないでよ!そんなでまかせ信じるわけないでしょ!」

「それはそう。もしそうだとすると、このPMCの兵力について説明がつかない。この兵力は、私たちの自治区を武力で占拠するため。違う?」

 

 シロコの推察は鋭いが、いささか私情と被害者意識が混ざりすぎている。陽介は冷静に戦力を分析していた。理事の言葉が嘘だとは思えない。あるいは、それと同等の価値を持つ兵器なのかもしれない。

 

「シロコ、それは違うな。お前ら五人がいくら強くてもこれは過剰戦力にもほどがある。そんなやり方ができるのなら既にアビドスは滅んでる」

 

 何よりも、便利屋やヘルメット団といった外部戦力を雇っていた理由と繋がらない。つまり、この大軍勢はアビドス高校を制圧するためではなく、別の何かを倒す、あるいは対抗するための戦力だ。一体、何のために。

 

「流石は陽介と呼ばれるだけはあるようだな。頭が良く回る。その通り、数百両の戦車。数百名の選ばれし兵士。数百トンの火薬に弾薬。たかが五人しかいない学校のためにこれほどの用意をするわけがない。……冗談じゃない」

 

 呆れ果てたように、理事は大きくため息をつきながら首を振った。

 

「あくまでもこれは、どこかの集団に宝探しを妨害された時の為のもの。ただそれだけだ、君たちのために用意したものではない」

 

 どこかの集団。宝探し。断片的だが多分重要な情報だ。しかし、陽介がそれを深く考察するよりも早く、理事が次の行動を起こした。

 

「君たち程度、いつでも、どうとでもできるのだよ……そう例えば、こういう風にな」

 

 そう言って理事は携帯端末を取り出し、どこかへ連絡を入れた。

 

「……非常に残念なお知らせだが、どうやら君たちの学校の信用が落ちてしまったそうだよ」

 

 その直後、妨害が解けたのかアヤネの通信が回復する。アビドス対策委員会室にかかってきた電話の音声を、アヤネがスピーカーで共有した。

 

『こちらカイザーローンです。現時点を以ちまして、アビドスの信用評価を最低ランクに下げさせていただきます』

『なっ……!?』

『変動金利を3000%上昇させる形で調整。それらを諸々適用した上で、来月以降の利子の金額は9130万円でございます。それでは引き続き、期限までにお支払いをお願いいたします』

『はい!?ちょ、ちょっとそんな急にどうして……!?』

 

 通信越しにアヤネの狼狽した声が響く。しくじった、と陽介は歯噛みした。これはこちらの失策だ。手遅れに近い一手を打たれてしまった。

 

「まて。この調査はシャーレの依頼だ。アビドスにだけこの仕打ちなのはいささか違うんじゃねぇか?」

 

 陽介は口を挟むが、これに法的な意味がないことは理解していた。

 

「口を出さないでもらおうか、シャーレ。貴様がどれだけ言おうと、この借金は過去に一切不正なく行われた取引だ。そして彼女らは、アビドスの責任者として信用を下げた。それだけの話だ」

 

 ぐうの音も出ない正論だった。信用や信頼というものは、シャーレの超法規的な権限をもってしても、強制的に取り返せるものではない。理屈では語れない領域の暴力だ。

 

「確かに、今回の調査はシャーレの権限内のものだろう。これは自治区に申請を出していなかった我々の責任だ。そこに関してのみ悪かったと、頭を下げよう。だが借金については、シャーレは無関係だ。これはアビドスと我々カイザーローンとの間で取り交わされた正規の契約だ」

 

 部外者は黙っていろ、と釘を刺される。理事は陽介に対し、くだらないとでも言いたげな見下した態度を取る。カイザーにとって、外部の人間である陽介がそこまでしてアビドスの借金問題に関わろうとすることは、不可解で滑稽に映るのだろう。

 

「わかるかね、シャーレの嶋崎先生。アビドスがシャーレに依頼した……それは良い。好きにすると良い。ただし、彼女たちが妙な動きを見せたのであれば……企業としては、アビドスは正規に借金を返す気がないと捉えても仕方がないとは思わないか?」

「そんな不当な理由、通用するわけないでしょ!」

「不当だと?そもそも、三百年のローンに正当性があると思っているのか、君たちは。むしろ我々が今まで三百九年ものローンを許容していた時点で、温情があったのだとは思わないか?それに、不当だと言うのなら、別の銀行に借り替えすればいいだろう。もっとも、廃校寸前の学校に九億も貸す物好きな銀行があればの話だがな」

「…………っ!」

 

 セリカが言葉を詰まらせる。反論の余地を完全に封じ込められていた。

 

「シャーレ。今回の仕事は、お互いの行き違いがあった事故ということで、不問にしようではないか。当然、賠償も必要ない。謝罪さえ必要ない。いや、むしろ我々が謝罪しなくてはな。後日、詫びに向かわせよう」

 

 ただし、と理事は冷徹に付け加える。

 

「弁えることだ、シャーレ。貴様の組織は確かにあらゆる規則や法律による規制や罰則から免れる超法規的機関であり、自治区を自由に動く権利がある。しかし?たったそれだけだ。今までは随分とネズミのように好き勝手動いたようだが、今回の件は、貴様には何も関係ない。……何も関わることができないのだよ。貴様が借金を返せるわけでもなければ、土地を返せるわけでもないのだからな」

 

 まるで駄々をこねる子供に言い聞かせるように、理事は淡々と語った。

 

「アビドスの責任は、貴様のようなコソ泥が背負えるものではないのだよ。それら全て、私の一存で決まるのだから」

 

 我々に借金をするというのはそういうことだ、という絶対的な支配者の論理。

 

「…………」

「……みんな、帰ろう。……これ以上ここで言い争っても意味が無い、弄ばれるだけ」

 

 ホシノが、深く重い溜息を吐いてから言った。その瞳は、諦観に似た色で酷く疲れていた。

 

「ほう……副生徒会長、さすがに君は賢そうだな。……ああ、思い出したよ。賢そうな君と一緒にいた、あの全くもってバカな生徒会長のこともな」

「…………」

 

 理事の言葉に、ホシノの足が止まり、極限まで張り詰めた緊迫感が爆発しようとした、まさにその時だった。

 

カチャリ

 

 ひどく場違いで、しかし異様に鮮明な金属音が砂漠の風に響いた。

 全員の視線が、音の発生源である盤面の中心へと吸い込まれる。そこには、いつの間にかカイザー理事の懐へと入り込み、あろうことかその無骨な機械の左手を取り、薬指にそっと指輪をはめている陽介の姿があった。

 

「これはとても貴重な指輪だ。どうか受け取ってくれ、俺からの気持ちだ」

「「「「「ええええええええっ!?」」」」」

「貴様、なんのつもりだ!?私にそんな趣味は」

 

 突然の凶行にして奇行に、アビドスの生徒たちが悲鳴にも似た絶叫を上げる。冷徹な支配者として君臨していたカイザー理事も、想定外すぎる事態に電子頭脳がバグを起こしたのか、裏返った合成音声で叫んだ。

 

「確かに君の言う通り、アビドスの借金は正攻法じゃどうしようもない。だけど、そんな膨大な借金を貴重な学生という時間に費やすのは間違ってる。見ろ、この指輪はミレニアムの保証が付いている。最低でも小鳥遊さんたちの借金の三分の一を返すことができるほどの代物だ。だから受け取ってくれ、俺の気持ちだ」

「いいから離せ!」

 

 真剣な眼差しで語りかける陽介のロジックは、一見すると筋が通っているように思える。しかし、理事にとってはその負債返済の提案よりも、男の指によって自身の薬指へ強引に指輪がねじ込まれているという視覚的バグの方が耐え難かった。

 力任せに腕を振り払おうとするが、陽介の腕力は見た目に反して外れない。

 

「頼む」

「分かった!分かったからこれをアビドスの借金に充てる!だからさっさと手を放せ!」

「ありがとう」

 

 懇願という名の物理的な拘束に耐えきれず、ついに理事が折れた。言質を取った陽介は、満面の笑みを浮かべてお礼を言い、ようやくその手を放す。

 背後では、ホシノたちが数割の呆れと、カイザー理事に無言の圧を放っていた。場を完全に支配した陽介は、そのままホシノ達を集めると、発動させた飛行魔法の光に包まれて空高くへと飛び去り、学園へと帰還していくのだった。

 

 残されたのは、砂塵と数百の武装兵、そして左手を抱えたまま呆然と立ち尽くすカイザー理事だけである。

 

「理事……どうしますか?」

 

 恐る恐る近付いてきたカイザー兵の一人が尋ねる。あの男にコケにされたことに対する報復の指示を仰いだのだろう。

 

「ほっとけ!あんなやつにもう関わりたくない!」

 

 苛立ちに任せて叫びながら、理事は忌まわしい指輪を引き抜こうと右手を伸ばした。しかし、陽介が魔力か何かで物理的な力を込めてはめたせいか、チタンの関節にガッチリと噛み合ってしまい、ピクリとも動かない。

 力任せに引きちぎれば、アビドスの借金三分の一に相当する超高額な資産を破壊してしまうことになる。企業人として、それだけは絶対に避けねばならなかった。

 

「外れない!?」

 

 焦燥に駆られる理事が砂漠の中心で情けなく叫んだ、その時だった。

 

「おめでとうございます」

 

 一人の兵士が、感動したような面持ちで拍手を送った。それを皮切りに、次々と他の兵士たちも銃を置き、周囲から温かい拍手が巻き起こる。

 

「おめでとうございます」

「おめでとう」

「Congratulations」

「さすが理事、LGBTの領域に行くのですね」

「うるさいぞ貴様ら!それとさっきのは誰だ、スクラップにするぞ!」

 

 祝福の輪の中心で、理事は絶望的な怒号を上げた。最終的に、どうしても指輪が外れなかった彼は、自らの薬指のパーツを切断するという屈辱的な物理的処置を施す羽目になったのだった。

 

 後日、カイザーコーポレーションの査定部門が確認を取った結果、指輪の価値はミレニアムサイエンススクールの正式な保証書付きであり、途方もない本物であることが証明された。

 しかし、悪徳企業である彼らが素直に借金を減額するはずもない。少しでもアビドスへの還元を安く済ませるため、カイザーは指輪を裏社会の違法オークションに出品。影響下の人物に、ミレニアムの鑑定額よりも遥かに安い底値で競り落とさせるという、自作自演のスキームを組んだのだ。

 だが、その目論見は脆くも崩れ去る。陽介から指輪の件を聞かされていたミレニアム側が、その価値と由来を含めた情報をキヴォトス全土のネットワークに意図的に拡散したのだ。

 超常的な力を持つシャーレの先生が自ら用意した、曰く付きのアーティファクト。その一報は、単なる宝飾品としての価値を超え、先生との強力なコネクションを構築するための政治的アイテムとしての価値を生み出した。

 結果として、数多の勢力がオークションに介入。カイザーの裏工作はたちまち摘発され、違法オークションは強制的に解体。各校の財力がぶつかり合う正規のオークションへと移行した。

 激しいマネーゲームの果てに、最終的な落札価格は8億8754万円にまで高騰。カイザーローンは逃げ道を塞がれ、アビドスの借金を規定通り大幅に減額せざるを得なくなったのである。

 

 なお、この苛烈な競り合いを制し、陽介の指輪を落札したのはトリニティ総合学園であった。

 今後、その指輪はティーパーティーの厳重な管理下に置かれることになるのだが……事の重大さと、自らの指輪がトリニティのトップたちに後にどのような感情で保管されているのかを陽介が知るのは、もう少し先の話である。




久しぶりの更新です。執筆したかった箇所の一つではあるのですが後々の独自展開などの関係で中々執筆ができませんでした。
この後も更新もどうなるかは不明ですが更新するつもりだけはあります
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