男装銭ゲバちゃんが行く! 金髪御曹司に狙われて困ってます   作:匿名(本物)

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一万円目『世の中、金なんですよ』

 

 私、弾奏(ひびきかなで)は女子高生である。

 

 しかし男子の制服を着て、男として高校に通っていた。

 

 体育の時は教室の片隅で着替え、トイレは男子の個室を使い、その秘密を守った。

 

 私がそんな面倒くさい真似をする理由はただひとつ。

 

 ……巨額の給料が、貰えるからだ。

 

 

 私は同級生に、金晴(きんばる)爽一(そういち)という男がいる。

 

 金晴グループはかなりの大企業で、世界長者番付ランキングに顔を出すレベルのお金持ちだ。

 

 そして私はその金晴(きんばる)家に雇われた、サクラ(・・・)だった。

 

「……くっそ! また(ひびき)が学年1位かよ!!」

 

 私は金晴家の依頼で、どんな仕事をしているのかといえば。

 

「あんなに頑張ったのに、どうして、何で!」

「君の努力が足りなかったからじゃないですか?」

 

 金晴爽一より良い点数を取り、煽ることである。

 

「おや。第4問の公式……、使うべき公式を間違えていますね。どうしてそんなおバカな間違いを?」

「ぐ、ぎ、ぎ」

「ああ、こんなうっかりさんが跡継ぎとは。金晴家とやらも、たいしたことはない」

 

 ……金晴爽一は、控えめにいって万能超人だった。

 

 小学校の頃から学業も、スポーツも、学校で一番の天才だった。

 

「こ、この野郎。家を馬鹿にしやがったな! 俺の家を敵に回したらどうなるか……」

「恥ずかしい人ですね、成績で負けたら実家の権力を振りかざすのですか。悔しかったら、成績で見返してはどうです」

「うぎぎぎぎ!」

 

 実家は金持ちで、勉学もスポーツもトップ、女にもモテるとなれば性格は歪む。

 

 中学生時代の彼は、生意気過ぎて手がつけられなかったらしい。

 

 どれくらいの生意気だったかといえば、

 

『この世をば 我がぞと思う 望月の~(この世界って、マジで何もかも俺のモノだわ)』

 

 と歌った藤原道長の句に、「それな!」と相槌を打ったという。

 

「覚えてろ(ひびき)! 次の期末で、見返してやる!」

「あ、そう。無駄な努力、頑張ってください」

 

 

 金晴家のご両親は、そんな息子を見て心配になった。

 

 優秀なのは良いことだが、挫折を知らないのは危険だ。

 

 しかし金晴爽一は優秀だったため、何をやっても一位をとれてしまった。

 

 このまま大人になれば、大きな過ちを犯すだろう。

 

 

 そう考えた金晴家は、全国模試で一位だった私をスカウトした。

 

 学費もお給金も出すので、ウチの息子と同級生になり鼻っ柱をへし折ってくれと。

 

 

 その話を聞いて、私は二つ返事で了承した。

 

 私の家は裕福と言えず、いくつか夢を諦めないといけなかった。

 

 ……私なら海外の大学に行けると言われたが、それにはたくさんお金が必要で。

 

 私は海外進学を諦め、国内に進学するつもりでいた。

 

 

 そんな折に、金晴家からスカウトされたのだ。

 

 高校の三年間、ボンボンを相手にマウントを取り続けるだけで海外進学が叶う。

 

 国際的大企業の跡取りに、コネクションを作ることも出来る。

 

 むしろ、受けない理由を探す方が難しかった。

 

 

 そんな訳で、ボンボンと同じ高校に入学した私は。

 

 依頼主(クライアント)の指示で弾奏(ひびきかなで)という名のまま、男として高校に通うことになった。

 

 

 私が男装させられた理由は『同年代の男に負ける経験をさせてほしい』という理由らしい。

 

 男に負ける方が、奮起しやすいのだそうだ。

 

 ただぶっちゃけ、これは建前だと思っている。おそらく本当の理由は……。

 

『弾奏クン、若様に変な感情を持たないようにね。万が一があったら困るので』

『はあ』

 

 大企業の御曹司に、虫がまとわりつかないようにという牽制だと思う。

 

 金晴爽一を狙う女子は多い。

 

 さわやかイケメン、大企業の御曹司、文武両道ともなればいくらでも女は寄ってくる。

 

 なので私も『悪い虫』になると思われたのだろう。

 

『私は金晴家に恩を感じています。若様にそのような失礼な真似はいたしません』

『さて、どうだか』

 

 いくらなんでも失礼だと思い、つい言い返してしまった私に。

 

 金晴家の執事でもある、メガネの男はこう答えた。

 

『貴方はお金と愛、どちらが大切ですか』

『そんなもん(おか)……、愛です』

『……ああ、汚らしい。欲望が透けている』

 

 その執事の言葉に、私はムッとした。

 

 私はお金がないことで、嫌な思いをたくさんしてきた。

 

 愛もきっと大事なんだろうけど、お金の方が重要だろう。

 

『金銭欲が先に立つ下賤な女は、若様にふさわしくありません』

『……!』

『貴女はただ、若様の踏み越えるべき壁として学生生活を全うしなさい』

 

 私がお金と答えかけたのを見て、執事は見下し、

 

『若様には、ふさわしい相手をご用意する予定です』

 

 きっぱりとそう言い切った。

 

 

 

 その言い草には腹が立った。

 

 金銭欲が先に立つ? ちがうだろう。

 

 お前たちが、お金の価値を知らないだけだろう。

 

『分かりました。そちらの指示に従います』

『ええ、ご理解いただきありがとうございます』

『契約通りのお給金さえ、頂けるなら』

『そこは抜かりなく』

 

 しかし、私は執事に頭を下げた。

 

 そして文句ひとつ言わず、笑顔で了承した。

 

『私は、金晴家の方針に従います』

 

 私が高校生活を売り払う代わりに、莫大な報酬を得る。

 

 高校を卒業するころには、税金を引いても数千万円は残る計算である。

 

 ただの学生が得ていい給料ではない。

 

 プライドを売り、媚びへつらってでも、この契約は失いたくない。

 

 どんなに取り繕ったって、きれいごとを全て除いた先にある結論はたった一つ。

 

 世の中は、金で回るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『奏君。今回の試験でも、息子を負かせてくれたそうだな』

「はい、旦那様。お言いつけの通り、煽らせていただきました」

『よくやってくれたぞ。爽一のやつ、今も部屋に籠って勉強をしておるわ』

 

 期末テストの日の夜。

 

 雇い主である金晴家の旦那様から、電話での連絡があった。

 

『君は実に素晴らしい、見どころのある人材だ』

「光栄です、旦那様」

『君さえ良ければ、大学卒業後は我が社を受けに来なさい。それなりの待遇を用意しておこう』

「もったいないお言葉、感謝の極みです」

 

 金晴家の旦那様は、機嫌よさそうにそう言って笑った。

 

 自惚れでなければ私は、旦那様には気に入ってもらえているように思う。

 

 あの執事には、軽蔑されているような気もするが。

 

『金さえ払えば、従順に働く人間。それは社会において最も信頼されうる人間だ』

「はい、旦那様」

『君の在り方が大人になっても変わらぬことを、祈っているよ』

 

 金晴グループへの就職は、大きな選択肢の一つ足りうる。

 

 国際的な大企業であるのに加え、取締役(トップ)に名前を覚えてもらっているのは有利だ。

 

「ありがとうございます」

『精進したまえ』

 

 私は間違ってなどいない。

 

 私は金晴家から給料をもらって良い大学に行き、自分の将来を輝かしいものにする。

 

 金晴爽一に手を出すなと言われようが構わない。

 

 せっかく掴んだこの幸運を、余計な色恋沙汰でふいにするのもくだらない。

 

 だから私は今日も男子高校生として、金晴爽一の前に立ちふさがる壁であり続ける。

 

 

 

 

「ふぅ、朝ですか」

 

 私の一日は、まだ空が暗い時間から始まる。

 

 家族が寝静まる中、私は一人で支度を整えて家を出る。

 

「先生、おはようございます」

「おはよう弾くん」

 

 朝いちばん、校門が開く午前七時に学校に着く。

 

 朝番の先生に挨拶し、図書室に向かう。

 

「何か困っていることはないかね」

「……何も」

「ならいいんだ」

 

 私が男装していることは、教師に知られている。

 

 『そう言う表現をしたいから』という理由で、学校から許可を得ているのだ。

 

 ちなみに学校には金晴家がたくさん寄付していおり、大抵の無茶は通るらしい。

 

 金晴家の権力ってすごい。

 

「色々大変だろうし、力になれることがあったら言ってね」

「ありがとうございます」

 

 幸いにも、私はハスキーな声であり。

 

 頑張って声を作れば、男のように話すことが出来た。

 

 胸は小ぶりで、布を巻けば十分に誤魔化せた。

 

「では失礼します」

 

 そうやって、男子制服に身を包んだ私は。

 

 朝一番、誰もいない教室で、静かに教科書を開いて勉強を始めるのだ。

 

 

 

 私は塾に通うより、自学自習を大事にするほうが成績が伸びると思っている。

 

 朝から教科書を開き、授業の前に頭にたたき込んでおく。

 

 授業を聞いた後は、放課後にノートにまとめ直して整理する。

 

 これを繰り返せば、高校レベルの学問なんて満点を取れて当然だ。

 

 進学校というものは、勉強することにかけて過不足ない施設だ。

 

 分からないことが有れば、職員室に出向いて教師に聞けばいい。

 

 問題演習がしたければ、図書館で赤本を借りることも出来る。

 

 モチベーションを高く持っていれば、塾などお金の無駄なのだ。

 

 

 そして学力は、努力に比例する。

 

 勉強すれば勉強するだけ、その知識は血肉になる。

 

 金晴爽一は、文武両道をモットーにしていた。

 

 朝も放課後も、週の半分は部活に行っているらしい。

 

 つまり、ヤツの勉強時間はどんなに長くても私の半分以下。

 

 どう頑張っても、金晴爽一では私に敵わないのだ。

 

 だって私は朝、昼、晩の全てを勉学に費やしている。

 

 友人と遊びに行ったりもせず、黙々と学びに人生を費やすのみ。

 

 だから勉学というジャンルで、金晴爽一(ボンボン)が私に敵う筈がないのである。

 

 

 

 

 

 

 

「がははは! ホームランじゃあ!!」

 

 そんな金晴爽一には、部活動においても強敵がいた。

 

「打撃勝負はワシの勝ち!! 四番はワシで決定かいのう」

「ぐ、くそ、くそ!」

「こんなヒョろいのには負けんわい!」

 

 明らかに都会出身ではなさそうな喋りの、筋骨隆々の男子が笑う。

 

 ウチは進学校だというのに、全国最強クラスの選手が野球部に入部してきたそうだ。

 

 彼と爽一のお陰で、ウチの野球部は一気に全国区の強さになったのだという。

 

 これは多分、というか十中八九、金晴家の仕込みだろう。

 

「爽一よ! 貴様もスジは悪くない。だが……筋肉が足りん!」

「筋肉だと!?」

「スポーツとは筋肉だ。筋肉の躍動こそ、強者の証ィ!」

 

 聞いたところ、彼は全国中学野球大会で優勝したチームの四番打者だったという。

 

 そんなもん連れてきたら、そりゃあかなわない。

 

「24時間、筋肉のために生きて、筋肉の為に生活しないとワシには追い付けんぞ」

「こんな筋肉馬鹿に負けたくねぇ……」

「でも負けちまったのぅ! がはははは!」

 

 金晴爽一はその四番打者との勝負に敗れたようだ。

 

 かくして鼻っ柱をへし折られ、スポーツでも挫折を味わったのだった。

 

 

(ひびき)は、今日も勉強か」

「ええ」

「そっか。じゃあな」

 

 放課後になると、クラスメイトは帰っていく。

 

 友人たちを見送ったあと、私は図書室に場所を変え、黙々と勉強と続けた。

 

 今の私にとって、学力は金だ。

 

 金晴爽一というボンボンの鼻を折る成績こそ、私の資産なのだ。

 

 成績(しゅうにゅう)を維持するためならば、努力を惜しまない。

 

「……」

 

 金晴家のお金の使い方は、変わっている。

 

 優秀な息子に不自由のない暮らしをさせるのではなく、試練を与えるためにお金を使うとは。

 

 これが私のような市民とは違う、富豪のお金の使い方なのだろう。

 

 だけど、私にとってはどうでもいいことだ。

 

 金晴がお金を支払う限り、いや給料が無くなったとしても、私は私の為に勉学に励む。

 

 そして『私』という人間の価値を、高めていく。

 

 

 人間の価値は、お金に換算される。

 

 一人の人間が生涯で稼ぐ金には、大きな差があるという。

 

 努力をしてこなかった者と、努力を重ねてきた者では、何千倍も差が生まれる。

 

 ならば、私は後者になろう。

 

 努力を重ね、巨額の富を得て、私の価値を示すのだ。

 

 

「ふ、ふふ」

 

 そんな私の唯一の趣味は。

 

 金庫から預金通帳を取り出して、その残高を眺めることである。

 

「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……」

 

 金晴家でのバイトを始めてから、私の預金通帳には凄まじい額が記載されていた。

 

 いくつかの銀行に口座を分け、それぞれ育てるように資金を注いでいく快感。

 

 その気になればいつでも、通帳に書かれた額の現金を引き出せるのだという高揚感。

 

「ぐふふふふ……」

 

 まさに至福のひと時だ。

 

 このために生きていると言っても過言ではない。

 

 この通帳に刻まれた数字こそ、私という人間の価値。

 

 ああ、なんとも甘美なことか。

 

 記載された額面をみてニヤニヤとしたあと、通帳を金庫にしまって、たくさんのお金に囲まれる夢を見て眠る。

 

 それが私、『弾奏(ひびきかなで)』の一日だった。

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