灯里「宮子はさ、ラーメンなら何味が好き?」
宮子「塩…ですかね?さっぱりしてますし。そういう師匠は?」
灯里「迷うんだけどさ、そうだね…牛骨ラーメンかな?」
宮子「牛骨ラーメン…ですか?」
灯里「私の故郷の地球、日本の鳥取県という父の出身地のご当地ラーメンでさ、牛の骨から取った出汁によるスープを使ってるんだよ。あぁ、また食べたいなぁ…」
―side:Akari Raijin―
アビドス自治区滞在2日目。あれからセリカは帰って来ず…アヤネ曰くバイトに行ってそのまま帰宅したとか。少しでも借金返済のあてにすべくセリカはバイト代の大半を学校に寄付しているらしい。
で、私はというと周辺地域のマッピング中。砂嵐で地理が地図データから変わっちゃってるからね。
あっ、そうそう。対策委員会を旧アビドス生徒会から業務を引き継いだ正式な生徒会権限を有する部活動にする為の書類作成は昨日の内に終わらせて既に連邦生徒会に提出済みだよ。リンが
『まさかその様な事になっていたとは…面目もありません…』
と頭を抱えてたけど、後は
所在が判明している旧アビドス生徒会メンバーのホシノに何かあってからじゃ遅い。このキヴォトスじゃ生徒会なき自治区って行政組織なき国も同然…つまり悪い奴らがやりたい放題の無法地帯の出来上がりになっちゃう。
あっ、対策委員会の部長だけど本来なら最年長のホシノが部長になる…とでも思っただろうか?
「私が部長になります!ホシノ先輩は書記です!」
「うぇぇ…そんな…アヤネちゃん…」
これまでの鬱憤が溜まっていたからかアヤネが部長=生徒会長に立候補し彼女の圧にやられたホシノは書記へ降格されられた。因みにシロコと帰ってきたノノミからの反対意見もなかったのでこれで正式にアヤネが実質的な生徒会長…つまりアビドスの長になった訳だ。大人しい娘ほど爆発した時は凄まじいというからね。
はい、昨日の振り返りはこれで終了っとね。
マッピングを続けていると見覚えのある後ろ姿が目に入る。
「おはよう、セリカ」
「せ、先生…」
まぁ気まずいわなぁ…私にギャンギャン吠えてというか溜まってたのを吐き出しちゃった訳だし。わかるよ、このババァにも。私は感情のままに吠えるじゃなくて退部届けを出してって形だったけど。
「朝から何やってんのよ?」
「マッピングをね。持ってきた地図データと一致しないからドローンとか自分の足を使って現在地と過去の地図を照らし合わせつつ現在の地形を記録してるんだよ。私以外の人が来た時に遭難して困らないようにね」
仮に宮子達に救援を呼ばなければならない事態になった時に過去の地図データのままだと彼女達が迷う可能性もある。アデプトテレイターである宮子なら飲まず食わずでも問題ないけどRABBIT小隊の娘達はそうにもいかない。
「そ、そうなんだ…」
「で、セリカはどうしたの?学校とは違う方角だけど」
「今日は自由登校日なのよ!私は用事があって忙しいから!」
セリカはそう答えるとダッシュで退散しちゃった。その姿はまるで嘗てのにこパイセンの如く…えっ、この世界ににこパイセンとよく似た声をした娘がいるって?
あぁ、いたねぇ。ミレニアムに訪問した時、にこパイセンに似た声が聞こえてきたから思わず振り返っちゃったよ。声の主?多分双子ちゃんの片割れかな?私から声はかけなかったけど。
アビドス高校の現校舎周辺のマッピングを終えた私は現校舎に帰還、教室にはセリカ以外集まってた。
「あれ?自由登校って聞いてたけど9割集まってるね」
「ん。自由登校日でも大抵はみんなここに集まる」
「ふむふむ、仲良い事は良い事だよ。このババァ感心しちゃうね」
「ババァって先生一体何歳なのさ」
「そ・れ・は…もうちょっと親密な仲になったら教えてあげるかもしれないし教えてあげないかもしれないしすべては貴女達次第かもしれないよ。
あっ、そうだ。今朝マッピングしてたらセリカと鉢合わせたけど直ぐにどっか行っちゃったんだよね」
「セリカちゃんならいつものとこにいるんじゃないかと」
そう答えるアヤネ。
「せっかくなのでみんなで会いにいきましょうか?」
ノノミの言葉に賛成らしく、私も付き添いで同行する事になった。
皆が案内してくれた先は一軒のラーメン屋…名前は"柴関ラーメン"。
皆曰く他学校の自治区から訪れる客もいる程の高評価のラーメン屋さんなんだけど、砂漠の中のアビドス自治区にあるという立地の悪さから客足はイマイチだとか。
ラーメン屋かぁ…何年いや何十年振りか?故郷でのジーオスアークの軍勢との戦争が始まってからは行ってる場合じゃなくなった末に私以外の人間は…その後も宇宙を転々としてたからね。
そんな柴関ラーメンの店内で見覚えのある人影が一つ。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?空いているお席にご案内いたしますね!」
はい、今朝どっかへ行っちゃってたセリカさんですねはい。
「あの~!5人ですけど~」
「あはは…セリカちゃん…その、お疲れ」
「ん、セリカお疲れ」
「やっ、セリカちゃん。やっぱりここだったねー」
セリカの顔が
「ドーモ、セリカ=サン。今朝方以来の頼尽灯里デス」
「先生…何なのその…」
「あっ、気にしな~い気にしな~い」
この娘、表情がコロコロ変わって見てて飽きないわ。ん、かわいい…あっ、シロコの口癖が移っちゃったわ。
「アビドスの生徒さん達か。セリカちゃん、おしゃべりはそれくらいにして、注文を取ってくれないか?」
とセリカに呼び掛けた声の主は2本足で立って調理している柴犬だった。そう柴犬。多分大将さんだね。すんごい器用にラーメン作ってる。
「うぅ…そ、広い席にご案内します…ね…」
恥ずかしがりながらセリカは私達をボックス席へ案内してくれた。
「ラーメン屋行くの数十年振りだねぇ」
「先生、一体何歳なのよ…?」
「そ・れ・は…秘密だよっ」
あっ、イラってしてるなースマイルスマイルだよセリカ。
「先生ったらおじさん達にも年齢を教えてくれないんだよねぇ」
「だってさぁ、多分言っても信じてくれないと思うよ。あっ、セリカ。私はこの柴関ラーメンで」
食べるならまずは看板メニューからだよね。久々の店のラーメン、楽しみだなぁ…宮子やRABBIT小隊の娘達も連れてくれば良かった…よし、今度皆と行こう。たらふくラーメンを幸せそうに食べるあの娘達の姿を私は見たいのよ!
―side out―
「はぁ…今日は何なのよ…」
バイトのシフトが終わったセリカは自宅への帰路に就いていた。
昼間の対策委員会の面々と灯里の押し掛けで彼女はいつも以上に疲労困憊といった様子だ。
「皆も皆よ。先生をチヤホヤしちゃって…大人がどうにかできるわけがないじゃん…できてたら今頃こうには…どうせ先生も…」
セリカは灯里を大人というものを信用出来なかった。
アビドス自治区からの人口流出は今も続いている。彼女が歩いているこの地だって数ヶ月前はもっと明かりが多く灯っていたのだ。セリカからしてみれば裏切り者も同然だ。
そんな折に現れた頼尽灯里という大人。何を考えているか分からない。真面目なのかふざけているのか判別がつかない大人。有能かもしれないけれどもセリカは未だに彼女を信用出来なかった。
「―あいつか?」
「はい、間違いありません」
そんな彼女を監視する人影があった。カタカタヘルメット団のメンバーである。
「―アビドス高校を立て直すためにも、私が頑張らないと…」
自宅まであと少しのところでそう呟いたセリカだったが…
「ウッ!一体何―」
何かがセリカに命中、セリカは意識を失って倒れた。
セリカを昏倒させた物の正体…それはカタカタヘルメット団が保有していたサソリ種のゾイド、スコーピアの薄めた毒だ。
スコーピアの毒はゾイドだけでなく人間にも効果があり、薄める事で睡眠薬の様な効能を発揮する。つまり、セリカを昏倒させたのはスコーピアの毒を薄めた物である。
因みにスコーピアの薄めた毒は睡眠効果が切れた後に腹痛を起こす副作用を有する為、万が一目が醒めても腹痛で動けなくなるという二段構えにもなっているのだ。
カタカタヘルメット団の面々は意識を失ったセリカの手足を縛るとトラックの荷台に乗せるのだった。
アヤネからの厚意でアビドス高校の校舎を空き教室で書類作業を行っていた灯里の元にそのアヤネから緊急連絡が来た。内容はセリカとの連絡がつかないという物だ。
そして現在、同じ様にアヤネからの連絡を受け取ったホシノ、シロコ、ノノミも対策委員会の部室に集まっていた。
「じゃあ、まずは状況確認をしようか。アヤネ、連絡が取れない事に気づいたのは何時?」
灯里は冷静な表情でアヤネに訊ねる。
「21時あたりです。いつもなら家にいるはずで、寝る前に明日の予定を相談しようとしたんですが反応がなく…家に向かってみたら帰ってきた痕跡がなくて…」
「電話は…繋がってる訳ないか…繋がっててたらこうなってはなかった筈だし」
状況確認をしていく中、密かに灯里の元にアロナからの報告が入った。
『先生、セリカさんの位置を把握しました。座標を送ります』
『サンキュー、アロナ』
灯里がアロナに礼を言った後、シッテムの箱の画面に地図データとセリカの現在地を示す座標が表示された。
「皆、セリカの現在地を連邦生徒会のセントラルネットワークを使って調べれたよ」
「先生はそこまでの権限をお持ちなんですか!?」
「まぁね。事態の解決の為ならって奴だよノノミ。あっ、こんな事も出来るのはナイショだよ。
それはそうと事態は一刻を争うからさっさと行くよ!」
アヤネが用意した装甲車にホシノ、シロコ、ノノミが乗り込み、私はトラクターヘッドのみのスーパーコンボイに乗ってアヤネが運転する装甲車と並走している。
目標に近付くにつれてヘルメット団も彼女達に応戦すべく発砲するがスーパーコンボイは物ともせず進み、スーパーコンボイの荷台に飛び移ったシロコとホシノ、装甲車の荷台の上に立つノノミはそれぞれヘルメット団の面々に向けて発砲するのだった。
ヘルメット団との交戦が始まる少し前、セリカはトラックの荷台にて目を覚まして腹痛に襲われながら状況を把握すべく僅かな隙間から外の様子を確認する。辺り一面に広がる砂漠と廃線になったと思わしき線路。
そう、アビドス郊外の砂漠である。
「そ、そんな…ここからじゃどこにも連絡が取れない!もし脱出できたとしても、みんなに知らせることができないじゃない…」
まともに動けない現状もあってセリカは絶望していた。
「みんな心配しているだろうな…このままどこかに埋められちゃうのかな…そうしたら私も他の子と同じように、街を去ったって思われるのかな…裏切ったって思われてるのかな…」
そして遂には堪えきれなくなって泣き出してしまった。
「誤解されたまま、みんなに会えないまま死ぬなんて…そんなの…ヤダよ…」
その時、凄まじい爆発音が襲ってくると共にセリカを乗せたトラックが横転したのだ。
激しい衝撃がセリカを襲った後、荷台の扉が開かれた。
「ん、泣きべせかいてるセリカを発見」
扉を開けたのはシロコだ。
「し、シロコ先ぱぁい…」
セリカは安心感から再び泣き出してしまう。
「良かった…生きてて…」
更に灯里も荷台の中に入ってきた。
「先生がどうして…?」
「そりゃ囚われた子猫ちゃんを救出するのも私の仕事だからね」
「こ、子猫!?アッ…!」
思わず大声を出してしまったセリカを腹痛が襲う。
灯里はセリカの容態を簡潔に確認し
「どうやらスコーピアの毒にやられたみたいだね…」
「解毒剤と治療薬ならアヤネが持ってる」
「じゃあ、さっさと戻ろう。シロコ、私がセリカを抱えるから護衛をお願い」
「ん」
灯里の指示にシロコは愛銃のリロードを行い、灯里はその間にセリカをお姫様抱っこする。そして3人は荷台から脱出、ヘルメット団の面々は護衛のシロコと外で応戦していたホシノとノノミによって抑えられ、灯里は無事に装甲車で待機していたアヤネと合流出来た。
「アヤネ、スコーピアの毒にやられているみたいだから応急処置をお願い!私は3人と合流してカタカタヘルメット団を制圧してくる」
「はい!」
灯里がホシノ、シロコ、ノノミと合流してヘルメット団の制圧に乗り出そうとしたその時だった。
「クゥワッキャ、クゥワッキャ、キシャァァァァァァァァァァァァ!」
灯里にとっては聞き覚えしかない耳障りな咆哮が何処からか響き渡る。
第三者の乱入か?思わずカタカタヘルメット団もホシノ、シロコ、ノノミも戦闘を中断する。
数秒後、砂漠の中から飛び出してきたのは背中に鮫の様な背鰭を生やし、前肢がヒレの様な形状となったジェネラル級に似た外見のジーオスだった。
To be continue…