宮子「あの、師匠…何処からか無言の圧力を感じる様な気がするのは気のせいでしょうか…具体的にはアビドス自治区の方から…」
灯里「あー…まぁ、そりゃ正史だとプロローグの次はアビドス対策委員会編第1章なのに此処だと宮子がエントリーした結果、時空が歪みに歪んでカルバノグの兎編第1章をほんの少しなぞった何かが始まって出番が後回しになっているからね、仕方ないね」
宮子「だからと言って私のせいにされるのは…」
鋼鉄蜘蛛邪竜王 ジーオスパイダーアラクネ
登場
大雨がD.U.全体を襲う中、子ウサギ公園の一角…RABBIT小隊が張ったテントだけは雨風が当たっていない。
「今の内に作業を…!私も何時まで保つか…!」
とジェノブレイカーはRABBIT小隊の面々に告げた直後に落雷がEシールドに直撃、落雷による衝撃がEシールドを張っていたジェノブレイカーを襲う。ジェノブレイカーは痛みに耐えながらもテントの倒壊と浸水を防ぐ為にEシールドを張り続ける。
「どうしてそこまで…」
サキの言葉にジェノブレイカーはこう返した。
「貴女達には何時の日か叶えて欲しいんです…SRT学園の復活という夢を、私には叶えられなかった夢を…幼馴染みでも何でもない…それまで赤の他人で単に同じ学年…まだ互いに信頼できない…でも、大丈夫…貴女ならきっと…」
Eシールドを張る前に浴びていた雨が雫となってジェノブレイカーの頭部からしたり落ちる。その姿はまるで涙を流しているようだった。
そして、その雫はミヤコは右手の掌で受け止めるとしっかり握りしめる。
「皆さん、やりましょう!彼女の思いを無駄にしない為にも!」
ミヤコの言葉にサキ、モエ、ミユは頷いて作業を再開し、その様子を見届けたジェノブレイカーは彼女達を守る為に踏ん張り続けるのだった。
午前中の書類仕事を片付けた灯里だったが、窓の外では大雨が降り注いでいた?
「アロナ、宮子とはまだ連絡取れない?」
『はい、どうやら電源オフにしているみたいで…こっちから電源を入れる事も出来ません』
アロナは申し訳なさそうな声色で答える。
これ程の大雨となると連絡が取れない宮子もだが、子ウサギ公園で野宿しているRABBIT小隊の面々も心配になっていた。
『あっ、待ってください!ジェノブレイカーのエネルギー反応を確認!推定進行方向上に子ウサギ公園があります!』
アロナからの報告に灯里は
「なるほどね、ちょっと様子を見に行くかな」
灯里は立ち上がると
宮子とRABBIT小隊の心配もあるが、宮子がジェノブレイカーに変身した現在、彼女が万が一が暴走した場合RABBIT小隊では止める事は出来ないだろう。
そうなってRABBIT小隊の面々を傷つけてしまった時、宮子の心は傷付くだろう事は想像に容易い。下手したら殺してしまい、宮子の心は完全に壊れてしまうかもしれない。
宮子とRABBIT小隊のお互いの為にも暴走した場合は自分が止めるしかない…いや自分しか止められない。故に灯里は急いで子ウサギ公園へ向かうのだった。
そして子ウサギ公園へ到着した灯里が目の当たりにしたのは大雨の中、テントを守る為にEシールドを張ってじっとしているジェノブレイカーとその下で忙しく排水路の掃除や土嚢の配備で浸水被害を最小限に留めようと奮闘するRABBIT小隊の面々の姿だった。
ジェノブレイカーのエネルギー信号が検出されて既に5分以上どころか10分は経過している。
暴走状態にならずに自分の意思でジェノブレイカーを制御維持している…その推定時間は灯里が見てきた中では過去最長だ。
もしかしたらRABBIT小隊との関わりのおかげで宮子は近い内にジェノブレイカーへの変身を完全に制御出来るかもしれないと希望を抱いていた。
こうしてはいられない、灯里はRABBIT小隊の元へ加勢するのだった。
「やっと止みましたね…皆さんお疲れ様でした」
D.U.を襲った大雨も止んだ頃、子ウサギ公園のRABBIT小隊の拠点は元軍人である灯里の加勢とジェノブレイカーが踏ん張って張り続けたEシールドで雨や雷をほぼ全て受け止めた事で被害は最小限に抑える事が出来た。ミヤコはまず小隊の仲間に労いの言葉を掛け
「先生、そして別世界の私もありがとうございました」
と灯里とジェノブレイカーに礼を言った。
「いえ、私はただEシールドを張り続けただけで…」
「そのEシールドが巨大な傘代わりなったから皆は雨にずぶ濡れにならずに済んだんだよ」
謙遜するジェノブレイカーに灯里は褒めるのだが、その瞬間張り積めていた緊張が解れたのかジェノブレイカーは身体をフラっとよろめかせた後、変身が解かれて
「…そのEシールドは自分のエネルギーを消費して発動するもの。本来は攻撃から防ぐ瞬間かシールドアタックする時という局所的なタイミングで短時間張るものであって長時間張るものじゃないんだよね」
と灯里は呟く。
「先生、大丈夫なの?」
とモエは灯里に訊ねる。
「大丈夫。ただ本来は短時間の使用を想定したEシールドを長時間張り続けた結果、回復が追い付かなくなって力を使い果たしただけだよ」
「つまりガス欠って事か?」
サキの言葉に灯里はそうそうと返す。
「精神的な面もあるけどね。ジェノブレイカーっていうゾイドは元から制御が難しいとされていた機体…それはゾイックアデプトテレイターも同じだったって事だよ」
「じ、じゃあ…目を覚ますんですね…!」
「うん、体力が回復すれば目を覚ますよ」
灯里はミユに答えた後、ふとあることを思い付いたようだ。
「そうだ、今晩だけでもこの娘の事を貴女達に任せても良いかな?」
「えっと…わかりました、引き受けます。先生には手伝って頂いた借りがありますし…それにあっちの世界の私の事を放ってはおけませんから」
「貸し借りとか考えなくても良いんだよ、私はシャーレの先生…困っている娘達に手を差し伸べるのが仕事だからね」
灯里はそう言うと事前にエンジェル24で買っていた弁当をミヤコ達に渡してシャーレへと戻るのだった。
一方、D.U.の地中深くでは…
「クゥワッキャ、クゥワッキャ、キシャァァァァァ…」
眠りについていたジーオスパイダーアラクネが遂に目を覚まし、活動を開始しようとしていたのだった…
灯里がシャーレに戻って2時間後。
「…うぅ…確か…私は…」
宮子は漸く目を覚ました。目覚めた彼女がまず目にしたのは懐かしさを感じるテントの天井だった。
「漸く目を覚ましたみたいですね」
宮子が声のした方に視線を向けると安堵の表情を浮かべたミヤコの姿があった。
「私は何時間…意識を失っていたんですか…?」
「2時間、ですね。先生は意識を失った貴女を私達に託してシャーレへ戻られました」
「そう、ですか…この世界のサキ、モエ、ミユはどちらに?」
「今はドラム缶風呂に入っています」
ミヤコがそう答えた後、暫くの間沈黙が続いた。同じ人物の平行同位体同士…流石に気まずかったのだ。
「あの、貴女がいた世界の私達はどうでしたか?あっ、話したくなければ話さなくても…なんかすみません…」
沈黙を破ったのはミヤコの方だ。ミヤコはつい気になった事を訊ねてしまい、それが思い出したくない過去だったらと思い直して謝罪するが、宮子は気にせず語りだした。
「…私の世界のRABBIT小隊も貴女のRABBIT小隊と同じでした。偶々同じ学年の同じ部隊に振り分けられた者同士。仲も良くありませんでした。サキは隊長の座を狙ってましたしモエは私欲まみれのトリガーハッピーでしたし…ミユはやはり人と接するのが苦手で私は心配になってよく気にかけていました」
「やはりそうでしたか…先生はどんな人でしたか…?」
「そうですね…一言で言うと変な人、でしたね。
出会いは…最悪な形ではありました。子ウサギ公園でSRT復活のデモをしていたところ先生が指示したヴァルキューレの部隊と生活安全局に各個撃破で制圧されました。思えばあの時は我ながら先生に不信感を抱いてましたね。
あの人は私達や師匠と違って銃弾1発で致命傷になるようなとても脆くて身体能力もそれほど高くなかったです。師匠曰く私達キヴォトス人の方が異常レベルで頑丈らしいですが…
話が逸れましたね、先生は身体は私達と比べて非力で方ではありましたが、生徒達の事を何よりも大事に考え、どうすれば問題や悩みが解決するか奔走する…何処までも真摯で誠実な優しいお方でした。
何せ敵対心を抱いて嫌われても仕方ない様な事を言ったり態度をした私達にもめげずに何度も優しく手を差し伸べてくださったんですよ?でも、この方なら信頼と出来るかもと思うようになったのも事実です。
先生を信頼する様になってから色々ありました。コンビニ弁当のエビを見なくなって漁村へ調査に行ったり連邦生徒会にアピールする為に晄輪大祭への参加を決めてシャーレの後押しで特別にSRT名義での参加を許可してもらったり独自に犯罪組織への襲撃や公的機関の汚職摘発など自警団の様な活動を行ったり…まぁ、もうあの日々は戻って来ないのですが…」
そう答える宮子は何とか頑張って笑みを浮かべようとはしていたものの、悲しさを払拭しきれていなかった。
「あの日…突然ジーオス達が現れて…先生も呆気なく殺されて…それからは地獄でした。先生を殺された事への怒りで我を忘れて自暴自棄になった人も数多くいました。
私達は…それでも…自分達の為に出来る事をしようと…ですが…」
言葉に詰まった宮子は嗚咽を漏らす。
「サキは…私を庇ってジーオスパイダーに貫かれ…意識を失っていた隙にジーオスタンクに潰されて…モエは真っ二つに…ミユは…鉄筋で心臓を貫かれてて…私だけ、私だけ生き残ってしまったんです…!」
灯里から一応話は聞いていたとはいえ本人の口から改めて聞かされたミヤコは胸が締め付けられる思いをしていた…そしてそれはドラム缶風呂から上がってテントの外から話を盗み聞いていたサキ、モエ、ミユも同様だった。
「あれから…あの日の…毎晩あの光景が夢に出てくるんです…!みんな…無言で私を見てくるんです…!私のせいでみんなは―」
泣いて取り乱す宮子をミヤコは思いっきり抱き締めた。宮子が続けて言わんとした言葉を言わせないかの様にただ思いっきり抱き締める。まるで貴女は悪くないと言わんばかりに…
暫くして落ち着いた宮子は
「見苦しい姿を見せてしまってすみません…」
とミヤコに謝罪する。
「いえ、大丈夫ですよ」
そんな宮子をミヤコは優しく笑みを浮かべる。ミヤコは一見すると無感情で無愛想に見えてしまうかもしれないが、実際には隊員に気を配れる心優しい性格なのである。
「あの、実はお願いというか相談が―」
宮子がそう言おうとしたその時だった。
「クゥワッキャワッキャクゥワッキャワッキャキシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
空気を読まないかの様に彼女達にとって聞きたくもない鳴き声が子ウサギ公園に響き渡った。
子ウサギ公園に隣接する道路が陥没した後、その穴から現れたのはジーオスパイダーの上位個体たるジーオスパイダーアラクネである。
宮子とミヤコが外に出た時、サキ、モエ、ミユは既に制服と武装を纏って警戒している。
「あれはジーオスパイダーって奴で間違いないよな?」
サキは宮子に訊ねる。
「ジーオスパイダーではありますが…あれはただのジーオスパイダーではありません…あれはジーオスパイダーの上位個体…ジーオスパイダーアラクネです」
宮子がそう答えた時、ジーオスパイダーは蜘蛛の腹の様に異様に太い尻尾から何かを発射した。
発射物は地表100メートル地点で弾け、発射地点を中心に直径約10キロの範囲をバリアが張られた。まるでこの地を
「あのバリアは師匠のスーパーコンボイでも打ち破るのは困難な代物…天然のEシールドの様な物と思ってください」
「つまり、かなりヤバい奴じゃん…」
モエが言う通りである。
「あのジーオスパイダーアラクネの背中のトゲの1つに何か引っ掛かってます…あれは…名札…?」
ミユはその希薄すぎる存在感もさる事ながら視力も非常に優れている。そして視力が優れているが故にジーオスパイダーアラクネの背中のトゲに引っ掛かっている名札に気付いてしまったのだ。
モエが飛ばしたドローンから届いた映像を見ると名札は3つ、血で汚れてはいるものの辛うじてどの学校の物なのか、そして汚れ具合から血が付着してかなりの時間が経過している事が判明した。
「おい、この校章ってSRTじゃないか…まさか…」
サキはこの名札が誰の物が察してしまい、宮子は無言で拳を強く握り締めジーオスパイダーアラクネを睨み付けている。
ジーオスパイダーアラクネのトゲに引っ掛かっている名札は2年前に死亡した宮子がいた世界線でのサキ、モエ、ミユの物だったのである。
To be continue…