限界過疎アクアリウムガールが先生とお喋りするだけ   作:お前の母ちゃんベアトリーチェ~!

7 / 7
限界過疎アクアリウムガールとあまねく奇跡の話

 ──────蒼に染まらない空の下。まだ僅かに星が覗く、夜明け前。

 

 淡い恒星に白んだ世界の隅で、二つ分の人影が連れ添って歩いていた。

 海抜十メートル程度の足場。鉄筋とコンクリートで出来た桟橋は真新しく見える。

 かつん、かつんと。足音はその上を踏みしめる様に。遠く、波の音に耳を澄ます。

 照明灯の明かりが霧に霞む。現在気温は摂氏十度、欠伸をすれば冷たい空気が入り込んだ。

 

「ふぁ…………わたし、久々にノアールの外に出た気がします」

 

 特に意味の無い独り言。わたしの隣を歩く先生から、帰ってくる言葉はなかった。

 反応する必要が無いと思ったのか、わたしと口を利きたくないのか。判断に迷う沈黙だ。

 きっと後者なんだろうな、と。軽い自嘲を交えながら、わたしは石畳の上を緩慢に歩く。

 ここはアクアリウムと駅を繋ぐ桟橋の上。真っ白な外壁で象られた、小綺麗な駅を眺めた。

 

 先日のこと。いつかに先生と話していた、スクリア海を縦断する鉄道の建設が完了した。

 

 あの時は確か…………何と言ったか、連邦生徒会が主導した、なんて嘘を吐いたのだったか。

 出来の悪い嘘だ。何しろ、連邦生徒会は最後までこの場所を知覚出来なかったのだし。

 今となっては────いや、きっと初めから不必要な代物だったが、しかし折角完成したのだ。

 たった一度きり、乗ってみるのも悪くは無いだろう、と。わたし達は駅に足を踏み入れていた。

 

「暗いですが、中は綺麗ですね。…………あ。アレ、エンジェル24の支店じゃ無いですか?」

 

 駅構内は電気が点いていない。職務怠慢も甚だしいが、営業時間外なのだし仕方が無い。

 窓から注ぐ、月光とも陽光ともつかない薄い明かりだけが、建物を満たす光の全てだった。

 殺風景な、寂しい空間。新しい建物特有の匂いと、微かな海風の匂いが混ざり合っている。

 人の気配はしない。当然の話、最早この世界にわたし達以外の生命は存在しないのだし。

 ミニチュアの様な、人気の途絶えた無機質の場所。直感だけを頼りに、付近を散策していく。

 黄色い点字ブロック、壁掛けのポスター、吊り下げられたアナログ時計。その中で────

 

「この自動券売機だけ電気が点いてますね。────どうせです、二人でどこか行きましょうか。

 …………そう言えば、もう大人のカードは無いんでしたっけ。なら、わたしが払ってあげます」

 

 音も無く稼働する無人機。薄暗い空間に電子の光は眩しくて、目的地はよく見ずに決めた。

 行き先の書かれていない切符が二枚。直に始発がやって来ると、無人の改札口へ足を向けた。

 

 

 …………戦いが終わり。地上より遥か七万五千メートル、アトラ・ハシースの箱舟での全てが、幕を閉じた。

 

 滅び去ったキヴォトスにて。色彩の嚮導者となった先生は、並行世界にも終焉の視線を向けた。

 それは、連邦生徒会長が失踪し、先生が赴任し。ほんの僅かな違いから、滅びを回避した世界。

 朱く染まった空。各地に降り注いだ虚妄のサンクトゥム。天蓋に鎮座する多次元解釈バリア。

 逃れようのない終末を齎すべく、不可解な存在(ゲマトリア)を壊滅させ万全の状態で世界を破壊せんとした。

 

 ────そして、"あの世界"の彼女達は、襲い来る終焉に、全霊を以って抗って見せた。

 学園間の垣根を越えた協力、本舟の起動、勇者を選んだ少女達の一撃。奇跡同士の性能比べ。

 明日を守るために最後まで絶望と戦い、そして勝利した。…………それが、先生の望み。

 

 ()()()()()()()()先生は、()()()()()()()()()先生なら成し遂げられると信じ抜き、行動した。

 同じ状況、同じ選択。死の神になってしまった少女への救いは託され、確かに成し遂げられた。

 誰も泣かぬように、誰も傷つかぬように。先生は、その終わりまで大人としての責任に殉じ。

 そして、最後に。──────先生を救う二人分の奇跡が、流れ星になって、淡く降り注いだ。

 

 ………………なんて美しい、ハッピーエンド。そこに、わたし達の分の席は用意されていない。

 

「まぁ、当然の話ですけど。…………でも、なんだか少しだけ寂しいですね、先生」

 

 改札を通過し、階段を上り、辿り着いた駅のホーム。少し高くなった陽の光が差し込んでいる。

 点字ブロックの内側に下がるよう告げる警告音が響く。その数秒後に、眼前で突風が吹いた。

 瞬きの後に現れたのは、大きな鉄塊。音を立てて開いた自動ドア、誘うように風が吹いている。

 他の乗客の影はなく────朝焼けに染まった始発列車に、わたし達だけが乗り込んだ。

 

「わぁ…………ノアールを俯瞰で見るなんて、考えてみれば初めての事かもしれません」

 

 ゆっくりと加速し、車窓を流れていく景色。海の上に浮かぶアクアリウムが遠ざかる。

 飼育員を熟していた頃、わたしが想像していたよりもずっと、この学園は小さかったらしい。

 沖にポツンと浮かんだ建物は、すぐに消えて見えなくなった。もう二度と、戻る事は無い。

 くるりと周囲を見渡して先生を探せば、ソファ席の一つに腰を下ろしているのが見えた。

 それに倣うように。わたしはその対面、黎明に染まる淡い空を背負うように、席に着いた。

 

「………………………」

 

 澄んだ空気と、線路を滑る車輪の音だけが響く沈黙。破ったのは、わたしの方だった。

 

「まずは────そうですね。ノアールやスクリアなんて場所は存在しない、という所からお話していきましょうか」

 

 始めに。"スクリア海"、並びに、"ノアール海洋動物専門高等学校"は現実に存在しない。

 厳密に言えば、"温暖な海の沖で設立されたアクアリウム併設型の学園"自体は存在した。

 但し、建設された海の名前はスクリアではなく、学園の名前もノアールなどでは無かった。

 そしてその学園は、もう十年以上も前に廃校になっている。立地を考えれば、当然の話だろう。

 …………では、わたし達が時間を共有した"あの場所"の正体は何だったのか、と言う話になる。

 

 だが、どうと言う事は無い。アレは、名前すら風化した学園のテクスチャを借りただけのモノ。

 歴史も、記録も、飼育されていた水棲生物達も。全てを再現し、名前を変えただけの雑な仕事。

 その名前に関しても、海は"SCHALE(シャーレ)"を組み換えて"SCLEAH(スクリア)"。学園は"ARONA(アロナ)"を組み換えて"NOAAR(ノアール)"にしただけの、粗雑なアナグラム。

 

「鋭い先生の事ですし。多分、この位は気が付いてましたよね?

 …………というか、先生は初めから知っていた筈ですからね、あの空間の正体については」

 

 そう。海に沈んだ壊れかけの教室を、遥かな水平線の教室の姿を、先生は知っている筈。

 それは、世界が滅んでもなお存続する事が可能であり。連邦生徒会が決して認知できない場所。

 指先一つで瞬間移動すらできる夢の世界、わたし達が"ノアール"と呼んでいたナニカの正体。

 

 ────ここはシッテムの箱に象られた教室。電子の海、何人も侵すことのない、虚像の学園。

 

 エデン条約締結の日、凶弾に撃たれた先生がノアールまでやって来れた理由は、コレだ。

 あの巡行ミサイルの爆風から先生を守るのと引き換えに、A.R.O.N.Aのシステムはダウンした。

 シッテムの箱による防御が無くなり、結果、錠前サオリからの弾丸を食らう事になった。

 わたしは霧散する先生の意識を繋ぎとめる為、シッテムの箱を起動、ノアールに呼び込んだ。

 …………尤も、無意識の行為だったので、自分のした事を理解したのは後日のことだったが。

  

「じゃあ、そんな場所に居たわたしは何者なのか、という話ですが…………こっちも単純ですよ」

 

 わたしが先生に名乗っていた偽名。"船織アヤナ"も、至極簡単な連想ゲームだ。

 苗字は、学園と同じような単純なアナグラム。"連邦"を"renhou(レンホウ)"に分解し、"huneor(船織)"とした。

 "アヤナ"に関しても、アロナを別の言語で表して"彩奈(ツァイナ)"。ソレをそのまま読んで、"アヤナ"。

 謎解きにしてはたいへん雑だが、元々誰に名乗るつもりでも無かったのだし、許してほしい。

 わたしの本名については…………まぁ、今更どうでも良い事だ。ここで重要な事は一つだけ。

 

 こんな場所に隠れ住む事の出来る人物は、キヴォトス広しと言えども、決して多くない。

 実行可能なのは、先生が箱に接触するよりも早く、聖櫃に触れる事の出来た人間のみ。

 あの事件────"学園都市の最高責任者の失踪"を引き起こし、"外"から先生を呼んだ張本人。

 数千もの学園自治区を混乱の渦に陥れ、連邦生徒会の行政制御権を宙に浮かべた存在。つまり、

 

「キヴォトスから失踪したとされる連邦生徒会長──────はい。それが、わたしの正体です」

 

 驚きましたか? なんて微笑んでみるが、正面に座った先生の表情に驚愕の色は無かった。

 妥当な反応だろう。ただの辺鄙な学園にいる生徒では、得られない情報も持っていた事だし。

 例えばゲマトリアへの見識。例えば百合園セイアとの面識。或いは、中山きん〇くんもそう。

 何しろキヴォトスの外に存在する方だし。この世界の人間が知っているのは充分可笑しい事だ。

 …………まったく、先生と居ると口が軽くなって仕方が無い。隠し事が出来ないのは困りものだ。

 

「あの日。連邦生徒会長として失踪した後、わたしは神秘を用いて疑似OSとして潜り込みました」

 

 契約の箱は本来、箱の上部に象られた、一対二人の智天使があって万全の状態とされるモノ。

 "ペレツ・ウザ(制約解除決戦)"に代表される様に、シッテムの箱はOSが二つ存在する事が前提のオーパーツ。

 しかし、デフォルトで導入しているOSはA.R.O.N.Aのみ。わたしにも入り込む余地があった。

 勿論、後からあの子や先生に存在を悟られるのは拙かったので、偽装はかなり念入りに行った。

 即ち。本来のメインOSであるA.R.O.N.Aにすら、知覚/干渉/侵入不可能な秘匿領域の構築。

 

「つまりノアールはその為に作ったんですが────はぁ。先生と来たら…………」

 

 そうして、ノアールを構築してから暫く。電子空間の隅、架空の学園で日々を過ごしていた時。

 これ以上する事も無いからと、飼育員として日々の業務に励んでいたわたしの前に────

 『やぁ、こんにちは。君はこの学園の生徒かな?』なんて、何食わぬ顔で先生は現れたのだ。

 …………本当、あの時は心臓が止まるかと思った。この世界線での面識が無かったせいか、わたしが連邦生徒会長とは考えていなかったようだったが…………その後も居着いてしまうのだから、頭を抱えたものだ。

 

「もしかして先生、そんなにわたしの事が好きだったんですか? …………なんて、冗談ですが。

 ────けど。先生が来てからの毎日は、とても楽しかったんです。こっちは本当ですよ?」

 

 それからの事は。あのアクアリウムで先生と交わした言葉は、何だって覚えている。

 一週間に一度やって来る先生と、案内役として一緒に巡った、水族館での出来事の全て。

 わたしの水着に、似合ってると言ってくれた声を。その手で優しく撫でて貰った感触を。

 遊覧した水棲生物達の事を。わたしの解説を聞いてくれた時間を。貴方の眼差しを、全部。

 先生が来ない六日間のこと、一人きりの海で過ごした夜でさえ、鮮明に刻まれた思い出だ。

 

 …………だからこそ、わたしは。あの日、先生に贈られた言葉を、否定しなくてはならない。

 

『常々思っていたけど、さ。君は、とても────』

 

「────先生。やっぱりわたしは、先生の言うような"優しい子"なんかじゃないんです」

 

 わたしが連邦生徒会長として失踪した日。キヴォトス全土に、かつてない混乱を齎した夜。

 自分では世界の滅亡に抗えない事を知り、何もかもを先生に押し付けて、無責任に姿を消した。

 わたしの行動(せい)で、どれだけの人間が血を吐くかを知りながら。見ないフリをして、逃避した。

 これが最善だったと、自分に言い聞かせる様に繰り返して。孤独な海で、傍観者を気取って。

 …………けれど、わたしは。愚かにもまた失敗して、この結末を辿った。つまり────

 

 

「──────わたしのミスでした」

 

 

 理由は明白。わたしが、こんな形で先生の選択に介入(わたしの選択、そしてそれによっ)したせい。その為に、世界は(て招かれたこのすべての状況)滅びた。

 心底からキヴォトスの未来を想うのなら、わたしは先生の前へ姿を現すべきでなかった。

 謂わばわたしは、先生にとっての毒だ。選択を歪め、最悪の事態に進める舞台装置の一種。

 だからこそ、わたしはリンちゃん達に未来の全てを託して、表舞台から姿を消したと言うのに。

 知っていたのに。こんな結末に辿り着くより(結局、この結果にたどり着いて初めて、)も前に、わたしはその事実を思い知っていた(あなたの方が正しかったことを悟るだなんて)のに。

 

 

 本来なら、居所を知られてしまった程度、わたしには、どうとでも対処できた事態だった。

 幸い、先生はわたしを連邦生徒会長(わたし)と思っていなかった。拒絶する事は、簡単だった筈で。

 そうしなかったのは、身勝手な感情のせい。わたしの心の暴走、愚かな利己的精神の発露で。

 

 ────先生が何も覚えていなくても、わたしを見つけてくれたことが嬉しかった、から。

 

「…………ごめん、なさい。ごめんなさい。…………ほん、とうに、ごめんなさい、先生」

 

 知らず、わたしの視界が歪んでいた。止め処ない感情を、頬を伝う、熱を帯びた雫を拭う。

 連邦生徒会長として、世界の存続だけを願うべきだったのに。わたしは、先生の事も大好きで。

 貴方を拒むことが出来なくて、中途半端な選択を取ったせいで、両方とも失ってしまった。

 先生に、暗い世界の責任を背負わせた。全てはわたしの責任、わたしによって生まれた因果。

 わたしという人間が存在する限り、キヴォトスにも、先生にも。ハッピーエンドは訪れない。

 

「………………いまさら図々しいですが、お願いします。

 先生。きっとわたしの話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」

  

 たとえ何も思い出せなくても、先生は同じ状況で、同じ選択を取ると、証明されたのだから。

 色彩の嚮導者として、"先生"と対峙した先生。二人の歩んだ世界線は違えど、決断は同じもの。

 ────ですから、大事なのは経験ではなく、選択。先生にしか出来ない選択の数々。

 それこそが破滅を回避する唯一解。キヴォトスを救い、ハッピーエンドを迎える為に必要な鍵。

 ならば、その選択を歪める存在を。この世界の物語に必要のない因子を、許してはならない。

 

「………………責任を負う者について、話したことがありましたね」

 

 とても昔の事。今は遠く、この世界線に至るよりも前。あの執務室で交わした会話の一端。

 目の前の貴方が覚えていない出来事、あの時のわたしには理解できなかった、ある言葉の事。

 傲慢で、貪欲で、身勝手で。自分の正しさを過信した、幼さ故の誤りを正そうとした先生。

 今でも夢に見る一幕。わたしが最後まで気付けなかった、責任を負う者についての言葉。

 

『君はさ、一度生き物を飼うって経験をした方が良いと思うな』

 

「あの時のわたしには分かりませんでしたが…………今なら理解できます」

 

 そうする事で見えてくるモノが、きっとある筈だから、と。その人はわたしに言った。

 隠れ住む世界のテクスチャ。数多の選択肢から海上のアクアリウムを選んだのは、そのせい。

 先生から、キヴォトスから離れて。水棲生物達と触れ合う日々の中で、あの言葉を反芻した。

 小さな命を守ること。それは世界を用意し、環境を保全し、そして見守ること。きっとそれが、

 

「大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。──────それが意味する心延えも」

 

 不意に、車輪の音が停まる。甲高い金属音が響くのと同時、吊り革が踊っていた。

 一際大きな揺れのあと、車窓の景色は固定される。風景は朝焼けのまま、海面で停止した。

 駅には着いていないのに、どうしてか鉄製の扉が開く。清浄な空気に、潮風の匂いが混じった。

 特に示し合わせることも無く、わたし達は列車を降りる。朝色の海へ、ゆっくりと踏み入れた。

 見渡す限りの水平線。人の手の届かない楽園。淡い入道雲は、流れる事すら忘れているようで。

 冷たい風、水面に広がった波紋。不思議な事に、身体は沈むことなく、両の足で海面に立てた。

 

 ────思った通り、列車は事故に遭った。捻じれて歪んで、千切れた線路。ここが終着点だ。

 

「…………。ですから、先生。私が信じられる大人である、あなたなら。この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を…………そこに繋がる選択肢は、きっと見つかる筈です」

 

 今回この結末に至った原因は、先生の選択ではない。わたしが、先生と接触してしまったせい。

 けれど。先生はきっと必ず、世界の果て、電子の海であっても、わたしを探しに来てくれる。

 自惚れではなく、単純な事実として。わたしが"わたし"である以上、その運命が固定化される。

 乙女心には素敵な、世界を壊す不治の病。…………だが、それは断ち切らなければならない。

 

 だから、とても簡単な解を一つ用意した。────そう。()()()()、"()()()"()()()()()()()

 人格、記録、思い出さえ。何もかもを消失させ、変質させれば、わたしは何処にもいなくなる。

 そうすれば、キヴォトスが破滅する運命は作用しない。代償は、わたしという存在の全てだけ。

 …………そんなに悲しそうな顔をする事は無いのに。恐怖はない。大丈夫、大丈夫だから。

 わたしは、この結末に至った責任を果たさなくてはいけない。かつて世界の責任を負った人間として、最後の役割を果たす時が来たというだけ。

 

 その上で、もしも。ほんの小さな我儘を、許してもらえるのなら────先生、どうか。

 …………この、絆を。わたし達との思い出、過ごして来た全ての日々を…………どうか。

 

 

「────覚えていてください。大切なものは、決して消える事はありません。大丈夫です。

 ですから、帰りましょう、先生。───わたし達の、全ての『奇跡』が、在る場所へ───」

 

 

 ◇◇◇

 

 目に映ったのは、青空の天井だった。所々が崩れた外壁、乱雑に組み上げられた机と椅子。

 照らす陽光。遠くに見えるのは遥かな水平線と、何もかもを飲み込んでしまいそうな入道雲。

 床は海水に沈んでいる。歩くたび、真っ白な光が波に反射して。遠く白い恒星が微笑んでいる。

 見覚えの無い空間。場合によっては拉致を疑う状況だが、潮風の匂いが心を落ち着かせてくれた。

 

 見たことも無い教室で、ふと。ひとりの女の子が机に突っ伏して居眠りしているのが見えた。

 

 何やら寝言を言っている。寝た子を起こすのは良くない事だが、状況が状況だ、と。

 試しに頬をつついてみる事にした。…………起きない。少女は寝言を言うばかりだった。

 またつつく。まだ起きない。寝言に微妙な変化があった。もう一度つついたが、まだ起きない。

 …………柔らかい頬の感触が楽しくなってきた頃、ふと。蒼く大きな瞳が開かれるのを見た。

 

 ぼんやりとした表情。身体は起きても、脳がまだその現実に追いついていないのだろう。

 たっぷり十秒以上。虚ろな視線を交わし合ってから、少女は自分を起こした人物を認識した。

 次に爆発したのは、驚愕と混乱、僅かな恥じらいの感情だった。表情が慌ただしく変わる。

 "君は誰?"と聞いてれば、彼女はハッとした様子で、深呼吸を何度かしてから、口を開く。

 

 少女の名はアロナ。"シッテムの箱"のメインOSは、万感の想いを込めて、告げた。

 

「───やっと会うことができました! 私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!」

 

 


 

【アロナ】

 

所属:シッテムの箱

役職:メインOS/システム管理者/先生の秘書

好きなもの:先生/クジラ/カステラ/いちごミルク

備考:シッテムの箱のメインOSである少女。かわいい。

   何故かあったクジラのぬいぐるみがお気に入り。

   先生の事が好き。大好き。愛してる。嫌いではない

   最近先生が黒ビキニに狂ってるので着ようか迷った。




あとがき

これにて本作は終了となります。ここまでの読了、お疲れ様でした。

アロナ空間の話と、水棲生物の話と、プレ先の話が書きたい、を悪魔合体したのが本作でした。割と満足のいく作品に仕上がったと思います。
反省点としては、小説形式と生物紹介の相性が思っていたより悪かった事ですね。
本当はもっとマイナーな水棲生物の愉快な雑学で話を作りたかったです、残念。
あと完結まで二ヶ月以上かかるとは思わなかったですね、全部キヴォトシアンデス・ダイオウグソクムシが悪い。
それと、もしかしたら緩めの番外編が上がる可能性があります。多分無いです。
(追記)お陰様で評価バーが赤くなってフルにもなりました。感謝の極みです。

改めまして、皆様。重ね重ね、ご愛読いただきありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【試走】ブルーアーカイブRTA 称号『特異現象消失』獲得 エイミチャート…?(作者:和泉 元エイミ)(原作:ブルーアーカイブ)

タイトルの通りです。▼すべての特異現象を「焼失」させるRTAです。▼ケイからスランピアまで全部です。▼テスト用の記録ですが最後までお付き合いください。


総合評価:5668/評価:8.71/完結:18話/更新日時:2024年05月28日(火) 12:00 小説情報

アキラに全部盗まれる一般通過ヴァルキューレ生徒の話(作者:はと×4)(原作:ブルーアーカイブ)

何としてもオリ主からすべてを盗みたい清澄アキラとアキラを絶対捕まえたいオリ主の話。▼


総合評価:3293/評価:8.62/完結:3話/更新日時:2025年05月22日(木) 00:35 小説情報

キヴォトス存続RTA(any%)(作者:暁真)(原作:ブルーアーカイブ)

n番煎じのブルアカRTA風二次小説です。▼ルール解説▼①:any%(手段は問わない)▼②:走者:AI▼③:タイムではなく何周かかったかを計測(別途完走周のタイムも計測)▼④:バグ技使用不可(システム上の仕様は問題なしとする)▼


総合評価:10460/評価:9.07/完結:46話/更新日時:2025年08月30日(土) 07:05 小説情報

[完結]拝啓パパ上マエストロ様。トリニティでも私は元気です。(作者:がくらん)(原作:ブルーアーカイブ)

 自称「マエストロの娘」のお人形ちゃんが、原作2年前のトリニティ学園でパパのお使いのためにがんばるお話。▼1年生編、2年生編、完結。▼3年生エデン条約編も、完結しました。


総合評価:10078/評価:8.99/完結:30話/更新日時:2024年04月26日(金) 23:22 小説情報

もう一人の勇者(作者:Katarina T)(原作:ブルーアーカイブ)

ある廃墟で一人の少女が目を覚ます。▼それは一つの物語が始まることを指していた。▼………これは少女が自身の意味を見つける物語である。▼ちょっと宣伝!番外編の RTA風味 実績『予定外のハッピーエンド』獲得まで を連載化して投稿しております。▼良ければ明道トウハちゃんとAL-2Bちゃんの活躍をみてあげてください!▼https://syosetu.org/nove…


総合評価:4705/評価:8.43/連載:134話/更新日時:2026年05月06日(水) 16:44 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>