魔力がなくても魔術主義世界で君を守ることはできますか? 作:花屋
独り立ちしてから初めての仕事は、同い年の銀髪美少女リルファーナの
ところで、侍衛とはなにか?
簡単に答えると、貴族のそばに仕えて護衛をする人のことを指す言葉らしい。
そう、
「リルファーナって貴族だったの⁉︎ あ、いや……だったんですか⁉︎」
目の前に座る美少女を急に遠い存在に感じる。
彼女の正体を知った瞬間に私の脳に去来したのは、数々の砕けまくった口調の数々だった。
「そ、そそそそうとは知らず、大変な……えーと、ご、ご無礼を……⁉︎」
場所は変わって、学都北西区画にあるリルファーナの借家。
彼女の実家……ウォリック家っていう王国北部に領地を構えるでっかい貴族が、学都にある学校に通うために用意したらしい。家を二つも持つって凄い。
そして、私とリルファーナがいるのは玄関すぐの
ところでリビングって何?
「ええっと……リルファーナ、様……?」
「様付けなんて要りません。気軽に“リル”と呼んでください」
呼び方に四苦八苦する私に、リルファーナは困ったように微笑んだ。
ふわりと揺れるウェーブのかかったセミロングの銀髪。
枝毛ひとつない、手入れの行き届いた髪だ。すごく“お嬢様”って感じ。
「畏まらないでいいですよ。同い年なんですし、むしろ砕けた口調でお願いします」
「い、いいの……んですか? く、首切ったりとか……し、しない?」
「しませんよ⁉︎ 貴女は貴族をなんだと思ってるんですか⁉︎」
とても偉い人、かなあ……?
私の人生、貴族と縁がなさすぎてイメージが全然湧かないんだよね。いや、貴族と縁が多い平民って早々いないと思うけど。
「えっとね、ふんわりとだけど上下関係に厳しそうみたいな……」
「それは間違いではないのですけど……と、とにかく! もっと肩の力を抜いてください!」
「わ、わかった。えっと……リル。で、いい?」
恐る恐る聞くとリルファーナ……リルは満足そうに頷いた。
「はい、ミナルカ」
どうやらお気に召したらしく、目の前のお嬢様はえらく上機嫌だった。
い、いいのかなあ? 雇い主にめちゃくちゃ砕けた口調で話すのって。本人がいいって言ってるけど……うーん、まあいっか! リル、嬉しそうだし!
「ところで、あの……リル?
お仕事があると二つ返事で飛びついた私だったが、その実、何をすればいいのかさっぱりわからないのだ。
「そうですね。来るまでに説明したように、基本的には私の護衛をしてもらうことになります。空き部屋がありますから、そこに住んで貰うことになるかと」
「え゙⁉︎ ここに住めるの⁉︎」
「は、はい。護衛ですから、なるべく近くに居てもらうのが望ましくて……ダメでしょうか?」
「ううん全然!」
私は身を乗り出して、前に座る不安そうに眉尻を下げたリルの手を取った。
「むしろ私の方からお願いしたいくらい!」
「そ、それなら良かったです」
正直馬小屋暮らしとか覚悟してたし、無一文になった時は路地裏生活一直線だった。ド田舎出身の私がこんなお洒落なお家に住めるなんて好条件すぎる!
「ありがとう、ご主人様!」
「で、できればリルと呼んでください……」
キラッキラに輝く目をしているであろう私に、リルが
「それで、ここからがちょっと特殊なんですけど。……ミナルカには、私と一緒に“魔術学園”に通ってもらいたいんです」
「…………。マジュツガクエン」
リルから飛び出した聞き覚えがあるけど実態を全く知らない単語に、私は片言で、カクンと首を
「って、何?」
◆◆◆
ハステア魔術学園。
アルサス王国にいくつかある魔術についての学び舎の中で、最も大きく優れているとされる学園である。
魔術学部と兵学部の二つの学部があり、その中に細分化されたいくつもの“学科”が存在する。
学ぶことは多岐に渡り、同じ学び舎に通いながらも全く違うことを学ぶなんてことは日常茶飯事だ。
しかし、たったひとつ共通することがある。それは、ここに通う誰もが“魔術”を学んでいるという、当たり前のものだ。
◆◆◆
——私、入学できなくない?
魔術学園の概説をリルから聞いた私は、まず最初にそんな感想を持った。
だって話を聞く限り、魔術学園って“魔術”を学ぶための場所だ。そんなところに魔力がない私が転がり込むのはかなり無理がある。
一応、兵学部の中に剣術学科っていう私にも学べそうな名前はチラッと見えたけども。いや、魔術なのに剣術ってどういうこと?
「魔術学園なのに剣術とかも学ぶんだね。私、魔術って炎とか雷をバチバチィッ!ってやるイメージだったんだけど」
「それも合ってますよ。むしろ
私の素人丸出しの発言にも、リルは笑顔で答えてくれる。
「魔力を用いて“魔術式”を編み、様々な現象を引き起こすのが魔術です。ミナルカの言う、
ですが、とリルは続けた。
「魔術の中には“強化魔術”と呼ばれる、肉体や武具の力を高めるものもありますから。剣術学科の皆さんが使うのは主に
「へえー」
そういえば御者さんが言ってたっけ、『強化魔術が無ければ云々』って。
「私たち人間が生身で魔獣と対等に戦うために不可欠な、重要な魔術なんですよ」
「ほうほう」
「剣術学科では型以外にも魔獣の生態なども学びますし、ミナルカにとっても——」
「ふむふむ」
なるほど。どうやら私みたいに
——つまり、リルはあの一連の討伐を見て、私が強化魔術を使えるって
「………………………………」
えーっと。
これ、『私には魔力がありません!』って素直に言ったほうがいいよね?
いやでも、それ言ったらせっかくの働き口が……ううん、けどリルに嘘をつくのは…………ぬーん!
「——というわけで明日、早速編入手続きをしに学園に行こうと思いますが……いいですか?」
「え、あ、うん! いいよ!」
……私、今何をオーケーした?
「ありがとうございます! それでは、そろそろアイリが帰ってくる頃ですので夕食にしましょう!」
あ、これ。生返事で入学に頷いちゃったやつだ。
気づいた私は、心の中で猛烈に後悔する。
嘘をつく形でお仕事了承しちゃった……!
「ごめんねリルぅ……」
「? 何か言いましたか?」
「う、ううん! なんでもない! ところで“アイリ”って誰?」
「実家からついて来てくれたメイドの名前です。彼女にはとてもお世話になっています」
「メイドさん⁉︎ 凄い、お嬢様だ!」
リルと他愛ない話をしながら、私は『なんとかなるといいなあ』、なんて希望を抱いて明日の私に丸投げした。
◆◆◆
そして翌日。
ハステア魔術学園の実技棟なる建物にて。
普段なら『建物おっきい!』と呑気にはしゃぐところだが。
「…………こいつは」
編入手続きをしてくれた赤髪の男教師から困惑が漏れた。
彼の視線の先にあるのは、私が手をかざす“水晶板”。
触れた人の
「色どころか……魔力そのものがねえのか?」
白色半透明のまま、何ひとつ反応を示さなかった。
「全く光らんな。マジか、笑えるくらい空っぽだ」
教師の言葉に、私は静かに天井を仰いだ。
拝啓、『なんとかなるといいなあ』なんて丸投げしてきた昨日の私。
とりあえず一発、ぶん殴らせて。