TS女魔法師になったネトゲ廃人~極悪アップデートのVRMMO世界に放り込まれるなんて聞いてない!   作:桐谷アキラ

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第16話 集う仲間たち

 魔導水晶を通じた呼びかけが発せられてから、わずか半日。

 焼け残った工房街の一角に設けられた拠点には、ちらほらと人影が集まり始めていた。

 

「……本当に、ここに“神工アルディス”と“神滅セレス”がいるのか?」

 

 最初に現れたのは、長弓を背負った痩身の男だった。声には疑念が混じっていたが、同時に期待の色を隠し切れない。

 

 セレスが前へ歩み出ると、男は思わず息を呑んだ。

 夕焼けの赤を受け、長衣に金の髪が揺れる姿は、噂に聞いた《神滅》そのまま。

 

「ようこそ。ここは、自由に戦い、自由に生きたい者の拠点だよ」

 

 落ち着いた声が響く。緊張していた男の肩が、わずかに緩んだ。

 さらに奥からアルディスが戦斧を担いで現れると、その存在感は圧倒的で――弓の男の目に確信が宿った。

 

「……本物だ。“神工”と“神滅”が……手を組んだのか……!」

 

 男は深く頭を垂れ、そのまま列に加わった。

 

 噂はすぐさま広がる。

 夜明けまでに二十名近い冒険者が訪れた。

 

 その中には元から面識のある有名プレイヤーも混じっていた。

 

「……あいつは、 《赤雷》のヴォルクか」

 

 背丈のある男が姿を現した。稲妻を象った紋章のマント、巨大な戦槌を軽々と担ぐその姿は、ランキング常連の名を欲しいままにしてきた破壊の勇将だった。

 彼は火を灯した瞳でセレスを見据える。

 

「大規模クランの連中に飼われる気はなかった。……だが《神滅》の下なら、暴れる価値がある」

 

 不敵な笑みを浮かべ、そのまま輪に加わる。

 

 次いで現れたのは、灰色の外套に身を包んだ女性だった。

 長い黒髪と、鋭い双眸。

 

「 《影織り》のミレイ……!」

 

 暗殺・情報戦において右に出る者はいないと恐れられたソロの伝説。

 彼女は焚き火の影に腰を下ろし、短く告げる。

 

「混乱がどうせ起きるなら、その渦を操る方にいた方が得……そう思っただけ」

 

 さらに――三人目。

 黒鉄の鎧をきしませて歩み寄る影。

 

「……《鉄壁》バルドまで!」

 

 巨大な盾を背負い、数え切れぬ前線を支えてきた不落の守護者。

 彼はアルディスと視線を交わし、無言で頷く。

 それだけで、輪の中に確かな安堵が広がった。

 

 ――こうして、一癖あるが名の知れた実力者たちが次々と合流していく。

 噂を聞きつけた彼らにとっても、ここは居場所を求める新しい旗だった。

 

 リリィが不安そうにセレスへ囁く。

 

「……大丈夫かな。みんな強そうなんですけど、癖が強すぎる気が……」

 

 セレスは小さく笑った。

 

「ソロでずっとやってきたプレイヤーなんて癖があるに決まってるからね。混じり合ってこそ“勢力”になる。旗はただの布きれじゃないんだ。――そこに集う者たちが、旗を意味あるものに変えるんだよ」

 

 焚き火の炎がさらに高く揺らめく。

 《神工アルディス》と《神滅セレス》の旗印のもとに、冒険者、NPC、ギルド、そして伝説級プレイヤーすら集う。

 

 確かにここに、第三勢力の鼓動が芽吹いていた。

 

 他にも大規模クランに居場所を見つけられなかった者。

 仲間を失い、孤立していた者。

 あるいは、かつてセレスと狩場で一度だけ刃を交わした者。

 

 それぞれが事情を抱えながらも、二人の旗の下に歩み寄ってきた。

 

 一方で――NPCたちも変化を見せていた。

 鍛冶場に残っていた職人たちは、アルディスの指示で炉に再び火を入れる。

 商店の店員たちは瓦礫を片づけ、布を掛けて即席の市を広げようとしていた。

 

「……NPCの人たちが、自分から動いてる……!」

 

 リリィが目を丸くすると、アルディスは静かに答えた。

 

「当然だ。彼らにとっても生き残るのは現実だ。命を守るため、役割を果たそうとしている」

 

 その姿を見た冒険者たちの表情には、NPCを“仲間”と認め始める兆しが生まれていた。

 

 さらに、ギルドからも使者が現れた。

 正装の受付係――NPCであるはずの女性が、真剣な眼差しをセレスへ向ける。

 

「ギルドは秩序維持のため協力者を求めています。……あなた方が我々が協力できる部分もまた多いと考えています」

 

 ヴァレリアが眉をひそめたが、セレスは微笑みを浮かべて答えた。

 

「構わないよ。互いに利用できる部分はあるはずだ。私たちは敵じゃない――双方が納得しているならそれでいいじゃない」

 

 女性はしばし逡巡し、深く頭を下げて去っていった。

 

 その頃には、大規模クランの反応も伝わっていた。

 

 《蒼天騎士団》は旗揚げを応援するとしながらも、直接介入は控えている。

 《暁の獣》は「力を示せ、会って話そう」と挑発めいた伝言を寄越した。

 《白銀交易連合》表向き沈黙を保ちつつも、物資の交渉を持ちかけてきている。

 

 どの勢力からも明確な敵意はない。

 だが確実に――「要警戒」として視られているのが伝わってくる。

 

 その夜。焚き火を囲み、ソロや小規模の仲間たちが集い、NPCが動き、ギルドまでもが視線を向ける。

 すべては、《神工アルディス》と《神滅セレス》という二つの旗印のもとに。

 

 リオナが小さく呟く。

 

「……本当に、第三の道を立ち上げちゃったね」

 

 エレナは涙を浮かべながら微笑み、ハルトは祈るように手を組んだ。

 

 セレスは皆の視線を受け止め、ゆっくりと頷いた。

 

「旗は掲げた。――あとは、守り抜く覚悟を示すだけだ」

 

 その言葉に応じるように、焚き火の炎が大きく揺らめいた。

 小さな工房街の一角に、確かに新たな勢力の鼓動が芽吹いた。

 

***

 

 翌朝の工房街の通りは喧噪に包まれていた。

 瓦礫を片づける音、木槌の響き、NPCたちの掛け声。

 

「次はこの梁を持っていけ! ……おい、崩れないように二人で運べ!」

 

 アルディスの指示に従い、職人NPCたちが次々と資材を運び込む。

 彼らの背には、プレイヤーたちの倉庫から引き出された材木や鉄材の束。

 

「……これ、どれだけあるの?」

 

 リリィが目を丸くする。

 

 彼女の視線の先では、整然と積み上げられた木材や石材が、すでに小山を成していた。

 それもそのはず――セレスやアルディスをはじめ、ソロで活動していた廃人級プレイヤーの倉庫は、一つひとつがクラン倉庫に匹敵する規模だったのだ。

 

「ソロだからね。全部、自分で揃えないとやっていけなかった。その結果が……これなんだ」

 

 セレスが苦笑交じりに肩をすくめると、周囲から驚嘆の声が上がった。

 気づけば、彼ら第3勢力こそが街で最も資材を抱えた存在となっていた。

 

 瓦礫を撤去した跡地に縄を張り、区画を整理する。

 市場用の広場、鍛冶工房、宿舎に大集会所――それぞれの設計図を地面に描きながら、アルディスは一つずつ形にしていく。

 

「大規模クランみたいに派手な城壁は作らない。だが――実用本位なら負けない拠点になる」

 

 戦斧を杖のように突き立て、彼は力強く言い切った。

 仲間たちも声を上げる。

 

「倉庫に山ほどあった鉄材を出そう。防壁以外にも盾や矢じりに使えるはずだ」

「俺は薬草を抱え込んでる。調合場を作ってくれれば、回復薬は供給できる」

「家具と布は任せろ。宿舎を整えれば人も安心する」

 

 ひとりひとりのプレイヤーが、自分の“倉庫資源”から供出する。

 そこにNPCたちの労働力が加わり、拠点は急速に姿を変えていった。

 

 瓦礫の街角が、巨大な建築現場に生まれ変わる。

 NPCが材木を担ぎ、冒険者が鉄杭を打ち、魔法師が補強の術式を刻む。

 動きは粗雑でも、目の奥には確かな希望が灯っていた。

 

「……信じられない。昨日まで廃墟だったのに」

 

 リオナが呟く。

 セレスは頷き、焚き火の煙を見上げた。

 

「――次は“居場所”を形にする。ここが本当に立ち上がるために」

 

 その言葉とともに、工房街の一角に巨大な集会所の骨組みが立ち上がった。

 第三勢力の鼓動は、いまや確かな「大規模拠点」としての輪郭を得つつあった。

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