異世界観光   作:爆乳女神抱き枕

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異世界へGO!

 仕事を終えて帰宅すると、部屋の隅に見慣れない扉が立っていた。

 

古びた木製の扉で、壁にも床にも固定されず、ただそこに存在している。

 

「あら、やっと戻られましたのね!」

 

扉が開き、金髪の美女が現れた。

 

胸元の開いた薄着、堂々とした笑み。

 

「わたくし、偉大なる豊穣の女神デメトリアナですわ!  この扉は異世界に続いておりますの。さあ、ご一緒に人々を救い、わたくしの信仰を取り戻す旅へ参りましょう!」

 

え? 誰? なんか言ってるけど、なんで俺の部屋に知らない人がいるんだ?

 

 

いったん扉を閉めて廊下に出て部屋番号を確認する、……間違ってないここ俺の部屋だ。

 

そりゃそうだ、鍵も開けて入ったんだから間違えるわけない。

 

再び部屋に戻ると、彼女は胸を張って仁王立ちしていた。

 

「あの、失礼ですがどちら様でしょうか?」

 

その余裕の態度はどう見ても泥棒っぽくない、そもそも盗まれるほど金目の物なんて持ってないが

 

「ええと……本当にどちら様ですか?」

 

「わたくし、偉大なる豊穣の女神デメトリアナと申しますの! さあ、この扉をくぐれば異世界ですのよ! 一緒にまいりましょう!」

 

「あのすみません、いきなりそんなことを言われてもさっぱり理解が追いつきませんでして」

 

やっぱり意味わからん、異世界ってさらっと言ったけどそもそも人の部屋勝手に入ってるのなんなんすか、その上なんか扉っぽいのまで持ち込まれてるし。

 

「理解など後からついてきますわ! 今は行動あるのみですの!」

 

彼女は俺の腕をぐいっと掴み扉の前に引っ張っていく。

 

驚くほど力が強い、細腕のはずなのに一般男性が引きずられていく、ちょ、待って待って! 普通逆だろ!? 社会人男性が金髪お嬢様を引っ張る側のはずでは!?

 

「ほら、ご覧なさいな。この扉の向こうにはあなたにとっての異世界、私が誕生した世界アルルディアが広がっておりますのよ!」

 

デメトリアナが勢いよく扉を開け放つ。 そこには……石畳の広場、カラフルな屋台、見慣れぬ服装の人々。夕日を浴びて輝く異世界の街並みが広がっていた。

 

え? なんで俺の家に設置された扉の先にこんな光景が?どうなってんの?

 

「本当に異世界?」

 

「そう言っておりますわ!さぁグラクロの街を散策してみましょう! 屋台巡りや観光にはぴったりの場所でしてよ!」

 

いやいやいやいや……。屋台を観光目当てに勧める神様ってどうなの? 普通もっとこう、勇者召喚とか人類救済とかじゃないの?

 

というかなんで俺この場所着てんの?俺勇者とかなの?いやでも30超えて勇者とか言われても困るんですけど?というかこれ帰れるの?魔王とか倒さないとダメなの?なんなの?もうわかんないよ!?

 

「さあ、参りましょう! 貴方がいてくだされば、きっと信仰を取り戻せますの!」

 

「えっと、お言葉ですが、私は明日も普通に仕事がございますので」

 

信仰?信仰を取り戻すの?何にも聞いてないんだけど何させたいかくらいは教えてほしい。

 

でも相手が先手を打ってくるからこっちからの質問タイミングないし、これ神様だから話を遮ったら不敬とかそういうのあるかもしれんし、もうどうしたらいいんだろうか?

 

「大丈夫ですわ! 戻るときは時間を調整して差し上げますもの!」

 

時間まで自由自在なの?それマジなら相当凄くない?というか異世界ワープもこの神様の権能的なあれなのか?

 

「えっと、じゃあこちらの世界で一日過ごしてもこっちでは1時間とか出来ちゃうんですか?」

 

「もちろんですわ! わたくしを信じてついて来なさいませ!」

 

これもうダメだ、全部本当ならこれもう上位存在的なアレだこの人、そんでなんか自室から室外にワープしてる以上多分本物だ、逆らってはいけない。

 

「さあ、参りましょう! 貴方がいてくだされば、きっと信仰を取り戻せますの!」

 

「信仰? 信仰がどうしたんです?」

 

「わたくし、今まさに消えかけておりますのよ! 信仰を集めねば存在が保てませんの! 神ですので!」

 

「待ってください。情報量が多すぎます」

 

「えっと目の前にいるのは神様で、信仰が無いと消えてしまう、だから俺に信仰を集めさせたいってことですか?」

 

「そうですわ! そのためにこちらの世界からあなたを稀人として招きたいんですの!さあ! 人々を助け、信仰を得るのですわ!」

 

「ええ? うーん…… 話はわかったような、全然わかってないような?」

 

 というかこの速さについていけてない。残業開け社会人に対する説明にしては詰め込みすぎでは?

 

「大丈夫ですわ! 難しいことは考えなくてもよろしいのですの。要はあなたがわたくしと一緒に歩めば、それで救われる人々がいて、信仰が集まるということですわ!」

 

「いやいや、そんな雑なまとめ方されましても」

 

ほんとこの人、いや神様?とにかく説明が乱暴すぎる。

 

「ほらっ!とりあえず行きますわよ!」

 

デメトリアナ様?は俺の腕をがしっと掴んで街の中へと駆け出した。

 

そこには石畳の広場が広がり、屋台らしき店が立ち並び、人々の賑わいが聞こえてくる。

 

焼ける肉の匂いと、聞いたことのない楽器の音が漂ってきて独特な雰囲気がある、これが異世界ってやつなのか?

 

「本当にここ異世界なんですか?」

 

「そうですわ! さあ一歩踏み出しなさいませ! まずは観光を楽しみますわよ!」

 

「観光?」

 

観光って言ってるけど、人助けとか信仰獲得とか言ってたのはどこいったんだ?

 

そうこうしている間に拒む間もなくぐいぐいと引っ張られる、そして気づけば俺は屋台街へと引き込まれていった。

 

「あー……夜勤開けに刺さるうまそうなにほい……レターパックで現金送れは詐欺」

 

「よろしい! よろしいですわ! さあ、稀人の異世界観光始まりですわー!」

 

「あのーところで」

 

「なんですの?」

 

「お金とかはどうすればいいんでしょうか?というか、入国審査的なものとかあるんじゃないですか? 私、本当にここにいて大丈夫なんですか?」

 

「あっ」

 

デメトリアナ様があーそういえばという顔をした後、気まずそうに視線を逸らした。

 

「えーと……その……」

 

「その?」

 

「いったん、戻りましょうか?」

 

ええ……。いやマジで大丈夫か女神様!?

 

いったん扉を閉め、自分の部屋に戻る。

 

ソファに腰を下ろした俺は深呼吸してから、目の前の女神に向き直った。

 

「とりあえず理解?はしました、異世界は本当に存在するんですね」

 

「ですわ!」

 

「信じがたい状況でしたので……失礼しました。

とりあえず、まずは落ち着いて自己紹介からにしませんか?」

 

女神は胸を張り、薄着のまま優雅に座る。

 

俺は湯を沸かし、湯呑みにお茶を注いでお出しした。

 

「どうぞ、粗茶です」

 

「まあ! ありがたくいただきますわ!」

 

「では改めて自己紹介ですわね、わたくしはデメトリアナ。

 豊穣の女神をしておりますの」

 

「女神様……ですか」 「そうですわ! 今回こちらの世界に出向いたのは、失われた信仰を取り戻すためですの」

 

なんか、色々説明が足りてない気がするな。自分の理解と他人の理解を埋められないタイプの神様か?

 

「ええっと、失礼ですが、なぜ私がそちらの世界に行くと信仰を得られるという話になるのでしょうか?」

 

「決まっておりますわ! わたくしが神としてある世界ではもう信仰が薄れてしまっておりますの!だから別の世界の人、稀人(まれびと)を招きあなたの知恵と力で人々を助けて貰いたいと思っております」

 

 

「つまり、私が異世界で人々を助ける活動して、助けられた人が感謝をしてデメトリアナ様の信徒になるという事ですか?」

 

「ええ、まさにその通りですわ!」

 

「なるほど、やりたいことはわかりました……しかしそもそも何故に私なのですか?」

 

「それはもちろん、扉を繋げたからですわ!」

 

「はい、その扉をなぜ私の部屋に?」

 

「え? それは……なんとなく?」

 

「な ん と な く」

 

「そうですわ、適当に繋げたらこちらに来ましたの!」

 

なんとも言えない沈黙が場を支配した。

 

「つまり、偶然私の部屋だったと?」

 

「そうですわ! これは運命の導き!私別に運命とか司ってませんけれども!なるようになる物なのですわ!」

 

「はぁ、そうですか?」

 

うわぁ、完全にノリで行動してるタイプだ。

 

いや神様ってもっと厳格とか厳粛とか思ってたけどそうでもないのか、というかこれ大丈夫なのか本当に?

 

「運命に導かれたあなたに、お願いがありますの!」

 

「お願いですか?」

 

「稀人としての知識や経験を活かし!異世界の多くの人々の手助けをしてほしいのですわ!」

 

「異世界の人助け活動をしなさいと?」

 

「そうですの! あなたが誰かを助ければ、その感謝が信仰となり、わたくしが再び力を取り戻せるのですわ!」

 

「異世界の人を助けなさいというのはわかりました。

えーその上で申し訳ないんですが、私も自分の生活で手一杯ですので、その、人を手助けするどころか助けてほしいくらいでありまして、中々ご要望に応えるのは難しいかと……」

 

30代で手取りも少ない一人暮らしにそんな余裕があるわけないのだ。

 

「それに、私の知識や経験と仰いますが……私、ただの社会人でして。特別な力もございませんよ?」

 

「ご安心あそばせ! こちらの文明は私共の世界とは違う進化をしているようです、そういった世界の違いによる視点の違いが助けになるはずですの!」

 

「そういうものですか」

 

「そういうものですの!」

 

「それに! どの世界でも庶民に余裕がないのはわかっておりますわ!あなたに無理を申し上げるつもりはありませんの!」

 

「それはご理解いただけて安心しました」

 

「まずはお休みの日にでも、わたくしどもの世界に観光にいらっしゃればよろしいのですわ!」

 

「観光ですか?」

 

「そうですの! 観光でもして、わたくしたちの世界を巡り、気に入っていただければ自然と人との関わりも生まれるでしょう?

 

そうして仲良くなった方々の相談に乗ったり、時には助けたりしていただければと思っておりますの!」

 

「なるほど、観光から始めて人間関係が広がれば結果的に人助けにも繋がると」

 

「ええ、そういうことですわ!」

 

そんなゆるゆるでいいのかなぁ?

 

「あとは観光と申しましても、そちらの世界で使えるお金が無い状態では難しいのではないでしょうか」

 

「心配ご無用ですわ! それに関しては――こちらの優れた世界の商品を売って稼げば良いのですわ!」

 

「商品を売る?」

 

「そうですの! あちらの世界には存在しない物が多数あるようですからそれを持ち込めば大いに価値が生まれますのよ!」

 

「つまり、私が日本の製品を異世界に持ち込んで売り、その収益で滞在費を賄うと」

 

「まさにその通りですわ! 観光資金も稼げて、人との繋がりもできるという完璧な作戦ですわ!」

 

「こちらの世界の品を持ち込んだりして本当によろしいんですか?なんか問題とか起こったりはしませんか?」

 

「大丈夫ですの!それほど世界というのは柔ではありませんわ!それに信仰を無くして消えるくらいならその程度の問題いくらでもなんとか致しますわよ!」

 

ふんすっ!と鼻息荒くしている神様を見て本当に大丈夫かなぁ?と思いつつもそんな神様を見て、ちょっと異世界に観光に行くのも面白そうだなと思った。

 

 

「まぁとりあえずお話は理解いたしました。正直、異世界の観光には興味がありますし、とりあえず観光をしてみろという事であれば今回の件お引き受けしたいと思います」

 

「まぁ! なんと心強いお言葉ですこと!」

 

「ええ、かなり好条件に思えますし異世界観光というのは確かに魅力的ですから」

 

「当然ですわ! わたくしの美貌と知啓に惹かれたのですわね!」

 

はぁー美しさとは罪ですわね?いやんいやんと言いながら自身を抱きしめている神様を見てちょっと笑う。

 

「……いえ、観光の方です」

 

「ちょっとは乗ってくださいまし?」

 

「ノリが悪くてすいません」

 

はっはっはと誤魔化し笑いをした。

 

「今日は金曜の夜でして長く続いた仕事終わりで疲れております。

ですから、いったん寝て、明日改めて準備をしそちらの世界に行きたいのですがいかがでしょうか?」

 

「そうですわね、人の身は労わらねばなりません、仕方ありませんわ、そう致しましょう」

 

「ありがとうございます」

 

「ではまた明日お会いしましょう」

 

「はい、では明日向かいますわよ!」

 

そう言って立ち上がったデメトリアナ。しかし――扉へ向かう気配はない。

 

「あの、どうかなさいましたか?」

 

「え? どうかしましたの?」

 

「いえ……神様もおうちに……えーっと、社にお帰りになられては?」

 

「まあ! わたくし、信仰されている神殿なんて今はございませんから帰る所なんてありませんわよ?」

 

「えっ?」

 

「はい?」

 

「ではどちらでお休みを?」

 

「こちらでお休みさせていただくつもりでしたけれど、駄目でしたの?」

 

いやいやいや、当然のように泊まられても困る 1LDKだぞ!?

 

と、思いはしても神様に逆らうのは得策じゃないよなぁ、異世界にテレポートしたり時間を捻じ曲げられたり相当なパワーがありそうだし……。

 

「わかりました、では来客用の布団を出しますね。

ただ神様がいらっしゃる……降臨されるとは思ってないので如何せん粗末な寝床になってしまいます、申し訳ない」

 

押し入れから古い布団を取り出し、慌ただしく部屋に敷く、他の布団は俺の煎餅布団しかない、どうしようもなかった。

 

「まあまあまあ! これが“布団”という寝床なのですのね!」

 

「ええ……ベッドではなく、床に直接敷いて寝る形です」

 

「なんと! 初めてですわ、とても新鮮ですわねぇ!」

 

布団をバンバン叩いたり、寝転んだりしてはしゃぐデメトリアナ様。

 

その様子はとても消えかけの女神とは思えないほど元気だった。

 

明日から本当に大丈夫なんだろうか、不安を残しつつ俺はキッチンで就寝した。

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