異世界観光 作:爆乳女神抱き枕
ユニクロで身なりを整えたあと、俺たちは近くの100円ショップに立ち寄った。
「まぁ!なんと壮観な!」
店内に並ぶ膨大な商品を見てデメトリアナは目を輝かせる。
「これほどの多様な物が、所狭しと並べられておりますのね! まるで神々の宝物庫ですわ!」
「ここは100円ショップといいまして。全部の商品が百円で買えるんです」
そう言ってから100円が何かわからないんじゃないかという事に気付いた、説明したほうがいいか。
「えーっと、我々が使ってる円という貨幣の事ですね。100円というと大体今の最低賃金は1000円くらい?だから…えーっと…一時間働くとここの物10個買えるくらいの価値です」
「では、この小さな鍋や調理器具に布までを一時間で十個も!?」
「ええ、まぁ理屈の上ではそういうことになります」
「なんというっ……なんという豊穣……! わたくしの世界なら鍋ひとつで農夫が数日働き詰めですのに!」
やっぱり異世界と比べると日本は恵まれているんだなぁ。
というわけで、こちらの商品を向こうに持ち込みたいと思っておりまして。どういう物が売れそうでしょうか?」
「と言われましても……中々難しいですわね? いまいち用途のわからない物も多いですし」
デメトリアナの視線の先にあったのは、小さな箱状の――ライターだった。
「これは……何の道具ですの?」
「ええと、これはライターといって、火を点ける道具です」
「まぁ!この平べったい筒が火を?」
「はい、ここの部分を押し込むと火が付きます。」
「魔道具ですか?火を付けるのはいつでも苦労致しますものね?こちらの世界でもこういったものがあるのは納得ですわ」
しみじみとした顔でライターを見つめていたが、突然はっとした顔になって声を掛けてきた
「あの……もしやと思いますが、この魔道具も100円ですの?」
「ええ、使い捨てですが100円で買えますよ」
「凄い差ですわね…私共の世界ではこれだけの種火を作る魔道具なら…銀貨10枚は下りません、魔道具は専門の技師がひとつひとつ手作りしておりますので非常に高価なんですのよ」
「そんなにですか?でも手工業で職人技が必要で、知識までいるとなるとそれくらいの値段になっちゃうのかな?何にせよ、このライターは使い捨てですし、ゴミ問題もあるので持ち込みは難しそうですね」
「ゴミが出ても地面に埋めればよろしいのでは?金属部分は鍛冶屋で溶かせば良いですし、皆さんそうしておりますわよ?」
「この筒の部分はプラスチックと言いまして、プラスチックは地面に埋めても分解とかされないんですよ、そういった物であふれると大地を汚す事になりますので、対処できないうちは持ち込まないほうがいいかなーと」
「確かに!大地を汚すなど、豊穣の女神として見過ごせませんわ!」
「ですので……代わりにマッチの方が良いと思います」
「まっち?」
「はい。木の軸に火薬を塗ったもので、擦れば火がつきます。使い捨てですが、木と紙なので土に還ります」
「まぁ……! これなら残数が分かりやすいですしすべて自然に帰るという所が気に入りました!これは良い物ですわね!」
「では、マッチは売れそうですかね?」
「ええ、魔法を扱える人でもなければ、誰にでも使える便利な火種ですもの。庶民にも旅人にも需要がありますわ」
「なるほど……」
デメトリアナはマッチ箱を手に取り、値札を確認する。
「こちらの箱は……ふむ、40本入りが6個で100円ですのね?」
「はい、そうですね」
「一時間働けばこれが60箱ですか、商材として良いかもしれませんわね。恐らくあちらの世界では1箱で金貨3~5枚にはなるでしょうし、箱が小さいから運びやすいというのも良いですわね」
「金貨3枚?」
「ええ、大体小さいパン3個分ほどの値段ですわね。火種に金貨3枚は決して安くはありませんけれど火種を作るのは手間が掛かりますし十分に買う価値がありますわ」
「えっと、金貨3枚がパン三個ですか?え、こっちの金と同じ金じゃないとかそういうオチですか?
こちらの世界だと金というのは非常に高価で、昔から価値ある物として扱われているのですが」
「まぁ!こちらの世界ではそうですの? ですが、わたくしどもの世界では金の価値はそこまで高くはありませんのよ」
「金にあまり価値がない?」
「ええ、鉱山で多くが採れますし、実用面としては鉄や銀、それに銅のほうが価値がありますでしょう?金は柔らかすぎますので……」
「なるほど確かに、金は加工には向いていますが武器や道具には適しませんね」
「ですわ!ですから装飾品としての価値はありますけれど、普通に鉄や銀のほうが遥かに重宝されますのよ」
「こちらの世界とは真逆ですね、日本では鉄や銅はありふれていて金こそが特別なんですよ」
「おもしろい違いですわねぇ。」
「しかしそうなると通貨なんかはどうなってるんですか?」
「こちらの国では――金貨十枚で銅貨一枚、そして銅貨十枚で銀貨一枚になりますのよ」
「金貨百枚で銀貨一枚分ですか」
「ですわ!先ほども言いましたけれど金は柔らかくて実用性がありませんの。
装飾品くらいにしか使えませんでしょう?それよりも武器にも防具にも日用品にも使える鉄や銅の方がよほど大事ですのよ」
「なるほど、理屈はわかりますけど……こちらの常識からするとあまりに逆転していて混乱しますね」
「うふふ、こういった新しい価値観というのも異世界交流ならではですわね」
いやー異世界交流ってこういうもんなんですかねぇ」
「こちらの感覚に直しますと非常におおざっぱにはなりますが金貨が百円、銅貨が千円、銀貨が一万円くらいの価値観といった所かしら?ですから――屋台の串焼きなら金貨二枚くらいになりますわ」
「……なるほど。串焼き一本が二百円くらい、という感覚ですね」
「ええ! 庶民が日常的に楽しめる価格帯ですわ」
「……ってことは、さっきのマッチ1箱で金貨3枚、つまり串焼き1.5本分?」
「そういうことになりますわね」
百円ショップで買ったマッチが向こうじゃ串焼き9本分に化ける計算、物価がよくわからないけど、多分かなり儲かる。
というかこっちで金貨を換金できたらそんなの目じゃないくらいお金稼げそうだけどやっぱ換金の問題とかあるよなぁ、それさえなんとかなれば大儲けできそうだけどなんとかならないものか。
「ふむ、何か良からぬことを考えましたでしょう?悪い顔してますわよ?」
顔に出るタイプですわね、と言われた。
「いやぁ、こちらでは金の価値が凄く高いのでその価値の差を利用して大儲けできないかと考えてました」
ゲームのグリッチをしている時はこんな気分なんだろうか?
良くない事をしようか悩んでいるのがバレてるような、ちょっと後ろめたい。
「金の価値の差で大儲けしようといった所ですの?その意気やよしですわ! お金稼ぎ、多いに結構!ですが! その利益を――自分だけで独占するのではなく、他の人々に分け与えるということが大切ですのよ!」
あっ神様的にはOKなんだ。
「分け与えるですか?」
「ええ、誰もが常にうまく行くわけではありませんわ、そういった運悪く失敗してしまった方を助けるのです。
そうした方に立ち上がる手助けをしていれば、自分が失敗してしまった時も必ず誰かの助けを得られましてよ。
それにあなたが人を助ければ私への信仰も集まるはずですわ!」
「なるほど、そこに繋がるわけですね」
「ですわ!」
「ではとりあえず向こうでマッチを売りましょう。
それ以外は……何がいいですかね?」
「そうですわねぇ……」
デメトリアナが店内をきょろきょろ見回し、手に取ったのは――カップラーメン。
「これなんですの?」
「これは“カップラーメン”ですね。保存食です。年単位で日持ちしますし、そこそこ美味しいですよ」
「まぁ! そんな長期間も!? 食べ物というのはすぐに傷むものですのに!」
「ええ。容器の中で完全に密閉されてますから。しかもお湯を注ぐだけで完成です」
「お湯を注ぐだけでと言いますと、完成するのはペースト状のドロドロしたお粥みたいな物かしら?」
「いえ、割としっかりとした麺と具が入っていますよ?」
「しっかりとした食事がお湯をかけるだけで出来るのですか?本当に凄いですわね!」
「日本じゃ割と誰でも食べてる食品ですね」
「なんと恐ろしい物ですの! 便利すぎて庶民が怠けてしまいませんの!?」
「お手軽ごはんで空き時間が出来たら、さらに仕事をするのが日本人ですので……」
「楽をして得た時間を仕事に回すとはよくわからない人ですわね?」
でも異世界で保存が利く即席の食料、そういった物がないならこれは確かに売れるだろう。
行商人や軍人の生命線となっても可笑しくはない。
「しかし、カップラーメンは容器がゴミになりますね」
「まぁ! これもプラスチックなのですの?」
「ええ、プラスチックですから向こうの世界では処理が難しいかと。自然に帰らないですし」
「それは大問題ですわ! 土地を汚してしまっては豊穣どころではありませんもの!」
「袋入りのインスタントラーメンの方が良いですね、あちらの方が一度に多く買えますし、持ち運びもしやすい。外装のビニールは……焚き火にでも突っ込んでもらえばいいでしょう」
「こちらの四角いほうのは燃やしても大丈夫なんですわね。」
「ええ。しかも袋麺は五食入りパックで200円ちょっとですし。コストパフォーマンスも良いんですよ」
「五食入り! 五回分の食事をその小さな袋に詰め込むとは……そのうえ非常に長く保存できて、味もそれなり、そのうえ一時間も働けば大量に買えてしまうのですね」
「そう言われてみると結構ヤバい品に思えてきましたね、自分はただ単純に食べ物なら分かりやすいし、試食とかもできるので売りやすいかなーと思っただけなんですけど」
「試食というその発想、まさしく商人の才覚がありますわ!」
「いや、現代のスーパーでも普通にやってることですけど」
「こちらの世界にはない概念ですわ、それにそういった知識や手法がすっと出てくるのが素晴らしいんですの!」
とりあえずマッチと袋麺の二つなら最初の商材には悪くは無さそうだ、 小規模で始めて反応を見てみたい。
「じゃあ持ち込む物はこれでいったん決まりですかね。後はどのくらい買っていくかですが」
「ふふん! 当然、大量に買い込んで一気に売りさばきますのよ!」
「いや神様、それだと怪しまれるんじゃないですか?いきなり市場にマッチや袋麺を山ほど持ち込んだら、逆に警戒されますよ」
「しかし多ければ多いほど儲かりますでしょう?」
「まぁ理屈はそうですが、商売ってまずは信用を得る為に最初は小さく始めて在庫を大量に抱えたり赤字になるのを回避して、ある程度評判を作って売れると確認したら仕入れ量を増やす物では?」
「うーん」
デメトリアナは腕を組み、真剣に考え込む。
「つまり、最初は少量を持ち込んで売れるか試して商品の評価を確認して、結果が良さそうなら数を持ち込むという事ですわね?」
「そうです。例えば、マッチは十箱程度、袋麺は二〜三袋くらいで。小規模にやってみて、売れ行きや評判を確かめるんです」
「なるほど、堅実ですわねぇ」
「いや、普通こういう感じでは?」
「うふふ、そういう普通が異世界では一番大事なのですわ!」
褒められて悪い気はしない、本当にこの神様は煽てるのがうまいなーもう。
「ですが、街から街を行き来する行商が、徒歩とはいえ荷物があまりに少ないのはちょっと怪しいですわね?」
「まぁ確かに」
「怪しい者、密偵や盗賊の類と勘違いされてしまいかねませんわ。ですから――大きい背負い鞄に目いっぱいくらいは持っていませんと!」
「あーそうなっちゃいますか」
「どうせ売るつもりなのですし、最初から多めに持ち込む方が得策ですわ!これだけの品なら大量に売れますわよ!」
言ってる事はいちいちごもっともだ、とすえば背負い鞄にぎりぎり入るくらいに詰め込んだほうが行商人らしいか。
「となると背負い鞄一杯に商品を詰め込んだほうがよさそうですね、ええっと確か家に大きなリュックがあったはず、あれがいっぱいになるくらいに詰めるとなると…かなり買わないとダメそうですね。」
「いい感じに考えがまとまりましたわね!」
「ええ、たしかに……」
「行商人として用意するならやはりマッチが多い方がそれらしいですわ!
小さくて運びやすくそれでいてそれなりの単価になる……これぞ行商人向けの品ですわね!」
「なるほど……確かに“背負って持ち歩ける商品”としては優秀ですね」
「逆にインスタントラーメンは少な目で、評判が良ければ持ち込むという事でいいと思いますわ!」
「今回は宣伝にとどめて次回から本格販売といった感じですね、悪くないかなと思います。
そうですね、そしたらマッチを買えるだけ購入して、あまったスペースに袋麵を詰めていきましょうか」
マッチは計算してみると2000箱くらい入りそうだという結果になったが店にそもそもそんなに在庫がなかった、バックヤードを見てもらって全て買い占めても100パック分の600箱程だ。
店員には何に使うのか聞かれたのでYOUTUBEの撮影で使うと適当に話しておいた、後で噂とかになるだろうか……。