異世界観光 作:爆乳女神抱き枕
勢いで門を抜けたはいい物の何処で商売すればいいものか、何もわからない。
「デメトリアナ様、この後何処に行ったらいいですかね?」
「実はわたくしもそれほどこの街には詳しくないのですわ、ここはそちらにいる衛兵の方に聞いてみるのがよろしいかと思いますわ」
なるほど、知ってる人に聞けばいいというのはその通りだ。
「あのー、すいません。ちょっとお伺いしたいんですけど、私みたいなよそ者でも出店できるような場所ってどこかにありますか?」
「うーん、どっちだったかなー……」
言葉を濁しながら、衛兵がちらりと手を差し出す。
あっそういう、日本にはないシステムに異世界に来たんだなぁという実感が沸く、なんだか越後屋とお代官様みたいでちょっと楽しい。
そっとマッチの箱を一つその上に置いた。
「おっ? わかってるねー!さっきの入街のやり取り見てたよー、これ後で買おうと思ってたんだ、その分儲けたな!」
衛兵の顔が一気に明るくなる。
「よし、あっちに青空市場があるぜ、仕切ってるやつのところまで案内してやるよ」
「助かります」
衛兵は軽く口笛を吹いて、仲間にちょっと行ってくると声をかけると、すぐに戻ってきた。
「こっちだ、案内するよ」
そう言って街の中へ入っていく。
石畳の通りは人で賑わい、屋台や露店の香ばしい匂いが漂ってきた。
異国の言葉で客引きをする商人たちの声が重なり合い、まるで祭りのような喧噪だ。
「今日も凄い活気ですわ! 人々の力にあふれていますわね!」
「ええ確かに、かなり人が多いうえに呼び込みや商売人の掛け声で凄い活気を感じますね」
案内されて辿り着いたのは、大通りから少し外れた広場、布張りの屋台や荷車を並べた商人たちが所狭しと品を広げている。
その外れにいかにも荒くれものですと言った風体の漢がいた。
「あいつが市場の取りまとめ役だ、まずは挨拶しといたほうがいいぜ?それじゃあなー!」
軽く手を振りながら衛兵は去っていった、なんだかんだ良い人だった。
「よし、まずは挨拶ですね」
俺は鞄を背負い直し、取りまとめ役らしき中年男の前に歩み出た。
腕組みをしてどっしりと腰を下ろすその姿は、いかにも“顔役”といった風格だ。
「失礼します。私は――」
「わたくしは豊穣の女神デメトリアナですわ!」
あっ俺こういう突発的な事に対処するの苦手なんだ……なんかどうにもできないから事前に考えてた挨拶しとこ。
「失礼致します、私はよそから来た行商でして。本日は商売のご挨拶に伺いました」
「おん?ああ、ここで商売したいって事か、いいぞー好きにしろ、ルールだけ守れよ~ ?あっルールわかるか?」
「いえわかりません、こちらのルールを教えて頂けませんでしょうか?」
「にーちゃん素直だな、よしっこっち来な!」
顔が怖いけど良い人だこれ、先導してくれる顔役について行き建物の中に入った
「まず、俺はこの青空市場の顔役をやってるデメージだ、よろしくな!」
「こちらこそよろしくお願い致します」
「わたくしは豊穣の女神デメトリアナですの! 以後お見知りおきを!」
「……お、おう?」
突然のお嬢様口調に、デメージは目を瞬かせたが、すぐに咳払いして話を続けた。
「んじゃ、ルールを教えとく。ここで商売するなら簡単だ。まず――」
デメージは指を三本立てる。
「一つ、客との揉め事は自分で責任とれ」
「二つ、決められた区画からはみ出すな」
「三つ、なんか問題が起きたら俺らを呼べ」
「これだけだ、理解したか?」
「はい、単純でわかりやすいですね」
「当然だ、難しくしちゃ商売人が寄りつかねぇ。みんなで稼いで、みんなで潤う。それがここの流儀よ」
「すばらしいお考えですわ! 豊穣の精神に通じますわね!」
「?ああ、そうかい」
デメージさん、今のところノリのいいおじさんだな……
デメージは壁の板を指差した。
「ここ青空市場はな、板に書いてある通りの場所割になってる。
出入口に近い、売り上げが上がりやすい部分は場所代が高ぇ、逆に奥まった場所は安い」
「なるほど、立地によって家賃が変わるのですね」
「おう、欲しい場所があるなら早い者勝ちだ。
夜明けから順番待ちするやつもいるくらいだぞ」
「ま、これが基本ルールだ、好きな場所を借りて適当に商売しろ。
あとは……喧嘩すんなとか詐欺すんなとか釣りを誤魔化すなとか、わざわざ言わなくてもわかるよな?あんまりオイタがすぎりゃ俺らがぶっ飛ばしに行くが、基本は自己責任だ」
「はい、わかりました」
「なんかわかんねーことあるか?」
「いえ、理解できました」
「おう、ならいい」
「ところで申し訳ありません。商品の仕入れで持ち金をすべて使い切ってしまいまして」
「ほぉ、いい商品でも見つけて相当仕入れに張ったのか?」
「ええ、その通りです。そこで本日だけでも、物納の形で場所を借りられませんでしょうか?」
デメージは眉をひそめてこちらを睨む……が、すぐにふっと笑みを浮かべた。
「にーちゃん正直だなぁ、普通ならあとで払うだのツケにしてくれだのって言うとこだが、最初から物納を頼むか」
「ただなぁ、物納なんてされても物の置き場所に困っちまうから基本受け付けてないんだよ。
しかし……そうだな、俺がお前から物を買って、その金でお前が場所代を払ったら問題ないな?」
「宜しいんですか?」
「ただし別に要らねぇもんなら買わねぇぜ?じゃあお前が大金を張った商品ってのがどんな物なのか見せて貰おうか」
デメージの視線が、俺の鞄へと注がれる。
「わかりました、気に入ってくれればいいんですが」
そう言って俺はゆっくりと鞄を開けマッチの小箱を取り出した。
「こちらが仕入れたマッチという火付け道具です、こちらを金貨三~五枚ほどで売りたいと考えております」
「マッチ?聞いた事がねぇ道具だな」
デメージは眉をひそめ小箱を手に取った。
「ふむ、ちっこい箱だな、火付け道具ってんなら――」
俺はマッチを一本抜き出して擦る。
シュッ、と赤い火花が散り、ぼうっと小さな炎が灯った。
デメージの目が一気に見開かれる。
「おおっ!?一瞬で火が……しかも煙もほとんどねぇ!?」
「はい、誰でも簡単に火を起こせる道具です。旅の野営や料理、火種起こしに便利かと」
「こりゃすげぇな!擦るだけで火がつくのか?」
「はい、この側面のざらざらした麺に赤い部分をシュッっと擦ると簡単に付きますよ」
箱の側面に擦りつけるとマッチにボッっと火が付いた、デメージはしばし炎を凝視し、やがてゆっくりと息をついた。
「いいな、これ!こんだけ火付けが簡単ならもうちょっと高くても売れるだろ?」
「皆さん使った事が無い商品に最初から高い値段を付けるのは難しいかなと思っておりまして、まずは金貨三~五枚で反応を見て調整していこうと思います」
「まずは様子見って所か、悪い判断じゃねぇな」
「じゃあ、そうだな……そういう見慣れねぇ商品ってのは奥まった所じゃ売れねぇだろ? 普段使う日用品とかならよ、それ目当てで奥まで来ることもあってもな、新商品なら宣伝の必要があらぁな?」
「確かに」
異世界の人からすれば、マッチは聞いたこともない謎の小箱だし当然の判断だろう
「そしたら人が多い入り口近くじゃねぇといけねぇな」
「しかし人が多い入り口近くはお高いんですよね?」
「気にしなくていいぜ?兄ちゃんは最初だし特別にちと値段は負けといてやろう、これだけ良い品仕入れられるならちゃんと売れて次回からは場所代だってちゃんと払えるだろうしな?」
「ありがとうございます!」
「ま、代わりにしっかり売れよ? 客を呼び込めりゃ市場も賑わう。
お前にとっちゃ信頼がつく、俺にとっちゃメンツが立つ、お前の商品目当てで人が一杯入るようになりゃ、お前の品以外もついでに買ってくようになる。
そうやって物が売れて他の市場よりも売れやすいと名が上がれば、さらに商人が増えて場所代も増えるって寸法よ。」
そういってデメージは豪快に笑った。
「普段ならよ、良い場所ってのは銀貨二~三枚(二万~三万)くらいするんだがな。んー、ちょっと負けてやるのと物納でそうだなぁ…」
デメージはマッチの箱を手のひらで転がしながら、にやりと笑う。
「こいつはそれなりに使う事になりそうだし、数あっても困らんだろ。なら三十箱で場所を貸してやるぜ」
「三十箱ですね、わかりました。」
マッチの箱が金貨5枚(500円で売るなら30箱で1.5万円程、場所代と物納という点からしたら大分割り引いて貰ってる。
「ありがとうございます! 本当に助かります!」
「感謝はいいから売ってこい、後次回は現金以外認めんからな。
にーちゃん、売れまくるようなら市場の目玉として次からはもっといい場所も用意してやる、期待してるぞ?」
「心得ました」
「よろしい!」
デメージはどんと肩を叩き、にやりと笑った。
「じゃあ行け、新顔の露店がどこまでやれるか楽しみにしてるぜ、場所まで案内してやるから、ついてきな!」
「はい、ありがとうございます!」
デメージが先頭に立ち、俺とデメトリアナ様は後に続いた。