異世界観光 作:爆乳女神抱き枕
喧噪に満ちた市場の中を進むと、焼き串の香ばしい匂いや、香辛料の刺激的な香りが鼻をつく。
客引きの声が飛び交う中、行商人たちが色とりどりの品を並べていた。
「いいですわねぇ! これぞ豊穣の光景ですわ! どの店も実りにあふれておりますわね!」
「ええ、活気があって凄いですね!」
やがて入口近くの空いた区画に辿り着いた。
布を敷くだけの簡素な露店スペースだが、人通りは多く、通りの視線も集まりやすい場所だ。
「ここだ。今日はこの場所を使え。客の目に触れる分、売れるかどうかはお前のやり方次第だぜ」
「はい!ありがとうございます!」
ついに異世界での初商売!頑張るぞー!
「じゃあまず、とりあえず商品を並べるか」
俺は鞄からマッチの箱を取り出し、そのまま地面の布の上に山盛りにしていった、小さな箱が積み上がり、ピラミッド型になっていく。
「おいおいおい! にーちゃん、山にしちゃ駄目だろ!」
横で見ていたデメージが思わず声をあげた。
「えっ、駄目ですか?」
「駄目に決まってんだろ! 見栄えが悪いし、客に商品で遊んでると思われるぞ。売る気あるのか!」
「むむむ! デメージ殿の言う通りですわ! せっかく良い商品、山に積むなど言語道断ですわ!」
「いいか? こういう小物は綺麗に並べて、客が手に取りやすいようにするんだ。ひと目で、なんだこれ?って思わせる並べ方が大事なんだよ」
「なるほど」
確かにスーパーとかの陳列って、見た目を整えるのが基本だもんな。異世界でも同じ理屈か。
俺は山にしたマッチを平らに並べ直し、整然と列を作って並べていった。
「おぉ……! なんだかそれっぽく見えてきましたわ!」
「いいぞぉ、そうやって店を作るんだよ」
「しかしどうやって宣伝したもんか? 声でもあげるのか? でも、その文言考えるのって難しいなぁ」
「うふふ、ここはわたくしにお任せあそばせ!」
「えっ」
驚いている間にデメトリアナが胸を張り、両手を広げる。
「驚異の神器!一瞬で火が灯る奇跡の箱! 買わぬは損ですわ!――と、こんな感じで高らかに叫べば、客はたちまち群がりますのよ!」
「いやいやいや! 大げさすぎて逆に怪しくありませんか!?」
「大げさなほうが耳に残りますし、こういった市場ではこういう大げさな物言いを楽しむ場でもありますわ」
言われてみれば日本の時だってたたき売りとかは売り手の大げさな口上を楽しむ物だった、こっちではそういう文化なのか。
俺はちらりと周囲を見回す。
確かに隣の露店の商人たちは、それぞれ工夫した掛け声を上げていた。
野菜を売る人は今朝採れたばかり最高の鮮度!買うなら今だよー!と大きな声で呼びかけているし、布を売る人は見てこの綺麗な布!引っ張ってもほら破けたりしない丈夫だよ!おひとつどうだい!?と呼びかけている。
シンプルでわかりやすい文言がいいんだろうか?
「すぐ火がつく道具ありますとか?」
「地味ですわ!」
「中々難しいですね……」
しかし思いつかない。こういう時はどうすればいいのか、日本ではどうしていただろうか?
腕を組んで考え込んでいた時、ふと昔の記憶がよみがえる。
そういえば、そういう感じの口上を聞いた記憶があるなぁ、YOUTUBEで見た包丁の実演販売の人の真似をしてそれっぽい実演販売をしてみるか?
「やっぱり実演販売とかがいいですかね?」
デメトリアナがきょとんと首を傾げる。
「実演販売ですか?」
「ええ、俺の世界の商人がやってた売り方で、わざと大きな声で調子のいい口上を言いつつ実際の商品の凄い所を見せるんです」
「へぇそんな方法があるのですわね!」
「ただ実際にやった事はないのでうまく行くかはわかりませんが」
「最初から完全に全てうまく行く方なんておりませんわ!失敗して当然というくらいの心持ででまずはチャレンジですわよ!」
そう言われればそうか、失敗を恐れて何もしなければ結局売れないだろうし、とりあえずやってみようという事になった。
「――へいらっしゃい! よってらっしゃい見てらっしゃい! 一擦りで火がつく、奇跡の道具マッチだよー!」
「マッチは火が付かないと意味がない、どんな物にでもさっと火を移せないといけない、料理にたばこに暖を取る時、明かりを付ける時にももう手間取らない!」
そういってマッチに火を付ける
「今の見ました?こんなに簡単誰でもできる!ほらもう一回!」
そういいつつ連続でマッチに火を付けていく
「これだけ簡単に火付けできる事がありますか?もうほこりを集めて火打ち石をカチカチする必要なんてないんです! はいもう一回!さらにもっかい!」
「ね?簡単でしょ?今までみたいに苦労することなんてもうないんです!」
「今日はね、数あんまり持ってきてないから気に入ったら早めに買わないと売り切れちゃうよ!欲しいなら急いでね!」
「さて、ここに取り出しましたるは木片でございます、小さいけどね、普通はほこりやら木屑やらに火打ち石で火を付け、火が付いたら紙とか布切れとかに火を付け、そうやってだんだんと大きくしてからやっと木片に火を付けるわけです」
「でもマッチならスッと擦って出てきた火を端っこに押し付けてやるだけで、ホラ!もう小さな木片に火が付きました!」
「いやぁこれだけ簡単に火が付く品なんて高いと思うでしょ? 今回ね、これだけ凄い品が1箱に40本入って、なんと?お兄さん?驚愕のお値段ですよ? 銅貨二枚(2000円)!」
回りの顔を見渡して、渋い顔が多いのを見る、そして渋い顔をして、わざと苦しそうに言葉を続けた
「……じゃーーー、お高いね!みんな反応悪いもんね!?じゃあ 銅貨1枚(1000円)でどうだ!?」
といいつつ再度回りを見回す、周りはそのくらいの値段なら試してみるかな?といった顔で相談してるが、今回の販売予定価格はもっと下だ、まだ値段を下げる!
「……でもまだ高いね!みんなの渋い顔見えてるよ!?」
俺が声を張り上げて煽ると、周りの人々がざわざわと集まり始める。
興味深そうに覗き込む者、子どもを肩車して見せている父親、胡散臭そうに腕を組む老人、視線が一気にこちらに集まった。
「……おい、本当にそんな簡単に火がつくのか?」
「紙も布も使わずに、いきなり木に……?」
「おお、しかも煙が少ない!」
周りにできた人だかりから色々なささやきが聞こえる。
「うーん、じゃあ金貨八枚! ええいこれでどうだ!」
あたりを見回して反応を伺うフリをする、金貨5枚で売るのは決まってるからフリでしかないがこういう芝居がかったのもお客さんが喜んでくれるかなといれてみた。
「ええっ!? もう一声!?」
「しゃーない、わかった! もってけドロボー!金貨五枚で売るぞ!中身40本入りでこのお値段!さぁ買った買った!今だけの値段だよー!」
「五枚!?火打ち石より安いじゃねぇか!」
「こりゃ安いぞ!」
「旅の荷物も減るし、こいつはありがてぇ!」
一人の旅人風の男が前に出てきて、腰の袋から金貨5枚を取り出した。
「よし、俺が1箱買ってみるぜ……おい、これで頼む」
「毎度あり!」
俺はマッチ箱を一つ手渡した。男はその場で試しに一本取り出し、不器用に擦って見せた。
――シュッ。
ぱっと炎が灯る。
「おおすげぇ!本当に火がついた!しかも火打ち石と違って一発だったぞ!」
その瞬間、周囲から歓声が上がった。
「おおおっ!」
「こりゃすげぇ!」
「わしも一本!」
「俺もだ!」
あっという間に人が押し寄せ、露店の前は小さな人だかりに変わっていった。
押さないでくださーい!順番にご対応しまーす!並んでくださーいと言いつつ兎に角お金を受け取り商品を渡していった、自分が持ってきた商品が飛ぶように売れていくのはなんだか楽しい。
「こ、これが……商売の快感!」
「ふふふ、素晴らしいですわ!やはり稀人と私の出会いは運命だったのですわ!」
「口上がうまくできるかわからなかったけど……やってみればできるもんだなぁ。YouTubeには大感謝だ」
そう言いながらも、俺の手は休む暇なく動いていた。
次から次へと客が訪れ、マッチの箱が飛ぶように売れていく。
「兄ちゃん、三つくれ!」
「俺は十だ!」
「こっちは家族の分だ、まとめて頼む!」
あっという間に山になるほどあった商品は減っていき、気がつけば残りわずか。
そして――
「すみません、これがラスト1個!これで品切れでーす!」
「おお……残念だが、次もまた頼むぞ!」
そうして最後の客に商品を渡した瞬間、リュックの中は空っぽになった。
深く息をつく。
「売り出したマッチは……結局500箱以上あったのに、一時間もしないうちに売り切れたな」
隣でデメトリアナが満面の笑みを浮かべる。
「素晴らしいですわ!」
「いやぁ、youtube様様でしたね、これだけ売れるとは思ってませんでしたよ。」
「うふふ、ゆーちゅーぶ?のおかげだなんて謙遜なさらなくてもよろしいのに!」
こうして市場での初商売は成功を収めたのだった。