鬼哭廻牢~追憶・天~ 作:鯉庵
次回はちょっと時間が空くかもです。
――――
我の識る中で一等憎らしい化け者を想って歯噛みする。
咬み合わさった歯ぎちぎちと軋みを上げた。
口の端から赤い血が筋を作って、砂に浸みこんだ。
我は無様にも砂の上に仰向けになって、薄気味悪い月を見上げていた。
先ほどクソ野郎に声をかけてきた莫迦と姿を隠して我を憐れんでいる猿が一匹。
後で殺す。
俺が
形は残って居るし、これならば戻すのにそれほど労はかからない。
我は舌に
【我、
【我、
【我、
『ぜんwwwwwwwwwwなりwwwwwwwww』
『むびゅうぅぅぅwwwwwwwwwwwwwwwww』
『ば、ばばばばwwwwwwwwww』
『だ、ダメダメダメ!wwww 絶対声出しちゃだめ! がんばれあーし、たえろあーしwww だめ、声出ちゃうぅ! 絶対ダメなのに声でりゅwwwwwwwwwwwww』
ブチ殺す。
姑息にも姿を隠したままの猿が声を殺して、
絶 対 に ブ チ 殺 す。
瞋怒で目の前が真っ赤に染まった。
こんな乱れた状態では
一つ、
両掌を合わせ合掌すること。
一つ、
一つ、
心を清らかに保ち
之を
この三つのうち、
心密と身密を、だ。
あの忌々しい
我は、観え過ぎる
無明が
深く瞑想する。
意識を奥へと沈めていく。
其処に我《えご》の濁流が押し寄せた。
我《おれ》の阿頼耶識。
凡夫で在ったならば、仮に
【
光明真言の梵字が形に成って世界へと顕現。
千切れる前の
「おい、そこで笑い堪えてる
「死んだぞてめぇぇぇぇえ‼‼」
地団太を踏みながら猿が姿を現した。
蟀谷と唇がわなないている。
単純で助かる。
我《おれ》は
猿は驚きはない。
葉巻を咥え、火を点す。
細く立ち昇った紫煙が、独特の甘い匂いを我《おれ》の鼻腔に届けてくる。
我はこの
遥か未来で人が造った
人は好い。
欲で苦しむのは魔も同様だが、人は魔よりも遥かに脆い。
その刹那の中で、連綿と紡がれる叡智。
それでこんな嗜好を生み出すのだから面白い。
「アンタ、あーしに喧嘩売ったよね? そーだよね?明確に、確実に。あーしのこと
「事実だろうがよ。その年で
「なっ⁉ 色目なんて遣ってないし! あーしはただ!」
褐色の肌を赧くして視線を逸らし、言葉尻が小さくなってゆく。
端的に言って気色悪い。
「その若造りした喋りと声色を辞めろ気色が悪い。寒気が奔る」
言われた猿が絶句。
好機。
猿の貌が
不見を発動させるよりも前に斬る。
あらゆる
その最たるものが三密であり、当然だが先手を取る
風天の権能を顕現しているにしても、疾すぎる。
莫迦げた直感というべき代物なのか、我《おれ》の
腐っても
猿の纏う空気が変貌している。
忌々しいことだが、千載一遇の
「不見」
少なからず、
「
耳朶が
「――――」
無様に苦悶するが、声を発することは叶わなかった。
吹き飛ばされる直前に耳にした
それに因って声を封じられた。
それでなくとも、骨が砕けて激痛でまともに口もきけぬであろうが。
阿頼耶識から備蓄していた札を引っ張り出して、簡易的に
砕けた骨が、
未だに宙に流されるままの肉体を制御し、体勢を立て直す。
砂を削る音が耳朶を掠める。
風に乗った猿が
しかし、詰みと言うほど劣勢でもなかった。
札には、朱文字でこう書かれていた。
【
六観音の一尊たる十一面観音が有する権能のひとつ。
三密のうち、口密を欠くため効果は気休め程度だろうが、それでも無いよりは、マシというもの。
正面を覆う結界と猿の刺突が衝突。
重ね掛けした結界が数瞬の時を稼ぐ。
砂の性質を変化させて、燃えやすく
熾った火華に砂が着火し、爆轟を生む。
凄まじい熱波と衝撃が奔った。
――――悔しいが、賞賛に値しよう。
猿は風の鎧を周囲に膜のように結界を張り巡らせ、爆風に乗って遥か上空に逃れたらしい。
一方、
宙に投げだされ、体勢を整える間もなく猿が猛追してきた。
上空から引き絞られ、放たれた矢の如く迫りくる。
衝撃を殺すこと叶わず、
宙に浮いたまま、猿が
気に食わない。
――――思考するのが、面倒になる。
猿の
やれぬこともないが、手間がかかり過ぎる。
何より、
それは、
釈迦の創造した門を軽々と破壊した貔叉邏を目の当たりにした時、我《おれ》の中で苛烈な嫉妬の炎が猛り狂った。
しかし、それが
眼前の天部最強をブチのめしたい。
そう思った時には、跳んでいた。
金棒と
きちきちと火華が熾る。
猿と
猿の瞳は、相も変わらず冷え冷えと醒めている。
酔い痴れている
数合切り結んだ後に、入れ替わって砂上へ降り立った。
間を置かず、正面衝突。
互いの得物が、甲高く鳴いた。
残響は、衝撃波を伴って闇を薙ぐ。
接近戦の読み合いに於いて、
未来視に因る絶対的先取。
阿頼耶識に渦巻く種子を読み取るのだ。
しかし、幾合切り結んでも一向に猿は崩せなかった。
猿の動きは
予知に狂いはない。
――――否。
ありえん。
しかし――――。
「ばーか」
声が耳に届く。
不言の権能を解いたらしい。
「己の権能に頼り過ぎて、経験が足りない。加えて慢心」
業腹にも、我《おれ》へ
「
加えてその
私が何をしたか、気付きもしない」
口調に遊びがなくなっている。
猿は淡々と
「私の有する権能は、不見、不言、不聞の三つ。もう全部使っているのよ」
「あ?」
一瞬、何を言われているかわからなかった。
「不聞。これは声で発さなくても発動させられる。
不言はこの時に切れたけどね。そして、私は既に不見を顕現させている」
不見を発動させている?
「不見は私という存在を目に映らなくする権能。
アンタや貔叉邏には見つかったけどね。これは基本」
「他にも応用が利くの。
例えば、相手の視界と自分の視界を入れ替える、とかね」
「アンタ自分が
アンタができる事が他者にはできないと思わないことね」
肉体の内側で燃えるように血が沸き立つのを自覚する。
ふっと、猿の唇が笑みに笑みが点る。
「
言われた瞬間、
なら、今まで我《おれ》が観ていた予知は――――
「あんたの動き」
――――鳩尾に衝撃。
札を用いる事すら許さぬほど疾く、我《おれ》の意識は刈り取られた。
「元最強嘗めんなし」
緯戮はレスバ弱い(確信)