鬼哭廻牢~追憶・天~ 作:鯉庵
戟と偃月刀を勘違いしてました。
まぁ、戟と呼称しても問題はなさそうなので
――――ワタシは生まれながらに最強だって信じて疑はなかった。
ワタシは
好きな時に寝て、好きな時に起きて、好きな時に食べて、好きなように遊ぶ。
たまにワタシの邪魔をしてくる
だって、見たくないものは、見なければ好いだけだし、聞きたくない事は聞かなければいいのだ。
うるさかったら黙らせてやればいい。
そうやってワタシは自由に生きてきた。
ある時、ワタシとよく似た生きものを目にした。
けれどソイツはワタシみたいなきれいな毛にも覆われていないし、尻尾もない。
手はワタシ以上に器用に動かせるみたいだった。
ワタシはひどくそいつに惹かれた。
だって、ワタシみたいな綺麗な毛皮はないのに、キレイな
だから、ワタシはソイツと仲良くしようと考えた。
「ねえ、お前。お前はワタシと似ているね、だから仲良くしてやろう」
「哀れなる
むち? むちとはなんだ。
ワタシはワタシの言葉を拒む奴が嫌いだ。腹が立つ。
せっかく仲良くしようと思ったのに。
だから、ワタシは奴の口が利けないようにしてやろうとした。
そうしてやれば、みんなワタシに泣いて謝るのだ。
きっとコイツもみんなと同じで泣いて謝るに違いない。
――――けれど、そうはならなかった。
「哀れなる
「どうしてだ! どうしてお前には通用しない! ワタシはワタシの言うこと聞かない奴は嫌いだ! どこかへ行ってしまえ!」
ワタシはいつものようにワタシの見たくないものをみないためにソイツを
「哀れなる無恥なる獣よ。ワタシは何処へも行かないよ」
「なぜだ! どうしてお前はワタシの前にまだ居るんだ! あっちへ行け! どっか行け! ワタシはお前を見たくない。声も聞きたくない! 何も喋るな!」
ソイツは、優しい瞳で私を見詰て言った。
「哀れな無恥なる獣よ。教えてあげよう。私は私であって、私ではない」
「何を訳の分からないことを言っている!」
ワタシは、いつも獣を追い払うときに使っている金の棒を毛から造って、ソイツを叩こうとした。
けれど、ソイツは棒でいくら叩いても殴ろうとしてもどうにも出来なかった。
「哀れな無恥なる獣よ。聞きなさい。
私は
だから、何処にでもいるし、何処にも居ないよ」
――――私はソイツが満足するまで聞きたくもない話を聞き、見たくもない
◆◆◆
――――私は、久しく忘れていた恐怖という感情をこの時、鮮烈に思い出していた。
眼前で、崩壊する鉄の門。
忌々しくも私に嫣瑩と名を与え、私を縛った釈迦が創造せし門を崩壊している。
その
釈迦が創造せし鉄門扉はただの門ではない。
物理的存在ではなく、釈迦がそのように定めた門を破壊だと!?
私は恐怖と混乱の中、あえて口調を軽くして声に出す。
「あ、ありえない、ありえないありえないありえない! は? 意味わかんない! 釈尊が創造した門を破壊した!? 物質ではないのよ!? 概念そのものを破壊!? 何それ!? え? どうするのこれ?! どうすればいいの!?」
口出して改めて言うと、目の前の事象を何とか受け入れられた。
なんだこの出鱈目加減は。
何処の誰だこんな莫迦げたことをしでかした阿呆は。
「ふぁ!?」
我ながら間抜けな声が口を衝いて出る。
眼前に迫る巨大な瓦礫を不見に因って
物体ではないのだから別段飛ばす必要もないか、と今にして思えば考え付くが如何せん初めての緊急事態だ。
もしあのまま瓦礫とぶつかって居たらどうなったか見当も付かない。
「なんだ、存外脆いな」
男の声が、私の耳朶を打った。
低く重い声だったが、軽い調子で耳に心地好い声。
砂塵に覆われ、姿は見えない。
が、間違いなく厄介な相手であろうから私に油断はない。
砂塵の帳を払うように、銀の軌跡が奔った。
――――戟。
振るわれた戟に因って、砂塵の帳が闇へと溶けて消える。
巨大な身の丈ほど有る長得物を軽々と扱い、肩に担ぐ。
通常の其よりも、遥かに太く長い刀身。
緩やかな弧を描いて、まるで獣の牙をそのまま研いだかのような禍々しい形をしている。
刀身の根本で、白い虎の毛皮が揺れている。
長い柄は、白い。
武骨な形で、それを包むように黒い布が巻かれている。
まるで女体を隠す袈裟を想わせた。
――――黒鬼。
その男を端的に表すならこれに尽きるだろう。
長い黒髪には、血のように鮮烈な赤色が混じっている。
前髪を後ろへ撫でつけ、髪のひと房が額に流れていた。
白い額には、漆のような艶のある角が伸びている。
そういう貌を私は厭になるほど観てきた。
自信に溢れ、己を過信し最強を謳う阿呆の貌。
けれど、黒鬼の燃えるような赫瞳と視線が重なった瞬間。
私は深く絶望した。
「不見!!!」
私は
そんな感覚は釈迦と対面した時だって感じたことはなかったのに。
けど、黒鬼は違う。
きっと私など片手で捻り潰されてしまう。
それほど、絶対的な隔絶を感じたのだ。
――――けれど、同時に。
胸のどこかにいつも感じていた寂寥は、溶けてなくなっていた。
◆◆◆
――――傲慢な
滑稽なほどの
あれだけの
私の一世一代の告白を邪魔した恨みが吹き飛ぶほどの憐れみを覚え、私は龍と殺し合う。
確かに
けれど、
処理能力の高さを過信して、
無限に沸いてくる選択肢。
それは確かに素晴らしく思えるが、結局のところ選ぶのは一つ。
多すぎる選択肢は、逆に邪魔でしかない。
わざわざ権能を使わなくとも、蓄積した
加えて、あの
笑えるほど簡単に
おかげで
私の嘲笑交じりの
「元最強嘗めんな」
口にして思う。
私この
嘗て釈迦に言われた
私は思い知った。
上には上がいる。
それに――――
最強はとても……とてもとても孤独だと、私は知れた。
嫣瑩「っち、反省してまーす」
釈迦「 」