クラス転移したけど、俺以外全員カードにされていた 作:ワイやワイ
「……です。効果がありません……」
「……もう一度だ……」
「……駄目です。レジストされてしまいます……」
なんだ? 何が起きている? さっきから、身体に何かされている感覚がある。生温い空気に包まれ、次第に身体が熱くなり、グッと締め付けられる。しばらくすると締め付けは弱まり、身体の熱も引く。
この感覚が何度も繰り返す。
夢ではない。リアル過ぎる。
瞼を開いても暗闇が広がったまま。目隠しをされているらしい。
グッと手足を踏ん張っても身動きはとれない。ベッドのようなものに固定されているようだ。
「しぶとい野郎だな。こいつ以外、転移させた奴等は全員、カード化完了しているのに……」
「魔道具の出力を上げてみます」
「そうだな。カード化の難易度が高いってことは、強力なカードになる可能性が高い。最大出力で試してみよう」
周囲からは二つの声が聞こえる。二人とも男だ。俺の身体に何かしているのは、こいつららしい。
人を拘束したうえで、勝手に医療行為? とんでもない奴等だ。今すぐぶん殴ってやりたい。怒りで拍動が速まり、頭に血が上る。拳を握り渾身の力で拘束を解こうとするが──敵わない。
「室長! 出力、最大になりました!」
「よし、照射しろ!」
「はい!!」
これまでにない熱が俺の身体を包んだ。どんどん熱くなり、身体が締め付けられる。何かが俺の中に入ってくる。
ふざけるなよ! なんだよこの状況! 何の説明もなく話を進めやがって!! クソおぉぉぉおおお!! 抗えぇええええ……!!!!
「室長! 魔道具が制御不可能になっています!!」
「なに……!? 今すぐ魔石を取り外せ!!」
急に辺りが慌ただしくなる。しかし、俺の身体は熱に包まれたまま。
「駄目です! 魔石が融解して完全に魔道具と一体化しています!」
「マズイ! 爆発するぞ……!! 逃げろ……!!」
おい……!! どういう状況だよ!! 勝手に爆発させんじゃね──。
ドゴォォオオンン!!
物凄い衝撃。一瞬、身体が浮き上がるような感覚がある。
痛みは……ない。右腕に力を入れる。今までの強度が嘘のように、すっと腕が上がった。左腕も同じ。どうやら爆発の衝撃で、俺の拘束が解かれたらしい。
顔に手をやり、視界を塞いでいた目隠しを取る。
随分と久しぶりに前が開けたような感覚。
崩れた天井の向こうには綺麗な星空が広がっている。俺の置かれている状況を考えると、なんだか腹立たしい。
むんずと上半身を起こし、周囲を見渡す。
俺は、随分と広い部屋の中にいた。周りには俺が寝かされていたのと同じような寝台が何十もある。海外の戦争映画で描かれる野戦病院のような感じだ。
しかし、寝かされていたのは俺一人。一体、どういうことだ? わざわざ、こんな大仰な施設は必要ないだろうに……。
ここで、さっき聞かされた会話の内容を思い出す。
『しぶとい野郎だな。こいつ以外、転移させた奴等は全員、カード化完了しているのに……』
『魔道具の出力を上げてみます』
『そうだな。カード化の難易度が高いってことは、強力なカードになる可能性が高い。最大出力で試してみよう』
転移させた奴等は全員、カード化は完了しているのに? どういう意味だ? カード化って……。
俺はベッドから降り、周囲の様子を窺う。
爆発の影響で天井は吹き飛んでいるものの、建物自体から火の手は上がっていない。塵芥が舞っているだけだ。
俺はズボンのポケットからハンカチを取り出し、口元を押さえながら歩く。出口を求めて。
「うん……?」
人のいない空の寝台の上に、銀色に輝く一枚のカードがある。思わず手を伸ばし、ひっくり返す。
「豚マン……!?」
カードに描かれていたのは俺のクラスメイトの豚まんの姿だった。豚マンという渾名の由来は、弁当としてコンビニの豚まん(三個)を持ってきていたことに由来する。苗字は中萬だった気がする……。リアルでも心の中でも「豚マン」としか呼んでいないので、少々自信がない。
「しかし、なんで豚マンがカードに……」
再度、奴等の会話が脳内で再生される。
『転移させた奴等は全員、カード化完了しているのに……』
だんだん思い出してきた。俺は高校の教室でいつも通り授業を受けていた。数学の時間だった。前日寝不足だった俺はうつらうつらと船をこき、先生に注意された。その時──。
突然、教室が揺れ始め、昼間にも関わらず窓の外が一瞬で暗闇に包まれた。クラス中がパニックになり、悲鳴が続いた。
俺は脚を震わせながら立ち上がり、廊下への引き戸を開けようとしたが、ビクリともしない。
その後、揺れはどんどん激しくなり、立っていることも出来なくなった。床に放り出され、やがて意識を失い……気が付いたら、目隠しをされてベッドに拘束されていたというわけだ。
「待てよ……」
教室ごと、この訳の分からない事態に巻き込まれているとしたら、豚まん以外にもカード化されている奴がいるかもしれない。
なんの確証もないが、なんとなくカードを集めておいた方がいい気がする。さっきいた奴等は俺をカード化することを目的としていた筈だ。
カードには何らかの意味や価値があるのかもしれない。
俺は周囲を警戒しながら、ベッドの上に隈なく視線を這わせる。
「ない……」
既に回収されている? それとも爆風の影響で床に落ちた?
俺は床に這いつくばり、埃を払いながらカードを探す。
「あった!」
見つけたのは数学教師のエロ橋だ。エロ橋は三十代後半の長身の女で、とても胸がデカい。尻もデカい。ボンテージ系のイベントに出入りしているという噂のある、謎の女教師だ。苗字は確か三橋だった……気がする。エロ橋としか呼んでいないので自信はないが……。
その後、俺は五枚ほどカードを見つけ出した。
六枚目を探しているところで人の気配を感じ、慌てて壁の亀裂から外に飛び出し、そして闇に紛れた。