スバル「強くてニューゲー……これ本当に強い?」   作:空見大

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王城攻略戦

 世界と自分の輪郭が徐々にあやふやになっていき、スバルは己が死んだことを理解する。

 痛みの伴わない死に戻りは実感が湧かず、自分がどうなったのかすら一瞬忘れてしまうのだ。

 体感にしてそれがどれほどだったのかすら分からない程の時間を挟んで、ナツキ・スバルの意識は爆音と共に無理やり体に引き戻されていく。

 魂が体の輪郭を思い出し、五感がゆっくりと戻っていくような感覚と共に、聞きなれた声がスバルの耳に届いた。

 

「──な、なんじゃ!!!」

 

 ボルドーの叫び声に合わせて騎士達は後続の爆発に対して身構える。

 そんな彼らを無視してスバルはユリウスの服を掴んで扉へ向かって直進した。

 

「エキドナ、怠惰の大罪司教だ! 指先が紛れてる!! 憤怒と色欲もだ!!」

 

「大罪司教だと!? 何を馬鹿なことを!」

 

「状況の再確認を急げ!!」

 

 疑問符を浮かべる周りも、なぜ自分を引っ張ったのかと驚いているユリウスも無視して、スバルはそれだけをエキドナに伝える。

 周囲の人間はこの場で聞くはずのない名称に対して反応を示すが、スバルはそんな彼らにかまっている暇はない。

 だが背後から聞こえてくるエキドナの声だけはスバルの耳にしっかりと届いた。

 

「スバル!! 何度目だい!?」

 

「──まだ6()()()だ!!」

 

 そうこう言っているうちにゆっくりと玉座の間の扉が開き、ペテルギウスの姿が見える。

 相も変わらず綺麗な礼をしながら己が主役だと言わんばかりの登場は、否が応でも周囲の人間の目線を強く惹き付けた。

 

「初めまして、私は魔女教大罪司教──」

 

 前回と同じように先行して走るユリウスは、再度確認するようにスバルの方へと目線を向けてくる。

 攻撃してもいいのかと問いかけるその視線に対して、スバルは大声を上げて肯定した。

 

「殺さずやっちまえ! ユリウス!!」

 

「承知した!」

 

「──アデブっ!?」

 

 剣の腹で思いっきり頭部を殴られたペテルギウスは、鼻血を垂らしながら大きく体をのけぞらせた。

 予想外の一撃に脳の処理が追い付いていないのか混乱した表情のペテルギウスだが、ユリウスの一撃でも完全にその意識を絶つことは出来ない。

 そしてペテルギウスという精霊は意識がほんのわずかでも残っているのなら、己の役割を全うすることが出来る。

 

「──見えざる手ェぇぇっ!!!!」

 

 一瞬大きくペテルギウスの輪郭が歪んだかと思うと、その体の内側からあふれ出すようにして大量の腕が外側に出てくる。

 大小様々なそれは全開のペテルギウスのそれに比べれば本数も太さもたかが知れているが、それは彼がいま指先の体に憑依しているからにすぎず、脅威度という面ではさして変わった部分はない。

 

「離れろユリウス!!」

 

 咄嗟に叫んだスバルの言葉に反応してその場から離れるユリウス。

 混乱したペテルギウスの出した見えざる手によって周囲に控えていた魔女教徒達は肉片へと変えられており、少しでもスバルの声が遅ければユリウスも同じように肉片として他のと混ぜられていただろう。

 状況は前回と比べれば少し悪いといった程度か。

 騎士の中から犠牲者が出る事を警戒しユリウスにペテルギウスを殺させなかった影響で、魔女教徒の排除は偶然うまくいったが肝心のペテルギウスがまだ残っている。

 玉座の間の出入り口はペテルギウスが抑えているため動けず、騎士達は状況整理と王選候補者護衛の為に玉座の間中央で隊列を整えていた。

 

 伝えられる口と時間があればどれだけよかったか、そんな事を考えながら暴れのたうち回るペテルギウスを前に手を出せないでいるスバル。

 そんな彼の肩を優しくたたく男が居た。

 

「状況はエキドナ様から聞いた。一歩遅れたけどボクも参戦するよ。スバル、どうすればいい?」

 

「ラインハルト……っ!」

 

 事情を説明していない上にこの異常事態。

 どうしたものかと悩むスバルだったが、その背後でエキドナは現状を冷静に分析し、自分が何をするべきかを理解していた。

 王選候補者達と賢人会を守るようにして結界を生成し、そのフォローに入ろうとしていたラインハルトにスバルの元へ指示を仰ぎに行くよう説き伏せたのだ。

 

 ユリウスの言葉はあるもののラインハルトからしてみればまだ信用ならないナツキ・スバルという青年。

 そんな青年の言葉を聞いてほしいと頭まで下げて見せたエキドナと、早く動けと檄を飛ばすフェルトを見て、ラインハルトはスバルに従う事を決めた。

 

「騎士の中に魔女教徒がいる。特徴は懐に本、あと自爆用の何かを持ってる。人数は4人くらい、無力化できるか?」

 

「……分かった、10秒頂くよ」

 

 たった10秒で紛れ込んだ魔女教徒を本当に炙り出せるか?

 そんな疑問はスバルの中に産まれる事はない。

 ラインハルトがやると言ったのだから、スバルに出来るのはそれを信じる事だけだ。

 ペテルギウスが状況を正確に認識できていない今のうちに、やれるだけの手は全て打つ必要がある。

 

「ユリウス、全力で走ってベアトリスを見つけてきてくれ。城内には大罪司教が2人いるし腸狩りもいる。後でラインハルトも行かせるから悪いんだけど、ベアトリスと協力して大罪司教どっちか止められるか?」

 

 言っていてかなりの難題であることはスバルとて理解している。

 相手にしなければいけないのは憤怒と色欲、これが強欲や暴食であれば対策のしようも有ったが、大罪司教の中でも特に対策が面倒な二人を相手にする必要があるのだ。

 ユリウスが二人の権能について知らずとも、つい先日戦ったばかりの腸狩りがついでに紹介されるような相手が弱いはずがなかった。

 だがユリウスはそんなスバルの言葉を聞いて真っすぐに見つめ返すと、ゆっくりと首を縦に振る。

 

「そうしなければならないのだろう?」

 

「……ああ。やらないと大勢人が死ぬ。対処法はベアトリスに聞いてくれ」

 

「ならば私の答えは決まっている。怠惰は君に任せてもいいんだな?」

 

 ラインハルトとユリウス、この2名を失った状態でペテルギウスに当たるのは初めての事。

 見えざる手が見えていて、いまのペテルギウスは指先に見えざる手を預けているため相当に弱体化しているとはいえ、それでも油断ならないのがあの男だ。

 正直スバルの戦闘能力ではどうあがいても勝てるビジョンは見当たらないが、少なくともあの黒い煙さえペテルギウスに出させなければ騎士団と共に戦う事が出来る。

 勝ちの目はゼロではないと、スバルはそう確信していた。

 

「貧弱なことに定評はある俺だけど、幸運なことに相手の出来る事は大体知ってる。何とかして見せるさ」

 

 それだけ言ってスバルがユリウスの背中を叩くと、彼は笑みを浮かべてその場を後にする。

 アナスタシアの事が心配でならないだろうに、それでも騎士としての役目を順守する辺りさすがのユリウス・ユークリウス。

 時間稼ぎをするために鞭を持ってスバルがペテルギウスと相対すれば、適当に動かしている見えざる手が目の前を掠めるように飛んでいく。

 

「礼を持って尽くした相手に! 暴力で持って言葉を返すその行い!!実に怠惰ァァァッ!!!」

 

「──っぶねぇな! そう何回も潰されてたまるか!!」

 

 言いながら近くに落ちていた瓦礫をペテルギウスに向かって投げつけると、予想よりきれいに頭部に当たってペテルギウスから嗚咽が漏れる。

 

「――ぅぐっ!」

 

 だがそんな一撃では意識を刈り取ることが出来ず、スバルを敵だと認識したペテルギウスが逃れられない量の『見えざる手』を差し向けるが、それはスバルにあと少しで指先が届くかというところで全てが薙ぎ払われる。

 圧倒的な一撃を前に錯乱状態だったペテルギウスが冷静さを取り戻し一歩引くと、その攻撃を巻き起こした当の本人は涼しい顔をしていた。

 

「スバル、とりあえず制圧は完了した。次は?」

 

 さしものペテルギウスとはいえ、ラインハルトを前にしてはうかつな攻撃をすることもできない。

 1回目の周期でラインハルトが一人で担当すれば、見えざる手を一本も外に漏らさずにペテルギウスを完封できることは既に検証済み。

 だからこそスバルは落ち着いて、いまラインハルトに共有するべきだと思う情報を、一つ残らず彼に伝えることにする。

 

「さすがだぜラインハルト。ユリウスが大罪司教を止めに行った。ちょっと詳しく喋るから、守りながらで悪いけど聞いてくれ」

 

 見えざる手の説明をせずとも、何故か見えざる手を防ぎきるラインハルト。

 おそらくは先ほどまでスバルが攻撃を避けていたところから相手の攻撃手段を予想し、ヴィルヘルムと同じように光の屈折などで見ているのだろう。

 ユリウスに対して発した「殺すな」というスバルの言葉を覚えているのか殺すような事はしないが、隙を見て先程のスバルのようにラインハルトが石を投げると、ペテルギウスの肉が抉り取られていく。

 当然のようにそれらをこなしながら、ラインハルトは憤怒と色欲の権能、見た目についてスバルからの共有を受けてみせた。

 

「出来れば憤怒を担当して欲しいけど、そこらへんは現場判断で。長くなったけど大丈夫そう?」

 

「ちゃんと理解した、大丈夫。ここは任せるよ、スバル」

 

「ああ、そっちこそ頼んだぜ、ラインハルト」

 

 スバルの言葉にうなずいて見せたラインハルトは、目にもとまらぬ速さで大罪司教たちの元へと向かっていった。

 これで二人の大罪司教を抑える目途は立ち、この玉座の間さえ制圧しきれば目に見えている課題は全てこなせたことになる。

 口で言えば簡単なことだが、実際にこなすとなるとあまりにも難しい。

 完全に正気を取り戻したペテルギウスは満身創痍に近い肉体でありながらも、スバルを脅威だと認識し、その双眸をスバル1人に向ける。

 

「実に勤勉! 素晴らしい!! デスが、剣聖の居なくなったこの状況で一体どうするおつもりデスか?」

 

「俺的には全部諦めて尻尾巻いて帰ってくれるのがありがたいんだけど? そっちの企みは見抜いてるわけだしさ」

 

「福音書の記述は絶対! たとえどんな困難が立ち塞がったとて、己が怠惰を言い訳に逃げる事はあってはならないのデス!!」

 

 ユリウスとラインハルトという盾を失ったスバルに対し、ペテルギウスは一切の油断をしない。

 たとえどのような手段がやってきたとしても絶対に殺さんと伸ばされた『見えざる手』を、スバルはすんでのところで回避し続ける。

 傍目から見ていれば、なぜスバルが避けられるのか、何が起きているのかすらもまともに判別は付かなかっただろう。

 死が間近に迫っているからなのか、いつもより以前と近い感覚で動く身体に感謝しながら、スバルは次の一手を起こす誰かを期待する。

 状況を作り出したスバル、ラインハルトを動かしたエキドナ、ここまではスバルがどうにかできる範囲で、次の一手を起こせるのはエミリア陣営の誰でもない。

 この国でラインハルトの次に強いとされる人物、それを動かす事こそがスバルの役目だ。

 自らの働きで引き摺り出すためにペテルギウス相手に一人で大立ち回りを見せるスバルの背後で、エキドナが張った結界のギリギリに立つプリシラが口を開く。

 

「──マーコス・ギルダーク。剣聖と最優が居なくなったいま、其方が何故前に出ぬ?」

 

 彼女が呼んだのは王国騎士団長。

 巌の様な人間と称される彼はラインハルトに次ぐ実力者だと言われ、現時点でのユリウスよりもその実力は評価されている。

 彼が前線に加われば怠惰相手にも勝算の目は見えるし、スバルが期待しているこの状況をひっくり返すための札は彼だ。

 

「私の役目は皆様をお守りすることです。魔女教徒達が襲撃してきた今、私がここから動く事はできません」

 

「動くべき時に動けねば、王国の盾の役割の意味も問われよう」

 

「……なんと言われても動けません。あの少年の言っていることが本当かどうか、それ以前にあの者がここに敵を招き入れた可能性も──」

 

 不意に口をついて出た彼の言葉は、ここまで彼がスバルの助力をしなかった最も大きな原因だ。

 他の騎士団も含めて、彼らが王選候補者や賢人会の護衛に回りスバルへの助力を最小限に留めているのは、ナツキ・スバルという少年の身元が分からず信用できないからである。

 見ず知らずの少年がこれほどの大惨事を引き起こすなどできるはずがないという思考にたどり着かないのは、王城襲撃という前代未聞の大事件を前に、騎士団員達も浮足立っているからだろう。

 

 騎士団長の言葉を聞いて口には出さないものの同意する者も多く、広間には攻撃を仕掛けるペテルギウスとそれをなんとか避けるスバルの音が響くばかり。

 つまらなさそうな表情を浮かべたプリシラは、大きくため息を吐くと空中で何かを掴むように手を出し――

 

「――お願いします!!」

 

 会場内に大きな声が響き渡る。

 その声が発せられたのはプリシラよりも更に後ろ、エキドナの横に立つエミリアだ。

 彼女はこの戦闘が始まってからいまに至るまで、ずっと己の無力を嘆いていた。

 パックは魔女教を前に「契約だ」と口にして急に動けなくなってしまい、精霊術をまともに使えないエミリアでは足手まといにしかならないとエキドナに諭され、ただスバルが傷つくのを見ているしかなかった。

 力のない今の自分ではどうすることもできず、ただただナツキ・スバルが傷ついているのが耐えられなくて、心の限り叫んだ。

 

「お願いします……スバルを助けてください! いまも助けて欲しいはずなのに一人で頑張って、あんなに傷ついて──」

 

 ――瞬間、エミリアの脳裏に見たことのない記憶がチラつく。

 ロズワール邸で横に座るスバルを見た時にもチラリと見えたその記憶は、死にかけの彼を見て更に鮮明になっていく。

 見えたのは()()()()()()()()()盗品蔵で闘うスバルの姿で、どうしていまそんなものが見えたのか分からなくて、一瞬エミリアは言葉に詰まってしまう。

 

 付近の人間が続きの言葉に耳を傾ける気すらなくなってしまった中で、ペテルギウスと戦いながらもほんの一瞬だけ振り返ったスバルの瞳には、「君なら出来る」という信頼が感じられた。

 どうしてそんなに信頼してくれるのか、それが分からなくていろいろ聞いてみたいことが心の内側に有ったけれど、胸の内に抱える気持ち全てをないまぜにして、いまはスバルを助けて欲しいと願う。

 

「私を信じられないのは構いません、いずれ行動で示します! だからいまだけでも! 精一杯頑張ってくれているスバルの事を、どうか信用してください」

 

 そう言ってエミリアは頭を下げる。

 未来の王として名乗りを上げた者が己の手足になるはずの騎士団員に対して頭を下げるなど、今後の王選を考えればあまりにも悪手の一手。

 エミリアとてそれは理解しているが、仮にここでスバルを見殺しにしてしまえば、己が信じる王としての道もまた絶たれてしまうのだと理解していた。

 駆け引きや手回しに慣れてしまい、それが当たり前だと思ってしまっている者に程、こういった真心からの言葉は突き刺さる。

 騎士団員達の目にも先程までとは違った色が灯り、場の空気が徐々に変わっていくのが感じられる。

 そしてそんな状況の変化を好ましく思わないのは、いまだにスバルを殺しきれていないペテルギウスだ。

 

「──怠惰たれ」

 

 ペテルギウスを中心として、黒い霧があふれ出す。

 一度吸い込めば終わりの権能を前に、スバルは反射的に声を張り上げる。

 

「吸い込むな! 口に入ると行動不能にさせられるぞ!」

 

 信用されなくても口に出して警戒することが、スバルに出来るただ一つの行動だ。

 目に見えぬ攻撃ではなく、目に見える攻撃を前に露骨に騎士団の人間たちが動揺する中で、一陣の風がスバルの背後からペテルギウスに向かって吹き付ける。

 体を吹き飛ばされてしまいそうなほどの勢いを持って放たれた一撃は、風魔法と生来の加護を併せ持って放たれる百人切りの一刀。

 王選候補者、クルシュ・カルステンは己の愛刀を手に持ち、エキドナが作り出した障壁を内側から破って窮地を救って見せた。

 ざわめく周囲の状況を無視し、スバルの横に立ったクルシュは、風圧でこけたスバルに手を差し出す。

 

「──にゃ、にゃんでクルシュ様が!?」

 

「いまは戦える人材が一人でも必要な時だ。下手に被害を増やさないためにも後ろから見ていたが、信じてと叫ぶ乙女の言葉を無視して王として立つことなどできるはずもない。エミリア、私は君の勇気を賞賛する。いま私を突き動かしているのは、紛れもない君の言葉だ」

 

 クルシュが前衛に出るのであれば、フェリスとて前に出る他ない。

 動揺する様な声を出しているものの、フェリスの表情は明るく、ようやくクルシュが出てきてくれたと言わんばかりの笑みである。

 権力抗争の一環として既に始まってしまった王選、その中で下手に動く事の出来なかったフェリスはただ己の主を信じ、クルシュはそんなフェリスの期待に応えて見せる。

 エミリアが起こした小さな火はクルシュの風によって大火に変わり、この場の目的を完全にまとめ上げて見せる。

 

「騎士達よ! ナツキ・スバルの言葉を聞き漏らすな!! 王国に巣食う癌を、いまこそ討伐する時だ!!」

 

 クルシュの発破を受けて騎士団達は前線を大きく前に出す。

 それぞれが先程までのスバルの動きから透明な何かがあることを察して距離は取りつつも、隙があればペテルギウス相手に一撃を入れる事が出来る距離まで歩み出たのだ。

 

「正直もう一人、見える人が来るのはマジで大助かりだぜ。──右から来るぞ! 構えろ!!」

 

 ――明確に、スバルが知る世界線からずれた。

 3度目のやり直しは、ラインハルトと騎士達を玉座の間から外に出し、ユリウスと共に怠惰の討伐に健闘したが、ラインハルトを除く全ての騎士が全滅。

 大罪司教の撃退に成功したものの、ベアトリスを含め多数の死傷者を出したスバルはやり直しを選択した。

 4度目はユリウスとフェリスに前衛を任せ、ラインハルトに現状を共有したものの、賢人会や騎士たちに時間を取られ、結局は大罪司教達に好き放題にされて敗北。

 5度目はラインハルトに好き放題暴れてもらい怠惰と憤怒を討伐することに成功はしたが、逃げ出した色欲が王都で暴れまわり第二のプリステラが生まれることになった。

 最悪の状況を知ったうえで対策を講じ、それでもなお死を積み重ね、ようやくここまで至ったスバル。

 その最たる原因は、スバルの行動によって動きを変える大罪司教たちの行動にあった。

 

「あぁ、我が身の『怠惰』が許せない! 魔女が! この戦いをご覧だというのに!! ()()がこれほどまでに仕立て上げた舞台だというのに!! 何たる怠惰! 何たる愚かさ! 脳が震えるぅぅぅぅぅうう!!!」

 

 宿主の怒りに反応するようにあふれ出したいくつもの『見えざる手』を避けるよう周囲に警告を飛ばし、口でカバーできないものには鞭を巻き付け、己も攻撃を食らわないように体を無理やりにひねる。

 避けられているのはペテルギウスが本体でないことと、ラインハルトが行く前に一撃を入れて弱らせてくれたこと、あとは運だ。

 もう一度同じことをしろと言われたとしても、スバルは避けきれる自信がない。

 

「また傲慢かーーッ!」

 

 3度目の死に戻りの際、憤怒は玉座の間に現れることはなかった。

 4度目の死に戻りでは場内の人間を殺し、虫に変化させるだけして最終的にはペテルギウスが自爆して終わりを迎える。

 5度目に関しては情報が少ないのでなんとも言えないが、少なくともそこでも出てきた言葉。

 傲慢の大罪司教の存在を匂わせるペテルギウスの言葉に、スバルの背筋を冷たい汗が流れ落ちていく。

 

 スバルがこの世界に来て発生している異常事態は数多くあるが、それはなにもスバルに対して有利になるように世界が調整しているわけではない。

 世界は整合性を担保し、この世界の運営が滞りなく行われるのであれば、善悪の区別なく調整を入れるだろう。

 もしその変化が、スバルの知らない新たな大罪司教の出現という形で現れたのならーー?

 事態はさらに深刻化し、さらなる再走を強要される可能性すらあるだろう。

 

「フェリス、いまから注意引くから行けそうだったらやっちゃってくれ」

 

「下手に前出たら死ぬよ、スバルきゅん」

 

「どっちみちここでずっとこうしててもジリ貧だろ。どっかでやってみるしかない」

 

 頭を掻きむしり血涙すら流す勢いのペテルギウスに対し、生理的な嫌悪感から距離を取る周囲の人間たちとは対照的に、スバルは彼の意識を引くために一歩前に出る。

 

「突然やってきて場を荒らそうとして失敗してるお前は確かに怠惰だよ。狙いは王選候補者? 違うだろうな、そうならクルシュさんを狙ってるはずだ。ならさっきから執拗に腕を奥に伸ばそうとするのは――」

 

 最初に考えられたのはエミリアだった。

 魔女教徒にとって彼女は嫉妬の魔女の依り代であり、魔女を下ろすための器に過ぎない。

 だが以前も考察した通り、エミリアを狙うのであればこのタイミングである必要はなく、以前と同じタイミングで同じような試練が課されるはず。

 では一体誰なのかーー

 

「賢人会のボルドーを殺したいから。そうだろ、怠惰」

 

 2度目のやり直しでエキドナが残した伝言は、エミリアではなくボルドー。

 彼の死体はどの周回においても、死亡したときは可能な限り辱められる形で成されており、どういった理由かは不明だが、彼を狙っている。

 突如として名を呼ばれたボルドーが、眼前に迫る怠惰に己が狙われているのだと知って縮み上がるが、スバルから言わせてみればようやく相手の狙いが見えてきた形だ。

 

 一体どんな言葉を返してくるのかとペテルギウスに対して視線が集中すると、彼はピタリと頭皮を搔き毟ることをやめて、スバルの方を真っすぐと見つめる。

 ところどころ見るに堪えない傷があるものの、端正な顔立ちの女性。以前のペテルギウスを知っていると違和感しか感じられない彼女は、スバルの問いかけに対して口を大きく三日月のように曲げて見せる。

 

「貴方、勤勉デスねぇ。己がいかに弱者かを理解し、愛に殉じる事を躊躇いなく実行し、屍の山を積み立て、真理に到達する姿は実に素晴らしいデス」

 

 腕を大きく広げ、その腕で己を抱きしめながら、ペテルギウスは鼻歌すら歌いだすようなご機嫌さを見せる。

 

「貴方のような敬虔な信徒を見過ごしていた我々の怠惰! 全てを予測しここまでの大舞台を築き上げた傲慢!! その勤勉さに報いる事こそが、我が勤勉さを披露するための一打!!!」

 

 懐からリモコンのような物を取り出したペテルギウス。

 これまでのループで彼が一度も取り出さなかったそれを見て、スバルはこれから何が起きるのか反射的に理解した。

 

「爆弾だ! ショック姿勢――ッ!!」

 

 口にした途端に強い爆圧に吹き飛ばされ、スバルを始めとした面々は壁に己の身体を強く打ち付ける。

 爆破が起きたのはペテルギウスの身体ではなく、指先候補として捕らえていた騎士達の方であり、見てみれば爆破があった壁の方には巨大な穴が開いていた。

 見えざる手でも意識的にぶつけなければ壊れなかった玉座の間の壁を、いとも容易く破壊するその爆破の威力は、スバルもその身をもって体験させられたものだ。

 

 爆破を引き起こしたペテルギウスは『見えざる手』で己を爆風から守り、涼しい顔をしながらスバルたちの方に向き直る。

 指先はペテルギウスの体として馴染ませるため契約を結び、そして見えざる手を預けておく事で完成する。

 それは逆に言えば、見えざる手の保有数が減少していたという事であり、預けていた肉体が爆散した事でその保有数はペテルギウスが本来持つ量へと回帰する。

 

「さぁ。試練を続けるのデス」

 

――戦いは、未だ終わる兆しがない。

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