スバル「強くてニューゲー……これ本当に強い?」   作:空見大

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トン・チン・カン

 

「……ッ! ……ふぅ……ふぅ」

 

 意識が戻り、自分の体に傷一つついて居ない事を認識したスバルは過呼吸気味になる身体をなんとか押さえつける。

 様々な死を経験してきたスバルだが、死に抗いギリギリまで痛め続けられたのは一体いつぶりか。

 1秒でも長く時間を稼ぐため、権能を用いて自身の体を無理矢理生き延びさせた反動も相まってか、いつもより復帰に時間がかかり、その場で5分ほど膝をつく。

 だが身体情報がリセットされている関係上精神的な負担を除けばそれ以外は無傷そのものであり、ようやく落ち着いたスバルは状況を整理しはじめる。

 

「時間が無いんだ、考えろナツキ・スバル」

 

 まず最初にしなければならないことは大きく3つだ。

 1つ目はラインハルトと合流し、これから何が起きるのかを大まかに説明する。

 2つ目はフェルトがエミリアから取った徽章を取り返す。

 3つ目はエルザを完封し、エミリアを無事にロズワールのところへ返す事。

 これをスバルが本日中に全て行う事が出来なければ、フェルトは殺され、エミリアは死に、パックは王都を氷塊の下に沈めるだろう。

 幸せから程遠いそんな未来はもう二度と繰り返させるわけにはいかない。

 

「──ヨシッ! やることは決めた」

 

 そうとなれば早速行動開始。

 スバルは初めてトンチンカンと会った裏路地へと向かって駆け出していく。

 長年をかけて鍛えた体とは違い、引きこもりだった体は正直全く満足のいかないような身体能力しかない。

 走る歩幅も体力も失ったことを強制的に実感させられるが、これらに関しては鍛えなおせばいいだけなので、今は気にしないでもいいだろう。

 そんなことを考えながらようやくたどり着いた裏路地で時間をつぶしていると、狭い通路に影がさす。

 

「見飽きたと思ってたけど改めて見たら中々キャラ立ってるな、トン・チン・カン」

 

 彼らは最初からスバルを標的にして追いかけてきているので、入る路地は正直どこでもよかったのだろう。

 わざわざ走って距離を取ったのは、相手を急かすための意味合いも多少ある。

 1回目、彼等が路地裏でなくスバルを襲わなかったのは彼等もさすがにそんな相手から物取りをする気にはならなかったのか。

 なんだかんだ気のいい奴らだと知っているスバルは、多分そうなんだろうなと思いながらも男たちの顔を眺める。

 名前を呼ばれた彼らはというと、怪訝そうな顔でスバルを睨みつけていた。

 

「なぁんでテメェは俺達の名前を知ってんだ?」

 

「王都のど真ん中で追いはぎしてるのはお前らくらいだからだよ。だけどまぁ、正直俺はお前らが来てくれて嬉しい」

 

 名前を抑えられている時点でかなり警戒していたトン・チン・カン。

 さらにスバルがそんな彼らに対してまるで旧友に向けるような笑みを浮かべるので、警戒心は強まる一方だ。

 追い込んだはずの小さな男に3人がかりの自分たちがまるで追い込まれているような感覚を覚えるトン・チン・カン。

 スバルが一歩足を踏み出せば、彼らはそれに応じて一歩足を下げる。

 なんとも懐かしいやり取りに正直もう少し続けていたかったスバルだが、ここであまり時間をかけすぎて予定が狂ってしまっては元も子もない。

 大きく息を吸い込んだスバルは先ほどとはまた違う、ニヤリとした笑みを浮かべ──

 

「衛兵さ────────ん!!!」

 

 緊張状態から突如として投げかけられた言葉に虚を付かれたトン・チン・カンは、驚きのあまりその場で飛び上がっていた。

 その声量は他者の目線をまるで気にしない大きさであり、路地を抜け大通りどころか王都中に広まっていてもおかしくないほどの声の大きさだ。

 王都に居たころからそうであったが、いまのスバルは人を頼ることを悪い事だとは微塵も思っていない。

 ここで仮に長年の経験を活かしトン・チン・カンを倒したところで、ラインハルトと会えなければまるで無駄だ。

 

「ラインハルト────ッ!!!! 助けてくれ──────!!!」

 

「てめ……っ。ふざけんなよ!? ここで普通、いきなり大声出すか!?」

 

「状況的にこっちの命令きかなきゃ痛い目見る流れだろうが! 要求も聞かずにこれとかやんねーぞ、普通は!」

 

「シャラップ!! 何が普通だバカ! こちとらなぁ! これからあれやらこれやら、やらなきゃいけないことが山どころか世界規模で積みあがってんだ! こんなところで足踏みしてたら人類史上稀にみる大損失だぞ!」

 

 トンチンカンの言葉に対して切り返しながらも、スバルは赤髪の英雄をいまかいまかと待ち望む。

 わざわざ名前を指定して呼び出しを行ったのは、ラインハルトがかつてプリステラで名前を呼べばすぐにかけつけると、そう言っていたから。

 実際問題彼はいつだって呼べばすぐに来てくれていたので、スバルは今回も来てくれると心の底から確信していた。

 むしろ来ない方がおかしい、ラインハルトはまだなのかとそう考えてすらいたスバル。

 

「──おいおい、ラインハルトちゃんまさかの昼寝か?」

 

 だが待っていてもラインハルトは来ない。

 前回の記憶ではどのようなタイミングで来たのかあまり覚えていないが、少なくとも戦闘が本格化する前には確実にやってきていたはずだ。

 名前を呼んだのを考慮に入れればもっと早く来てくれてもおかしくはない。

 だがナツキスバルが呼び出した英雄は、どうにもこうにもやってくる気配がなかった。

 

「おどかしやがって……ほんの少しばかりだが、ビビっちまったじゃねえか」

 

「ほんの少しだけな!」

 

「ほんのちょびっとだけだけどな!」

 

 見事な小物ぶりを見せてくれるトン・チン・カンの三人組。

 だがいまのスバルはそんな彼らに突っ込んでいる暇もない。

 最も頼りにしていた正解チャートが今回上手くいかないのであれば、いまからでもオリジナルのチャートを走る必要性がある。

 まずしなければいけないことはそう。

 逃げる事である。

 

「なるほどなるほど……あ! あんなところにUFOが!!」

 

「何言ってるかわけわかんねぇが、騙されるわけねぇだろ!!」

 

 裏路地のさらに奥の方向へ向けて足を進めるスバル。

 もちろんトン・チン・カンはそんなスバルを逃がさないとばかりに武器を持って追いかけてきており、彼らなりの知恵なのかしっかりと三人横並びで追いかけてきている。

 スバルからしてみればまさに行幸。

 

「こっから先は行き止まりだ! 観念しな!!」

 

 ある程度道幅が狭くなりもう逃げられないような状況になってくると、トン・チン・カンの三人組にも先ほどはなかった余裕が出てくる。

 確かにこのまま逃げ続ければ、残っているのは凄惨な末路くらいだろう。

 

「──状況を打開するにはこれが一番!」

 

 だが急にスバルが反転して自分たちの方に突っ込んでくれば、必然的にほんの一瞬彼らの身体は固まってしまう。

 大股を開いて構えを取っているトンの足元をスライティングで通り抜けるスバル。

 行けるかどうかは賭けだったが、見事に股下を通り抜け、ついでにコンビニ袋で股間に一撃を入れておく。

 

「あばよトン・チン・カン! また会おうなぁ~~!!」

 

 急所に一撃を貰い悶絶しているトンを介護するため一瞬足を止めた残り二人に捨てセリフを吐き、スバルはその場を後にする。

 向かう先は衛兵たちが集う詰め所。

 一分一秒を無駄にしないため、ナツキスバルは痛む胸を押さえつけながら裏路地をかけるのであった。

 

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