雑魚冒険者が拾ったのは、ボロボロの元魔王でくっっっそヤンデレ 作:菊池 快晴
新しい宿を取って部屋で待っていた。
リドゥルはいつも毛布に包まっているが、あれを取ってしまうと肌が見えてしまう。
周りがびっくりするだろうから、個室にしておいた。
少し高いが、こっちのほうが落ち着くだろう。
部屋も綺麗だし、俺としてもありがたい。
ベッドで横になり、これからのことを考える。
これならいつもの何倍、いや、何十倍も早く金が貯まるだろう。
ただ問題は奴隷商人だ。ボロボロの奴隷が元気になっていたら、なぜだ? と探りを入れてくるはず。
もしかするとリドゥルが元魔王だとたどり着く可能性もある。
俺の能力がもし彼女によって得られたものだとわかると、もっと面倒なことにもなりそうだな。
色々考えることが多い。それでも、孤独にただ眠るよりは性に合っているのかも。
これからどうするのか。未来のことを考えられるってのは、現状に満足できている証拠なのだから。
にしてもランさん、
「ユリウス、遅くなった」
扉越しからリドゥルの声が聞こえてくる。
確かに思ってたよりも遅かった。扉を開けると、なぜか見慣れた女性も横に立っていた。
長い金髪、整った目鼻立ち。冒険者ギルドの受付嬢、ランさんだ。
え、なんか服ボロボロじゃない?
「ランさん、どうしたんですか? というか、なんで二人一緒に?」
「ユリウスさん」
するとランさんは、丁寧に膝を折り曲げていく。
何をするのかあっけにとられていると、両手を前に差し出し、手のひらを地に付ける。
「このたびは大変、申し訳ございませんでした!!!!!!」
「……え?」
いや、何の話!? 何が、申し訳!?
「いや、ランさんどうしたんですか!? 顔を上げ――いや、立ってください!?」
「私は、冒険者ギルドの職員でありながらも、私利私欲に負け、あなたのことばかり考えてしまいました。本当に申し訳ございません」
「ユリウス、許してあげてほしい」
リドゥルが、真顔で言う。
彼女たちは一体何を言っているんだ。
慌てて顔を上げさせると、ランさんは号泣していた。
「ランさん――」
「ユリウスさん、私のせいでお怪我をさせてしまったこと、重ね重ねお詫びいたします!!」
「許してあげてほしい」
よくわからない。よくわからないが――。
「わ、わかりました。もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
「ユリウスはやっぱり優しい」
やっぱり、平穏な日々のほうが良かったのかもしれない。
◇ ◇ ◇
「えー、つまりランさんは偽造依頼書を作り、身銭を切って俺にお金をくれていたと。その理由は、この街にはソロの依頼がほとんどないから、わざわざ手作りしていたと」
「はい。けれども、罪はそれだけではありません。買い取り額を合法範囲ギリギリで上限まで見積もり、誰よりも丁寧な査定をしておりました」
「なるほど」
「さらには魔物の情報できるだけ調べて、ユリウスさんができるだけ安全に狩りができるように取り計らっておりました」
うん。マジで何を言っているんだ。
確かに俺は、ランさんが何らかの嘘をついている事には気づいていた。
でも、特に不都合はなかったし、買い取り額が下回ることもなければ、雑な対応をされたこともない。
だからわからなかった。
それが、え、つまりなに?
これ……謝罪することなの?
ちなみにいつものように敬語で話していたら、タメ口でお願いしますと言われた。
「何より怪我をさせたこと、本当に申し訳ございません」
「さっき聞いたけど、別にランさんが魔物をけしかけたわけじゃないよね? 俺がいたところにたまたま現れただけでしょ?」
「そうですが、元を辿れば私のせいです。私が、狩場へ向かわせたからです」
俺がこの街に来てから絶え間なくお金をもらえていたのはランさんのおかげ。
怪我をしたのは、俺が魔物から逃げずに立ち向かったからだ。そもそも、冒険者にとって魔物と戦うことは日常茶飯事なわけだし、それをとがめることなんてありえない。
「そもそも、なんで俺にそこまでしてくれたの?」
「ユリウスさんの優しさが、私を救ってくれたからです。ずっと傍にいたくて、それで探知魔法を付与しようと……ユリウスさんの個人情報を暴こうとする、最低な行為でした」
確かにランさんは、冒険者ギルド内で俺に探知魔法を付与しようとしていた。
反射的に魔力が反応して
そういうことだったのか。
「確かにそれは悪いことかも。でも、謝ってくれたのならそれでいいよ。ほかは……別にむしろありがたいし」
「……ユリウスさんは、本当にお優しい」
「さすが、ユリウス。世界一の優しさを持っている」
リドゥルが頷き、同調する。
そうか……? まあ、嬉しい言葉ではあるが。
「リドゥル」
「?」
俺は、彼女を呼び寄せた。
そして、頭を撫でる。
確か、元魔王のシキタリだったはず。
俺のことを心配してくれてランさんに話をしにいってくれたみたいだし、お礼は伝えておかなきゃな。
「俺のためにありがとうな」
「……このぐらいなんでもない」
するとその奥、ランさんが何かぶつぶつ言っていた。「……羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい」って聞こえるような。気のせいか。
「ランさんも今までありがとう。俺のために」
「え? わ、私は何も――」
「俺がこの街で過ごせたのは、君がいてくれたおかげだから」
「……えへ、えへ、えへえへへえへへへへへへへへへへへえへへへへへへへ」
ランさん、思ってたより笑い方に癖がある。
でも嬉しそうで良かった。
それにちょうど頼み事がしたかったんだ。
「ランさん」
「はい! 何なりとお申し付けください!」
「いや、そんな畏まらなくても……お願いがあるんだけど」
俺はできるだけ安全な狩りをこなしてきた。
一人だからこそ、怪我をしないようにだ。
でも能力を手に入れた。これからは、もう少し危険を冒してでも強くなる必要がある。
俺の能力の発動には条件がある。それは、対象の姿をこの目で確認することだ。
けれども、もし相手が顔を隠していたら? 魔物と同じで複数だったら?
名前を見るためには衣服をはぎ取らなきゃいけない。
時と場合によっては、能力が使えないまま戦わなきゃいけないだろう。
つまり、もっと強くなるべきだ。
「ソロ用じゃない。パーティー用の狩りの依頼を引き受けさせてほしい」