雑魚冒険者が拾ったのは、ボロボロの元魔王でくっっっそヤンデレ 作:菊池 快晴
初めてのパーティーということもあって、ワクワクドキドキでギルドに向かっていた。
だが、若干歩きづらい。
なぜなら、リドゥルが俺の右腕をガッチリ掴んでいるからだ。
「リドゥル、少し離れておこう」
「どうして? 私のことが嫌いになったの? いつもピッタリくっついて、こうやって歩いてたのに」
「それは嘘だからやめよう」
「わかった」
「今からパーティーで狩りをするんだ。初めて会う人たちが、こうやって距離が近すぎると対応に困るだろ?」
「そうかな?」
「そうだよ」
「そうなんだ」
あまり納得はいっていないみたいだったが、しゅんとしながらも理解してくれた。
パーティーは初めてだ。
今まではずっと一人だったし、役割分担ができるなんて効率もよさそう。
前衛と後衛、さらに休憩時間でも交代が可能。
それに、どんな人と出会えるのか楽しみだ。
「そういえばリドゥル、本当に戦えるの?」
「もちろん。身体の痛みもない」
魔力は完全に回復していないものの、身体の痛みは随分と取れたようだ。
肌も綺麗になったので、いつもの毛布も取っている。
ダークエルフというよりは、褐色肌に近いのかも。
髪の毛は黒と白でマバラだけれど、これはこれで似合っている。
可愛いよ、というと、「嬉しい」と喜んだ。
とはいえ、パーティー補佐なので、できるだけ俺に任せてほしいと頼んでいる。
今回は、俺の試験みたいなものも兼ねているからだ。
「ユリウスさん、リドゥルさん」
中へ入ると、さっそく、ランさんが笑顔で声をかけてきてくれた。
いや、どこかひきつっている……ような?
静かに歩みよってくると、口角がピクピクしているのがわかる。
「どうしたんですか?」
ここはギルド内だ。建前があるので、できるだけ丁寧な言葉を使う。
普段使うと、なぜか怒られるようになったけれど。
「パーティーの件ですが……次回にしましょう」
「え? どうしてですか?」
今日のパーティーは、俺と同じで等級が上がったメンバーでの狩り。
レイドボスと呼ばれる特殊個体が出現したときに、ギルドから招集がかかることがある。
その際、見知らぬ人たちと組むことがあるので、義務づけられている通過儀礼、軽い試験みたいなもの。
人によっては面倒だと感じるらしいが、俺にとっては憧れだった。
それが、なぜ次回に?
「行こう。ユリウス。次回に持ち越し」
「リドゥル、まだ何も聞いてないよ」
やれ幸いと俺を外に連れ出そうとしてきたので、ひらりとかわす。
けれども、ランさんも「早く外に」と俺を押そうとした。
そこで、声が聞こえてくる。
「なーんだぉ、ようやく来たのか? ったく遅いな。――ビアンカ・マーキー様だ。相手が俺だなんて、光栄だろ?」
現れたのは、短髪の金髪で細目の男だった。隣には露出の激しい女子たちの腰を掴んでいる。
唇と耳にピアスをしてて、腰に携えた剣は一目見てわかるほど煌びやかに輝いている。
軽装ではあるが、魔力の攻撃をできるだけ通さないズボンを履いていた。
マーキーってどこかで聞いたことあるな。
そうだ。
このペルポの領地を持っている子爵家だったか。
確か、父親が実業家で有名だったはず。
「もしかして、子爵家の?」
「ハッ、やっぱ俺様は有名人か。こんなぼろっちぃ恰好しててもバレちゃうだなんて! まったく。
「さすがビアンカ様です」
「素晴らしいですわ。ビアンカ様」
ハハハと笑いながら声を上げると、リドゥルが魔力を漲らせたように感じた。
ビアンカが気づいたのか、身体をゾクっとさせ周囲を見渡すも、どこからかわかっていない。
「リドゥル、どうしたの?」
「……魔力調節がうまくできなくて」
そうか、まだ身体が不安定なのか。
「…………」
あれ、ランさんまで何か様子がおかしい。どうしたんだろうか。
「ビアンカさん、彼の名前はユリウスさんです。等級はあなたと同じですよ」
ランさんが淡々というと、ビアンカが笑う。
「ハッ、こいつと違って、俺にとっちゃここは通過点なのさぁ!」
「流石ですわ」
「ビアンカ様、素敵!」
ふたたび魔力が周囲に行き渡り、ビアンカがやっぱり後ろを見る。
リドゥルに魔力を抑えてと注意した。
すると、ランさんが小声で、
「ユリウスさん……実は、半年ほど前から冒険者に興味を持ったらしいのです。金に物を言わせて魔物を乱獲し、普段は上位冒険者をつけて護衛狩りをしていたらしいのですが、このたび、一人でもやりたいと言い始め……なので、今回は別にしたほうがよろしいかと……」
「そうなの? でも、ここでやめておくっていったら、それこそ面倒なことにならないかな? それに、俺の査定も入ってるんでしょ?」
「……それは、そうですが……まさかこんなことになるとは」
確かにちょっと態度は大きいみたいだが、貴族だから多少傲慢な性格にはなってもおかしくはないだろう。
それに今後、色んな人と組むかもしれない。
初めの印象が悪いからといってやめておくのもな。
「大丈夫だよ。任務を遂行してくるから」
いつも通りやればいい。
自分のすべきことをする。もしかしたら、良い面も見えてくるかもしれない。
むしろ、初めの任務で子爵家と成功させたと書かれれば、今後も信頼してもらえるだろう。
「よし、早速行こうぜ。まあ安心しなよユリウスぅ、俺が、全部やっつけてやるからよぉ。お前は俺が守ってやるさ」
「流石ビアンカ様!」
「素晴らしいですわ!」
態度はアレだが、言動は頼もしい。
とにかく、初めてのパーティー頑張るぞ。
◇
「リドゥルさん」
出発する直前、ランが声を掛けた。
その目は恐ろしいほど黒く、恐ろしいほど深い。
だがそれに対して振り返ったリドゥルの表情も、この世の物とは思えないほど深く沈み、怒りに満ち震えていた。
ユリウスに失礼な態度をとっただけでなく、愛すべき、敬愛してひれ伏すべきにもかかわらず彼に、
あわやビアンカの首を落とすところだったが、かろうじて残っていた理性でふみとどまった。
だがそれは、ランも同じだった。あとほんの少しのところで、ロングスピアーを出現させ、背中から腹部を突き破っていた。
ビアンカのパーティー申請はイレギュラーだった。
直前で現れ、ちぃーす、よろしくなと言い出したのだ。
当然、ユリウスの初めての相棒としてありえない。今日の仕事は終わりですと伝えようとしたが、あまりにもギリギリのタイミングだったため、ユリウスが来てしまった。
ビアンカはクソゴミカスアホボケマヌケだが、父親は親バカで有名、かつ権力もある。
今度のユリウスの長い冒険者人生を考えると、ここで断って面倒になる可能性はあった。
ランは唇を噛み、何もできない自分の血の味を深く飲み込みながら、リドゥルにすべてを託す。
「……もしあの男が粗相をしたら……ユリウス様に何かあったら……よろしくお願いいたします」
「わかってる。私のすべてをかけ、世界を滅ぼさん勢いでぐちょぐちょにする。証拠も魔力も、この世にいた痕跡がすべて消えるくらいに」
「安心してください。何があっても、私が後処理をします」
「わかった」
こうして、ユリウスが楽しみにしていた、初めてのパーティーが幕を開けた。
平和に終わる気がしないです。