雑魚冒険者が拾ったのは、ボロボロの元魔王でくっっっそヤンデレ   作:菊池 快晴

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23話 誕生日会

 貴族の食事会は、まさに夢のような場所だった。

 

 煌びやかな世界とはこのことだろう。

 屋敷の中に入ると、大勢の執事とメイドが俺たちを歓迎してくれた。

 一階のすべての扉が取っ払われており、壁際に多くの料理が並んでいる。

 ここにいる人たちは、おそらくみんな貴族だろう。

 手慣れた様子でワインやシャンパンを飲みながら料理を口に運んでいる。

 

「どうぞ、お酒はいかがですか?」

「あ、お、お願いします」

 

 気づけば棒立ちだった。執事の一人が俺に酒を手渡してくれたので、ひとまず飲んでみる。

 

「……美味い」

 

 今まで酒は苦手だったが、この飲み物はブドウジュースと似ている。

 もう一杯もらおうと思ったがどこかへ行ってしまった。む、難しい。

 

「ユリウス、気を付けてね。毒が入ってるかもしれないから」

「私が代わりに毒見をしますか?」

「流石にそれはないと思うけど……まあ、気を付けるにこしたことはないね」

 

 二人とも慣れているのか、それとも俺だけが舞い上がっているのか。

 でもよくみるとリドゥルはちらちら料理を見ていた。

 

「リドゥル、俺に気にしないで食べていいからね」

「……わかった」

 

 リドゥルは不安げに歩き、メイドさんから食事プレートを手渡してもらっていた。

 サーモンだろうか。小さなパンが乗っている。

 おそるおそる食べると、見たこともないほど笑顔になった。

 

「美味しい。お誕生日会、毎日来たい」

「はは、そうだね。これも全部、ビアンカさんのおかげだ」

 

 美味しい食事に舌鼓を打っていると、ビアンカさんが壇上のようなところに立つ。

 深紅のドレスはとても似合っているが、男だと思っていたのでまだ見慣れない。

 

「皆さん、今日は俺様のお誕生日に来てくれ――」

 

 さっそくマイクを手に取り挨拶をし始めたが、隣のお兄さんにマイクを奪われる。

 

「知っての通り、妹は少々口調に難があります。どうやら、幼いころの僕に憧れがあったようで」

 

 皆の笑いをかっさいながら、マイクを奪い返そうとするビアンカさんをヒラリとかわす。

 

「ですが、心は本当に綺麗です。女性であっても強くなければ領地民は守れないと豪語し、自ら冒険者になったのですから。――そんなビアンカを、これからもよろしくお願いします」

 

 結局、ビアンカさんは最後まで話せなかった。

 だけどみんな拍手喝采で、笑顔が溢れていた。

 

 妹想いにいい人なんだろうな。

 

「リドゥルさん、このジュースとても美味しいですよ。それに肌がとっても綺麗になると聞いたことがあります」

「飲む。いっぱい飲む。一瓶飲む」

 

 二人は、それよりも食と美容に興味があるみたいだけれど。

 

 それからビアンカさんと目が合う。

 嬉しそうに声をかけてきてくれた。

 

「どうだ、楽しんでるか?」

「とっても。美味しい食事もありがとうございます」

「気にすんな! なぜなら俺様の命の恩人だからな!」

「こっちもですよ」

 

 ビアンカさんの動きはとても良かった。あえて囮にもなってくれていたし。

 普通はなかなかできないだろう。

 

「へへ……良かったらまたその……狩りとかいってくれよな!」

「もちろんですよ。俺も初めてのパーティー楽しかったですし、ビアンカさんのような頼れる人がいたら安心なので」

「マジかよ! うわー嬉しいなあ」

 

 ビアンカさんは本当に嬉しかったのか、頬を赤らめる。

 

「ビアンカ」

 

 そこでさっきのお兄さんがやってきた。

 声が、何だか強い気がする。

 

「人前であまり笑顔を見せすぎるな」

 

 それから、俺の姿を少し睨むように見つめた。

 

「いや、お礼を言っていただけで――」

「そんなことは関係ない。弱みを見せるなということだ」

 

 言葉を遮り、そのままどこか行く。

 何だか色々大変なのだろうか。

 最後にリドゥルを見ていたような……。

 

「……ユリウス、私なら痕跡を残さないで終わらせられるけど」

「ダメです」

 

 後ろからリドゥルの怖い声が聞こえたので訂正しておく。

 

「ご、ごめんなユリウス。兄貴、ちょっと厳しくてさ! まあ、悪い奴じゃないんだけど……」

「大丈夫です。俺も逆なら同じことを言ってると思うので」

 

 妹が冒険者になるだけでも不安だろうし、命の恩人とはいえ平民が近づいていたら思うところもあるはず。

 悪い奴らをごまんと見てきた。あのくらいの警戒はむしろ当たり前だ。

 

「最後までゆっくりしていってくれよな! ――ここだけの話、貴族ってのはみんなすぐ帰っちまうんだ」

「ありがとうございます」

 

 ほんと元気で明るい人だな。

 

「ランさん」

「ハッ、何なりと」

「ちょっと呼んだだけで、そこまで畏まらなくても……」

「何でもお申し付けください。ビアンカお兄様の身辺調査でしょうか?」

「そうじゃないけど、性格とか、なんか知っていることがあれば」

 

 そうですねえ、とランさんは胸の谷間からノートを取り出した。

 え、なにそれ。

 

「ロード・マーキー。年齢は19歳。ロングレス魔法学園卒業、好きなものはボルリー地方のワイン。風魔法の使い手で、剣も扱えますね」

「前職は探偵か何か?」

「いえ、平凡な村人です」

 

 絶対嘘では……と思いつつ、続けてくれたので話を聞く。

 そこで、気になる言葉があった。

 

「奴隷のことがあまり好きではないらしく、貴族ではめずらしく公言しております」

「……なるほど」

 

 冒険者の中には奴隷を戦闘用として使う人も多い。

 貴族が買う場合もあるが、趣味が悪いと嫌われることが多い。

 もしかして、それもあって冒険者と絡むのは不安だったのかもしれないな。

 

 リドゥルのことを見ていたし、何か感づいたのかも。

 まあ、さすがにわからないだろうけど。

 

 とはいえ、今日は深く考えずに楽しもう。

 振り返ると、リドゥルはまだジュースを飲んでいた。

 

「リドゥル、飲みすぎじゃない?」

「もっと綺麗になりたい。ユリウスに綺麗だと言ってもらえるように」

「今でも綺麗だよ」

「足りない」

「ユリウスさん、このウナギと言うものを食べれば、凄く精がつくらしいです。どうですか? いっぱい食べませんか? 今夜のために」

「美味しそうだけど、なんで今夜?」

 

 

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