雑魚冒険者が拾ったのは、ボロボロの元魔王でくっっっそヤンデレ 作:菊池 快晴
冒険者ギルドの扉を開く前、リドゥルに声を掛ける。
「審査は簡単だし、登録もすぐに終わると思う。変なことは言わないようにね」
「わかった。でも、大丈夫? 私は、身分を証明するようなものを持ってない」
「大丈夫。融通を効かせてくれるから」
「え?」
リドゥルは不安そうにしていたが、安心させながら扉を開けた。
冒険者ギルド内はいつも混雑している。
俺はずっと一人なので誰とも話すことはないが、絶対に会話をする人はいる。
「ランさん」
「――あら、ユリウスさんめずらしい時間に来ましたね!」
世話しなく動き回っていた女性に声を掛ける。
満面の笑みで返してくれたのは、ギルドの受付嬢だ。
長い金髪に整った顔立ち。
俺がペルポにきてから何度も顔を合わせている。
ソロの俺は自分に合った依頼を探すだけでも大変だ。
そんな中、ランさんがいつも俺に適正の依頼を優先して教えてくれる。
「……名前呼び」
「リドゥル、なんか言った?」
「何も」
リドゥルから熱気を感じる。まだ、体温調節がままらないのかな。
他の人の対応に落ち着いてから、ランさんが歩み寄ってきてくれた。
「忙しいのにすみません」
「とんでもないです! ユリウスさんの頼みなら、時間外でも対応しますよ!」
「………」
俺は、リドゥルの冒険者資格がほしいと伝えた。
彼女とは街で偶然知り合い、助けてもらったと。
まあ、これは嘘ではない。
「わかりました。でしたら、名前の記載だけお願いできますか?」
ランさんは、一枚の紙を手渡そうとしてくれた。
だがそのとき、つい倒れそうになってしまったのか俺に覆いかぶさるようになる。
「す、すいません!? 態勢を崩してしまって」
「気にしないでください。大丈夫ですか?」
「…………」
リドゥルがさっきからじっと見つめている。
もしかしてギルド内は人が多いから不安なのだろうか。
……俺としたことが考慮できていなかったな。次から気を付けよう。
リドゥルは、ぶつぶつナニカを呟きながら名前を書いていた。
筆圧が強かったのか紙が破れてしまう。
不安定なのだろう。まだ力の調節が難しいみたいだ。
それからほどなくして、首から下げる冒険者のタグをもらった。
これさえあれば、兵士に止められても問題ない。ようやく、ホッと落ち着いた。
「ありがとうランさん」
「とんでもないです! ここだけの話、ユリウスさんは冒険者の中でもとってもお優しいんですよね。だから、私にとっての癒しなんです」
「アリガトウゴザイマス」
リドゥルの言葉がさっきよりもカタコト気味だった。
疲れたのだろう。無理させすぎたな。
お礼を言って外に出る。
リドゥルは、何を思ったのかタグを近くの水飲み場で洗っていた。
意外と潔癖症なのかな。
「除霊完了」
「どういうこと?」
「何でもない。――ユリウス、ありがとう。初めてのプレゼント」
「え、まあ、そうか……そうかな?」
リドゥルは一つ一つが大げさだ。でも、喜んでもらえてよかった。
「任務を受注したからいつもの狩場へ行ってくるよ。リドゥルは――」
「わかった。ついていく」
宿で待っていてほしいと伝えようと思ったが、そんな気持ちは毛頭ないそうだ。
まあ、傍にいてくれたほうが安心か。
「いいけど、魔物と戦ったらダメだよ。身体が治るまでは約束」
「……わかった。約束する。
聞き分けがいいのが、リドゥルのいいところだな。
いつもの森に移動した。
リドゥルが隣で見ていると、何だか緊張するな。
安全地帯の場所は頭に入っている。背に魔物がこない場所で、イノシシの魔物を見つけた。
――
真名を叫び、動きを止めて頸動脈を斬りつける。
そのとき、また別の魔物が現れた。
同じように言葉を叫び、魔物を淡々と狩っていく。
やっぱり、この能力はとんでもないな。
ネームド相手にはまだ使用していないけれど、一人でも戦えるかもしれないな。
……と、欲深くならないようにすると。
リドゥルは思っていたよりも静かだった。
だが突然、声をかけてくる。
「ユリウス」
「ん、どうしたの?」
いつもと違うというか、何だか驚いているみたいだ。
「なんで、この森で戦ってるの?」
「どういうこと? いつも、この狩場だよ。一度、別のところに行ったら怪我しちゃってね。だから、気を付けてるんだよ」
「……そうなんだ。――それに驚いた。能力、完全に使いこなしてる」
「? だって、君がくれたじゃないか」
「私は、その能力を使いこなすのに十年かかった」
「……え?」
「それに、動きを止めるといっても長い時間は止められない。他人の魔力を制御するのは、とっても難しい」
使いこなすってほどなのかな……ただ、名前を叫んでいるだけなのに。
そうか、自信を持たせてくれているのか。
嬉しいな。
するとリドゥルが、微笑んだ。
「ユリウスは凄いんだね」
元魔王に褒められる。
こんなことあるとは思わなかったな。
「ありがとう」
素直に礼を言って、夕方までリドゥルに見守られながら狩りをした。
◇ ◇ ◇
換金を終えて、いつもより手持ちが多くなった。
結構深いところまで行ったからだ。
彼女が褒めてくれたので、いいところを見せようと頑張ってしまった。
おかげで、
「ユリウス、宿の道そっちじゃないよ」
「いや、あそこには戻らない」
「どうして?」
「リドゥルが歩けるようになったこと、多分宿の連中に気づかれた。俺はあの奴隷商人を信用していない。だから、別の宿に泊まる。荷物もあえて置かなかったしね」
「……いつからそこまで考えたの?」
「君を宿につれていったときからだよ。もっと急ぎたかったけど、金がなかった」
俺はずっと一人だった。だから、誰も信用していない。
もちろんそれはランさんも、リドゥルもだ。
申し訳ないが、それが、生きるために必要なこと。
別に偉そうに言えることじゃない。
「大丈夫。何かあったら私がいる。私が死んでも、あなたを守る」
「ありがとう」
嬉しいけれど、やっぱ重くない?
良さげな宿を見つけると、リドゥルが突然、俺の背中をちょんちょんした。それから宿を決めた。
「ギルドに忘れものした。すぐ戻るからまってて」
その言葉だけを言い残して、ササッと消えていく。
一人で行かせるのは不安だが、さすがに心配しすぎか。
……というか、忘れるものなんかあったっけ?