ゲーム開発部がゲヘナで野菜をつくるお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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第1話 企画会議

「農業シミュレーションとかどうかな!?」

 

部室の床に散乱するゲームソフトのケースと、ぐちゃぐちゃに絡まったコントローラーのコード。小柄な彼女達が囲うテーブルには色とりどりのお菓子と手書きの企画書が無造作に広がっている。セミナーの「冷酷な算術使い」にこの状況を見られれば、「少しは綺麗にしなさい!!」と小言を言われることは必至だろう。

 

そんなカオス空間の中で、モモイのその一声が響き渡った。

 

「の、農業シミュレーション...?」

 

彼女の勢いに気圧され、ユズは肩を竦める。

 

「そうそう!牧場とか農園の主になって、牛とか馬を育てたり、野菜を作ったりするほのぼのした感じのゲーム!今まで作ったこと無いジャンルだし、面白そうじゃない!?」

 

「う、う~んどうだろう...」

 

ユズは服の襟で口を隠して考え込む。彼女の事だからその案が不服という事では無く、開発が可能か考えているのだろう。

 

「モモイ。『ボクジョウトカノウエンノアルジ』って何ですか?」

 

モモイの横に座るアリスが小首を傾げる。どうやら一連の言葉を、そのまま一つの名詞だと勘違いしたらしい。

 

「えっと...ほら!RPGの村のクエストとかで良く見るでしょ?魔物に野菜を盗られて困ってるから助けてくれとか言って来る人」

 

「はい!」とアリスは表情をパッと明るくする。

 

「アリス分かります!そういう人達は『農家さん』と言って、皆さんが食べる野菜を作るとても大事な人達です!!でも、農家さんのクエストをクリアして貰える報酬はあまり豪華ではありません。そんな人達のゲームは面白いのでしょうか?」

 

「え~っと...。そういう人達から貰える報酬がショボいのは序盤のクエストだから仕方ないというか...。それに私が言いたいのは」

 

「あのさ、お姉ちゃん」

 

ここまでの会話を黙って聞いていたミドリが、至って冷静に口を挟む。

 

「そもそもの話なんだけど、私達って今まで基本的にRPGばっかり作ってきたじゃん?それなのにいきなりシミュレーションゲーム何て難しいんじゃない?」

 

「それは大丈夫!!」とモモイは背後に積まれたソフトの山から、二つのゲームを取り出す。

 

「最近私シミュレーションゲームハマってるから!インプットはばっちりだよ!!」

 

「それ、『ハイパーメカ対戦』と『サムタウン』でしょ?どっちもシミュレーションゲームだけど、ジャンル全然違うじゃない」

 

ミドリは仕方の無さそうに溜め息を吐く。

 

モモイが見せて来たゲームは、前者は様々なロボや戦艦をボードゲームのように操作して攻略を進めるゲームで、後者は町長となって町を発展させてゆくゲームだった。いずれも、家畜や野菜を育てるようなゲームでは無い。

 

「そんな顔しなくたっていいでしょ!?それにハイメカなんて、ミドリのほうがハマってたじゃん!」

 

喉まで出かけた、「それは先生がオススメしてくれたからだよ!!」という言葉を、ミドリは慌てて引っこめる。「ハイパーメカ対戦」は以前一人で部室にいた時、偶々先生が遊びに来てくれて、そこで二人っきりでプレイした、思い出のゲームだ。その秘密だけは、ばらす訳にはいかない。

 

「そりゃそうだけどそれは今関係無いでしょ!私が言いたいことはもっと根本的な話!」

 

ミドリはやや強引に話題を戻す。

 

「お姉ちゃんの案は確かに面白そうだと思うよ。でもさ、私達農業の知識なんて、全然ないじゃん!!」

 

「あ」と、モモイはポカンと口を開ける。まさか、その事実を考慮せずに提案をしてきたというのか。まぁ、猪突猛進な彼女なら十分にあり得る事だが...

 

「で、でもさ。ある程度の知識ならネットで調べられるし...」

 

しかしミドリは「ううん」と首を強く横に振る。

 

「ネットで調べただけの知識なんかじゃ、クオリティはたかが知れてる。シミュレーションゲームってニッチなジャンルな分、クオリティが高いゲームはトコトン完成度高いし、それなりのリアリティも求められる。そんな中で中途半端なゲーム発表したら、ミレニアムプライスどころかまたネットで叩かれちゃうよ!!」

 

それを聞いて「テイルズ・サガ・クロニクル」の悪夢を思い出し、モモイとユズは震え上がる。あんな思いはもう二度とごめんだ。

 

「で、でもそんな事言ったってさ、他に案、ある?」

 

「そ、それは...」

 

だがモモイが零したその一言で、ミドリの勢いは挫かれる。

 

今日の朝に始まった、新しいゲームの開発計画の企画会議。それはしかし、たった今議論されているモモイの案が出るまで全く進展が無く、ただテーブルの上のお菓子を消費するだけの時間が流れていたのだ。

 

これまでのノウハウと経験から、彼女達にとって新しいゲームを開発すること自体はそこまで難しいことでは無い。無難に「テイルズ・サガ・クロニクル2」の続編を出しておけば、予算は問題なく下りるだろう。

 

しかし彼女達は苦悩の末、前回の「ミレニアムプライス」を獲得している。その実績がある以上、彼女達は自身の成果物に「更なるクオリティを出す事」や、「新たな刺激を得られる事」が求められているのだ。それが、会議が一向に進まない理由だった。

 

嫌な沈黙が流れ始めた時「あ、あのさ」と、ユズが口を開く。

 

「と、とりあえずモモイちゃんの案で、やってみない?私も初めてだけどシミュレーションゲーム、作ってみたいし...」

 

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