ゲーム開発部がゲヘナで野菜をつくるお話 作:空を飛ぶジンベエザメ
ユウカと先生と一緒に南瓜の苗を畑に植えてから、約一月後。久しぶりに畑にやって来た開発部は、育った南瓜の大きさに驚いた。
「すごーい!一か月でこんなに大きくなるの!?」
植えた時は掌に収まる位しか無かった苗は、温泉開発部が作らされた横幅60cm程の畝を既に飛び出し、元気いっぱいにツルを伸ばしていた。葉っぱの大きさも、植えた時の3倍程に成長している。
「私自身も驚きです!南瓜は野菜の中でも特に成長が早い植物とは言われているのですが、ここまで早く大きくなるのは予想外でした。これも皆、開発部の皆さんがお手伝いして頂いたお陰です!」
「えへへ...。そう言われると、何だか照れる...」
「まぁ、手伝ったのは私達だけじゃないけどね...。寧ろ、私達ここまであんまり役に立ってないというか...」
ジュリの言葉を素直に受け取るモモイに対して、ミドリはやや申し訳なさそうだ。
ただそう思うのも無理はない。畑が耕せないという危機を救ったのはエンジニア部とケイだし、今南瓜が植わっている畝だって、作ったのは温泉開発部だ。それに比べれば自分達がやったことと言えば、電気柵を張った事と、土づくりを少し、そしてここまでのお膳立ての上に作られた畑に苗を植えただけ...
「いいえ!そんな事は決してありません!」
しかしジュリは、そんなミドリの言葉を強い口調で否定する。
「そもそも皆さんが野菜作りを経験してみたいと持ち出してこなければ、今年もここに南瓜は植わっていませんでした。私達の畑に、新しい命を育てるきっかけを作ってくれた...。それだけで、私は感謝してもしきれない位です!」
「ジュリさん...」
ジュリの熱い想いに、返す言葉を迷ってしまうミドリ。その時
「ジュリさんの言う通りだよ、ミドリ。それに皆がジュリさんと出会ったお陰で、私達も新たな知見を広げるきっかけを得られたのだから」
知った声に振り返ると、そこにはウタハ率いるエンジニア部と、「アバンギャルド君Ver.AG」がいた。
「あれ、ウタハ先輩?どうして先輩達が...?」
「それに新たな知見って...?」
するとコトリがわざとらしくメガネをクイッとし、ここぞとばかりに説明を始める。
「良くぞ聞いてくれました!実はアバンギャルド君の改造をきっかけに、今年は私達、農業分野の機械開発に力を入れてみようと思っているんです!」
「そう。アバンギャルド君が畑を耕しているのを見て、私はピンと来るものがあったんだ。そしてそれがきっかけになって、気付いた。私達は随分と、視野が狭くなっていた事に」
「銃やドローン、戦車、それに宇宙戦艦に積むレールガン...。私達は今まで色んなものを改造したり、作って来たけど、それはどれも、戦う為の道具ばかりだった。勿論今まで積み重ねてきたものが全部無駄という訳では無いけれど、私達の技術はそういうものだけじゃなくて、もっと大事なものを支える為にも役立つんじゃないかって、思ったの」
「それが、農業ってこと?」
「そう」と、ウタハは強く頷く。
「野菜、ひいては食べ物というのは生きていく上で絶対に必要なものだからね。もしこのキヴォトスから銃器や爆弾の類がある日全て無くなったとしても、私達は今までとは違った日常の中で生きることが出来る。でも、食べ物が無くなったら、私達はただ死を待つだけだ。その意味で農業は、無くてはならない産業だと言える」
「言われてみれば確かに...」
改めて考えれば、そうだ。普段食べているご飯もお菓子も、何処かの農家さんが時間と手間をかけて作ってくれたもので出来ている。もしそれがこの世から無くなれば、銃弾や爆風に耐えられる身体なんて何の意味も成さない。
「それと勿論、それを調理してくれる存在も、欠いてはならないね。ジュリさん、この前お礼に貰ったドーナツ、とても美味しかったよ。あれ程のフワフワ食感を残しつつ油っぽさを全く感じさせないのは実に素晴らしい技術だ。あのドーナツは給食部の部長さんが揚げたものと聞いたが、何時かジュリさんの料理も食べてみたいね」
「あはは...。それはまた別の機会で...」
ジュリは言葉を濁す。幸か不幸か、彼女が料理の天災である事はエンジニア部には知られていなかった。
「さて、皆への説明も終わった事だし、私達は私達の仕事を全うするとしよう。そういう訳で、ケイ。そろそろ何か喋ってくれると嬉しいんだが」
ウタハはノックをするようにアバンギャルド君のボディを叩く。すると
「はぁ、分かりました...」
俯いていたアバンギャルド君の頭がのっそり起き上がると共に、麦わら帽子の上にヘイローが浮かび上がった。
「ケイ!今日はリオは一緒では無いんですか?」
「はい。リオは用事があるとの事で、本日は私だけです」
相変わらずアバンギャルド君に乗ることが不服なのか、ケイはぶっきらぼうに答える。そのせいで無表情なアバンギャルド君の顔が不思議と仏頂面を浮かべているように見えた。
「ようやく口を開いてくれたね。ケイ、調子はどうかな?」
「良好だ...とは決して言えませんね。ですが今回は重たい農機を背負っていないので多少身軽なのは良い事です。それにこのアタッチメントも、今までの改造に比べればずっとマシでしょう」
ケイは徐に、1番下に位置している左腕を掲げる。以前までガトリング銃で武装されていたその腕には、大きな丸鋸が取り付けられていた。
「わわッ...!ケイ、ちょっと怖い...」
腕を動かす度に太陽の光を反射して鈍く光るそれを見て、ユズは思わず肩を竦める。
「ガトリング砲の回転機構を転用して、丸鋸を使えるようにしました!今日ケイとアバンギャルド君がする仕事には、この鋸が必要なので!」
するとコトリは視線をジュリに移し、「後の説明は任せました」というメッセージを目で送った。事前にその流れを決めていたのか、ジュリは直ぐにその視線の意味を理解し、途切れる事無く言葉を続ける。
「今日開発部の皆さんとは別にケイさんがして頂く仕事は、電気柵下の草刈りになります」
「柵の下...?」
そう言われモモイは、以前自分達が設置した電気柵を見る。そしてそこにあった光景に、目を丸くした。
「わ!?草ボーボーじゃん!!」
柵の下には様々な雑草がこれでもかと繁茂し、最早根元の地面が全く見えない程になっていた。加えて成長が早いいくつかの草は、張ってあるワイヤーに絡みついてもいる。
「はい。皆で整えたこの畑は作物だけじゃなくて、雑草にとっても理想の環境なんです。あの草達を放っておくと成長に従ってワイヤーに絡み付き、電気を地面に逃がしてしまいます。この状態だと故障の原因になりますし、何より流れる電気が弱いと動物達に入られてしまいます。その為、定期的な草刈りが必要になってくるんです」
「そしてその草刈りにアバンギャルド君をまた使わせて頂くに至った、という訳さ。カイザーが野生動物用の電気柵を開発した、という話自体は聞いた事があったけど、こういうメンテナンス作業が必要になるというのは恥ずかしながら想像も出来なかったよ。ただ一つ疑問なんだけど...」
そこでウタハは片目を瞑り、何かを思案するように首を傾げる。そして残った片方でジュリを見つめるその紫の瞳には、彼女をミレニアムの天才技術者たらしめている、好奇心と言う名の炎が確かに灯っていた。