ゲーム開発部がゲヘナで野菜をつくるお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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12.5話 野菜泥棒と...雑草泥棒!?

夜のとばりが落ちたゲヘナ学園。広い校内を、防犯も兼ねて設置された幾つもの外灯が並木道や噴水を柔らかに照らしている。殆どの生徒が寝静まっている事もあり、静寂と夜闇に包まれたその空間は何処か幻想的だ。

 

しかし学校の隅にある給食部の畑はその限りでは無く、雑木林に周りを囲まれている事も相まって、畑の周辺は墨汁を溢してしまったような、一寸先も見えない闇が広がっている。そんな真っ暗闇の林の中で、四つの影が時折何かを跨ぐようにして慎重に歩みを進めていた。

 

「ひいッ...!こ、ここにも地雷があるわ...!」

 

「お~アルちゃんナイスジャンプ!」

 

無数に設置された指向性対人地雷とそれを起爆する為のトラップワイヤー。そのワイヤーの一本を辛うじて躱したアルは先頭を進むハルカの背中に声を投げる。

 

「ちょ、ちょっとハルカ!本当にこの道で大丈夫...!?」

 

アルの声に反応し足を止めるハルカ。そんな彼女達の腕には溢れんばかりの雑草の山が抱えられていた。今日一日モモイ達が引っこ抜き、そしてアリスが「撃破です!」とか「討伐完了です!」とか、声高々に叫びながら畑の外に放り投げた、畑の邪魔者達の一部だ。

 

「そ、そうですよね...。夜の学校に侵入して雑草を回収するなんて、危険で汚い事だって少し考えれば分かるのに...。そんなことすら考慮できずにアル様達を巻き込んでしまうなんて、やっぱり私は自分勝手で出来損ないの...」

 

「お、落ち着いてハルカ...!雑草落ちちゃうわよ...!」

 

何時ものネガティブスイッチが入り、ハルカはその場でわなわなと震え出す。その振動で抱える雑草が、根に残った土と共にぱらぱらとこぼれ落ちた。

 

 

 

 

今日も今日とて仕事の依頼が来ず、月の賃料を払うのすらカツカツの事務所で暇を持て余していたアル達のもとに、バイト帰りのハルカが血相変えて戻って来たのはもう夜の8時を過ぎた頃だった。

 

「え、き、急にどうしたの...?」と困惑するアルが眼中に無い程取り乱したハルカは

 

「私、大量殺戮の生き残りを救い出して来ます!!」

 

と、そう伝えた直後物凄い速さで踵を返し、事務所を飛び出して行ってしまった。

 

そんな彼女を放っておく訳にもいかず、アル、ムツキ、カヨコの3人はハルカを追って母校のゲヘナを久方振りに訪れた。

 

ゲヘナに向かう間自分やカヨコの制止に聞く耳を持たず、「私が...私が...助けなきゃ...」と青い顔で呟き続けるハルカと、何より「大量殺戮」という物騒が過ぎる単語に「ゲヘナで一体何が起こったっていうのよ...」とビビり散らかしていたアル。

 

しかし最終的にハルカが足を止めたのが給食部の畑の傍で山になっている雑草だった時はアルは勿論カヨコやムツキも開いた口が塞がらなかった。そんな彼女達を尻目に必死に雑草をかき集め、そして自分が持てる最大量を抱え上げた時に初めて、ハルカはことの顛末を話した。

 

「じ、実は私以前から給食部の畑に侵入して、気付かれないように雑草を眺めていたんです...。は、畑に生えているお陰でここの雑草達は皆大きくて、そんな彼らを見ていたらわ、私もこんな風に立派に成長してアル様の役に立てるような人間に、なれるかなって思ってたんです...。で、でも、でも、今日畑に来てみたら、畑を管理している生徒達の手でざ、雑草が皆引き抜かれる凄惨な光景を見てしまって...。それで、私...」

 

土で服が汚れることすら厭わず雑草をぎゅっと抱きしめるハルカを見て、アル達は何も言えなくなってしまう。

 

邪魔者、不必要な者、価値の無い者。だけど先生は、そんな烙印を常に押される雑草が好きだ、と言ってくれた。それは雑草に親近感を寄せている自分を何だか肯定してくれているみたいで、そんな経験も相まって、ハルカにとって雑草というのはかけがえのない存在であるということ。それは、アル達が誰よりも良く知っていた。

 

 

 

そんな訳で便利屋達はハルカの為、皆で雑草を抱え上げて夜のゲヘナの雑木林を逃げ帰っていた、という訳だ。

 

もっとも逃走経路にハルカが選んだその林はジュリが野菜泥棒対策に設置した指向性対人地雷がそこかしこに存在する危険地帯であった。爆破物のプロであるハルカの案内が無ければ、夜にこんな場所を移動する等自殺行為に等しいだろう。

 

「でも近くで見ると雑草も結構可愛いね...。ねえハルカ、このブルーベリーみたいな実を付けている草は何ていう名前なの?」

 

最後尾を進むカヨコがぼそりと、しかし震えるハルカにしっかりと聞こえる程度の声量で問う。そしてその問いが、ハルカのネガティブモードを切り替えてくれた。

 

「ふぇっ...!?え、えっと、この黒い実、ですよね...?」

 

「うん」

 

「えっと、それはイヌホオズキという植物で...実だけじゃなくて茎や葉っぱにもソラニンという毒が含まれている雑草なんです...」

 

「え、嘘...これ毒あるの...?」

 

もし食べられるならジャムとかに出来るのかな、とかこっそり考えていたカヨコは予想外の返答に目を瞬かせる。

 

「は、はいそうです。そしてその毒のせいで、葉っぱがホオズキに似ているけど人間の役に立たないことからイヌホオズキっていう名前が付けられているんです。役立たず...へへ、私と一緒ですね...」

 

「い、いやハルカ...そういうつもりじゃ...」

 

思わぬところでまた、ハルカのネガティブスイッチが入りかける。

 

「でも見た目可愛いのに毒あるなんて、私達みたいじゃない~?」

 

「そうねムツキ。それに良く考えてみればどんな場所にでも生える雑草と、どんな依頼でも報酬さえ払えばこなす便利屋というのは何処か似ている...。ハルカが雑草に惹かれるのは、そんなところもあるんじゃないかしら?」

 

「流石アルちゃん、良い事言う~!」

 

ふふんとすまし顔をして見せたアルだったが、周囲が暗闇なせいでそれを見た者は誰もいなかった。しかし表情は分からずとも二人のフォローはしっかり届いたようで

 

「あ、ありがとう、ございます...」

 

と、ハルカはくしゃっとした、照れくさそうな笑顔を浮かべ、再び歩みを進めようとする。しかし―

 

 

ドサドサッ!

 

 

4人の手からほぼ同じタイミングで、大事な雑草達が転がり落ちる。そして便利屋達は泥だらけになったその手に、それぞれ自分の得物を握った。

 

「社長。正面の藪、何かいる」

 

「ええ分かってるわカヨコ」

 

「くふふ~。久しぶりの戦闘のよ、か、ん♪」

 

「て、敵...でしたら私が全て...」

 

四つの銃口が、僅かに蠢く藪に向けられる。瞬間

 

 

ガサガサガサッ!!

 

 

『ッ!!』

 

藪から、大きな影が飛び出してきた。引き金にかけた指の力が、強くなる―

 

「わ、待って~!転がらないでよ~!」

 

『...え?』

 

丁度良く木々の隙間から月光が指し、それを照らす。

 

頭に生えた二本の大きな巻き角にふわふわの髪。4人の前に現れた影、それは地面を転がるまだ青い南瓜を四つん這いになりながら追いかける、獅子堂イズミだった。

 

「捕まえたッ!!」

 

転がる南瓜を両手でむんずと掴んだイズミはそれを口の前まで持っていくとその場にぺたんと座り込み、何とまるでハンバーガーを食べるようにしてかぶりついた!バリッ、バリッ、という咀嚼音が、呆気に取られる便利屋達の耳に響く。

 

「ちょ、ちょっとイズミ!食べるならゲヘナを出てからにしなさいよっ...てあれ?」

 

「イズミさんにとっては青い南瓜でも御馳走なんですね~。理解に苦しみます☆...ってあら?」

 

「ですが生育は順調なようですね。あの様子なら来月末にも収穫が始まるはず...おや?」

 

イズミに続いて木陰からジュンコ、アカリ、そしてハルナの3名が現れた。便利屋68に美食研究会。ゲヘナの悪童達が、互いに予想だにしていない場所と時間で、顔を合わせた。

 

「び、美食研究会...!?どどどどうしてこんなところに...」

 

キヴォトスでも指折りのアウトローを前にして、アルは早速いつもの調子だ。

 

「貴女は便利屋68の陸八魔アルさん。こんなところで出会うとは奇遇ですわね。もしや貴女達も給食部の畑の様子を見に伺ったのですか?」

 

「...どういうこと?」

 

至って冷静なハルナに、拳銃を構えたままのカヨコが冷たく問いただす。

 

「私達美食研究会は今年あの畑で栽培されている南瓜を、それはそれは楽しみにしているのです」

 

うっとりした顔でハルナは続ける。

 

「ナス、ピーマン、トマト...。フウカさんの後輩であるジュリさんが管理していることもあり、あの畑で採れる野菜は色も形も味も良く、文句のつけようが無い出来なのです。そしてそんな素晴らしい夏野菜の仲間に今年は南瓜が加わる...。美食研究会としてこれを見逃す手はありませんわ」

 

「グラタンやシチューや煮物、それにお菓子にまで。南瓜はどんな料理にも合いますし、何より腹持ちがとても良い野菜なんです。お腹いっぱい南瓜料理を堪能するその日が待ち遠しいですね!」

 

「私はポタージュとかにして食べたいな~...ってイズミどうしたの?」

 

ハルナとアカリとジュンコが、ジュリとゲーム開発部が育てる南瓜に思いをはせている中、イズミはアル達の足元に転がる雑草をじっと眺めていた。

 

「イヌビユ、アカザ...それにスギナまで!それ、サラダにして食べるととっても美味しんだよね!ねえねえ、私にも少し分けてよ~!」

 

ゲテモノ好きのイズミ。そんな彼女にとってアル達の雑草はご馳走として※映ったのだ。立ち上がったイズミは目をキラキラさせながら、4人に歩み寄る。だがそんな暴挙を、便利屋の鉄砲玉が許す訳が無かった。

 

「とっても、美味しい...?これはアル様達が救ってくれた命です...。それを食べようとするなんて...許さない...許さない...許さないッ!!」

 

鬼のような顔になったハルカ。恐ろしい速さでショットガンのハンドレバーを引き、臨戦態勢を整える。

 

「ま、待ちなさいハルカ...!」

 

「お待ちなさいイズミさん。彼女達が自分で味わう為に採ったものなら、それを邪魔するのは私達の流儀に反します...」

 

自分達の後輩を止めようと、一歩前に出るアルとハルナ。その時である。

 

 

キンッ!

 

 

短い金属音が、二人の足元から響く。そして―

 

 

バァン!!バァンッ!!

 

 

爆音と共に、二人の傍に設置されていた地雷が、内包していた大量のボールベアリングをアルとハルナ目掛けて吐き出した!そう、二人は忘れていたのだ。自分達が立っている場所が、如何に危険かということを。

 

立ち昇った硝煙と土煙が晴れた時、皆の前には爆発とベアリングをまともに喰らったハルナとアルが、白目を剥いて倒れていた。

 

「ア、アル様ーッ!!」

 

「あら、背中が穴だらけです。気持ち悪いですね☆」

 

「...ッ不味い!今の爆発で風紀委員会が来る...!急いで逃げるよ!!ハルカ、雑草はまた明日回収しよう!」

 

「ちょっとアカリ!一人で先に逃げないでよ!ハルナ担ぐの手伝って!!」

 

「アハハッ!アルちゃんヒドイ顔~!」

 

「あれ、あの雑草置いてくの?じゃあ少し貰っていくね!」

 

そんな言葉を最後に、8人の無法者達は夜のゲヘナから何とか逃げ出した。

 

 

 




※について

最後まで読んで頂きありがとうございます。イズミが並べた三つの植物ですが、雑草というカテゴライズはされるものの、スギナやイヌビユは天ぷらやおひたしにして食べることが出来、さらにアカザは薬になるなど、イヌホオズキと異なり人間の口に入れられる植物です!流石にサラダはキツいですが(笑)
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