ゲーム開発部がゲヘナで野菜をつくるお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

17 / 26
13話 エンジニア部、最後の仕事

「お待たせジュリさん。これが私達エンジニア部の、この夏一番の成果物さ」

 

腹の中を直接揺すられていると錯覚する程の重低音を奏でるエンジンを切り、ウタハはキャビンから颯爽と降りる。

 

エンジニア部に預けていたジュリのトラクターが、遂に戻って来たのだ。

 

「す、凄いです...。あんなボロボロのトラクターをこんなに綺麗にして下さるなんて...」

 

畑に運び込まれたそれを見たジュリはまず真っ先にその外見に言及する。

 

塗装があちこち剥げ、そこから錆びが幾つも湧いていた車体は余すことなく錆が落とされ、黄色とベージュのツートンカラーで再塗装がなされていた。給食部が所有するトラックと、同じ色だ。更にボンネット部分には「給食」の文字と給食部のロゴマークが貼りつけられている。これで誰が見てもこのトラクターは給食部所有のものだと分かるだろう。

 

「ふっふっふっ...!ジュリさん、ボディ部分だけで驚いてはいられませんよ!注目して欲しいのはこのエンジンです!素晴らしい音だったと思いませんか!?」

 

するとコトリがそのボンネットを開き、中のエンジンを見せつけた。見たところ、付着していた煤やオイルが垂れた跡が綺麗に落とされていることが分かる。が、機械に詳しくないジュリには残念ながら具体的な変化は分からなかった。

 

「えっと、すみません...。私機械には疎くて...。でも確か、エンジンを直すにはもう入手が困難なパーツが必要だって仰っていましたよね?」

 

「はい、そうです!このトラクターをガレージに運び込んだ時、私達は真っ先にエンジンの修理に取り掛かりました。ただ、そこで改めて詳しく診てみると畑で診た時は分からなかった致命的な故障部分が幾つも見つかって、修理はもはや不可能の域に達していたことが分かったのです!なので!修理するのではなく、新たに別のエンジンを載せかえることにしました!それこそがこの、トリニティ総合学園が有するクルセイダー戦車のエンジンです!」

 

「えぇ!?戦車のエンジン積んでるの!?」

 

ジュリと共にコトリの説明を聞いていたモモイは、早速飛び出て来たエンジニア部のトンデモ改造No.1に目を丸くする。

 

「前に戦車をキッチンカーに改造しようとして、トリニティから中古のクルセイダーを安く買ったことがあるの。だけど予算不足とかなんやかんやあってその計画は中止になっちゃって、戦車だけがガレージに残っていたの」

 

「その持て余していた戦車のエンジンを今回使った、という訳さ。トラクターに搭載出来るよう小型化したから多少馬力は落ちているけど、それでもパワーは十分だ。そして何より農耕車(トラクター)という平和的な存在から放たれる暴力的なエンジン音...これはもうロマンとしか言いようが無いね」

 

(もう嫌な予感しかしない...)

 

何故か誇らしげな表情をしているウタハと、そんな彼女が感じている「ロマン」とやらに深く共感している後輩達を見て、これからどんなバカ改造No.2、3が出て来るのかと、モモイは気を重くする。

 

「ねえ、ウタハ先輩。他にどんな改造したの?先輩達のことだから、エンジンを戦車のやつにしました~だけじゃ終わらないでしょ?」

 

「良い質問だ、ミドリ。どうやら君達も、エンジニア部という存在を理解し始めているようだね」

 

「そんなつもりで聞いたんじゃないんだけど...」というミドリの小さな呟きは露ほども耳に入らなかったのか、ウタハは意気揚々と再び運転席に座る。

 

「今回の改造の目玉、それがこれだ」

 

ウタハはそう言って、ハンドルの傍に取り付けられたレバーを引く。するとキャビンの屋根が自動で開き、そこから何と、二機の小型ドローンがプロペラ音と共に飛び出して来た。

 

ドローン達はトラクターを中心に周回軌道を描き始める。すると更に驚いたことに、ウタハがアクセルやハンドルに一切触れていないにもかかわらず、トラクターのエンジンが自動でかかり、勝手にゆっくりと前進を始めたのだ。

 

「わっ!?勝手に動き始めたんだけどッ!?」

 

「そう。これが私達が開発した、トラクターで運用出来る自動操舵システムさ。上空のドローンには測量で用いられるレーザー計測器が搭載されていて、トラクターが動いている間地面の起伏や傾斜、更には周囲の人間や障害物といった情報を常に読み取り、それをトラクターに送る。そのデータを元にトラクター内のコンピューターが最適な速度と航路を計算して自動で運転を行う。凄く簡単な説明になったけど、これさえあれば人が乗らずともコンピューターの制御により正確で安全な作業が行うことが出来る。どうだろうかジュリさん、気に入ってもらえれば嬉しいんだが...ってどうしてモモイ達のほうが驚いているんだい?」

 

ぽかんと口を開けてこちらを見ているモモイ達を見て、ウタハは不思議そうな表情を浮かべる。

 

「い、いやだって...あまりにもまともな機能を付けて来たからつい...」

 

「失礼だね、モモイ。確かに普段の私達ならもっと素晴らしい改良を加えていただろう。このドローンにセントリーガンを付けたり、トラクターでもドライブスルーがスムーズに行えるようキャッシュレス決済機能を付与したりね。ただ以前言ったように、今年の私達の目標はあくまで農業分野の機械開発。それを定めた以上、ロマンを求めるのも重要だが、ただアバンギャルド君やトラクターを改良しただけで目標を達成した、とはとても言えない。という訳で、次に紹介するのが夏の成果物第二号だ」

 

ウタハはトラクターを操作して車体の後ろに背負っていた大きなコンテナを下ろし、後輩達と共にそれを開く。鉄製の頑丈なコンテナから出て来たのは、トラクターに情報伝達を行うドローンの数十倍はあろうかという巨大なドローンだった。

 

「農薬散布用大型ドローン、『スプレー君』だ。これはジュリさんからの依頼で私達が一から製作した特注品さ。やはり『開発』という目標を掲げたからには、ここまでやらないとね」

 

「え、ジュリさんがこれ作って欲しいって頼んだの...?」

 

「はい、そうなんです!」と答えながらドローンを見つめるジュリの瞳は喜びと感動で、ピカピカのトラクターの車体に負けない位輝いていた。

 

「以前から作業の簡略化の為にドローン散布機が欲しいと思っていて。でも普通のドローンと違って重い農薬を持って飛ぶ農業用のものはどうしても高額になりがちで、購入を諦めていたんです。でもダメ元でエンジニア部の皆さんに相談をしてみたら格安でこんな素晴らしいものを製作してくれて...私本当に、どんなお礼を言ったらいいか」

 

「自分達の予算の中で製作したから本当はお金も要らなかったんだけどね。ジュリさんがどうしても、っていうから...」

 

「トラクターまで直してもらったのに一銭も払わないなんてそんな無礼なこと出来ません!」

 

ヒビキの言葉にジュリは毅然とした態度でそう言い放った。

 

「まあジュリさんがそう望んだんだから、私達に拒否する権利は無いよ。ただ、この子が貰った報酬に見合う仕事をしてくれるかどうかは今日初めて分かるんだけどね」

 

ウタハは以前コトリがそうしたように視線でジュリに「次の説明を頼んだよ」という合図を送る。

 

「今日は南瓜の防除を行います。皆さん、まずはこれを見て下さい」

 

ジュリは先程畑から採ってきた、南瓜の葉をゲーム開発部に見せる。ただその葉はまるで化粧をしているかのように、表面に白い粉が付着していた。

 

「これはうどん粉病という、植物がカビ菌に感染してしまうことで起きる病気です。放っておくと植物の光合成を阻害し枯らすだけでなく、繁殖した菌が他の作物に移って被害が拡大する、怖い病気です」

 

「うわ~、X型特異菌じゃん...」

 

モモイは以前プレイしたホラーゲームに登場した、人間や動物を化け物に変えるカビを思い出した。

 

「ただ幸いにもうどん粉病は見た目で直ぐに分かるので比較的対処がしやすい病気です。うどん粉病が発生した場合、それを防ぐ方法は感染した葉っぱを切り取ったり...」

 

「アリス分かりました!今日はその葉っぱを切り取る作業ですね!!」

 

ここまで人の話を聞くばかりでうずうずしていたアリスが元気よく手を挙げる。早く畑に入りたくて仕方がないのか、ボールを投げてくれるのを待っている子犬みたいにその場でそわそわしている。

 

「いえ、残念ながら、という訳ではないんですが、葉を切り取る方法は病気がかなり進行した場合の対処になります。それに今は南瓜もどんどん成長して、人間が踏み入る隙間すら殆どない状態なので」

 

ジュリの言う通り、モモイ達の草取りも功を奏し、南瓜はあれから更に成長を遂げ、畑の土が全く見えなくなっていた。まるで緑色の絨毯が敷かれているみたいだ。

 

「幸いにも私達の畑ではまだ殆ど症状がでていないので、今回は事前の対策として南瓜達に農薬を撒いて病気の発生を防ぎます。そしてその散布を行うのが、このスプレー君です!ウタハさん、早速お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「善は急げ。勿論だよ、ジュリさん。スプレー君離陸」

 

ウタハはどこからともなくスプレー君を動かす為の大きなコントローラーを取り出した。スプレー君とコントローラー双方の電源を入れると、ウタハはジョイスティックをゆっくりと倒す。すると大きなプロペラ音を上げ、スプレー君が飛び上がった。

 

「それじゃ...散布開始!」

 

畑の上空までスプレー君を移動させたウタハはコントローラーの中心にでかでかと取り付けられた「散布」というスイッチを押し込む。瞬間、スプレー君に搭載された大きなタンクからシャワーのように中の農薬が南瓜に降り注ぎ始めた。

 

「散布量はこのくらいで大丈夫かな?」

 

「はい、素晴らしいです!あ、でももう少し高度を下げたほうがいいかもですね。プロペラの下降気流が薬を下まで流してくれるので」

 

「了解」

 

「やっぱり今日は見学するだけみたいだね...」

 

ジュリの指示でスプレー君を操作するウタハを見て、少しつまらなそうな顔をしているアリスにユズはぼそっとそう呟いた。するとそれを耳聡く聞きつけたのか、こちらにくるりと振り向いたジュリはこう告げて来た。

 

「大丈夫ですよ、アリスさん。確かに今日の仕事はエンジニア部さんに任せっきりですが、次皆さんをお呼びする時はまた思いっきり働けるので!何せ次の仕事はいよいよ収穫ですから!」

 

収穫。その言葉を聞いてアリスだけでなくモモイ、ミドリ、ユズも目を輝かせる。

 

「それじゃ、もうちょっとであの南瓜食べられるんですか!?」

 

「勿論です!皆さんの協力でどの蔓も立派な実を付けていますよ!」

 

「やったぁ!!楽しみッ!」

 

「うん、楽しみ...!」

 

4人の歓喜の声が、喧しいドローンのプロペラ音を掻き消して、ゲヘナの空に響いた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。