ゲーム開発部がゲヘナで野菜をつくるお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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15話 パーティーの準備

南瓜の収穫が終わってから一週間後。フウカとジュリは朝早くから食堂の厨房で忙しなく動き回っていた。

 

「ジュリ、出来た?」

 

大きな寸胴鍋で作っている大量のホワイトソースに良い具合のとろみが出て来たところでフウカは一度鍋から目を離し、食堂の一角でこれまた大きなボウルを使って何かを混ぜているジュリに近寄る。

 

「はい先輩!こんな感じで良いでしょうか?もう少し細かく潰しますか?」

 

ジュリがボウルで作っていたもの。それは茹でて柔らかくなった南瓜を皮ごと潰し、ペースト状にしたものだった。鮮やかなオレンジ色のペーストと、そこに混じる皮の緑色のコントラストが綺麗だ。

 

「うん良い感じ!少し形が残っていたほうが食べ応えもあるからこのくらいで良いわ。どれどれ、味の程は...」

 

フウカはジュリが作ったペーストを小さなスプーンで掬い、少し味見をしてみた。

 

「美味しい!素朴で優しい甘さね!」

 

「はい!キュアリングが丁度良かったみたいです!!」

 

ジュリ達が打ち上げパーティーを一週間後にしたのは単に皆の予定を合わせやすくする為、だけではない。南瓜は収穫した後に「キュアリング」という、風通しの良い暗所に置いておく処置をすることで実がより甘くなるのだ。お陰で南瓜ペーストは茹でる際も潰す際も砂糖の類を一切入れていないにも関わらず、ほんのりとした甘さを持った美味しいものになっていた。

 

(良かった...。この作業なら、食材がパンちゃんになることは無いみたいね...)

 

先輩に続いて自分もペーストをつまみ食いするジュリを見て、フウカは心の中で安堵の息を漏らす。

 

この南瓜はジュリとゲーム開発部の皆が頑張って作ったもの。本当ならジュリ自身でそれを調理して、食事を通してモモイ達に感謝の気持ちを改めて伝えて欲しい。けれど下手に調理を任せて南瓜がパンちゃんに変わりでもすれば、パーティーそのものが潰れかねない。

 

だから心苦しいけど、ジュリにはひたすら下ごしらえをやってもらい、主な調理は自分がやる。それは以前から二人が決めていたことだった。

 

「それじゃジュリはペーストをどんどん作ってね」

 

「任せて下さい!」

 

フウカの後ろめたさの混じったその声とは対照的に、ジュリはお日様みたいな笑顔でそう答えた。

 

 

 

それから二人はパーティーの開始時間まで、ひたすら下拵えと調理を行った。

 

南瓜ペーストをマヨネーズと和えたシンプルなサラダ。

 

ペーストを片栗粉と混ぜ、それをハンバーグみたいに捏ねたものを砂糖醬油でカリッと焼いた、甘じょっぱい南瓜のお団子。それと同じ要領で粗く潰した南瓜とジャガイモに小麦粉と塩コショウを混ぜて固め、油でカリっと揚げたハッシュドポテトとハッシュドパンプキン。

 

一口サイズに切った南瓜、鶏肉、玉ねぎ、ニンジン、ブロッコリー、マカロニをホワイトソースと一緒に煮て、チーズとバターと一緒にオーブンで焼いたグラタン。

 

更に南瓜畑の隣で一緒に育てていたトマトやナス、ズッキーニ等の野菜もフル活用だ。これらは山盛りのフライドチキンの添え物として素揚げにしたり、サイコロカットにしたものをトマトソースで煮たラタトゥイユになった。

 

 

普段から数千人分の食事を提供しているフウカにとって、この程度の品数を作るのは訳ない事だ。パーティー予定時刻である昼の12時が近づくにつれ繫げた机の上にどんどんと料理が並べられ、その度に食欲を刺激する良い匂いが食堂を満たす。ところが―

 

「これでグラタンも殆ど完成ですね...ってフウカ先輩、どうしたんですか?」

 

耐熱皿に流し込んだグラタンを予熱したオーブンに入れた時、ジュリはフウカの眉間に、やたらに深い皺が刻み込まれているのに気付いた。何かに怒っている、というよりは強い不安を抱えているような、そんな印象を受ける表情だった。

 

「委員長、まだかな...?」

 

ジュリの言葉が聞こえていなかったのか、フウカは壁の時計を眺めながらそんな事を呟いた。

 

委員長。ヒナのことだろうか。確かに今回のパーティーにはゲヘナ側のお客さんとしてヒナとセナも呼んでいる。けれどヒナが来ないことに何か問題があるのだろうか。パーティーまではまだ時間もあるし...

 

しかしジュリのその疑問は、直ぐに解消される事になる。

 

「失礼するわね」

 

フウカが再び時計を見た時、相変わらず眠そうな顔のヒナが食堂に入って来た。パーティーの客人のはずなのに、愛銃のマシンガンを肩にかけている。

 

「ヒナ委員長!良かった...!」

 

ヒナの姿を見た途端、フウカの表情がパッと明るくなると共に、眉間の皺が溶けるように消えた。

 

「ごめんなさい、仕事がちょっと長引いちゃって...」

 

「全然大丈夫!ただ、委員長。来て早々で申し訳ないんだけど...」

 

「えぇ、私は準備できているわ。後はジュリがどうするかだけよ」

 

フウカは決意に満ちた様子で強く頷くと、背後で不思議そうにしているジュリに振り返る。

 

「ねえジュリ。実は私ね、今回貴女がゲーム開発部の皆と野菜を作っていく中で、貴女の表情にどんどん自信が付いていく事に気付いたの。それを見て、私本当に嬉しかった。モモイさん達は野菜の栽培を通じて、ジュリが持っていた『誰かに何かを教える力』を引き出してくれたの。それはきっと、私一人じゃ決して出来なかったことだから」

 

「フウカ先輩...」

 

「だからね」と、フウカは続ける。

 

「やっぱり今回のパーティーは貴女自身の力で何か一つでも料理を作って、皆を喜ばせて欲しい。...だからジュリ、この前のリベンジをやってみない?今回はただのチーズケーキじゃない、南瓜入りのチーズケーキを」

 

どきん、と、ジュリの心臓が高鳴った。

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