ゲーム開発部がゲヘナで野菜をつくるお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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17話 皆さん、乾杯です!

「フウカ、こっちにフォークかスプーンを投げて」

 

「え。もしかして委員長、それ食べるつもりじゃ...」

 

「ええそうよ。フウカ、お願い」

 

「そんなの当たり前でしょ?」といった口調でヒナはこちらに背を向けたまま、耳の近くに手をやる。ここに投げろ、という合図だ。

 

しかし形が異なるとはいえ、あれは明らかにパンちゃんの類。しかも直ぐに鎮圧出来たとはいえあのヒナの一撃を防ぎ、あまつさえ反撃を加えようとしたモンスターだ。そんなものを口にすれば、お腹を下すだけではすまないかもしれない...

 

フウカは最初ヒナに食器を渡すのを躊躇ったが、彼女が一向に引き下がらないのを見て、結局食器棚からスプーンを取り出し、ヒナ目掛けて放り投げた。スプーンは綺麗な放物線を描き、ヒナの手にスポッと収まる。

 

「ありがとう」

 

ヒナは短く礼を言うと受け取ったスプーンでホカホカと湯気を立てている、南瓜の中身をそっと掬った。

 

ほんのりと黄色味を帯びたその生地は加熱が終わった直後の為かまだ少しプルプルとしていたが、その見た目と、何より漂ってくるクリームチーズの香ばしい匂いは確かにチーズケーキのそれだった。

 

ヒナは少しの間スプーンを眺めていたが、遂に小さく口を開き、生地を舌の上に落とした。咀嚼をせずに舌に乗せたのは、一応の毒見を兼ねてのことだ。しかしそれは、杞憂に終わる。

 

(美味しい...)

 

さっきまで暴れ回っていた化け物の成れ果てとは思えない程、そのケーキは美味しかった。まだ生地が固まっていないためケーキというよりかはブリュレのような食感ではあったものの、チーズの濃厚な甘さと、その中にほんのりと香る南瓜の風味。そのハーモニーが口の中いっぱいに広がり、ヒナはつい頬を緩めた。

 

念には念を入れて1分近くケーキを舌の上で転がしていたが、最終的に異常なしと判断したヒナはケーキを飲み込み、小さく息を吐いた。

 

「うん、やっぱりケーキだ。それもかなり美味しい...」

 

続いてヒナはそんな美味しいケーキがみっちりと詰められている南瓜の皮に注目する。

 

(これは...クッキーかしら?)

 

良く見ると皮の内側には皮とケーキを隔てるように、ざらざらとした焦げ茶色の層があった。その見た目からしてこれは、ジュリが型の底に敷き詰めた、クッキーの土台で間違いないだろう。

 

ヒナは指でクッキーの層を皮ごと折り、それも口に放り込む。クッキーは敷き詰める際に混ぜた溶かしバターがよく染み込んでおり、程よいサクサク感を残しつつもしっとり優しい舌触りで、こちらもまた美味だった。加えて南瓜の皮も柔らかく、それにクッキーの食感が混ざり合うことで噛んでいるだけで口の中が楽しくなってくる。

 

ジュリが生んだパンちゃんの成れ果てチーズケーキは総じて、文句の付けようが無い出来だった。もしこんな料理を常日頃から作れるようになったら、フウカと一緒に美食研究会の標的になる事は間違いないだろう。ヒナが直感で、そう思う程に。

 

「ジュリ!このケーキ、とっても美味しいわ!!」

 

くるりと振り返ったヒナの顔は、ジュリが遂に料理を完成させたことに対する賞賛と喜びで満ち溢れていた。そんな彼女を見て、ジュリは強ばらせていた表情を再び和らげる。

 

「ほ、本当ですか...!?」

 

「本当よ!ただ、少し焼き加減が足りないかもしれない。チーズケーキってもっと濃厚な感じっていうか...」

 

「それならきっと大丈夫!チーズケーキの濃厚な食感って冷蔵庫で暫く冷やさないと出て来ないから。今から冷やせば丁度デザートの時間に間に合う...っていけない!もうこんな時間!」

 

そう言いながら時計を見たフウカは、パーティーの開始時刻まで20分を切っている事に気付く。そろそろミレニアムの誰かが来てもおかしくない時間だ。

 

「ジュリ!急いでお皿と食器を並べて!私は直ぐに残りの南瓜団子味付けするから!」

 

「は、はいッ...!」

 

「委員長は先に座ってて!あ、でもその前にそのケーキ、冷蔵庫にしまって貰えると助かります!」

 

「分かったわ」

 

「私に何か出来ることはある?」

 

「えっと先生は...あ、そのお鍋の中にあるラタトゥイユ、少し冷えてませんか?もし冷えているようなら温め直してもらえると助かります!焦げ付くかもしれないので、弱火でゆっくり混ぜて下さいね!」

 

「了解したわ」

 

フウカの指示により、ジュリは食器棚とテーブルを忙しなく往復して全員分の食器を用意する。その間にヒナはジュリのケーキを冷蔵庫にしまい、先生はコンロのつまみを捻る。

 

そしてケーキを除いた全ての料理がテーブルに並び、パーティーの準備が全て整ったその時

 

『お邪魔しますッ!!』

 

扉が開き、いつもの四人組を先頭にエンジニア部、ヴェリタス、スミレ、レイ、そしてユウカが食堂に入って来る。皆今回の為に、多忙な中予定を合わせて来てくれた。

 

「それじゃジュリ、乾杯の音頭、お願いね!」

 

「は、はいッ!!」

 

ミレニアムの面々に加え、遅れてやってきたセナが席に座ったことを確かめると、先生がジュリに向かってオレンジジュースが入ったコップを掲げる。椅子を引き、コップを握ったままゆっくりと立ち上がるジュリ。皆の視線が、彼女に集まる。

 

「え、えっと...」

 

いやに緊張して、上手く言葉が出ない。こういう時、どんな事を言えばいいのだろうか。ジュリはつい目を泳がせてしまう。だがそんな彼女の視線が、先生の隣をちゃっかり陣取っているモモイを捉えた。

 

 

 

難しいことなんて言わなくて大丈夫!それよりも早くパーティーを始めようよ!

 

 

 

目は口程に物を言うとは良く言ったもので、モモイの無邪気なその目は確かにそう訴えかけていた。その言葉に、緊張がすっと解れる。ジュリは改めて、コップを高く掲げた。

 

「今日は集まって頂き、本当にありがとうございました!今日このパーティーが開けたのも全部、皆さんがいたからです!そんな皆さんに感謝を込めて...今日は目いっぱい楽しんで下さい!乾杯です!!」

 

『乾杯ッ!!』

 

一息で言い切ったその言葉。直後に互いのコップをぶつけ合う小気味よい音が食堂を満たす。ジュリとゲーム開発部達の努力の集大成とも言える打ち上げパーティーの、始まりだ。

 

「いただきま~すッ!!」

 

パーティー始まるや否や、モモイは真っ先に目の前のフライドチキンの山に手を伸ばし、自分の皿にこれでもかと盛り付ける。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!いきなり南瓜じゃなくてチキンって...ほら、お皿出して!サラダ取り分けてあげるから...」

 

「後でしっかり食べるからいいの!」

 

余計なお世話とばかりにモモイは自分の皿に触れようとしたユウカの手を払いのけ、チキンにかぶりついた。そしてモモイに気を取られている隙に他の三人も

 

「この南瓜のお団子甘じょっぱくて、みたらし団子みたいです!」

 

とか

 

「見ておねえちゃん!このグラタン、チーズがこんなに伸びる!」

 

とか

 

「これ、ハッシュドポテトを南瓜で作った、のかな...?でも、甘くてとっても美味しい!」

 

とか、サラダには目もくれず各々好きなものを頬張っている。まあ、いきなりチキンに飛びついたモモイよりかは、ずっとマシだろう。そんな5人の直ぐ横では

 

「はいコレ、マキの分ね」

 

「あ、先輩待ってよ!コタマ先輩のほうがラタトゥイユの量多くない!?」

 

「ふふっ。これも日頃の行いのせい、ですかね?」

 

「何だと~!?」

 

「食べたかったら後で自分で取ればいいでしょ?それにコタマ。日頃の行いを考慮するなら、あんたそもそもこのパーティーに来る資格無いからね?...ってハレどうしたの?そんな顔して...」

 

「今日12時に『ブレス・オブ・ジ・インダストリアル』の大型アップデートがあったの、忘れてた...。先輩、直ぐ帰ってくるから一瞬だけ抜け出しても...」

 

「絶対ダメ」

 

という、ヴェリタスの問題児三人組とチヒロの親子のようなやり取りが繰り広げられていた。その一方でエンジニア部とスミレ、レイは至って普通に食事を楽しんで...いや、どうやらそんなことはないようだ。

 

「レイさん、南瓜にはカリウムというミネラルが沢山含まれています。これは筋肉の収縮をサポートするだけでなく疲労回復を促進する効果もある、正に筋肉増強には必須の...」

 

「あの、スミレ先輩...。栄養学の講義は大変ありがたいんですけど、これパーティーですし、空気椅子で食事するの、止めません...?」

 

「この素揚げ野菜は素晴らしいね。この間開発したノンフライヤーは傑作だと思っていたが、あれではこのサクサク食感を生む事は出来ないだろう...。私達も負けてはいられないな、帰ったら早速アップデートに取り掛かるとしよう」

 

「はい!」

 

「うん。あ、でも、Bluetoothと加湿機能はそのままだよね?」

 

「勿論さ、ヒビキ」

 

個性が溢れすぎているミレニアムのお客さん達が繰り広げるマイペースっぷりを、ヒナとセナ、そしてフウカとジュリは自分達も食事を楽しみつつ愉快そうに眺めていた。自分達の学校だけでは飽き足らず、他の自治区や他校にも迷惑をかけまくるゲヘナの問題児の悪行に慣れている身からしたら、彼女達のそんなやり取りなど実に可愛く映るのだろう。

 

 

 

そしてパーティーが始まって二時間近くが経ち、どの大皿も鍋も殆ど空になった時、フウカは横に座るジュリのエプロンを引っ張った。

 

「そろそろケーキ、出してみよっか」

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