ゲーム開発部がゲヘナで野菜をつくるお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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19話 いざ、ゲーム開発へ!

「これでどうかな?」

 

サボり防止の為に部屋の隅に押し込められたゲーム機とソフトの山。小柄なゲーム開発部の4人が囲うテーブルの上にはそれぞれのノートパソコンと先程モモイが印刷して来たシナリオ案の紙が置かれている。

 

パーティーを終えて、遂に本格的なゲーム開発に乗り出そうとしていた4人。しかしやらなければならない課題を目の前にすると人間どうしてもそこから目を逸らしがちで、4人が最初に手をつけたのは部室の大掃除だった。

 

お陰で脱ぎ捨てた靴下やらお菓子のゴミやらで半分汚部屋状態だった部室は多少綺麗にはなったものの、それでもユウカが見れば苦言を呈するのは必至だろう。

 

そんな空間の中で、ミドリ達はモモイから渡されたシナリオ案に目を通し、そして

 

『魔王の娘が主人公!?』

 

と、皆全く同じリアクションを取った。

 

「そうそう!前からずっと作ってみたかったんだよね、敵側のキャラを主人公にしたゲーム!」

 

モモイが提示して来たそのシナリオ。それは「テイルズ・サガ・クロニクル」シリーズの外伝作品という位置付けで、2で主人公達に打ち倒された魔王が命がけで逃がした一人娘が、逃走先の農村にて魔王の娘という正体を隠し村人と共に農業を営む、というものだった。

 

「それでその逃げてきた村ってのが主人公の生まれ故郷でね!最終的に娘はその正体がバレて主人公に殺されそうになるんだけど、それを村の人たちが止めて、それで最終的に...」

 

「待って待ってお姉ちゃん、一人で盛り上がらないで!まずは私達の話を聞いてよ!!」

 

余程渾身の出来だったのかやや興奮気味にあらすじを話す姉をミドリは抑える。そして改めてそのシナリオをしっかり見て、幾つかの疑問を洗い出す。質疑応答の時間だ。

 

「それじゃまずは私から。そもそもの話、2の魔王に娘がいたって設定、かなり無理矢理じゃない?私達お話の中でそんなこと一切匂わせてないし...」

 

「それはまぁ、細かいことは気にするなってことで!!それにアクション映画とかだと良くあるでしょ?次回作で急に主人公の兄弟とかが出て来て敵になる話!」

 

(もう嫌な予感しかしない...)

 

余りにも無責任なその返答に、ミドリは頭を抱える。確かにTSC(テイルズ・サガ・クロニクル)2はその突飛で先が全く読めないストーリーも評価されているところではあるが、だからといって今まで語られていなかった設定や登場人物を急に生やし、それを用いて外伝作品なんて作ればそれだけで低評価をされかねない。

 

「ま、待ってそんな顔しないでよ!確かに私自身も無理あるとは思う。でもそれ以上に私は今回の農業シミュレーションはTSCに関連付けて作ったほうが絶対良いと思うの!」

 

「お姉ちゃんに全部任せた私がバカだった」と言わんばかりの視線を送って来た妹にモモイは、シナリオライターとして弁護を開始する。

 

「まず私達にはミレニアムプライスまで時間が無い。本気でまた受賞を目指してTSC以上の作品を今から作ろうとしても、悔しいけど私達にそんな力はまだ無いと思う」

 

モモイの言う事はもっともで、ジュリには大丈夫と威勢を張っていたものの、いつまで経っても改善されない彼女達の引き伸ばし癖と半年近く続いた農作業の疲れにより、ゲヘナに通っている間ゲーム開発は全くと言っていい程進んでいなかったのだ。その上でゼロからゲームを作るとなったらミレニアムプライスまで、人間らしい生活を捨てる覚悟が必要になるだろう。

 

「けど今回のゲームをTSCの外伝作品にしたらお話は勿論、登場人物やアイテムとかもある程度ならそのまま使える。そうなったら皆の負担も、少しは軽くなると思ったの」

 

モモイにしては珍しいまともなその意見に、ミドリ達は感心したように互いに顔を見合わせた。更にモモイは続ける。

 

「それに私がこのシナリオを書いた一番の理由は別にある。3枚目のプリント見てみて」

 

5枚綴りのシナリオ案をめくり、ミドリはそこに印刷された「シミュレーションとRPGの融合!」というタイトルを見る。

 

「TSCシリーズとして作る以上、今回のゲームにはただ農業をするだけじゃなくて、戦闘の要素も入れる必要がある。そこで考えたのがこの案。村を襲いに来る魔物や魔王軍の残党を返り討ちにして、報酬として得られるゴールドを使って新しい道具を買ったり村を発展させたりするの。それに主人公が魔王の子供って設定を活かして倒した魔物に作業を手伝わせたり村を守らせることが出来るようにして。これならジャンルが違ってもTSCの外伝作品って言えるし、何よりプレイしてくれる人もこれまでのシリーズとは違った刺激を受けられると思うの!それに戦闘の部分はRPGにしちゃえば元のシステムもかなり使いまわせるだろうし!」

 

モモイのプレゼンテーションに、ミドリは何も反論することが出来なかった。それ程までにモモイの考えたシナリオは「実際にこんなゲームがあったらやってみたい!」と思わせる魅力があった。

 

シミュレーションとRPGを組み合わせるというのも面白そうだし、これまで倒すだけの存在だったモンスターを使役出来るというのも、前作を楽しんでくれた人にとってはそれだけで新たな刺激になるだろう。それにページの最後にある「村への貢献度でエンディングが変化する」だったり「最高難易度をクリアすると特典として2の主人公パーティーが仲間に加わってどんな強敵でも瞬殺してくれる」だったりも、ありきたりではあるけれどやり込み要素としては十分だ。

 

「ここまで踏まえた上で、まだ何かありますか~?」

 

ミドリ達に反論の余地なしと判断したモモイはわざとらしく胸を張り、鼻につく位のドヤ顔をして見せた。これまでの経験を経て色々と成長を見せているモモイだったが、直ぐ調子に乗るその性格は良くも悪くも健在だ。

 

「ちょっと悔しいけど、私はこのシナリオ賛成かな。ユズはどう?」

 

「RPGも入って来るからプログラミングは大変だと思うけど、でも私もこのシナリオでゲーム作ってみたい!アリスちゃんは...」

 

ミドリとユズが賛同する中、アリスはシナリオ案の一番最初のページをじっと見つめていた。このシナリオの一番のコンセプトである、「今作は魔王の娘が主人公!」という見出しがこれでもかと強調されたページだ。

 

(や、やっぱり気になるかぁ...)

 

モモイが恐れていたことが、案の定起きてしまった。魔王、というのはアリスにとっては今でもNGワード、自分の中の恐ろしい力を端的に示す言葉だ。そんな存在の子供が主人公のゲーム...アリスにとっては受け入れがたいものだったのだろう。

 

「皆さん、私はこのゲーム...」

 

アリスはゆっくりと首を持ち上げ、3人を見つめる。生唾を飲み込むモモイ、ミドリ、ユズ。だが―

 

「大賛成ですッ!!!」

 

「...え?」

 

完全に予想外の答えに、モモイは間の抜けた声を出す。

 

「確かに魔王というのは恐ろしい存在。かつてのアリスがそうであったように、世界を破滅に導く存在です。しかしこの前クリアしたゲームでアリスは知りました!『魔王でも勇者のような世界を救う存在になれるのだ』ということを!ですからアリスはこのシナリオに大賛成です!」

 

「この前クリアしたゲームって...あ、もしかして『モリオ&ベイージRPG3!!!』のこと?」

 

「そうです!!」

 

アリスが言及したそのゲームは普段配電工として働いているモリオとベイージの兄弟がひょんなことから世界を救う旅に出るアクションRPGで、1では旅行で訪れた異国を旅し、2では突如として侵略を開始した謎の宇宙人を打ち倒す為に過去と未来を行き来し、そしてアリスがプレイした3では紆余曲折あって宿敵である大魔王ゴッバと共に世界を救う為立ち上がる、というストーリーだった。

 

「やっぱ3は名作だよね!ラスボス戦のBGMとかカッコよすぎて本当に全年齢対象のゲーム!?って思ったもん!」

 

「私もなんだかんだで3派かな。小さい頃闘技場のボスラッシュを何周もしてたし」

 

「ということはユズは最後のゴッバDXを倒したんですか!?アリス、ゴッバ戦でいつもやられて全制覇出来ていないんです!今度倒し方を教えてください!」

 

「ちょっと待って皆!今は話を逸らしてる場合じゃないんだから!!」

 

レトロゲーム語りに花が咲きかけたところでミドリが何とか軌道を戻す。

 

「それじゃシナリオはお姉ちゃんの案で進めるってことでOK?」

 

ミドリの問いに3人は大きく頷く。全会一致、まずは第一段階クリアだ。

 

「よし!そしたら今度は私の出番だね!」

 

「私の出番って...まだシナリオも完成してない状態でミドリが出来ることなんて無かったでしょ?」

 

「ふっふっふ...!私を甘く見てもらったら困るよお姉ちゃん!」

 

ミドリは背後に置いた自分の鞄から分厚い紙の束を取り出すと、モモイと同じように皆に配って見せた。そしてそこに描かれていたものを見て、モモイ達は目を見開く。

 

鍬やハサミ、それに電気柵や草刈り機にトラクターまで。ミドリが渡して来たその紙にはゲームの資料集と見紛う程に緻密に描かれた道具達が所狭しと描かれていたのだ。更に驚くべきことにトラクターや電気柵は馬車のような姿をしていたり魔法で作られた電気の束が張り巡らされていたりと、現代の技術で作られた機械達は皆、ファンタジーの世界に違和感無く溶け込めるデザインに落とし込まれていた。

 

「何となくお姉ちゃんが魔法と剣の世界のシナリオを書いてきそうと思って、事前に色々描いてみたんだ。そしたら凄く楽しくなっちゃって、気付いたらこんなに沢山出来ちゃったの!」

 

「凄いよミドリ!シナリオ書いてた時『これじゃトラクターとかは登場させられないな』って思ってたけど、もうこんなにイラストがあるなら全然大丈夫じゃん!魔法で動くトラクターとか、ロマンの塊だし!!」

 

「ね、ねえ皆。この魔法の道具、続編で登場させる為に2で生かしておいた四天王の『悪魔の錬金術師エドフォンス』が作って主人公に売るってことにしてみない...?そしたら2との繋がりも生まれるし、そこで資金を得たエドフォンスが3では黒幕として魔王復活を目論む...みたいなストーリーも作れると思う」

 

「ユズ天才!!エドフォンスと会った時に『お前さん、魔王の隠し子か...?』みたいなこと言わせれば強引な設定にも説得力持たせられるし!!」

 

「お姉ちゃん、自分で強引って言っちゃったよ...」

 

モモイの魅力的なシナリオ。設定まで書き込まれたミドリの見事なイラスト。そしてそれらから生まれる新たな展開やストーリー...。とても良い流れだ。あとはユズがこれらをゲームとして出力するだけ。

 

「うんうんとっても良い感じだよ!これなら今度は特別賞じゃなくて正真正銘のミレニアムプライス獲れるかも!!」

 

「私、頑張るね!!」

 

「頑張ってユズ!!私も出来ることなら何でも手伝うから!」

 

「アリスも応援しています!」

 

そして最後に4人はゲームの完成に向けて気合を入れる為、円陣を組んで威勢よく掛け声をかけた。

 

「ミレニアムプライスゲットに向けて頑張るぞ!エイエイオーッ!!」

 

『エイエイオーッ!!』

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