ゲーム開発部がゲヘナで野菜をつくるお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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その二 ケイとリオ先輩へ

「リオ、起きて下さい。こんなところで寝ていたら、腰を悪くしますよ」

 

ケイのマニピュレーターが、椅子の上で寝息を立てているリオを優しく揺すった。

 

「う、う~ん...。そ、そうよトキ...。貴女のポテトチップスはさっき、ヒマリの車椅子が食べてしまったの...。決して私では無いわ...」

 

涎を垂らして支離滅裂な寝言を唱えるリオ。相当カオスな夢を見ているのだろう。

 

「どんな夢見ているんですか全く...起きて下さい!」

 

「ひぃッ...!?お、落ちる...!」

 

ケイに強く身体を揺すられたことに驚いたリオは、身体を預けていた椅子から滑り落ちるようにして目覚めた。辛うじて背中が引っ掛かり、半分腰を浮かせた不格好な状態で頭上を見上げると、そこには自分の顔を覗き込むケイの顔、もといAMASのモニターがあった。

 

「おはようございます」

 

「け、ケイがどうしてここに...?わ、私はさっきまで、トキと人生ゲームをしていたはず...」

 

「何時までも寝ぼけてないで下さい...。ここはもう夢の中ではありません」

 

身体を起こしふらふらと立ち上がるリオ。アリスの抹殺に失敗しミレニアムから姿を消して以降、ずっと身を潜めている隠れ家の一室。モニターが所狭しと並ぶその部屋で、リオは日頃の疲れからか、つい居眠りをしていたようだ。

 

「私、寝ていたのね...」

 

「最近無理をし過ぎです。作業中に居眠りをしてしまうのも、変な夢を見てしまうのも、疲れが取れていない証拠ですよ。今日はもう休んで下さい、後の事は私が処理しておきますので」

 

「わ、分かったわ...。それじゃお言葉に甘えるわね...」

 

キャスター付きの椅子に座るリオを、座ったままの彼女ごと押し退け、ケイはモニターに向き合った。

 

リオの住処にケイが居候するようになってから、もう結構な時間が経った。義体を得て無事復活を遂げたケイが、アリス達ゲーム開発部と共にミレニアムに戻るのではなく、「私はリオと共に居たいです」と告げて来た時、リオは気が動転して暫く口から言葉が出なかったし、「自由に動けるようになれたから、二度とアリスに危害を加える事の無いよう見張るつもりなのか」とも考えてしまった。

 

しかし何時も小言を言いつつ、かつてトキがそうしてくれたように家事や仕事の手伝いをしてくれるケイと過ごして、リオは何となくではあるが彼女が自分と共に居たいと言い出した理由が分かって来た。

 

 

ケイはまだ、アリスの傍に居るのが気まずいのではないか、と。

 

 

データの状態から復活し、「見て、聞いて、動ける状態」になったケイ。それを彼女は「生きていると実感できた」と表現した。そして「生きている」ということは他者と双方的なコミュニケーションが取れるようになったということ。

 

だからこそケイは、「アリスは自分の事を大切に思っているし、自分もまたそうである」ということを自覚しつつも、アリスと過ごす事に若干の後ろめたさを覚えてしまっているのではないだろうか。ゲーム開発部やエンジニア部の面々、トキやヒマリが己の所業を許してくれたにも関わらず、未だにミレニアムに復帰出来ずにいる自分と、同じように。

 

あくまでこれは自分の憶測であるし、ケイ本人に真実を聞き出す度胸なんて無い。でもそう考えたら何だか、ケイと自分は何処か似ているように思えてきて、リオはケイと過ごすことに何時しか心地良さすら覚えてしまっていた。そのお陰で二人はかつての柵が嘘のように、ごく自然な会話が出来るまでになっていた。

 

 

 

何時もよりもずっと穏やかな声で休むよう促して来たケイに大人しく従い、リオは部屋を出ようとする。しかし設置された自動ドアに立った時、リオは首を傾げた。何故か、ドアが反応しないのだ。そして次の瞬間―

 

 

警告、警告。セキュリティへの不正アクセスを確認。各警備システムが無効化されます。直ちに復旧プログラムを起動。トラブルシューティング完了まで、120秒。

 

 

けたたましい警告と共に全てのモニターが真っ赤に染まった。何者かがこの隠れ家にハッキングを仕掛けて来たのだ。

 

「ケイ!一体どうしたの...!?」

 

「分かりません...!しかし既に全てのファイアウォールが突破、外の警備AMASも操作を受け付けません...!」

 

リオの叡智とケイの処理能力により極めて強固なシステムが築かれているこの隠れ家。それを易々と突破され、流石のケイも焦りを隠せていない。更に警告は続く。

 

 

侵入者を確認。システムによる排除、不可能。

 

 

「リオ、武器を取って下さい。私も応戦しますが敵の能力が未知数な以上、貴女を守り切れる保証はありませんので」

 

「分かったわ...」

 

リオは震える手で自分の武器である「立案者」を取り出す。射撃は苦手だが、今はそんなことを言っている場合では無い。

 

「AMAS、メインシステムを戦闘モードに変更。武装を展開します」

 

ケイがそう告げた直後、モニターが暗転しAMASの両肩の盾のようなパーツからマシンガンが勢いよく顔を覗かせた。万一に備えた義体の改良がこんなところで役に立つとは思ってもいなかった。二人は銃口をドアに向けて構える。

 

「扉が開きます...!」

 

「...!!」

 

先程微動だにしなかった自動ドアがゆっくりと開く。そして真っ暗な廊下から開いた扉を通り、何かが高速で飛来してきた!その余りの速さに、目で追う事さえ出来ない二人。万事休すを悟ったその時ー

 

「オトドケ、オトドケー!!」

 

『...え?』

 

緊迫した空気をぶち壊す間の抜けたその声に、二人も思わず素っとん狂な声を上げる。

 

「オトドケ、オトドケー!!デリカシーの無いデリケートな会長さんと、その会長さんをお世話する真面目さんにオトドケー!」

 

二人の頭上をやかましく飛び回っていたのはミレニアムは勿論、キヴォトスでもかなりポピュラーな汎用型ドローンだった。武装は一切されておらず、下部に自分と同じ大きさの白い箱を抱えている。爆弾か、とも思ったが、ドローンがその箱を丁寧に下ろし、そしてそんなドローンが次に発して来た声を聞いて、二人は身体を力を一気に抜くことになる。

 

『やあこんにちは、私だ。エンジニア部のマイスター、白石ウタハだ。急な訪問をしてしまって申し訳ないね』

 

「貴女だったのね...。良かった...」

 

緊張が解けたリオはその場にへなへなと座り込む。

 

「ウタハ、一体どういう風の吹き回しですか?それにこのハッキングは一体...」

 

『二人にどうしても届けたいものがあってね。ただ君達の隠れ家を知っているのは以前会長のお世話に行ったネルだけだし、そのネルも忙しいようだから、ドローンに荷物を任せて送り込ませたんだ。それと今システムを無効化しているのはヒマリの仕業だよ。私だけじゃ君達のセキュリティを突破出来るか自信が無かったからね。あ、それから一つ聞きたいんだけど、今私の声を届けているこのドローン、部屋に入った時に何か失礼な事を口走っていなかったかい?実は市販の汎用型ドローンに自律思考が可能なAIを搭載してみたんだけど、ちょっと正直が過ぎる子だったみたいでね...』

 

「えっと、大丈夫よ」

 

「そうですね。事実をただ述べるのは罪ではありませんので」

 

「...そうね」

 

ケイの返答に、リオはやや不服そうに視線を落とす。相変わらず顔に出やすい性格である。

 

『それは良かった。そしたら私はこれで失礼するよ。もう間もなくシステムが復旧するはずだから安心して...』

 

「待って、ウタハ」

 

プロペラを再び回転させ部屋を出ようとしたドローンを、リオは呼び止める。

 

『何かな?』

 

「ウタハ。ミレニアムプライス受賞、おめでとう。この半年であれだけの機械を開発するなんて、流石はマイスターね」

 

以前よりもずっとスムーズに賞賛の言葉が出た事に、リオ自身が一番驚いた。そんなリオに、ウタハは一言。

 

『ありがとう、リオ。これも全て、ケイとそのポテンシャルを引き出してくれたリオのお陰さ。今度また会った時は一緒にカラオケでも行こう。最近お気に入りの演歌が平均点を超えるようになってね、会長にも是非聞いて欲しいんだ』

 

「えぇ。楽しみにしているわ」

 

それっきりウタハは何も言わずに去って行った。ドローンの姿が消えた直後

 

 

システム、復旧しました。各セキュリティ、正常に稼働しています

 

 

というアナウンスと共にモニターが元に戻った。物々しい雰囲気が消え、静寂がリオとケイを包む。

 

「...リオ。この箱、開けてみませんか?」

 

互いの間に流れる気まずい沈黙に耐え切れず、ケイはドローンが置いていった箱を指さす。

 

「そうね」

 

ヒマリにハッキングを依頼してまで届けたかったものとは、一体なんだろう。リオは箱に手を伸ばし、そっと蓋を開ける。そして、飛び込んで来た光景に言葉を失った。

 

 

 

箱の中にあったもの。それは大きな大きなホールのショートケーキだった。雪原みたいな白いクリームの上に並ぶ、真っ赤に染まった大振りのイチゴ達が眩しい、美味しそうなケーキ。だがリオとケイが絶句した理由は、そんなものでは無かった。

 

ケーキの中心にはチョコペンで、リオとゲーム開発部の4人が満面の笑みを浮かべた似顔絵が描かれていたのだ。更にそんな彼女達の上には砂糖で作られた「アバンギャルド君 Ver.AG」が添えられていた。頭に被った麦わら帽子とその上に浮かぶケイのヘイローも実に良く再現されている。

 

「ケーキの横に何か入っています...」

 

良く見るとケイの言う通り、ケーキと箱の隙間に手紙のようなものが挟まっていた。リオは意識をケーキから無理やりそれに移すと指先で摘まみ上げ、広げてみせた。

 

 

 

じゃじゃーん!!ゲーム開発部特製、巨大ショートケーキだよ!トキ先輩に教えて貰って、皆で作ったんだ!!リオ先輩、ケイ、一緒に南瓜を作ってくれて本当にありがとう!二人共大好きだよ!   モモイより

 

 

 

先輩と私達の顔は私が描いたんだ!それとアバンギャルド君は給食部の二人にお願いしたの!ケイはケーキ食べられないけど、それでもこのお手紙で私達の感謝の気持ち、伝わると良いな!!  ミドリより

 

 

 

ケイへ。一緒に畑を耕せて私もとっても楽しかったよ!ケイは嫌かもしれないけど、また一緒にアバンギャルド君を動かせたら良いな!リオ先輩も何時でも好きな時にミレニアムに帰って来てね! ユズより

 

 

 

リオ先輩、ケイ。短かったけど、また同じ時間を一緒に過ごせてアリスはとても幸せでした。リオ先輩、また会った時はもう一度頭を撫でて欲しいです。先輩の温かくて優しい手がアリスは大好きです!ケイ、再会した時は是非、普段のことを聞かせて下さい。ケイとリオ先輩の日常を、アリスも知りたいです! アリスより

 

 

 

手紙には4人からのそんなメッセージが綴られていた。それを読む二人の間に、再び沈黙が生まれる。しかしその沈黙には先程のそれには無かった、春の陽気のような果てしなく心地良い温かさが、確かにあった。

 

 

 

 

 

ゲーム開発部がゲヘナで野菜を作るお話 おしまい




最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

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