ゲーム開発部がゲヘナで野菜をつくるお話 作:空を飛ぶジンベエザメ
ゲーム開発部が次にゲヘナを訪れたのは、フウカとジュリに出会ってから10日後だった。今度は筆記用具だけでなく、予め用意した作業道具を持って、モモイ達は再び畑を前にする。
「アリス、
手袋をはめ、ゴムの長靴を履いて、土の上でアリスは器用にくるくると回る。
「えぇ!皆さんとってもお似合いです!そのツナギ、本当に同級生が準備して下さったのですか?」
「はい、そうです!見てください、空調機能も付いているんですよ!」
ミドリは少し得意げになりながら、腰回りに取り付けられたファンを指さした。
ジュリの前に立つ4人は、それぞれのパーソナルカラーのツナギを身に着けていた。これは全て、ミレニアムのエンジニア部に所属する猫塚ヒビキの手になるものだ。衣装関連なら普通に買うより彼女に相談したほうが良いと踏んだところ、ヒビキは相談に乗るどころか、たった一晩で全員分のツナギを快く準備してくれたのだ。
もっとも製作を完全に彼女に任せてしまったせいで、空調機能や防水機能のような便利なオプションだけでなく、Bluetooth機能や防弾機能のような、明らかに不必要なものまで付与されてしまったようだが...。
「空調まで!農作業は暑い中でやらなくちゃいけないものもあるので、身体を涼しくするのはとっても大事なんです。モモイさん達は素敵なお友達をお持ちなんですね!」
ただそんな頓珍漢な機能までは紹介しなかったため、ジュリはヒビキの事を、純粋に仲間思いの良い生徒と認識した。
「それで、今日は何をするんですか?」
モモイは自分の周りに広がる、未だに寂しげな雰囲気を醸している畑を見回した。やはりまだ、何かが植えられている気配は無い。
「はい。今日は皆さんに、野菜泥棒対策の設置をお手伝いして頂きます」
ジュリはそう言って、畑の隅に置かれた木箱を指さした。一部の箱には、「ゲヘナ学園風紀委員会所有 危険物に付、取り扱い注意」というラベルが貼られている。それを見て、キョトンとした顔をしている4人にジュリは
「あ。まずは見て頂いたほうが早いですね」
と呟くと、彼女達を箱の前に案内し、封を開けた。
「これは...?」
箱の中にあったもの。それはカイザーコーポレーションのロゴが入った、大きなソーラーパネル付のバッテリーと、白いワイヤーが巻かれた大きなリールだった。
更に風紀委員会のラベルの箱からは何と、大量の指向性対人地雷と起爆用のトラップワイヤーが出て来た。それを見た瞬間、ユズの顔が小さく引き攣る。これが、野菜泥棒対策なのか...
「それでは、また説明させて頂きますね。皆さんはクロノスの報道とかで、クマがD.U.シラトリ区に出没して町が一時パニックになった、というニュースを見たことはありませんか?」
「は、はいあります...!」
この物騒な品々の意味を一刻も早く知りたいのか、誰よりも早くユズが答えた。
「それは良かったです。クロノスの報道やネットニュースの通り、最近キヴォトスの自然環境が変化しているようで、普段は山間部に住んでいるような動物達が都市部にも出没するようになっています。そしてそんな動物が畑に侵入して、育てている野菜を食べてしまうという事例も発生していて、最近は動物対策の装置を畑に設置することが必須になってきているんです」
「それでその対策...っていうのがこれ?」
「はい。厳密には、このバッテリーとワイヤーですね」
ジュリは抱えるようにして、ワイヤーのリールを持ち上げる。
「これはこの間カイザーコーポレーションが発売した、野生動物用の電気柵なんです。このワイヤーを畑を囲うように設置して、バッテリーと接続することでワイヤーには常に電気が流れるようになります。そして畑に入ろうとした動物がこれに触れるとバチッと電気が流れて、それに驚いた動物はもう畑に近づかなくなる...という仕組みです。カイザーの商品ということで皆最初は警戒していたんですけど、これは珍しく良く出来たものだったみたいで、今では色んな農家さんが使っているんですよ!」
「へぇ...」
それを聞いて、モモイは改めて電気柵セットを眺める。技術の粋が集まるミレニアムでは常に最新のガシェットや機械類の情報が流れているが、農業に関する分野についてはこの限りでは無く、故にモモイ達もこんな装置を見るのは初めてだった。
「でも、それだったらこの地雷は...?」
「えっと...」
地雷を言及されたジュリは突然、気まずそうに視線を落とした。
「この地雷は動物用では無く、対生徒用なんです」
『対生徒用!?』
一同、全く同じリアクションを取る。
「はい...。大変恥ずかしい話ですけど、治安の悪いゲヘナでは動物以上に、野菜を盗もうとするチンピラや不良生徒を警戒しなければいけないんです。なので私達の畑では電気柵以外にもこの指向性地雷を設置して、生徒の侵入を防いでいます。...と言っても万が一野菜の近くで爆発したら大変な事になるので、地雷は風紀委員会が指定したポイントにだけ置くことになっているんですけどね」
ゲヘナ特有の事情を説明し終えたジュリは、地雷の箱を慎重に持ち上げる。
「さて、長話はこれまでです!皆さんの最初のお仕事、それは今説明した電気柵の設置になります。畑の外周を、見て下さい」
ジュリに従い、モモイ達は畑の淵に目をやる。すると以前までは無かった、細長いポールのようなものが、畑の外周に等間隔に設置されていた。
「あのポールにはワイヤーをひっかけるフックがついていて、それで柵を張れるようになっています。私は地雷を設置してくるので、皆さんはその間にワイヤーを張っていて下さい。何か分からないことがあれば、遠慮なく聞いて下さいね!」
『分かりました!』
4人は元気よく返事をすると、ワイヤーのリールを抱え上げる。最初の
「ふわぁ、疲れた...」
広い畑を一周してワイヤーを張り終えたモモイは元の場所に戻って来るなり、ドカッとその場にへたり込む。
(畑を歩くのって、こんなに大変なんだ...)
ただ歩いて、ワイヤーを張るだけ。最初はそんな簡単な仕事だと思っていた。だけど、現実はそうでは無かった。畑は大きな土の塊がいくつもごろごろしていてとても歩きづらいし、履いている靴も、いつも履いている動きやすいスニーカーではなく硬い長靴のせいで、前に進むごとに着実に体力を奪われる感覚があった。
最近部室に引きこもりがちで運動不足気味であったこともあり、アリス以外の三人は仕事を終えた瞬間に、押し寄せた疲労に耐え切れず、肩で息をしていた。そんな彼女達を
「皆さんだらしないです!これでは
と、一人疲れ知らずのアリスがぷりぷり叱る。その時
「皆さんお疲れ様!初めて畑を歩いた感想はどうですか?」
空の木箱を持ったジュリが歩いて来た。彼女も地雷の設置が終わったようだ。
「とっても疲れました...。土の上を歩くのがこんなに大変なんて、思ってもみませんでした...」
「今は土が耕されていないので、とっても歩きづらい状態なんです。私も慣れない間は、畑に入る度にへとへとになっていました」
そしてジュリは一度畑をざっと見まわし、ワイヤーが問題なく設置されていることを確かめるとモモイ達に礼を言い、接続したバッテリーを起動した。キュイン!という音が、バッテリーから響く。
「これで動物達に畑を荒らされることはありません!改めてお手伝い、ありがとうございました!」
ぺこりと頭を下げ、改めて礼を言って来たジュリに、ミドリは「こちらこそ貴重な体験ありがとうございました!」と返そうとする。その時
「隙ありッ!」
ミドリは突然モモイに腕を引っ張られ、今しがた設置したワイヤーに身体を押し付けられた!
「ちょ、お姉ちゃん何...!?」
いたずら好きの姉にしてやられたミドリ。電流が、彼女の身体を迸るー
『あれ...?』
しかしワイヤーに触れても、何も感じなかった。姉妹は互いに、顔を見合わせる。
「あれ、ビリっと来るはずじゃないの...?ミドリのびっくりした顔、見たかったんだけど...」
「ちょっとどういうことそれ!?でも、確かに何も感じなかった...」
二人は今度はジュリの顔を見る。
「おかしいですね...?接続が悪いのかしら...?」
対するジュリも困惑した様子で、バッテリーを覗き込む。その時不注意で、彼女の立派な角が、ワイヤーに触れた。
バチバチッ!!
「ひゃいいっ!?」
瞬間、電気の流れる派手な音と共に、ショックに驚いたジュリの変な悲鳴が響く。
「へ...?え...?」
跳び上がったジュリは鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、バッテリーとワイヤーを交互に見つめる。
「あ、そういえば...」
その光景を見て、モモイはツナギを渡された時のヒビキの言葉を思い出した。
この服は皆を守る為の大事な服だから、耐水、対爆、それに防電機能も付けておいたよ。あ、それと勿論、Bluetooth機能も