彼の研究は身を結ぶのだろうか?
「人工子宮がもたらす利益は絶大である。」
「妊娠期間中の制約によりキャリアを犠牲にする必要はなくなる。」]
「母親はつわりなどの体調不良から解放される。」
「事前に卵子の保存さえしていれば、後は避妊手術で完全に望まぬ妊娠をしなくて済む。」
「着床から出産まで専門の医師による完璧な管理が行われるから安全性か高い!」
「なによりも出産で母親が死ぬことがなくなるのだ!」
「なのに学会のやつらときたらやれ倫理に反するだの、
法整備が必要になるだのウダウダといつまでたっても本腰を入れない。」
「無能どもが!」
「あのアホどもがもう少しまともだったら、かあさんは死なずに済んだんだ!」
「ああかあさん!ごめんよ!僕なんかを生んだせいで!ごめんよ!」
研究室でいつもと同じように雇用主が独り言を叫んでいる。
もはや絶叫と言っていいレベルである。
まあ通常運転。
いつものことなので、いつも通り放置しておく。
私の雇用主は完全にあたまがピー―ッなのだ.
しかし、その頭脳たるやなかなかに優れており、これまで数々の成果を上げている。
俺の存在は時代を100年は進めてくれたと言われており、
事実、我々の生活を格段に豊かにしてくれていた。
その雇用主のライフワークともいえるのが人工子宮の開発なのだ。
彼は研究の成果で得た金の全てをこの研究に費やしていると言っていい。
雇用主自身、母親を彼の出産の時に亡くしている。
彼の父親は彼の母親を愛しすぎていた。
だから彼の父親は、彼が物心つく前から雇用主を責め続けた。
死の原因はお前だと。
毎日、毎日。
その結果、彼は壊れてしまったのだろう。
その父親から植え付けられた母親への罪悪感。
それこそが彼の発明の原動力になっている。
その彼が全身全霊を持って臨む人工子宮の開発。
じつはそれなりに成果が上がっているのだ。
成果どころか、一応成功例も何件かある。
しかし、今はコンプライアンスの時代だ。
結果よりも過程や方法が問題視されることがある。
彼の研究はその点、時代と相性が悪かったといる。
なにせ成功例というのは、
脳死〇〇に受精卵を〇〇させそのまま〇〇を〇〇まで〇〇させた実験や、
イルカを〇〇した上で〇を〇〇する事で〇〇状態にして受精卵を〇〇させる実験など
人権的にも、宗教的にも、倫理的にも、動物愛護的にも
総攻撃を受けるような内容ばかりなのだ。
雇用主は
「生命の神秘に挑戦するのだから、多少の犠牲は致し方ない。
それにあれをご遺体などと呼ぶな!生体部品と呼びなさい!」
などと真顔で言うものだから始末が悪い。
結局、触らぬ神に祟りなしと彼の人工子宮に対する研究は無視されている。
しかし、彼は信念を曲げない。
彼の発明の原点がそこにあるのだから仕方がない。
ある日、彼は某研究所で行われている豚の受精卵に人間のIPS細胞を注入して
臓器移植用の臓器が取れる動物を作る実験に興味を持つ。
これを利用して人間の受精卵でも拒絶しない子宮を作る事が出来るのではないか?
まずは某研究所で成功例のある豚で試してみた。
何回、何十回かの実験で人の細胞と豚の受精卵を融合させ、
次に、人間と豚のハイブリッド生命体を生み出すことに成功する。
そしてその生命体による人間の受精卵の着床実験に取り組み、
ついには人間の子供を産む生命体を完成させる。
雇用主は人類がとうとう安全な人工子宮を手に入れたと、
嬉々として、その成果を学会に発表した。
しかし、彼の期待は裏切られる。
動物が人間を産むという宗教的背信行為に
キリスト教の教皇が出てくるほどの騒ぎとなり、雇用主はついに学会を追放された。
彼は人類に絶望する。
彼の眼は人類への怒りに燃えていた。
彼は手に入れた人工子宮を用いて次々と新たなる異形の化け物を生み出す。
そして、悪の秘密結社を立ち上げ、異形の化け物を使って、
幼稚園バスをバスジャックしたり、花粉をばらまいて人々を花粉症にしたり
悪事の限りを尽くした。
そして、その悪事は彼自身が生み出したバッタと人間をかけ合わせて作った
怪人の手によって、彼が倒されるまで続くのであった…。