リバース・プラネット   作:TT-24_ケンタ

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※第5話のおまけ。


第5話after「デブリーフィング」

 エコーレが艦橋に設けられた隊長席に座ると同時に、〈セヴェラス号〉は発進した。

 ロディーク隊の母船である〈セヴェラス号〉は都市が器士団のため建造した小規模な浮遊艦だった。出自を隠すために派手な色に塗られているが、旧型とはいえ軍用艦である。設備は充実している。

 艦橋は二層構造で、艦首側は半階分下り操船要員のエリアであり、半階分上がった艦尾側には艦長席と、長テーブルを囲う器士席があった。

 今、艦長席には〈セヴェラス号〉の船長も兼ねる副隊長のグリュー・カリグマが巨体を収めている。

 そして隊長席に座るのがエコーレ・ロディークだ。衛星区で都市外民が最強の自由器士の名をあげれば必ず候補となり、実際17年も巨人器に乗り戦い続けているベテランは、しかし評判や経歴に似合わぬ容貌の持ち主だった。

 背は低く身体は華奢で薄い。コートはブカブカで裾が床につきそうだった。波打つ髪は伸ばしっぱなしで、その顔は少女そのものだった。ただ、赤い瞳と白い髪色がどこか人ならざる印象を見る者に与える。

 過酷な経歴を経て若々しいという言葉を越えて幼いままなことについて、部下たちは隊長はストレスを感じない、隊長は妖精だなどと噂していたが、当の本人が頓着していないのである。

「クライアントに報告に向かいます。よろしいですね?隊長」

 艦長席からグリューが尋ねる。空気を震わす重低音の持ち主だった。

「いいよー」

「依頼はデータデバイスの回収ですよ。中身だけでは問題では?」

 口を挟んだのは隊長席の傍に立つヌゥ・バロソだ。髪を後頭部にまとめて大きく出した額が眩しく、厚い唇と大きな眼鏡には威圧感があったが、エコーレほどではないが小柄で華奢なため、彼女の印象はよく吠える子犬程度に留まっていた。

 ヌゥは隊の経理担当だ。適当でお人好しな性格のエコーレに代わり、クライアントとの交渉も担当している。隊が大きくなったのは、元器士団のグリューの他にヌゥの存在が大きかった。

「ヒュックとオザンバルが外もそっくり作ってくれるってさ」

 ディローク隊がこの度受けた依頼は、中央空白地帯で活動する調査組織のデータデバイスを盗み出すことであった。依頼主について詳しいことは知らない。エコーレに興味がないのである。

 調査隊の拠点であるメーラクン基地では反乱が発生しており、その隙を付けという依頼であった。

 行ってみれば同業者と遭遇して交戦し、さらに相手に混じっていた爆弾魔が地下施設を丸ごと崩壊させたため、エコーレ達は戦闘を切り上げて撤退したのだ。

 その時の騒動を経てデータデバイスは同業者の手に渡ってしまったが、一度確保した際に電子戦担当のヒュックが中のデータをコピーしたのだ。

 今、ヒュックはメカニックのオザンバルと共にデータデバイスの偽物をでっちあげているところだ。

「偽物を渡して交渉する私の身にもなってください」

「ごめんごめん」

 エコーレは金にも名声にも頓着していないし、気まぐれで人を助けたり見逃すことがよくあった。それでは自由器士業は成り立たないということで、ヌゥはしばしキツく言う。もっとも、そのヌゥもエコーレの気まぐれで助けられ、都市の役人の地位を捨ててついて来た酔狂者なのだが。

「はいはいごめんごめん。クライアントへの上手い言い訳、今回もよろしくね?」

「分かってます。でも、依頼の成功率をもっと高めることを意識してくださいね」

「うーん、今回は内容が複雑でねぇ」

「目標の回収のどこが複雑なんですか!」

 ヌゥの小言が響いた後、艦橋はしばらく静かになった。〈セヴェラス号〉は経由する衛星区を目指して真っ直ぐ進んでいる。

「今回、見たことない巨人器と遭遇しましたね」

 器士席に座るツノワが口を開いた。彼は〈スタドルド〉に搭乗し、重連射式レイルガンを使用して火力支援を担当している。

「ああ、あの白くて飛ぶの」

「隊長は知ってます?」

「いや?」

 旧知(敵とも書ける)のグストヴ愛用のハンマーを持った白い巨人器は、エコーレも始めて見る器体だった。

「外から見ていましたが、あの警備部隊、動きが変でしたね」

 ツノワの対面に触るカイオスが口を開いた。彼は〈カルローグ〉に搭乗し、狙撃支援を担当している。今回も施設内に侵入せず、外部から監視と援護の任にあたっていた。

「何が変なんだ?」

「1カ所に集まってまるで警備ができていないし、地下に突入した時も全器体で行ってトラップで全滅した。まるで闇雲に餌を追う魚の群れだ」

「素人を集めたんじゃないか?」

「かもな」

 隊長席を倒して脱力するエコーレは、ツノワとカイオスの会話を聞き流していた。細かいことは興味がないのである。自由器士隊として重要なことは、殆どグリューとヌゥに任せっきりであった。

 グリューもヌゥも、エコーレに助けられて自らついて来た。エコーレが指示を出すことはほとんどない。世話を焼かずに入れないだらしなさも、ある種のリーダーシップなのかもしれなかった。

 エコーレが興味を持っているのは戦いだけだった。闘争心でも、財欲でも、名誉欲、加害欲でもない。ただそうして生きてきたから、それだけだ。

「クライアントに報告を済ませた後は……」

「それなんだけど、場所変えない?」

 そんなエコーレの提案は珍しいことだ。グリューは怪訝そうに眉間に皺を寄せた。

 ロディーク隊は他の地域で活動していたのだが、帝国と同盟という天落の日の後の覇権を狙う二大勢力の進出を避け、この地域にやって来たばかりなのだ。

 エコーレは適当で気まぐれだが、その勘はよく当たるし、グリュー達は強い信頼を寄せていた。だからグリューは反論せずに理由を尋ねた。

「どうかしました?」

「うーん……なんかヤな感じがして」

「何がです」

「あの白い巨人器」

 エコーレはメーラクン基地の方向へ視線を向けた。そこは艦橋の壁だったが、エコーレはその先に気になるその巨人器の姿を見ているかのようだった。

「またよその地域へ移動ですか」

「そうしたらスミーとしばらく会えませんよ?」

 スミーとはロディーク隊の元隊員のことだった。今は独立しているが、唯一エコーレが連れてきた隊員であり彼女にとって娘のような存在だ。隊が活動域を変えれば、会える頻度は低くなる。ヌゥはそれを心配した。

「スミーにはスミーの人生があるんだし。ま、用事が済んだら決めようか」

 エコーレはそれだけ言って昼寝に入った。ヌゥはいつも自室で寝るよう注意していたが、エコーレはお気に入りの隊長席での昼寝を止める気はなかった。

 

 

第5話after「デブリーフィング」 了




おまけ:ロディーク隊の隊員紹介

エコーレ・ロディーク
隊長。巨人器〈イェルチェート〉に登場する。戦闘スタイルは両手盾による防御と格闘。17年戦っているベテランだが、子供みたいな見た目。適当で流れるままに生きているため、隊の実務は部下任せ。でも慕われている。

グリュー・カリグマ
副隊長兼母船〈セヴェラス号〉の艦長。エコーレを隊長として隊を作った実質的な創設者。強面の大男。

ヌゥ・バロソ
隊の経理担当。交渉もやる。真面目な性格だが、都市政府の官僚の道を蹴ってエコーレに付いてきた変わり者。

ツノワ
〈スタドルド〉に搭乗。火力支援を担当する。創設時から所属。

カイオス
〈カルローグ〉に搭乗。狙撃支援を担当する。創設時から所属。

ヒュック
支援担当。電子システムに強く、ハッキングなどで活躍する。必要に応じて巨人器に搭乗する。調子のいい性格だが、どこか抜けている。

バンベッタ&オリーヌ
女性自由器士の二人組。ミニ巨人器〈ゴルフェン〉に搭乗し、遊撃を担当。最近加わった。

オザンバル
隊のメカニック。創設時からの古参隊員。バラエティ豊かな隊の巨人器を世話する。
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