わたしが「キヴォトスの生徒」になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 作:かつおのえぼし
今回は説明回的なやつです、思いつきで書いてしまった故にストックなんてないです。
1〜2話ほど日常回を挟んだ後に、アビドス編にいけたらいいなって思ってます
――もう、ほんとに泣きそうだった。
いや、泣いてた。さっきからずっと泣いてる気がする。
戦場みたいな街を走って、撃たれて、爆発に巻き込まれて、命がいくつあっても足りない。
それでも必死に走ってきて――
「見えてきました!シャーレです!」
ユウカさんの声に、胸がぎゅっと高鳴った。
目の前にそびえるのは、ガラスと鉄骨でできた近未来的なビル。周囲の瓦礫と煙でボロボロの街並みに不釣り合いなほど、整然としたその建物が、この世界で唯一の「安全地帯」みたいに見えた。
「や、やっと……ついた……!」
思わず膝に手をつきながら恥も外聞もかなぐり捨てて、ぜいぜいと息を整える。
視界の端では、スズミさんが肩で息をしてるし、チナツちゃんも汗を拭ってる。
そんな中、ハスミさんは涼しい顔でスナイパーライフルを肩に担いでいた。……いや、ちょっと前まで戦車を撃ち抜いてなかった?
スナイパーライフルで戦車を止めるってどういうこと!?軍人!?美人スナイパーっていう属性だけでお腹いっぱいなのに、もうなんか現実感が壊れる。
「無事到着です。れな子さんもよく頑張りましたね」
「……は、はい」
ハスミさんに褒められて、心臓が変な音を立てる。さっきまで疲労困憊だったのに急に胸がドクンドクンと鳴る。
……もしかしてこれが不整脈!?
◇◇◇
「"みんなはここで少し待っててね"」
先生――この世界でわたしを助けてくれた美人の女性――は微笑んで、そう言った。
その言葉だけで、不思議と安心できた。
長い黒髪を後ろでまとめた彼女は、クールで落ち着いた雰囲気なのに、声はやわらかい。
「ここは安全だから、少し休んでて。みんな、彼女をお願いね」
先生はそう言って軽やかに踵を返すと、スタスタとエレベーターの方へ向かっていった。
その後ろ姿を、思わずぽかんと見送ってしまう。かっこよすぎる。
「この人が先生」って言われても、わたしの知ってる学校の先生とは別次元の存在だ。
「れな子さん、こちらへ」
スズミさんが柔らかい笑顔でソファを指差してくれた。
案内されたのはビルのロビー。白を基調にしたデザインで、観葉植物まで置いてある。さっきまで戦場を走ってたのが嘘みたい。
「お茶、飲みます?」
「あ、お願いします……」
手渡された紙コップのお茶を両手で包む。温かい。
……あれ、なんか泣けてきた。
「無理もないですよ。ここに来るまで、かなり危なかったですからね」
チナツちゃんが隣に座って微笑む。
医療班らしい落ち着き方で、わたしの背中を優しく擦ってくれる。
「……ありがとうございます」
涙声でそう答えると、チナツちゃんは「ふふっ」と笑ってくれた。
この世界の人たち、強いのに優しい。ギャップで心が追いつかない。
あれから先生はシャーレの地下へ向かったらしい。
その間、わたしは4人の女の子に囲まれて、ここで待機。
……なんだろうこの状況。少しだけ恋愛シミュレーションゲームの主人公になった気分。
「れな子さんは……どこから来たんですか?」
突然、スズミさんが首をかしげて聞いてきた。
「えっと……」
どう答えればいいのかわからない。
「日本の芦ケ谷高校です」って答えればいいのかな。
でも、この世界に日本って存在するのかな。
迷った末に、正直に話す。
「わたし……“芦ケ谷高校”っていう学校に通ってました。
でも……たぶん、ここじゃ聞いたことない名前ですよね?」
ユウカさんが少し目を細めた。
「芦ケ谷ですか。……聞いたことありませんね」
「やっぱり……」
薄々わかってたけど、現実として突きつけられると頭がクラクラする。
「でも、れな子さんって普通の女子高生っぽいですね」
スズミさんがニコッと笑った。
「えっ、あっ、普通……?」
「うん。なんだか新鮮で可愛いです」
「かっ……かわ……!」
急にそんなこと言われて心臓が爆発しそうになった。
わたしは顔を真っ赤にして、目を逸らした。
「……スズミ、れな子さんが困ってますよ」
ハスミさんが呆れたように笑う。
笑った顔が素敵すぎる!もうだめ、酸素が足りない。
◇◇◇
それからしばらくして、ロビーのドアが開いた。
入ってきたのは、黒髪に綺麗なロングの少女――いや、少女というよりは「大人」って感じのオーラ。
制服のデザインも普通じゃない。連邦生徒会の紋章が目立つその服に、ピシッとした仕草。
彼女はゆっくりとこちらを見て、堂々とした声で言った。
「あなたが……甘織れな子さんですね?」
「えっ、は、はい……!」
まるで王様に名前を呼ばれた農民みたいな気持ちで立ち上がる。
この人、絶対偉い人だ。なんか目力がすごい。
「私は七神リン。連邦生徒会の会長代理を務めています」
「かっ、会長代理……!」
心の中で正座した。わたし、この人に頭上がらない。
「あなたのことは先生から少し聞いています。……事情は複雑そうですね」
リンさんはじっとわたしを見つめた。
なんか目の奥まで見透かされてる気がして、ほんの少しだけ居心地が悪い。
「先生は今、シャーレの地下で作業をしています。サンクトゥムタワーの管理権限を取り戻すためです」
「サンク……?」
「キヴォトス全体を統括するためのタワーです。連邦生徒会長の失踪以来、権限が宙ぶらりんになっていたのですが……先生ならきっと解決できるでしょう」
「……そんなにすごい人なんですか、先生」
「ええ。私たちにとって、先生は特別な存在ですから」
リンさんの声は少しだけ柔らかかった。
その言葉に、わたしはなんだか胸が温かくなる。
先生って、やっぱりただの教師じゃないんだ。
リンさんも地下へ向かい、しばらくロビーで待つ時間が続いた。
みんな疲れてソファに座っているけど、ユウカさんは端末で何かを確認してるし、ハスミさんは銃の整備をしてる。
チナツちゃんはわたしの隣に座って、怪我がないか丁寧に確認してくれた。
こうやって座ってるだけなのに、周りのみんながプロフェッショナルすぎて気圧される。
「あの……みんな、こういう戦闘って慣れてるんですか?」
「まぁ……慣れてる、というか」
チナツちゃんが苦笑した。
「ここじゃ、銃撃戦なんて日常茶飯事ですから」
「日常茶飯事!?」
「でも、命を落とすような戦闘はあまりありません。基本は相手を無力化するのが目的ですから」
「……なんか……日本の不良とスケールが違いすぎる」
チナツちゃんが小さく笑ってくれた。
あ、癒し……。
でも笑ってる場合じゃない。わたし、この世界に本当に馴染めるの!?
そうしてるうちに、地下に向かっていたリンさんから連絡が入った。
「……終わりました。先生がサンクトゥムタワーの権限を取り戻しました」
ユウカさんが感心したように息をつく。
あっさり言ってるけど、それってこの街のトップシークレットみたいなものじゃないの?
なんか先生、伝説の人みたいな扱いされてない?
数分後、先生が戻ってきた。
いつも通りの落ち着いた表情で、ゆっくりとソファに腰掛ける。
「"お待たせ。全部終わったよ"」
「先生、お疲れさまです」
リンさんが深々と頭を下げる。
会長代理が敬語を使うって、先生どんだけ偉いの。
「"さて……"」
先生は私に視線を向けた。
「"君の話を聞かせてくれないかな?"」
「えっ、わたしの?」
「"君がどこから来たのか、何があったのか。話せる範囲でいい"」
わたしは緊張しながら、深呼吸した。
そして、芦ケ谷高校のこと、屋上から落ちたこと、気づいたらこの街にいたことを話した。
「"なるほど……"」
先生が小さく首をかしげ、端末を操作する。
そして眉をひそめた。
「"……芦ケ谷高校、というのは、このキヴォトスのデータベースには存在しない"」
「えっ?」
「"もちろん、君の身元に関する記録もない"」
「え、えぇ!?わたし……消された!?国籍不明者になっちゃった!?」
「"落ち着いて。消されたわけじゃない。単純に、キヴォトスには存在しない場所から来たということだよ"」
「"君は私と同じ、“キヴォトスの外”から来た人間だということだね"」
「……キヴォトスの外から?」
「"そう。私も、そうだからね"」
「……えっ?」
まさかの告白に口を開けたまま固まる。
この先生も、この世界の人じゃない?
そんなことある?
「"君はやはり、この世界に突然現れたようだ。屋上から落ちたと言ったね?"」
「は、はい……たぶん、落ちた瞬間に……ここに」
「"そうか。なるほど"」
その言葉に息を呑んだ。
わたしはやっぱり異世界に来てしまったんだ。
「"怖い思いをしたと思う。でも、ここでは私が君を守るよ"」
先生は優しく微笑んだ。
「"シャーレで正式に保護する。君にはシャーレの部員として学籍を与えるけど、どの学園にも所属しない形になる。名目上は連邦生徒会所属……ということになるのかな"」
「"しばらくは私たちと一緒に過ごすといい。この街は危険も多いけど……きっと、君がここに来た理由もいつか分かると思う"」
「……」
涙がまた出そうになった。
怖いけど、先生の声は不思議と安心できる。
先生がそっとこちらに手を差し出した。
「"ようこそ、キヴォトスへ"」
その言葉でやっと、全部現実なんだと理解した。
元の世界には戻れないかもしれない。
でも――今はここで生きていくしかない。
「……よろしくお願いします」
手を握り返す、その手はわたしの心を落ち着かせるように温かかった。
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