わたしが「キヴォトスの生徒」になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 作:かつおのえぼし
本日2本目の投稿です。前回をお読みでない方はそちらからお読みください。
――知らない天井だ。
これ、アニメとかでよくあるセリフだけど、実際に自分の口から出るとは思わなかった。
いやほんと、知らない天井。
昨日の夜は疲れすぎて寝落ちしたから、部屋の細かいとこまで見てなかったんだよね。
天井は白くてシンプル。壁も床もホテルみたいにきれいで、観葉植物まで置いてある。ベッドはふかふかだし、シーツは真っ白。
あらためて見回すと、ここがどれだけ「特別」な場所なのかがよくわかる。
「……ほんとに、私の知らない世界なんだなぁ」
ベッドの端に腰掛けながら小声で呟く。
窓の外には未来的な高層ビル群、空には光の輪が存在してる。
わたしが昨日まで通っていた芦ケ谷高校はもちろん、日本のどこを探してもこんな景色はない。
ふと机の上に目を向けると、一枚のメモが置かれていた。
端正な字でこう書いてある。
『"出張で外に出ています。
机の上に学生証と制服、通信端末を用意してあります。
今日はゆっくりしていてください。"
──先生』
「……優しい」
先生の落ち着いた声を思い出す。
昨日は銃撃戦の中で何度も手を引いてくれた。わたしが泣きそうになったら頭を撫でてくれて、「大丈夫」って言ってくれた。
なんだろう、あの人……めっちゃ安心感がある。
机の上を見てみると、学生証らしきカードとスマホっぽい端末がきちんと並んでいる。
学生証には「甘織れな子」と書かれていた。写真も昨日のうちに撮られたやつだ。
この世界でも「わたし」はわたしなんだ、ってちょっとだけ安心した。
昨日まで着ていた芦ケ谷高校の制服ではなく、用意された制服に着替える。
白を基調としたジャケットとプリーツスカートで、すっごくおしゃれ。
「これ着ていいのかな……?」って不安になりつつも、試しに着てみる。
鏡に映った自分の姿は――
「……陽キャみたい」
陰キャが頑張ってる感は否めないけど、制服パワーってすごい。
ちょっとだけ自信が出た。
お腹も空いたし、探検がてらシャーレ内を歩くことにした。
昨日の案内でだいたいの場所は覚えたけど、まだ迷路みたいに感じる。
無駄に広い廊下、やけに豪華な観葉植物、壁には最新式っぽいスクリーンが埋め込まれてて、どこか近未来の官公庁みたい。
しばらく歩いて見つけたのは、昨日チラッと見たカフェスペースだった。
ガラス張りの壁から朝の光が差し込んで、木製のテーブルと椅子が並んでいる。
スタッフらしき生徒が一人だけカウンターで作業していて、にこやかに「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。
「……あの、コーヒーとか頼めますか?」
「もちろんです。ホットとアイス、どちらにしますか?」
「じゃあ、アイスで……」
「あ、スイーツもいかがですか?」
甘い誘惑に負けてしまった。気づけばパンケーキのセットを注文していた。
カフェの窓際席に座り、運ばれてきたコーヒーとパンケーキを前にほっと息をつく。
外の景色を見下ろすと、昨日の戦場みたいな街並みとは違って、整備された街路や飛行船が行き交っているのが見える。
「……おしゃれすぎる」
パンケーキにかかった生クリームとフルーツ。
わたしはフォークで一口すくい、もぐもぐしながら小声で「おいしい……」と呟いた。
「れな子さん?」
突然、背後から声をかけられてパンケーキが喉に詰まる。
慌ててアイスコーヒーで流し込む。
振り向くと、菫色の髪の女の子が立っていた。
「ユ、ユウカさん!?」
彼女は昨日、銃撃戦の中で冷静に指示を出していた頼れる子――ユウカさんだ。
制服姿も凛としていて、優等生そのもの。
そんな彼女がわたしの隣の席に座る。
「朝からカフェに?」
「は、はい……なんかお腹空いちゃって……」
「ふふ、いいですね。ここのパンケーキは美味しいですよ」
やっぱりこの人も美少女だ。横顔が綺麗すぎて直視できない。
「そういえば、ずっと気になってたんですけど」
「え?」
「れな子さんって、キヴォトスのことまだ全然知らないですよね?」
「うっ……」
図星だ。
だってこの世界に来たの昨日だし。
街の名前もよくわかってないし、銃が普通に売ってるとか怖すぎるし。
「……はい、知らないです」
正直に言うと、ユウカさんは少し微笑んだ。
「それなら、私が案内しましょうか?」
「えっ?」
「D.U.なら、他の区画よりも治安がいいですし。今日はお休みなので、買い物ついでに散歩でもどうですか?」
「え、ええぇぇ!?しょ、ショッピング!?」
予想外すぎて変な声が出た。
え、わたし、こんな超絶美少女とデート的なやつに行くの!?
心臓がバクバク鳴り出す。
「もちろん無理しなくてもいいですよ?」
「い、いや……!いきます!行きます!!」
「ふふ、じゃあ決まりですね」
――やばい。笑顔が可愛すぎる。
これはもう完全に陽キャに誘われた陰キャ女子そのものだった……もう逃げられない。
◇◇◇
シャーレの玄関を出ると、昨日は瓦礫や煙ばかりだったのに、今日はすっかり整った街並みが広がっていた。
D.U.区画は特に整備が行き届いているらしく、まるで近未来のようだった。
歩道には制服姿の女の子たちがあちこちで買い物していて、カフェのテラス席もにぎわっている。
「……すごい」
「初めて見る景色ですか?」
「はい……わたしの世界ではこんなの見たことないです」
「そうでしょうね。この街は少し特別ですから」
ユウカさんは淡々と説明しながらも、わたしの手をそっと引いてくれた。
その瞬間、心臓が跳ねる。
「……っ」
「どうかしました?」
「い、いえっ……!」
ユウカさんの手、あったかい。
わたしは何も言えずに顔を真っ赤にしたまま歩き続けた。
「ここは文房具のお店です。生徒たちの必需品ですね」
「わぁ……ペンが全部おしゃれ」
「銃のメンテナンス道具も売ってますよ」
「……ギャップすご」
文房具店の棚の端に、普通に銃のメンテナンスキットが置かれてて二度見した。
「これがこの世界の常識なんだよなぁ……」と心の中で呟く。
その後も、カフェや雑貨屋などを案内してもらった。
ユウカさんは丁寧で優しい。
普段はクールに見えるのに、わたしが珍しそうに商品を見てると「可愛いですね」なんて言って笑ってくれる。
そんな彼女の横顔にドキドキしっぱなしだった。
◇◇◇
「そろそろ戻りましょうか」
夕方になり、ユウカさんと一緒にシャーレへ帰ることにした。
買ったのは筆記用具とお菓子くらいだけど、それでも久しぶりに「普通の買い物」をした気分だ。
「今日は楽しかったわ。ありがとう」
「わ、わたしも楽しかったです……!」
歩きながら笑い合って、ほんの少しだけこの世界に馴染めた気がした。
――その時だった。
「おい、そこのお嬢ちゃん」
後ろから低い声が響いた。
振り返ると、制服を着崩した三人組の女の子が立っていた。
それぞれの手にはサブマシンガンやらアサルトライフルが握られている……いやいやいや怖すぎない!?
不良どころか完全にギャングじゃん!
「ちょっとそこで遊んでかない?」
「……」
ユウカさんがわずかに目を細める。
あ、これ、顔は笑ってるけど完全に怒ってるやつだ。
「れな子さん、私の後ろに」
「は、はいっ!」
慌ててユウカさんの後ろに隠れる。
昨日の銃撃戦の記憶が蘇って、手が震えた。
「あなたたち、ここで何してるの?この区画は連邦生徒会の管理下よ」
「へぇ~?おカタイねぇ。ちょっと遊ぶだけだって」
「なら、容赦はしないわね」
ユウカさんの声が冷たくなった瞬間、空気がピリッと張り詰めた。
彼女が腰にさげていた2丁の銃に手を添える。
その動きがあまりにも自然で、美しくて、一瞬見惚れてしまった。
「……」
不良たちは顔を引きつらせて一歩下がった。
ユウカさんの冷たい視線が突き刺さる。
「お前ら!やれ!」
乾いた銃声が鳴った瞬間、わたしは耳を塞いだ。
不良の一人がわたしたちに向けて撃った。
頭の横を弾丸がかすめる音がして、世界がスローモーションになる。
――が、その弾丸はユウカさんの目の前で光の壁に弾かれた。
「な、なに……っ!?」
「っ!」
ユウカさんの胸ポケットに入れられた小型の端末が、青白い光を放っている。
半透明のシールドが半球状に展開し、わたしたちを包み込んでいた。
「電磁シールド……!」
「れな子さん、伏せて!」
ユウカさんの声に言われるまま床に身を投げ出す。
直後、再び銃声。弾丸がシールドに当たり、バチッと火花のような光が散った。
「うわっ……!」
シールドに弾が当たるたび、青白い閃光が走る。
目の前で光が弾けるたび、心臓がひっくり返りそうになる。
◇◇◇
「遮蔽物まで移動します!」
ユウカさんが低く呟くと、次の瞬間には銃を抜いていた。
その動作は一切の無駄がなく、まるで流れるような美しさ。
わたしの手を引き、近くの自販機の裏に隠れる。
「……ここで待ってて」
「ま、待っ……!」
言い終わらないうちに、ユウカさんは体を滑らせるように外に飛び出した。
ダダダダダッ!
乾いた銃声が連続で響き、不良の一人が悲鳴を上げて武器を落とす。
正確無比な射撃だった。
「くそっ、あいつ……!」
「二人は回り込め!囲め!」
不良たちは散開し、路地の影に隠れながら銃を撃ち込んでくる。
シールドの光が再び瞬き、弾丸を弾く音が響く。
その中でユウカさんは落ち着き払った声で指示を飛ばした。
「れな子さん、動かないで!視線は下げて!」
「は、はい!」
涙目で頭を抱えながら、心臓がバクバク鳴るのを必死に抑え込む。
昨日も思ったけど、この人ほんと強い……。
◇◇◇
「っ!」
ユウカさんの姿が一瞬視界に映る。
彼女は遮蔽物の陰から軽やかに身を乗り出し、目の前の不良に銃弾を浴びせる。
カラン、と地面に何かが落ちる音。
不良の一人が膝をついて動きを止めた。
残った一人が突っ込んでくる。
その動きに、思わず悲鳴が出そうになった――が。
ユウカさんは一歩も引かなかった。
スッと構えを低くし、相手の動きを見極めると、間合いを詰めて銃口を突きつける。
「動かないで」
冷たい声。
不良は完全に固まり、動きを止めた。
その間にユウカさんは素早く銃を奪い、相手を壁に押し付ける。
◇◇◇
「……終わりました」
彼女は呼吸一つ乱さずそう言った。
路地には倒れ込んだ不良たちが呻き声を上げている。
命に別状はないらしいけど、全員動けない。
「れな子さん、大丈夫ですか?」
「っ……は、はい……!」
わたしは震える声で答えた。
体は震えてるのに、不思議と恐怖よりも別の感情が強かった。
――かっこいい。
ユウカさんの戦い方は鮮やかすぎて、まるで映画のワンシーンみたい。
冷静沈着で、怖いほど正確。
でも、その目は優しい。
わたしを守るために戦ってくれたのが伝わってくる。
「ごめんなさい、怖かったですよね」
「い、いえ……すごすぎて……怖いっていうより、すごいって思いました……」
「ふふっ。ありがとう」
ユウカさんが微笑む。
その笑顔に心臓が爆発しそうになる。
「シャーレに戻りましょうか。ここはもう安全じゃないですから」
「……はい」
そう言ってユウカさんはわたしの手を握る。
わたしの手は朝に握られた時よりも熱を帯びていた。
◇◇◇
シャーレの廊下を歩きながら、わたしはまだ手に残るユウカさんの温もりを感じていた。
「……あ、あの……ユウカさん」
「ん?」
「ありがとうございました……本当に、守ってくれて……」
「ふふ、当たり前ですよ。れな子さんが無事でよかったです」
その言葉に胸がぎゅっとなる。昨日の戦場と比べると、あまりに穏やかなこの瞬間。心臓がまだドキドキしているのに、恐怖ではなく胸の奥がじんわり熱い。
無事にシャーレの自室まで送り届けてもらい、ユウカさんと廊下で別れる。
「じゃあ、今日はゆっくり休んでくださいね」
「は、はい……」
手を振り、ユウカさんが去っていく背中を見送った。ドアを閉めると、ようやくれな子は深く息をつく。
「……ふぅ、やっと一息つける……」
ベッドに沈み込むと、わたしは布団を頭からかぶり枕をぎゅっと抱きしめた。
外の世界は光り輝く街並みで、今日の戦闘も無事終わったけれど、心臓はまだ小さく震えている。
「……はぁ」
枕に顔を埋めながら、小さな独り言がこぼれる。
「今日……わたし、けっこう頑張ったよね……?」
頭の中で、ユウカさんの銃撃戦の姿がフラッシュのように映る。冷静で、美しく、そして優しい。その姿に、自分の震える手と比べてちょっと嫉妬しながらも、胸がぎゅっと熱くなる。
「……あ、でも……怖くて隠れちゃった……」
布団をぎゅっと抱きしめる手に力が入る。恐怖は確かにあった。でも、怖い自分を認めた上で隠れられたことも、小さな勇気の一つ。
「……うーん……」
わたしは頭の中で今日一日の出来事を順番に思い返す。
カフェでパンケーキを食べたときの幸せ、ユウカさんと手をつないで街を歩いたときの心臓の跳ね方、不良たちに遭遇した瞬間の凍りつく感覚、そして守られたときの安心感。
「……全部、まとめて……今日のわたし……だよね」
布団の中で小さく頷く。恐怖も、感動も、ちょっとした恥ずかしさも、全部自分のもの。否定する必要はない。
「……あ、でも……」
頭の中の“もしも”が顔を出す。
もしもっと冷静に動けていたら?
もしもっとユウカさんの力になれたら?
でも、すぐにその考えを打ち消した。
「……でも、できることは精一杯やったんだから……それでいいの……!」
布団の中で小さく拳を握る。自分に言い聞かせるように、でも心の中ではちょっと笑ってしまう。
まるで、自分だけの秘密の儀式みたいだ。今日の出来事を整理し、感情を抱きしめ、少しだけ自分を褒める時間――
「……よし、明日も……ちょっとだけ、がんばろう……」
ぽつりと呟き、わたしは布団にすっぽりくるまった。
外の光が窓から差し込む中、心の奥がじんわり温かくなる。怖かったことも、嬉しかったことも、全部ひっくるめて、自分の一日の物語として胸にしまい込む時間。
「……ユウカさんみたいにはなれないかもしれないけど……」
「でも……わたしはわたし、だもんね……」
――そんな気持ちで、わたしはゆっくりと目を閉じた。
キヴォトスはれな子にとって過酷な環境だから誰かが護ってあげないとね。
れな子が魔性の女ムーブするのはまだ先なので皆さん気長にお待ちください
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