わたしが「キヴォトスの生徒」になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) 作:かつおのえぼし
急にUA増えてびっくりしました。
本日2本目の投稿です。前回を読まれてない方は前回からお読みください
追記:ご指摘頂いて「……確かに!」ってなったので、先生が生徒を呼ぶ際は呼び捨てに統一します。
抜けがあったらすみません!
「"……返事がない"」
端末を見つめながら、先生は小さく息を吐いた。
れな子にメッセージを送っても、既読にならない。
電話をかけても、応答はない。
胸の奥がざわざわと騒ぎ始めていた。
あの子にはヘイローがない。どこかで争いごとに巻き込まれたら、普通の生徒以上に危ない。
「"これは……よくないな"」
私はすぐに、対策委員会のメンバーに緊急招集をかけた。
◇◇◇
それから数十分後、部室の扉が次々と開き、みんなが集まってくる。
シロコは無表情のまま銃を肩にかけ、ノノミはおろおろしながらもすぐに駆けつけ、アヤネは慌てたように駆けつけた。
ホシノは眠そうに頭をかきながら「集合?どうしたの〜」と部室に入ってくる。
そして最後に現れたのは――バイト帰りのセリカだった。
バイト先の制服をつけっぱなしで、少し髪も乱れている。
「はぁ……バイト終わったばっかりだってのに、何があったのよ」
口調はとげとげしくても、どこか息が荒くて、急いできたのが伝わる。
全員が揃ったところで、私は机に両手をついた。
「"――れな子が、まだ帰ってきてないんだ"」
その言葉に、空気がぴたりと止まる。
「それに、まだ連絡も取れてない。……もし不良や銃撃戦に巻き込まれていたら……大変なことになる」
アヤネが小さく息を呑み、ノノミは両手を胸の前でぎゅっと握った。
シロコは視線を落としながら、銃のストラップを強く握りしめている。
セリカはほんの一瞬だけ表情を曇らせ――すぐに視線を逸らした。
「……だから呼んだってわけね」
「"本当は……良くないことなんだけど"」
そう言って先生はタブレット端末を取り出す。
「"れな子には通信端末を渡してある。今回は緊急事態だから、連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスして居場所を特定する"」
("アロナ、よろしくね。")
『はい先生!アロナにお任せください!』
ホシノが「お〜、先生頼りになる〜」と言う一方、アヤネは「そんなこと……しても大丈夫なんですか」と不安そうに眉を寄せる。
「"……バレたらまずいね。でも今は安全確認のほうが優先だから"」
『先生、特定出来ました!位置情報を共有します!』
指でタブレット端末を叩く。
「"れな子の居場所が分かった……今も移動しているみたいだね"」
やがて、地図の上に赤い光点が浮かび上がった。
「……ここだ」
先生の声が重く響いた。
「ここは……廃墟になった市街地の端の方ですね?」
ノノミが地図と位置情報を見比べながら顔を上げる。
「治安が維持できなくて、不良ばかりが集まってる場所だね」
シロコのその声音はいつも通り淡々としていたが、目は赤い点から逸らさない。
「ということは……カタカタヘルメット団の仕業ですか……!!」
アヤネが小さく拳を握りしめた。彼女の瞳に映るのは恐怖ではなく、怒りのようにも見えた。
唇を噛むその姿に、部屋の空気が一層重くなる。
「なるほどねー、れな子ちゃんがひとりになったところを拉致して、アジトに連れて行ったってことかー」
その言い方は緩やかで、眠たげにすら聞こえる。けれど、その瞳だけは笑っていなかった。
冗談めかした声の裏に、怒りを隠しているのが伝わる。
「戦えない子を人質に取って脅迫しようなんて、人間のすることじゃない」
シロコの言葉は短く鋭く、刃のように空気を裂いた。
彼女の指先が机の端を押さえ、白くなるほど力がこもっている。
「考えていても仕方ありません!急いでれな子ちゃんを助けに行きましょう!」
ノノミが勢いよく立ち上がる。椅子が床を擦り、甲高い音が響いた。
その熱に押されるように、誰もが次の行動を決意する。
「れな子ちゃん……絶対助けないと」
ノノミの震えた声が教室に響く。
「……当たり前よ」
セリカがぽつりと呟く。その拳は、強く握られていた。
◇◇◇
ガタゴト、ガタゴト。
わたしは今、輸送車の荷台に押し込まれていた。
目は布で覆われ、両手は後ろで縛られて、口には布を巻かれて……完全に人質スタイル。
――って、何これ!?ほんとに誘拐!?現実!?
夢オチじゃない!?お願いだから夢って言って!!
「……あいつ、本当に連邦生徒会の生徒か?」
「確か、キヴォトスの外から来た生徒だってリーダーが言ってました」
耳を澄ませると騒音の中で、微かにヘルメット団の人たちが会話しているのが聞こえる。
そうですよ!わたしはただの一般生徒ですよ!?弾丸一発で終わる脆弱ボディですよ!?もっと優しく扱って!?
輸送車は容赦なく砂漠の道を揺れながら走る。
そのたびに頭は壁や床にゴンッ、ゴンッとぶつかる。
(いっ……たぁ……!)
声にならない悲鳴が、布越しに「んぐぐぐ」って変な音になって漏れる。やだ、恥ずかしい……!
「さっきからゴンゴンうるさいな。もしかして暴れてるのか?」
「……適当に縛るからっすよ」
そうだよ!あなた達がちゃんと縛らないからこっちは揺れる度に頭ぶつけてるんですよ!
頭の中でツッコミが暴走しながらも、胸の奥では冷たい不安が広がっていた。
(どうしよう……みんなに心配かけちゃったかな……)
先生……みんな……気づいてくれてるかな……。
でも。
懐にはまだ、あのオルゴールがある。
それだけが、今のわたしの心の支えだった。
(ぐすっ……絶対、渡すんだから……)
布越しの声は、誰にも届かないほど小さかった。
◇◇◇
――しばらくの間、荷台で揺られていると。
ドカーーーン!!!
突如、爆発音と共に車が大きく揺れた。
(ひぃぃぃ!?)
反射的に変な声が漏れる。
なに!?なにがおきたの!?もしかして爆撃でもされたの!?それとも事故!?保険とか降りるの!?
壁に強く頭を打ちつけ、涙目で悶えていると……ギイィィと建付けの悪い扉を開くような音が聞こえた。
「ん、こちらシロコ。泣きべそをかいてるれな子を発見」
えっ!?なんでそんな詳細に報告するの!?っていうか泣いてないから!!頭ぶつけただけだから!!
「なにぃー!?私たちの大切なれな子ちゃんが泣いていただと!おーよちよち、怖かったでちゅねー!!」
ホシノさんの声が大げさに飛び込んでくる。その完全に保護者モードのような口調はなに!?
ちょっと待って、やめて!そんな風に言われたら本当に泣いたみたいに聞こえるでしょ!?
(これは荷台に強く頭をぶつけたからで……!!)
「泣かないでください、れな子ちゃん!私たちがその涙を拭いて差し上げますから!」
ノノミさんまで参戦してきた!?
やだ、やめて!余計に恥ずかしいから!
そう言って、目隠しと口に巻かれた布を外してくれる。
◇◇◇
――眩しい。
まぶたを開けた瞬間、砂漠の夜空よりも鮮やかな光が目に飛び込んできた。
視界の端に先生の姿があって、ホシノさん達が武器を構えて立っていて。
そして――
「……セリカ、ちゃん」
駆け寄ってきたのは、埃と涙で顔をぐちゃぐちゃにしたセリカちゃんだった。
「バカ……っ!何で……何で攫われたりしてんのよ……!心配して……死ぬかと思ったんだから……!」
その声が震えていて、わたしの胸の奥に、鋭く、でも優しく突き刺さった。
セリカちゃんはもう必死で、わたしを抱きしめるみたいに腕を掴んで――涙がぽろぽろ零れて、砂に吸い込まれていく。
「どうして……」
わたしはその涙の理由を知りたくて思わず尋ねる。
「当たり前じゃない……私たち『友達』なんだから」
「セリカちゃん……!」
わたしは、懐にしまい込んでいた小さな包みをそっと取り出した。
ずっと渡せなかったもの。
攫われる前に買って、ずっと胸にしまっていたもの。
「……実はセリカちゃんに。これ、渡したかったの」
差し出したのは、小さなオルゴール。
木の蓋を開けると、静かで落ち着いた旋律が流れ出す。
砂漠の夜に溶け込むような、柔らかい子守唄。
「バイトも、学校のことも……セリカちゃん、いつも無理して頑張ってるでしょ。だから……これ聴いて、少しでも落ち着いた時間ができたらいいなって思って」
声が震える。
だって、今のわたしは、ただただ本気でそう思ってるから。
セリカちゃんはオルゴールを見つめて、唇を噛んで――
次の瞬間、わたしの胸に飛び込んできた。
嗚咽混じりの声が、耳元に響く。
その涙の熱が服越しに伝わってきて、わたしの目まで熱くなる。
それからしばらく、セリカちゃんはわたしを抱きしめ続けていた。
「ふたりともお熱いところ邪魔して悪いけど。ここ、敵陣のど真ん中だって事忘れないでねー」
ホシノさんが、いつもの調子で気の抜けた声を投げかけてきた。
「ん、そろそろ敵も人質が取り返された事に気づくはず」
そう言ってシロコさんが、冷静すぎる声で銃を構える。
「前方多数、カタカタヘルメット団の兵力を確認しました!戦車もいます!」
アヤネちゃんの声は真剣そのもの。
その報告に、ノノミさんまで「よーし☆」って笑顔で銃を抱えてる。
そうして、セリカちゃんが思い出したかのように袖で涙を拭い立ち上がる。
そこからは、あっという間だった。
先生の短い指示が飛ぶたびに、みんなが息を合わせて動く。
銃声と爆音が夜を裂き、火花が散って、ヘルメット団が次々に砂に倒れていく。
……すごい。これが「対策委員会」なんだ。
わたし?わたしはもちろん後ろで震えながら見学モードですけど!?
むしろ邪魔にならないように小石になりたいですけど!?
◇◇◇
それからホシノさんたちは、見事にヘルメット団を撃退した。
銃声の残響がまだ耳の奥でビリビリしているけれど、気がつけばわたしたちは深夜の学校へと戻ってきていた。
「みなさんお疲れ様です。れな子ちゃんも怪我はないですか?」
アヤネちゃんが心配そうに駆け寄ってくる。
……怪我?怪我ってほどでもないけど、さっき輸送車の荷台で頭を何度もゴンッゴンッて打ちつけたんだよね。
あれは絶対たんこぶになるレベル。っていうかもう既にズキズキしてる。
「心配してくれてありがと!わたしは大丈――」
そう言い切る前に、急に視界がぐらりと揺れた。
……あれ?足に力が入らない。
「!?」
みんなの驚く声が重なる。
遠のく意識の中で、シロコさんがすっと腕を差し出すのが見えた。
◇◇◇
「私が保健室に連れていく。」
その声は落ち着いていたが、僅かに強張っていた。
「れな子ちゃん……大丈夫でしょうか?」
椅子に腰を下ろしたアヤネが真っ先に問いかける。
「頭を強く打ったみたいだし、ピンピンしてるほうがおかしいって。ゆっくり休ませてあげよー」
ホシノは冗談めかしながらも、その表情は真剣だった。
「"間に合って良かったよ、本当に……"」
そうぽつりと呟く。
その声音は小さかったが、部屋の空気を静かに引き締める力を持っていた。
「先生のおかげでれな子ちゃんの位置を特定出来ましたし、やっぱりすごいですね☆」
彼女は明るく笑い、場を和ませようとする。だがすぐに表情を引き締め、机の上に置いていた部品を取り出した。
「それと、戦闘のあとで回収したものがあります。戦車の残骸から見つけた部品なんですけど……」
「確認したところ、キヴォトス内では使用が禁止されている違法機種のパーツでした」
ノノミの言葉にアヤネが説明を引き継ぐ。
私は黙って部品を手に取り、しばらく観察する。表面には焼け焦げが残り、番号の一部が削られていた。
「つまり、ヘルメット団はどこかから支援を受けているってことですね」
ノノミが声を上げると、同調するようにアヤネも頷いた。
「はい。流通ルートを調べれば、背後にいる存在を突き止められるかもしれません。どうしてアビドスを執拗に狙うのかも」
「ふぅん……じゃあ決まりだね」
ホシノは腕を組み、珍しく真面目な表情を見せる。
「これからはそっちの線も調べてみよっかー。時間はかかるかもしれないけど……きっと手掛かりは見つかるはず」
部室の灯りの下、彼女たちの視線は机の上の部品に集まっていた。
小さな部品ひとつ。だが、それがアビドス高校を取り巻く大きな陰謀を示すものに思えてならなかった。
◇◇◇
「格下のチンピラごときでは、あの程度が限界か。戦車まで送り出したというのに、このザマとはな。」
どこかの建物の一室。
月夜に部屋が照らされ、静かな空気の中で、低い声が響く。
「ふむ……となると、目には目を、生徒には生徒を……か。専門家に頼むとするか」
電話のコール音が静寂を破った。
しばらくして、ガチャ、と受話器が上がる。
『はい。どんなことでも解決します。便利屋68です』
「仕事を頼みたい。――――――――」
『えぇ、私達にお任せください……』
受話器の向こうから響いた声は、妙に落ち着いていて。
その響きが、不穏な夜の空気に溶けていった。
「ん、こちらシロコ。泣きべそをかいてるれな子を発見」
→真実
頭ぶつけただけだから!!
→真実
(ぐすっ……絶対、渡すんだから……)
→泣いてんじゃん!!
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