わたしが「キヴォトスの生徒」になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)   作:かつおのえぼし

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自分では気づかないところもあるので、誤字報告とても助かります!
ありがとうございます!


便利屋68と戦闘なんて、ぜったいにムリ!

 

アビドスに戻った校舎の空気は、不思議なくらい静かだった。

 

ラーメンでアヤネちゃんの機嫌をとる――という本日の最重要任務はなんとか成功。

わたしも含めて対策委員会の面々は、それぞれ好きなように時間を潰しながら、つかの間の平和に身を沈めていた。

 

……のに。

 

「先生。校舎から南十五キロ地点に、大規模な兵力を確認しました」

 

アヤネちゃんの声が、静寂を一瞬で打ち壊した。

 

「えっ……また、ヘルメット団?」

 

シロコさんが反射的に銃を手に取る。

いや、ほんと即応力おかしくない?言葉より先に手が動いてるんだけど!?

 

でもアヤネちゃんはきっぱりと首を横に振る。

 

「ち、違います!あれは……ヘルメット団じゃありません。傭兵です!おそらく日雇いの!」

 

えっ、傭兵ってあの、お金もらって戦うプロの人たち!?

やだやだ!アビドス潰しにプロ雇うとか、資金力おかしくない!?

 

「へぇー、傭兵かぁ。結構高いはずなんだけどねー」

 

ホシノさんの眠そうな目も、さすがに見開かれる。

 

「これ以上接近させるのは危険です。先生、出動許可を」

 

「"……みんな!出動だーーーっ!!"」

 

先生、ノリが良すぎる!!もっと悩んでから許可出してよ!!

 

わたし?わたしは当然、お留守番。アヤネちゃんと一緒に後方でサポートだ。

 

(……うん、わかってる。これがいちばん安全なポジションだから!)

 

 

◇◇◇

 

 

「前方に傭兵を率いる集団を確認……」

 

アヤネちゃんが淡々と伝える。

 

そして映像に映ったのは――

 

「え、ええぇぇーー!?」

 

さっきラーメン屋で仲良くしてた四人組。

アルと呼ばれていた生徒がバツの悪そうに「ぐ、ぐぐっ……」って顔してる!

 

「誰かと思えば……あんたたちだったのね!!」

 

セリカちゃんの怒り爆発。目がメラメラしてる。

 

「ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!!」

 

そこ!?いやまあ怒るのはわかるけど、怒りポイントが食べ物なんだね!?

 

「あはは、その件はありがと」

 

「でもそれはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさ。ごめんね~」

 

ムツキさんが飄々と手を振る。

 

「……誰の差し金?」

 

シロコさんが銃を構える。声が低い。背筋がゾクッとする。

 

「いや、答えるわけないか。なら……力尽くで口を割らせてもらう」

 

シロコさん本気モード!?こっちまで息止まりそう!

 

「もちろん、それは企業情報よ」

 

アルさんが自信満々に笑って、指をパチンと鳴らした。

 

次の瞬間――傭兵たちが一斉に銃を構え、戦場が炎を吐いた。

 

(うそでしょ!?みんなでラーメン食べてた仲なのに、なんでこうなるの!?)

 

 

◇◇◇

 

 

舞い上がる砂埃の中、アビドス対策委員会と便利屋68の戦闘は熾烈を極めていた。

 

「うあぁぁあッ!!」

 

先陣を切ったのはハルカちゃんだった。ショットガンをぶっ放しながら、痛みなんて存在しないみたいに突撃していく。

いやいや、突っ込みすぎでしょ!?あの子、自分の体力ゲージ見えてないタイプ!?

 

「隙ありっ!」

 

その後ろから飛んできたムツキさんの爆弾が炸裂音と閃光で場をかき乱している。

 

「後ろは私が押さえる……!」

 

カヨコさんは冷静にピストルを構え、ハルカさんやムツキさんの動きを的確に補佐していた。

 

そして最後方から――

 

「ふふっ……」

 

不敵な笑みを浮かべるアルさんの狙撃。鋭い弾丸がアビドスの射線を的確に貫く。

ひぇぇ……この人、後ろにいるだけでボス感すごい……!

 

四人の動きは一糸乱れず、互いの役割を補い合い、隙を与えない。

 

対するアビドスの面々も必死だ。

ホシノさんが大声で指示を飛ばしながらハルカちゃんの猛攻を盾で凌ぎ、それをシロコさんやセリカちゃんが冷静に撃ち返し、ノノミさんが後方から弾幕で圧をかけている。

 

わたしは……はい、いつものごとく安全圏から「がんばれー!」って心の中で応援してます。

 

しかし――

 

「くっ……押されてる……!」

 

シロコさんの額に汗。

……そりゃそうだよ、相手めちゃくちゃ連携取れてるし!

 

それでも。少しずつ、少しずつ形勢はこっちに傾いて――

 

「――っ!」

 

セリカちゃんの叫びとノノミさんの援護射撃で、ついに便利屋68の陣形に綻びが生まれる。

 

やがて便利屋68の隊列にほころびが生まれ、アビドスの銃口がそれを捉えた。

 

――あと一歩。あと一歩で彼女たちを追い詰められる。

 

そのとき。

 

キーンコーンカーンコーン

 

……え?

 

場違いにも、アビドス高校の下校チャイムが砂漠に響いた。

死闘の真っ最中だというのに、あまりにのんきすぎるメロディ。思わず全員の動きがピタッと止まる。

 

「……定時だな」

 

傭兵の一人がぽつりと呟いた。

 

「よーし、帰るか」

 

「おつかれさまー」

 

傭兵アルバイトたちが、信じられないくらいあっけなく武器を下ろし始めた。

 

「は、はぁぁ!?ちょ、ちょっと待ちなさい!!」

 

アルさんの悲鳴が砂漠に木霊する。

けれど傭兵たちはまったく気にせず、「今日なに食べる?」「焼肉じゃね?」なんて和気あいあいと雑談しながら帰宅モード。

 

ここ戦場!さっきまで銃撃戦!命がけ!それが急に部活の帰りみたいな空気!?

 

さっきの戦闘の緊張感はどこ行った!?

 

「こらーー!!ちょっ、ちょっと!帰っちゃダメぇぇ!!」

 

アルが涙目で必死に引き止めても、誰一人振り返らない。

あぁ……勝ち目が、音を立てて崩れていく。

 

「ぐ……」

 

アルさんは悔しそうに唇を噛み、銃を下ろして叫んだ。

 

「こ、これで終わったと思わないことね!アビドス!!」

 

うわっ……出た、テンプレ捨て台詞!絶対次回も負ける悪役が言うやつ!!

 

「ぷっ……あっははは!アルちゃん、それ完全に三流悪役のセリフじゃん!」

 

ムツキさんがアルさんの発言にお腹を抱えて笑う。

 

「うるさい!逃げ……じゃなくて、退却するのよ!!」

 

わーわー騒ぎながら、便利屋68は砂煙に紛れて撤退していった。

 

「……敵兵力の退勤……いえ、退却を確認しました」

 

アヤネちゃんの冷静な声が通信に響く。

 

「皆さん、一旦学校へ帰還してください」

 

こうして、便利屋68との戦いは――なぜか下校チャイムに終わらされてしまったのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

次の日の朝。

昨日の戦いの光景がまだ頭に焼き付いていたせいか、やたら早く目が覚めてしまった。

 

砂漠の冷たい風を頬に受けながら住宅街を歩いていると――あれ?

先生とアヤネちゃんが立っていて、真剣な顔で話し込んでいる。

 

「今日は借金の利息を返済する日ですから。準備に抜かりがあってはなりません」

 

おぉ……なんて重い話題!

 

先生がうなずくと、アヤネちゃんはふとこちらに気づいたようで、こちらに歩いてくる。

 

「そういえば昨日の件ですが……便利屋68の情報を見つけました。後ほど学校で詳細をご確認ください。彼女たち、どうやらゲヘナ学園の生徒だったようで――」

 

そのときだった。

 

「あっ、おっはよー!」

 

空気をぶち壊すような明るい声が響く。

次の瞬間、ひょこっと現れたのは――昨日戦ったばかりの、ムツキ。

 

「じゃじゃーん!どもどもー!こんなところで会うなんて、奇遇だね!」

 

奇遇!?いやいやいや!

昨日は銃撃戦、今日は通学路。こんな再会、ラブコメの幼馴染でもやらないよ!?

 

「ん?あっ、そっちのピンクのかわい子ちゃんも昨日ラーメン屋で会ったよね〜」

 

わたし!?かわい子ちゃん!?

混乱している間に、ムツキさんはにじり寄ってきて――

 

ぎゅっ。

 

「ちょ、ちょちょちょちょっと!?///」

 

気づけば肩に腕を回され、完全ハグ状態。

距離感ゼロどころかマイナス!?わたし、いま爆弾より危険な密着くらってるんですけど!?

 

「何してるんですか!?れな子さんから離れてください!」

 

慌てたアヤネちゃんが、真っ赤な顔でムツキさんを引き剥がそうとする。

 

「へ〜、れな子ちゃんっていうんだ。いいじゃんいいじゃん。ちょっとぐらいフレンドリーにさぁ」

 

フレンドリーの域、完全に突破してますから!?

これもう物理的に不審者案件だよ!?

 

わたしは思わず先生に助けを求めて視線を向ける――が。

 

「"……"」

 

カシャシャシャシャシャッ!!!

 

…?

……え?

 

「せ、先生!?な、なんで助けてくれないの!?なんで連写モードで写真撮ってるの!?

今やるべきはシャッターを押すことじゃなくて救出する事だよ!?これ、完全に”子供の成長記録”的なノリで撮ってるでしょーー!?」

 

 

◇◇◇

 

 

その後、なんとかアヤネちゃんに助けてもらい、ムツキさんの腕から解放される。

ほっ……命の危機を脱した小動物の気分。

 

ムツキさんは名残惜しそうに手を離しながら、けろっとした顔で言った。

 

「あー、誰かと思えばアビドスのメガネっ娘じゃーん?おっはよー、昨日ラーメン屋で会ったよね?」

 

「メガネっ娘じゃなくて、アヤネです!」

 

アヤネちゃんがびしっと言い返す。

 

「それに昨日はラーメン屋だけじゃなく、その後の学校襲撃でもお会いしましたよね!?なれなれしく振舞ってどういうことですか!」

 

するとムツキさんは、悪びれる様子もなく肩をすくめた。

 

「だって私達、別にアビドスのみんなや先生達のことが嫌いなわけじゃないし。ただ部活で請け負ってる仕事だからさ。仕事以外のときは仲良くしたっていいじゃん?」

 

「ねー、れなちゃん?」とムツキさんは、わたしに同意を求めるようにじわりじわりと近づいてくる。

 

「ひぇっ!?」

 

「それにさー、『シャーレ』の先生ってアビドスだけの先生じゃないでしょ?」

 

ムツキさんはにやっと笑い、今度は先生に同意を求める。

 

先生は少し困ったように笑いながらも、ふわりとした声で言った。

 

「"私はふたりが喧嘩しないで仲良くしてくれると嬉しいな"」

 

「あはは、それはムリかなー」

 

先生の言葉にムツキさんはあっけらかんと笑った。

 

「こっちも仕事だからね。適当にやると怒られちゃうからさ」

 

「ま、いつかうちの便利屋に遊びにおいでよ、先生。アルちゃんもみんなも、きっと喜ぶからさ」

 

「それじゃ、ばいば〜い。アヤネちゃんもれなちゃんもまた今度ね〜」

 

そう言って颯爽と去っていく後ろ姿。砂漠の風に、ほんの少し爆薬の匂いが混ざっていた気がする。

 

「また今度なんてありませんから!!」

 

アヤネちゃんは顔を真っ赤にしている。

 

「はぁ…はぁ…まったく……なんなんですか、あの人は……」

 

 

◇◇◇

 

 

その後、学校に到着したわたしたちは、校門の前でそわそわと待っていた。

――アビドスの借金の利息を返済するために。

 

「……準備は整いました」

 

そんなとき。

 

ゴゴゴゴゴ……と砂を巻き上げながら、一台の輸送車がゆっくりと校門前に停まった。

扉が開き、降りてきたのは――ピカピカに磨かれたスーツ姿のロボット。

 

「カイザーローンです」

 

名乗りながら深々とお辞儀。

声は合成音声なのに、やけに営業スマイルが板についているのが腹立つ。

 

「……お待たせしました」

 

ロボットはカチリと目を光らせて、帳簿らしき端末を取り出す。

 

「変動金利等を諸々適用し、本日の利息は――七百八十八万三千二百五十円ですね」

 

アヤネちゃんは緊張した面持ちで、銀行員に札束の入ったカバンを渡す。

 

「はい、全て現金でお支払い確認しました」

ロボットが札束を無機質に数え上げ、コクリと頷く。

 

「以上となります」

 

あぁ……終わった……。

いや、終わってない!来月また来るんだこれ!!

 

「カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます」

ロボットはにっこりと笑みを浮かべ、丁寧に一礼。

 

「来月もよろしくお願い致します」

 

そのまま輸送車に乗り込み、ゴゴゴと砂煙を上げながら去っていった。

 

――残されたのは、ぽっかりと空いた七百八十八万の穴と、沈黙するわたしたち。

 

「……」

 

先生と一緒に後ろから見てたけど、思わず顔を見合わせてしまう。

……これほんとに高校生が背負うスケールの話!?金融の闇が深すぎるんですけど!!

 

「はぁ、今月もなんとか乗り切ったねー」

ホシノさんが伸びをしながら、いつもの調子でため息をついた。

 

「返済までどのくらい……?」

 

シロコさんが淡々と問いかける。

 

「どうせ死ぬまで完済できないんだし、計算してもストレスがたまるだけよ!」

 

……言い切った!未来への希望を秒速でぶっ壊したよ!?

 

「ところで、なんでカイザーローンは現金でしか支払いを受け付けないのでしょうね?」

 

ノノミちゃんが首をかしげる。

 

あ、なんかすごくいい質問したみたいな顔してるけど、それたぶん闇金システムの闇が深すぎて答え出ないやつ!

 

「シロコ先輩、あの車は襲っちゃダメだからね」

 

セリカちゃんがじっと睨む。

 

「……うん、わかってる」

シロコさんは珍しく視線を逸らした。

 

えっ、今の絶対「本当はやる気あった」って目だったんですけど!?

 

「計画するのもダメ!!」

 

「……うん」

 

……今度は完全に計画済みの返事じゃん!?やばいやばい、すでにシロコさんの頭の中でカイザーローン強盗RTAが始まってるよ!!

 

「ま、とりあえず先に解決するべきは、目の前の問題の方でしょ」

 

ホシノさんがぱんぱんと手を叩いてまとめに入る。

 

「とにかく教室に戻ろー」

 

 

◇◇◇

 

 

部室に戻ると、みんなそれぞれ椅子に腰を下ろした。

長机を囲んで座ると、妙に真剣な空気が流れる。あ、これから大事な話が始まるやつだ。わたしの心臓までシャキッとした。

 

「みんな集まったようなので、私からお話があります。」

 

アヤネちゃんが眼鏡を押し上げ、姿勢を正す。声がいつもより一段硬い。

 

「まずは、昨日のアビドス襲撃の件についてです。私たちを襲ったのは――『便利屋68』という部活です」

 

「彼女たちはゲヘナ学園でもかなり危険で、素行の悪い生徒たちとして知られています。メンバーの名前は改めて、アルさん、ムツキさん、カヨコさん、ハルカさん、の4名が所属しているそうです」

 

ひとりひとり名前を挙げられるたびに、昨日の戦闘シーンがフラッシュバックする。

そのうちの一人、ムツキさんには今朝会ったんだよね……

 

「今はアビドスのどこかのエリアに入り込んでいるようです。今朝も……会いましたし」

 

アヤネちゃんがちらっとこちらを見た。

 

「そんな危険な組織が、私たちの学校を狙っているのです。もっと気を引き締めなければなりません!」

 

ぴしっと言い切るアヤネちゃんに、部室の空気がさらに引き締まる。

 

「次に、れな子さんを誘拐したヘルメット団の黒幕についてです」

 

うっ、あの時の事を思い出すだけで胃がキリキリしてきた……。

 

「先日の戦闘で手に入れた戦車の破片を分析したところ、現在は取引されていない型番だと判明しました」

 

「つまり?」とホシノさんが片手を挙げる。

 

「生産が中止された型番を入手できるのは……キヴォトスでは『ブラックマーケット』しかありません」

 

「それに、便利屋68もブラックマーケットで何度か騒ぎを起こしていると聞いています。……ふたつの出来事の関連性を探るのも、ひとつの方法かもしれません」

 

アヤネちゃんの言葉に、みんなの視線が集まる。

 

すると――

 

「よし、じゃあ決まりだねー」

 

ホシノさんが、いつもの眠たげな声でさらっと言った。

 

「ブラックマーケットを調べてみよう。意外な手がかりがあるかもしれないしね」

 

「れな子ちゃんはどうする?」

 

とホシノさんはわたしに問いかける。

 

最近のわたしといえば、戦闘を後ろから見ているだけだった……ここでわたしも力にならないと……!!

 

「わたしもブラックマーケットに行きます!」

 

こうして、わたし「甘織れな子」もみんなと一緒にブラックマーケットへと向かうのだった。

 





ムツキは「れな子ちゃん」じゃなくて、「れなちゃん」って呼んでくれそうなイメージ

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