前世の記憶がある。
東京に生まれ、平凡な両親に十分な愛をそそがれ育った。
学生期間もまた特筆すべき点もなく、それなりに平凡な学生として生きてきた。
そしてレールに乗せられたまま社会に出て、そこそこの大きさの会社に入社。
そこそこの給料を受け取ってそこそこの暮らしをする。何年も経つ。
鏡を見る。顔に皴が出来ていることに気づく。少し傷つく。
そこから先の記憶はあまりない。日々、体感時間というのは早くなっていくものだし、特別な体験というのもなくなってくる。
きっとこのまま何の変哲もない平凡な人生を送って、寿命で死ぬのだろう。そう思ってた。
死は突然だった。
眼前に眩い二つの光。
直後、体に走る凄まじい衝撃。
独身男性、享年37歳。
特筆すべき点もない人生だった。
「そんなわたしが、今は少女か」
鏡を覗くと、そこには黒髪の少女が。
姫カットの撫子長髪。瞳は青く、深く、上品。
顔は美しく、まだ幼さも残っているがそれでも少女とは思えないほどの”雰囲気”を纏っている。
尤も、中身は男でこの外見とは真反対の人間なのだが。
どういう訳か彼は転生した。
気づけば赤ん坊になっており、泣き叫んでいた。
月が経つと、自分が女になっていることに気が付き、ようやく転生という事実を実感したのだ。
最初は異性に転生したということで、拒否感もあったものだ。パンツの風通しがいいとか。
だが、 何年も生きているうちにそんな物も慣れてしまった。
むしろ今はこっちの姿の方がしっくりくるまであったりする。
「お嬢様、そろそろお時間です」
鏡を見ているといつもの様に、女がやってくる。
この時間、3時になるといつもコイツがやってくる。
例のあれをする時間が近づくとこいつは来る。
(……めんどくさいな)
内心、顔をしかめながら仕方なく女に付いて行く。
自分の部屋を出ると、そこは広大な屋敷の廊下。
和風づくりの屋敷の中は広く、それでいて広い庭まである。
なんか池とか白い砂とかあるがどのくらい掛かっているのだろうか。ふとそう思う。
景色を傍目に、廊下を歩いていき、とある障子の前に着くと、開け入っていく。
そこには篝火のような物がいくつも並べられ、その先には何もないスペースがある。
いつもの様に、そのスペースに正座し瞳を閉じる。
これはこの”泣琴村”に代々伝わる祈祷。
村の中でもとくに権威のあるこの”糸月家”の娘がそれを行い、山の方にいる神様を鎮めるのだとかなんだとか。
そんな神事がこれなのだ。
だがしかし、この神事は普通じゃない。
糸月家の娘は、屋敷から外に出ることを禁止され、こうしてただ祈ることを強制される。
どう考えたって普通じゃない。
そもそも山の方にいる神様ってなんやねんという話でもあるが。
しかしこれが15世紀とか16世紀とかの話ならばまだ納得も出来た。
屋敷の人間に確認したところ今年は、2023年。
つまるところ、こうだ。
「はぁ、因習村の姫に転生かよ」
転生したら因習村で変な神様を祈らされていた。
しかも屋敷からは出られない。
つまり、クソみたいな環境に転生したという事だ。
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