因習村の姫に転生したんだが   作:TSしか書かないマン

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第1話 因習村の姫

 儀式が終わった後、日もすっかり沈み空は真っ黒になっていた。

 

「……あー、暇」

 

 白夜は自室の中でポツリと呟いた。

 

 儀式の後というのは基本的に自由時間だ。

 

 因習村の姫として儀式をしろ、とは言われるのだが、それ以外について求められることはない。

 勉強をしろだとか、習い事をしろだとか言われることがないのだ。

 というか屋敷から出てはならないからそもそも学校に行ってないのだが。

 

 布団の上で寝がえりをうち、天井を見つめる。

 例のごとく暇を持て余した白夜は、くねくねタイムを送っていた。

 というかだいたいいつも暇を持て余しているが。

 

 ゲームやスマホがあればもう少し時間を潰せるのだが……残念な事にそんなものはどこにもない。

 かるたや絵札のようなものはあれど、愛しのTCGとか電子機器とかどこにもないのだ。

 本当に今年は2023年なのかよ、と疑いたくなるレベルだったが、よくよく考えてみればここは因習村なので妙に納得してしまう。

 

(だからなんだって話ではあるけど)

 

 暇なものは暇。

 娯楽もなけりゃ、仕事もない。

 人間は何もせずに生きられる存在じゃないわけで。

 

「んしょ」

 

 むくりと布団から体をおこす。自室を出て、トタトタと廊下を歩いていきどこかに使用人がいないか探す。

 しばらく歩いていると、炊事場に使用人を発見。歩み寄り、話しかける。

 

「なぁ、なにか手伝う事はないか?」

 

「んー、お暇を持て余していらっしゃるならお風呂の準備を手伝っていただけますか?」

 

「風呂か、そういえばもう夜だな。分かった手伝う」

 

 暇になったらいつもこうやって使用人を捕まえて仕事をせがむ。

 正直言えばこれはこの屋敷の主とも言える白夜がやる仕事なんてない。

 だが暇というのはとても辛い事。背に腹は代えられない。

 

 炊事場の裏にある薪置き場から、薪を数本とり、風呂釜の下にくべていく。

 

(っていうか、風呂を薪で沸かすって何時代だよ)

 

 この屋敷にはガスは通っていない。

 電気や水道は通っているのだが、風呂を沸かすとなるとこうやって薪をくべる必要がある。

 最初こそ前時代的なこの風呂にドン引きした物の、今は慣れてしまった。というかツッコむ気力も湧かないというのが本音だが。

 

(まぁ、趣もあるにはあるが……ていうか、それにしてもこれ結構疲れるな……)

 

 薪はかなり重い。

 しかも白夜の体はまだ小さいため、重さは余計感じられる。

 これは無駄な事を考える余力はなさそうだ。

 

(集中しよ)

 

 目の前の仕事に集中するため、白夜は他の事を考えるのをやめた。

 

 

▽▲▽▲

 

 ぽちゃん。

 

 長い髪の毛が水面に広がる。

 

 体がほてって気持ちがいい。

 

「お嬢様、湯加減はいかがでしょうか」

 

「ちょーどいい」

 

 声が風呂場に反響する。

 

 なぜだか時間の進みがゆっくり感じる。不思議だ。

 

 しばらく湯を楽しむと、体が熱くなってきたので風呂から出る。

 風呂場に備え付けられた鏡に、自分の姿が反射した。

 鏡の方を見ると、紅潮した自分の裸。

 

「……相変わらずだな」

 

 自分の裸体を見ながら、白夜はため息を漏らす。

 艶やかな黒髪に、子供とは思えないほど雰囲気のある顔立ち。

 体つきは細く、腰は特に細い。

 相変わらずそこには完璧な美少女が居た。

 

(因習村に転生したのはアレだが、これは感謝だな)

 

 正直、こんな姿に自分がなろうとは夢にも思わなかった。

 だがこれがいざ現実になったというのだから、多少は感謝もしなければ罪だろう。

 確かに生まれた環境は最悪だが、こればっかりは認めざるをえない事実だった。

 

 こんな見た目だからこそ、周囲もこの少女の中身が男だとは思いもしないだろう。

 というかこんな見た目だからこそ周りに『自分はどこの馬の骨かもわからないおっさんだ』とは言えないのだが。

 絶対にドン引きされるにきまってるから。

 

(こりゃ、言えないわな)

 

 目を細めながら、ふとそう思った。

 

 

▽▲▽▲

 

「お嬢様、明日は裏山にいきませんか?」

 

 風呂上り、夜風に涼んでいると使用人がそんな事を提案してきた。

 

「裏山?」

 

「ええ、はい。この屋敷の裏にある山です。山菜とかが取れるんですよ」

 

「山菜か」

 

「お嬢様、暇を持て余していらっしゃるでしょう?山菜採取は丁度良いかと」

 

 なるほど、確かに時間を持て余してるのはごもっともだ。

 それに今の季節は春。山菜のシーズン。

 前世では山菜がそれなりに好きだったから断る理由もない。

 

「分かった。行こう」

 

「それじゃあ、今夜は早く寝ないとですね」

 

 こういう訳で、翌日山菜採取のために屋敷の裏山に出ることになった。

 

 

▽▲▽▲

 

 翌日、朝早くに起こされた白夜はまだ眠たい眼を擦り、支度を始めた。

 

 できればまだ寝ていたかったが、森は日が暮れると帰ってこれなくなる。

 

 顔を洗い、朝食を食べ、山用の軽装に着替える。

 支度が終わると、弁当や雨合羽などを入れたバックを背負い、屋敷を出発した。

 

 屋敷の裏手から山に出る。

 しばらくは整備された道だったが、しばらく歩いているとやがて獣道のような粗悪な道になった。

 

 そして、そんな道をあるきはじめてから30分くらいが経過したときだった。

 

「そういえば言い忘れていましたが、帰り道では決して振り返ってはいけませんよ」

 

「え?」

 

「この道は、振り返っちゃいけないんですよ。振り返ると、幽霊に連れていかれますから」

 

「ふーん」

 

 まぁどうせ地方にありがちな迷信とかなんだとかの話なのだろう。

 別に、こういう話が怖くない訳ではない。

 だがしかし、実際に幽霊がいるかと言われるとNO。

 こういうたぐいの話は大抵、デマかなんかに決まっている。

 

(まぁ、この屋敷の姫がこんな事をいったらキレられるか)

 

 そういう事なので、話は否定せずに話半分に聞くことにした。

 

 そしてしばらく歩いていると、そんな話も飽きてしまったのかすぐに無口に戻ってしまった。

 

 それからはどちらも必死だった。

 というのもこの山、結構勾配が急なのだ。

 気を抜くと足が持ってかれそうなくらい疲れる。

 

(こりゃ、ハードだな)

 

 子供にこの山を歩かせるのかよ……。

 若干、突っ込みたくもなったがそこはご愛嬌ということにしてやることにした。

 

 

 

▽▲▽▲

 

 「と、到着です……」

 

 開けた山の頂上。眼下には、山に囲まれた町々。

 急こう配に息を切らし、脚の痛みに苦しみ、苦節2時間。

 ようやく白夜一行は山の頂上まで辿り着くことが出来た。

 

 屋敷の中ではあまり運動することはなく、皮肉なことにお嬢様らしい生活を送ってきたから、この運動は中々に応える。

 太ももとか足裏とか、腰とか全部痛い。

 正直、女児にこの運動させるべきではないと思うが……。

 

(まぁ、見晴らしはいいんだがな)

 

 肉体の苦痛とは裏腹に、目の前に広がる光景には満足していた。

 風は清々しく、気持ちがいい。

 これだけでも来た価値があるという物だ。

 

「お嬢様、この街が”泣琴村”ですよ」

 

「ああ、知ってる」

 

 それにしても、この村の全貌を見るのは初めてであった。

 今まで地図や口頭でこの村について聞くことはあったが、屋敷から出られない以上この村について直接見るだなんて事はなかった。

 

 街は、正直に言えば平凡な田園風景という感じだ。

 因習村だからと言って、特筆すべき点もないし、普通にそこら辺にある田舎の村と変わらない、平凡な村だ。

 学校はあるし、役場や電柱だってある。

 だがこうして見てみると、改めて自分が住んでいる屋敷というのがおかしいという事が思い知らされる。

 やっぱり自分は”因習村の姫”なんだな、と。

 

「この村は、お嬢様が守っていらっしゃるんですよ」

 

「あの儀式で?」

 

「そうです。お嬢様が毎日、山神様に向かって祈って下さるお陰で、この村は平穏でいられるんです」

 

 まぁ山神様なんて存在しないがな。

 内心、その言葉を否定しつつ、実際に口に出すことはしない。

 正直に言えば、あの祈祷に意味があると言ってくれるだけでも、少しだけ嬉しかったのだ。

 ただこの気持ちを伝えようという気はこっ恥ずかしくて起きなかったが。

 白夜はひっそりその気持ちをしまっておくことにした。

 

「──というか、山菜のこと忘れてないか?」

 

「ああ、そういえばそんなものもありましたね」

 

「忘れてたのかよ。危うくこっちまで目的を忘れるところだった」

 

「じゃあ、さっさと採取しに行きましょう」

 

 そうして目的を思い出した一行は、次の目標に向かうことにした。

 

 

▽▲▽▲

 

 日も暮れてきて空が赤く染り、カラスの鳴き声が遠くから聞こえてくる。

 

 山菜は大量に採れた。

 種類も豊富なうえに、さらに上質な山菜。

 やはり田舎の山というだけあって、この手の収穫物は素晴らしい。

 こればっかりは都会が勝てない点だな。

 だがしかし、上機嫌になっていたところ、釘を刺すかのように言われた。

 

「ところでお嬢様、行きで言った言葉を覚えていますか?」

 

「ん?えーっと、あれか?”帰り道は後ろを振り向くな”だっけか?」

 

「そうです。この辺り、霊が出るんですよ」

 

「ふーん、まぁ気にしておくよ」

 

 またこの話か。

 若干うんざりした白夜は、話を聞き流そうとしたが、どうにも真剣そうな表情で言われる。

 

「いいですか、絶対に、絶対にですよ?」

 

「……しつこいぞ。もう分かってる」

 

「それでもです、結構ガチで出るんですよ、この道は」

 

 流石にここまで言われると天邪鬼になってくる。

 そもそも、神だとか霊だとかそんな物いるハズがないのだ。

 小学一年生だってそんな事は知ってるし、そんな物にイチイチ怯える方が疲れるし、馬鹿っぽい。

 とその時、意地悪な脳裏をよぎった。

 

「そこまでいうなら試してみないか?」

 

「え?」

 

「わたしは姫なんだろ?それに、可愛い。霊だって一目惚れして襲ってこないハズだ」

 

「それ子供が言うようなセリフじゃない気が……ってマジで言ってます?」

 

「本気も本気だぞ、止めたって止まらないからな。よし、振り向いてやる」

 

「いや、ほんとにダメなんですっt──」

 

 そして、止められないうちに、後ろを振り向いた。

 

(なら霊なんていない)

 

 当然、そこにはなにもいなかったし、異変もない。

 普通に何の変哲もない獣道。

 

「ほら、なにもいないじゃ──」

 

 

 ほんの悪戯心。

 因習村の姫として生きてきたから、こういう超自然的な話にはうんざりしていて、心のどこかでそういったこと信じてるやつを否定してやりたいと思っていた。

 だから、ちょっとだけ意地悪してやろう。

 そう思っていただけだった。

 本当に、ただそれだけだったのだ。

 

 だがしかしここは普通じゃない場所。因習村。

 なにも起こらない、という方がありえない話でもあるのだ。

 

 

 

 悪寒。

 

 

 

 背筋を舐めるような、悪寒。

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 陰が、見えた。

 

 

 

 

『ミツケタ』

 

 

 

 

 視界が、揺らぐ。

 

 

 

 血の臭い。

 

 

 

 吐きそうだ。

 

 

 

 吐きそうだ。抱きそうだ。吐きそうだ。

 

 

 

 あれ?視界が、おかしい。

 

 

 

 左目が……ない?

 

 

 

 ぐにゅり。

 

 

 

 左目に手を当てる。

 

 

 

 ない。

 

 

 

「──ッ!!???」

 

 全身の血の気が引き、体中の穴という穴から汗がブワリと噴き出す。

 

「お嬢様ッ!!!!」

 

 肩を引かれ、意識が現実に戻る。

 

 そして、白夜の姿をみた使用人が息を呑む。

 

 左目が、なかったのだ。ぽっかりと。

 

 

 その日、白夜は左目を失った。




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