時を修正する舞台の客席人(ヴィクティム)   作:ゴリラズダンジョン

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アーディに幸せになって欲しい、ただその一心で書きました。


①観測者と客席人

 時に、世界とは分岐する。

 可能性の数だけ選択があり、異なる選択は異なる未来の道を記す。

 

 しかし、全知全能の神々だろうと、複数の世界を同時に観測することはできない。世界とは一つ、今見ているのが、そこに在るのが『唯一』である。

 枝分かれした未来が交わることは決して有り得ない。

 

 だが、数百、数千、数万と伸びていく未来の『帰着』はある程度決まっている。

 どれだけ枝分かれした木でも幹が一つであるように、数百、数千、数万にも至る世界の行き着く先はそう、大きく変わらないのだ。

 

 勿論、過程は大きく変わるだろう。誰かの選択が変われば、そこに生きている人々に大きく波及し、あらゆる前提が覆る。

 

 ただその一つ一つに異なる結末があるとするならば、到底『管理』できたものではない。世界というシステムを続けていくためには、必ず把握可能なキャパシティを守らないといけないのだ。

 

 故に世界のシナリオは『時の修正力』によって、どれだけ正常ルートから外れたとしても一定の結末に引き寄せられる。

 

 ―――と、前述したことをいきなり否定するが、完璧なシステムなど存在しない。

 数万年単位に一度、『時の修正力』が働かない――分岐した世界から、完全に独立してしまった『ありうべからざる未来』が生まれることがある。

 

 最もそれが、正常な世界と比べて良い結末になるのであれば問題ないかも知れないが、待っているのはたいてい『破滅』だ。

 時の監視が届かない世界は、やがてゆっくりと枯れ逝くのが定めである。

 

 さて、前置きはここまでにしておこう。

 

 人ならざる超越存在(デウスデア)に恩恵を刻まれた冒険者たちが名を馳せる英雄の都。オラリオが中心となり展開していく物語に介入したイレギュラーは、道化師(ジェスター)と呼ばれる少年だった。

 

 今は英雄全盛期、過去に例を見ないほどのイレギュラーが存在し、それだけ世界も分岐している。しかし問題なのは、その道化師が今を生きる存在ではなかったことだ。

 

 少年、ベル・クラネルは時という枠組みから弾かれ、過去にタイムスリップした。

 それは限定的な時間でしかなかったが、あのクソガキはいろいろと負債を残した(やらかした)

 本来なら殆どの世界で散る筈だった花を拾い上げ、あまつさえ愛でて見せた。

 

 ベル・クラネルは、必ず英雄にならなければならない。

 

 それが世界が定める結果だ。

 

 しかし道化師(ジェスター)の介入で、その世界の未来はそうはならない。

 待っているのは破滅、終末の世だ。

 

 修正力が働かない以上、時を唯一観測できる『彼』がどうにかしなければならない。しかし厄介なことに、『彼』が直接手を下せば、更に世界が厄介な方向に進み兼ねないのである。

 

 だからそういうときは何時も、『時の代行者』をその世界から選出する。

 

「そしてアーディ・ヴァルマ、君が選ばれた」

 

 何もない、ただ動かない時計だけが無限に連なる白い空間で、薄青髪の可憐な少女は神と向き合っていた。

 

「――どういうこと?」

 

「説明した通りだ。君には、この世界の時を修正して貰う」

 

 神様の神威とは、下界では封じられている。

 しかし人間とは異なる時を生きる神々が纏う雰囲気はやはりどこか違う。

 

 しかしアーディは、目の前の神を見て何も感じない。

 今こうして面と向かって話しているのに、声も、表情も、思考も、何一つとして分からないのだ。

 まるで、彼という存在に対しての時が止まっているように。

 

「君は、道化師(ジェスター)という少年を知っているか?」

 

「ジェスター……」

 

 ジェスターとは、暗黒期に颯爽と現れ多くの者を救い、そして忽然と姿を消した存在だ。七年前を最後に姿を消していることから、既に命を落していると見られており、その素性は未だに闇に包まれている。

 もはや、殆どの者の記憶に残っておらず、彼のことを記した英雄譚などは勿論存在しない。

 

「――勿論、知ってるよ。誰よりも、私だけが」

 

「そうだろうな。それが君が招かれた理由だ」

 

 アーディはずっと探していた。

 

 誰かを、あるいは何かを。切なくて、今にも消えてしまいそうな『残火』をずっと胸の奥にしまっていた。

 

 それが形のある炎として再燃したのは遂、最近のことだ。

 

 目の前の神と同じように、ジェスターに対するあらゆる記憶、感情は止まっていた。だがふと、何てことのない日常で思い出したのだ。

 

「全く、人の身でありながら時の障壁を突破してくるとは、あの道化はどこまで人に影響を及ぼし、翻弄するというのだ」

 

「そうか……やっぱりアルは在ったんだ」

 

 道化師(ジェスター)――アルを思い出して、アーディは自分の中に在った大切な想いを思い出す事が出来た。

 だが同時に、それは少女にとって悲劇でもあった。

 

 アルはもういない。アーディ以外の人々の反応がそれを物語っている。

 

 夢の中で出会った王子様を追いかける方法などあるわけがない。行き場のなくなった想いは辛く、少女が抱いた恋は成就することがないのだ。

 

「もしかして神様は、アルの正体を知ってるんですか?」

 

「私に知らぬことはない。時という枠組みで起きている事象は、全て掌握して――」

 

「お願いします!!!あの人の、アルのことを教えて下さい!!!そのためなら私、世界だって壊しちゃうから……!」

 

「壊されたら困るのだが……。しかし、いいだろう。翻弄された君には、それを知る権利がある」

 

 神は指を鳴らした。

 ある世界から切り取った『時』を圧縮して、それをアーディに情報として送る。

 

「そんな、じゃあアルはロリコンの女たらしじゃなくて、女の子ならだれでも射止め(ファイアボルト)る、ハーレム兎……ってこと!?」

 

「驚くべきところが少し、というか大分違う気がするが」

 

「そりゃあ勿論、時を遡ってきたのも驚きましたけど……でもやっぱり、腑に落ちちゃうっていうか」

 

 なぜ、ジェスターはあれほど的確に闇派閥の動きを把握し、対処する事が出来たのか。

 

 なぜ、アルの残滓すら世界に残されていないのか。

 

 なぜ、あれだけ都合の良い英雄が現れ、アーディを救ったのか。

 

 それは彼が今を生きる存在ではなかった、夢の国からやって来た白兎だったなら納得がいく。

 

「あ、でも待って。ということは……この世界にも、アルっているの!?」

 

「君を救ったアルはいない。――ベル・クラネル、それが道化師を名乗った少年の真名であり、君の世界にも同様の名を有する者は存在する」

 

「そっかあ……。じゃあ、会いに行かないと!!!お邪魔しました、神様!!!」

 

「ええい、招待された身で、食事もとらずに帰ろうとするな。ベル・クラネルは間もなく、この世界に訪れる終末に対抗し得る英雄だ。過程は異なっても、結末は一定に収束と私は先ほど言った。だがその偉業は、万の世界であろうとも『ベル・クラネル』以外には果たせない」

 

「うんうん、やっぱりアルは凄いんだ」

 

「だが、君の世界のベル・クラネルは別だ。ジェスターが色々めちゃくちゃにしたせいで、この世界のベル・クラネルは『英雄』にはなれない。志半ばで命を落としてしまう」

 

 あの時、アーディは死ぬ運命だった。

 

 それだけではない、ジェスターは沢山の命を救い、それだけ運命を変革したのだ。

 

 それが巡り巡って、かつての自分に回って来る――何という皮肉である。

 

「何としてでも、それは阻止しなければならない。――と、ここまで理解はできたか?

 

「はい、何となくですけど。でも、どうして私なんですか?アルの知り合いなら、リオンやアリーゼの方がずっと強いし、助けられたという点なら彼女たちも同じはず」

 

「確かに、ジェスターのおかげで、『アストレア・ファミリア』は壊滅を免れた」

 

 先ほどアーディが見たアルの世界では、星の乙女たちは悉く黒い破壊者に惨殺されてしまっていた。

 

「しかし知っての通り、君の世界では壊滅こそしなかったが、以降ファミリアとして機能できないほどの損害を負った筈だ」

 

 数年前、迷宮に突如現れた黒い破壊者(ジャガーノート)に『アストレア・ファミリア』は襲われた。アリーゼ、輝夜、ライラ、そしてリオンを除いた団員は命を落したが、どうにか撃退に成功したのだ。

 しかし怪我の後遺症でアリーゼは冒険者の引退を余儀なくされ、輝夜は片腕を、そしてライラは両目を失った。

 

 リオンは、自分の不甲斐なさに絶望して――と、

 

「もしかして、これが『時の修正力』?」

 

「その通りだ。妖精が絶望し、正義を見失う。その定められた結末に過程が収束するべく動いた」

 

「酷い、そんなのあんまりだよ」

 

 時の修正力というのは意地悪だ。

 折角なら、もっと皆が幸せになれるようにすればいいのにと、アーディは思う。

 

「ベル・クラネルが英雄になるのに、リュー・リオンの挫折は不可欠だった、それだけだ」

 

「貴方は、悪い神様なんだね」

 

「私という存在に良し悪しはない。時のために動く、それが役割だ。個人的な尺度など、とうに捨てている。さて、話を戻そう。時の修正力の範疇にいる存在では、時を修復する代行人には成り得ない」

 

「……まさかその言い方だと、私って『時の修正力』の外側にいたりする?」

 

「そのまさかだ。本来なら、アーディ・ヴァルマはあらゆる世界で死ぬ運命だった」

 

「ちょちょ、待ってよ。てことはさ、私の世界を正常に戻すためには、ベル・クラネル君をどうにかするだけじゃなくて、私もどうにかされないといけないの!?」

 

 時の修正力が働かない存在が、世界を破滅へと導く。

 

 アーディが仮にそうした存在を全て軌道修正したとしても、そこに自分というイレギュラーがいる限り、望むべき結末に到達することはないのだ。

 

「都合良く使って『はいおさらば』、なんてことはしない。確かに、普通なら見過ごせないイレギュラーだが、ベル・クラネルの問題に比べればたいしたことはない。君が未来を修正した暁には、その生を肯定すると約束しよう」

 

「正直、神様のいう事は信用ならないけど……もし私を裏切ってグサッってする気なら、もっと言いようがあったと思うし……分かった、私貴方のことを信じてみる。目には目を歯には歯を、イレギュラーにはイレギュラーを」

 

「物分かりが良くて助かる」

 

「でももう一つ約束して欲しいの。アルに合わせて、とは言わない。もうあの人がいないことは、分かってる。でもこの想いは、この記憶だけは何があっても消さないで欲しい」

 

 その気になれば、目の前の神は七年もかけて折角形となった炎を簡単に消す事が出来ると、アーディは理解していた。

 

「いいだろう、約束する。時が来た、アーディ・ヴァルマ。道化に翻弄されるだけの客席から降り、舞台に上がるのだ。どうか時の祝福があらんことを『舞台の客席人(ヴィクティム)』」

 




 大きくキャラ崩壊しないよう、できるだけ大森先生が描くダンまちを目指します。
シナリオをてきぱきと進めたいので、心理描写は雑になると思いますが、お手柔らかに。
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