時を修正する舞台の客席人(ヴィクティム) 作:ゴリラズダンジョン
「時の修復、か。そういわれても、何をやればいいのか分かんないよ……」
アーディは項垂れた。
時の神は、どうしてこの世界のベル・クラネルが英雄に慣れないか見通している。ならばそれを元に、これからアーディが時を修復するためにどうするべきなのか作戦を立てるべきだが、敢えて彼は情報を開示しなかった。
ただの傀儡では、物語として面白くなくなる。それは、世界の破滅よりも『悲劇』だと、彼は良く分からない事を言っていた。
アーディが時の神から授かった神託は〈オラリオの門でベル・クラネルを待ち、都市を案内するべし〉という酷く抽象的な内容だけである。
あとはアーディが見た『
せめて、誰かに頼る事が出来れば良かったが、時の代行者であること、そしてアルに関する記憶は絶対禁句らしい。
ヘルメス様やアストレア様なら、アルの事を覚えていて、あるいは力になってくれると考えていたけど……どうやらそれは叶わないらしい。
「とにかく、今はベル君に会わないと」
考えていても仕方がない。アーディの好きな英雄は立ち止まらない。
アーディが今いるのはオラリオの巨壁、その真下の門である。
今日は、ベル君が初めてオラリオを訪れる日だ。《ガネーシャ・ファミリア》に所属しているアーディにとって、検問はただの日常業務であり、ここに居ることに対して誰からも違和感を抱かれることはない。
多くの行商人や旅人の長蛇の列、公務なので怪しい者がいないか目を光らせて暫く。
やがて、その少年は不意に現れた。
揺れる白い髪は、その気高き純白の心根を表していることを知っている。
そして彼という存在が英雄であることを、心で理解していた。
「アーー!!!」
ル、と抱き着きそうになった。
当たり前だ。七年、いやそれよりずっと長く感じる時間、アーディは彼を待っていたのだ。
涙が出そうだ。今すぐ抱き着きたい。
でも彼は、アーディの知っている『アル』ではない事を知っている。
まだファミリアにすら所属していない少年は、アーディが知るあの人よりもずっと幼い。
だからここはグッと感情を押し殺し、都市の憲兵としての様相を纏った。
「君、通行許可証はある?」
「えっ、何か必要なんですか!?」
「旅人や行商人なら必要になるよ。でも冒険者志望なら話は別だ」
「は、はい!僕は冒険者になるため、このオラリオにやってきました!!!」
嘘を疑う必要もないほど真っすぐな瞳、やはり根底は『アル』と同じなのだとアーディが口端を緩ませた。
「あ、あの――?」
「ん、何でもない。冒険者志望なら、都市は大歓迎だよ。一応、どうしてオラリオで冒険者になりたいのか聞いてもいいかな?」
「はい、それは勿論……己の限界に挑戦し、強者を喰らうためです!!!」
違和感。
確か、アーディが時の神から見せられた『アルの世界』ではダンジョンに出会いを求めに~などと言っていた筈だ。
いや勿論、恋する乙女としてはそのような不純な理由よりも、強さへの渇望を感じるその眼差しは褒めるべきなのだが……。
何というかコレジャナイ感が……。いやしかし、将来ベルがアルと同じ女たらしのロリコンにならないのであれば、見過ごして良い違和感だ。
前提が変わった世界で、全ての辻褄を合わすことは難しいと、時の神も言っていた。
ベル君を英雄にして、ハッピーエンドに収束させるのが『時の修正』なのだ。
この世界には、この世界のベル・クラネルが在る。その全てを捻じ曲げることなど、許されるわけもない。
「志が高くて良し。でもね、オラリオはとーっても危険な所なの。具体的には白い兎を見たら飛び付いてくる初恋モンスターだったり、その人が飼いならしてる肩を切っただけで城を破壊する猪だったり……たまに、山を斬るライオンも現れたりするんだよ」
「今の話だけ聞くと、人が住んでいい場所じゃないような……」
「だから、君みたいな少年が一人でオラリオに入るのは危険だ。特別にこの私、Lv4のアーディ・ヴァルマが君を案内しよう!!!」
「で、でも知らない人に付いていくなっておかあさ――って、強制連行!?」
「ここが、ギルドで~~~あれがフルランド大聖堂で~~~」
「わあ……!凄い、凄過ぎる!!!ここがオラリオ……!!!」
強制的に街を連れまわったアーディだったが、アルの反応はとにかく楽しそうだった。
見慣れない街並、そして自分の好きな英雄譚に因んだ場所の数々には、喉を幾ら鳴らしても足りない様子だ。
「冒険者になるには、まずファミリアに入るのが必然だよ。君には、恩恵を授けて貰いたい神様がいたりするかな?」
「オラリオにどんな神様がいるのか全然知らなくて……でも優しい
「それだったら是非、ガネーシャ・ファミリア――」
と、それは『時の代行者』として不必要な言葉だと、アーディは気付く。
ガネーシャ様は少々癖の強いところがあるが、眷属のことを第一に想い、行動が出来る優しいお方だ。
だが憲兵の立場であるガネーシャの眷属では、冒険が出来ない。
ベルの事を考えるのならば、それはナシだ。
「え、もしかして僕をファミリアに入れてくれるんですか!?」
「えーっと、それは……それは……は、私がぁ、ガネーシャだぁあああ!!!」
誤魔化すべく、アーディは主神を真似る。
都合が悪いときは適当に大声を出しておけばどうにかなると、アリーゼが言っていた。
「良し、さてさて」
「何だったんですか、今の!?」
「細かいことは気にしない、それが冒険者だよ。それに、ファミリアって言うのは入ろうと思って入るものじゃない。本当の出会いって言うのは、何時も気まぐれなんだ。私と、あの人がそうだったように」
「……アーディさんには、とってもいい出会いがあったんですね」
「うん、今はどこかにいっちゃってるけど……何時か絶対会いに行って、約束を果たすんだ」
彼はもういないと、分かっている。
でもそれが諦める理由になるわけではない。
「案内して下さって、ありがとうございます。オラリオに来てそうそう、こんな綺麗な人に会えるなんて僕は幸せです。でも、これで幸運を使い切っちゃって、貴方ともう会う事が出来ないのは嫌だな」
「き、きれい!?」
不意に、アーディの頬を打ったのは
アルが女たらしなのは知っている。だがここまで、気障な台詞は言わなかった筈だ。
「今度は一緒にご飯にでも行きましょう。その時までに美味しいお店、見付けておきます」
オラリオに長くいるアーディの方が美味しいお店を知っている、という突っ込みも許さないほどの気障っぷり。
それでもなお不快に感じないのは、果たしてベル君の心が奏でる音色のおかげか、それともただアーディが兎の熱狂的な信者なだけなのか……。
しかし、ここでベル君と離れてもいいのだろうか。
〈オラリオの門でベル・クラネルを待ち、都市を案内するべし〉、神託は遂行した。だが、ここから先は指示されていな――。
〈ベル・クラネルを初恋モンスターから守れ〉
頭に流れ込む神託。
それは先ほどよりも明確で、そしてこの先の展開は未来を読めないアーディでも分かった。
「――やっと見つけた。また会えた。あの人いなくなってから今日までずっと待っていました、私の
そう微笑する、どこからともなく現れた町娘を見て、アーディは確信する。
この世界でベル・クラネルが英雄になるのを阻む『ターニング・ポイント』は間違いなく、ここであると。
ヘディンに女性の扱いを教わったベルよりも更に気障で、しかも目標が
設定が少しわかりにくいかも知れないので追加しておきます!
まず前提として、この物語では『あらゆる世界はベル・クラネルが英雄になる結末』に収束すると定義をしています。
確かにこの世界ではジェスターのおかげで、アストレア・ファミリアが壊滅するきっかけになったテイマーのジュラはいません。
ただ、アストレア・ファミリアの全員が生き延びれば、リューに『アストレアレコード』が発現することはないです。
しかしこの巡った正義は、ベルが英雄になる上で必ず必要な力となります。勿論、アリーゼたちも十分な英雄の器ですか、正義を継承したリューは何者も代わることができない、と言うのが世界の認識です。
だから、別の形でジャガーノートは出現し、正史通り団員の殆どか命を落とす結果となっています。
でもジェスターがあれだけ頑張ったのに、全滅はあまりにも物語として不自然過ぎます。世界とは一つのシナリオであり、その不整合は破滅も同義。だから結果に影響を及ぼさない範囲での改変が行われた結果、アリーゼ、輝夜、ライラは大怪我を負って戦う力を失った。
それが時の修正力(収束)作用です。
誰であろうと、大小含めて必ず時の収束は作用します。本来死ぬはずだった者が、何も失わずに笑って毎日を過ごす等、絶対にあり得ません。
しかし、そのあり得ないことを成してしまっているのがアーディです。
イレギュラー自身は時の収束作用の外側にあり、世界の法則に縛られることなく、シナリオを自由に描けます。
だから他の時の収束作用に左右されないイレギュラーに対しては、イレギュラーをもって対抗するしかないということです。
まあ何が言いたいかと言うと、ジェスターのおかけで狂った奴らが沢山いるから、アーディ頑張ってどうにかしてね、ということです。