時を修正する舞台の客席人(ヴィクティム)   作:ゴリラズダンジョン

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③初恋モンスターLevel100

 一目惚れだった。

 

 初めてあの子と出会った時、女神は戦慄した。

 

 このような魂の輝きは下界にあってはならない。必ず、自分の手の届く場所で管理して、愛でなければいけないと。

 

 女神として、その場で魅了することも出来た。だがそれをしなかったのは、娘としての意地だ。

 本当に欲しいものは理不尽な魅了(ちから)ではなく、『愛』で勝ち取ると女神は決めていた。

 

 だがその選択を、女神は後悔した。

 

 あの子はいなくなった。どこまでも暗い闇底に落ちてしまったかのように、その痕跡はどこにも残されていなかった。

 

 ただ、女神にはある確信があった。

 

 あれだけの魂の輝きが、前からオラリオに居たのなら自分が見落とすわけがないと。

 ジェスターと呼ばれた少年の洞察力では説明が付かないほどの『対応力』、そしてその存在が不自然なほどに世界から抹消されていること……。

 やがて、女神はある結論に至った。

 

 ―あの子は、アルは未来からやって来たのだ。

 

 なら、この世界にもあの魂の輝きは存在する。

 

 だから、待ち続けた。二十四時間、三百六十五日、門の前に監視を置き続けその時を待ったのだ。

 そして七年後――その時はやって来た。

 

 

 

「――やっと見つけた。また会えた。あの人いなくなってから今日までずっと待っていました、私の伴侶(オーズ)

 

「伴侶……って、僕の事ですか!?」

 

「あなた以外に誰がいるというんですか!全く、ずっと寂しかったんですからね!!!アル――というのは偽名でしたか。お名前、聞かせて貰ってもいいですか?」

 

「べ、ベル・クラネルですけど……」

 

「ベル……やっぱり、そうでしたか!!!」

 

「やっぱりってどういうこと?リューの同僚さん!!!」

 

「アルさんから本当の名前は聞いてなかったですからね。だから、ヘルンさんとずっと一緒に予想してたんです。本命はベル、次点でバルトかランドだったんですが、ズバリ予想的中です!!!」

 

 もう会う事が出来るかもわからない相手の名前を予想し、それを当てて見せるなど狂気の沙汰でしかない。

 

「それよりも、『ずっと』って……!まさか貴方、アルのことを――」

 

「勿論、片時も忘れたことはないです」

 

 シルと名乗る娘が、女神であることをアーディは『アルの世界』で知っている。

 

 だが神々とて、世界のバグであるジェスターのことを正しく認識できていない者は多い。

 事前にこの世界で起こる様々な情報を貰っていたアストレア様とヘルメス様は、恐らく覚えているだろう。

 実際、アルが一度姿を消して再び現れたとき、二人は驚いていなかった。

 アルの記憶はなくなっても未来の情報がある時点で、これは『未来から来た誰かに貰った情報だと』認識できる。

 

 しかし、フレイヤ様及びシルさんとアルの接点は殆どない。

 

 彼女は一方的な恋だけで、アルとの繋がりを保ったのだ。

 

「ぐぬぬ……私だって、アルの事が好きなのに……!!!」

 

 ずるい、羨ましい。

 

 アーディも忘れたくなどなかった。

 

 恋する乙女として負けた気分である。

 

「私の方がもーっと好きですからね」

 

「あの、えーっと話が読めないんですけど……」

 

「初恋モンスターと遭遇しちゃっただけだよ。早く逃げよう」

 

「えっ、あの肩で城を破壊する猪を飼ってるっていう?」

 

「さすがにオッタルさんも肩だけで城を破壊するのは難しいと思います。というかアーディさん、どうやら貴女は色々と知り過ぎちゃってるみたいですね?」

 

 娘の瞳に女神の色が透ける。

 

 どっとアーディの心拍数があがった。

 

「まあでも、今は目の前の恋が先決です。それでは――結婚しましょう、ベルさん!!!」

 

 瞬間、凄まじく風が吹き荒れ、アーディとベルの体が背後に吹き飛ばされる。

 

 大きな扉の中に体が吸い込まれ、直ぐに立ち上がったアーディは状況を察知した。

 

「ここは、教会……?」

 

 ステンドグラスから差し込む温かな光、荘厳な雰囲気を漂わせているのは小さな教会だ。

 

 その最奥、最も光が当たる場所には大きな花束が置かれている。

 

「いてて……」

 

 ベルも遅れて起き上がる。その体は、花束のすぐ近くにあった。

 

「って君、どうしてそんな恰好をしてるの!?」

 

「恰好、って――!?いつの間にか僕、凄く高そうな服を着てる……!」

 

 田舎から出て来たばかりのベルの格好は、決して煌びやかなものではなかった。

 だが今、少年が身に纏うのはぴしゃっと、タキシードスーツだ。

 

「ったく、なんで俺がこんなお遊びのために(はし)らなきゃならねえ」

 

「どうして僕たちが急に穴から現れた兎を祝福しなければならないんだ」

「それな」 「憂鬱だ」 「帰りたい」

 

「それが定められた運命であるのなら、我らはただ傍観者にしか成り得ない。時の定めに逆らうのは愚者の所業であり、出来るのは覚悟を以て心を諫めることだけであろう」

 

「――全ては、主が望むままに」

 

「フ、フレイヤ・ファミリア!?」

 

 参列者として、腰掛けているのは何れも見たことのある面々だった。

 都市最大派閥であるフレイヤ・ファミリア、その中枢を担う第一級冒険者がずらりと並んでいる。

 

「口を慎め。新婦(シル様)の晴れ舞台だ」

 

 神父(ヘディン)が喧騒を一蹴する。

 

 再び開いた扉、透明なウエディングドレスに身を包み、バージンロードを歩いてくるのは薄鈍色の娘だった。

 

 その足取りは、今にも空を飛んでしまいそうなほどに軽い。

 

 本来、娘は女神との繋がりを隠さなければならない。それがシルとしてのロールプレイングだ。

 

 だがその資源をフル活用する彼女は、とっくにベル・クラネルに対してかたが外れてしまっていた。

 

「さあベルさん、結婚式です!ここに、愛を永遠なものとしましょう!!!」




結婚式(同意なし、第一級冒険者あり)
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