時を修正する舞台の客席人(ヴィクティム)   作:ゴリラズダンジョン

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④その結婚、ちょっと待った!!!

「さあベルさん、結婚式です!ここに、愛を永遠なものとしましょう!!!」

 

「ちょっと同僚さん!これはあまりにも強引で雑過ぎるよ!!!第一、恋や愛って言うのは!互いに!!好き合ってからやるもので……!!!」

 

「口を慎めと言っただろ、傍観者。貴様にできるのは、新郎の知り合いとしてこの式を見守るだけだ」

 

 雷の如き視線を浴び、アーディは口を噤む。

 

 アーディはLv4、オラリオでも折り紙付きの冒険者だが、フレイヤ・ファミリアは格が違う。

 

「突然迫られて、困惑するのも分かります。でも、好きなんです。ずっと、あなただけを好きであり続けると誓います。嫌な所があったらすぐに直します、私だけはずっと何があってもあなたの味方であり続けます。だから、駄目……ですか?」

 

 ベルにとって、この状況はあまりにも『トンチキ』だ。

 そもそもいきなり求婚されて『はい』と応じる者はいない。

 

「その……シルさん?はとっても素敵な人だと思います。あったばかりですけど、その声も瞳も貴方の髪の用に綺麗で透き通ってる。もし僕が、出会いを求めに来てたなら、ここで貴女の唇を逆に奪っていたことでしょう。――でも駄目なんです。約束を、僕には報いるべき愛がある。そのために、強く成らなくちゃいけない」

 

 ほっ、良かった。

 

 大丈夫だとは思っていたが、記憶の中のアルは女の子ならほいほい付いていってしまいそうな危うさがあった。

 

 どうやら、今のベル君にはハーレムよりも、もっと大切な『約束』があるらしい。

 

「ちぇーっ、残念。でもこれじゃあ、流石に強引過ぎましたよね」

 

「だから、私はずっとそう言っていたでしょう。奔り損だ」

 

「それじゃあ、こうしましょう。――もし私と結婚するなら、貴方をフレイヤ・ファミリアに眷属として推薦します」

 

「そ、そう来たか――!」

 

 ベル君は、アルよりもずっと強さに憧れている節がある。

 強さを追い求める環境として、フレイヤ・ファミリア以上に優れている場は存在しないだろう。

 

「わ、私は辞めた方がいいと思うな!!!フレイヤ・ファミリアの戦いの野(フォールクヴァング)は死ぬまで戦い続ける、とっても怖いところなんだ」

 

 勇気を出し、フレイヤ・ファミリアの前でその恐ろしい内情を語ったアーディ。

 しかしどうやら、ベル君には逆効果だった様子で、

 

「死ぬまで戦い続ける……!」

 

 と、少し心を揺らしてしまった。

 

「でも、ごめんなさい。僕は誓ったんです。あの人が何一つ心配せず、笑って暮らせるよう英雄になる。そして、教わりました。強く成るには、強者を喰らうのが最も簡単な方法だって」

 

「……貴様は、俺たちを喰らおうというのか?」

 

 猛者が静かに問いかける。

 

「はい。もし貴方たちのファミリアに入ったら、きっと僕は『情』を抱いてしまう。だから思う存分、喰らう事ができないと思います」

 

「全く勘違いも甚だしい。愚かだ、あまりにもおのぼり愚兎過ぎる。私たち『フレイヤ・ファミリア』に情を抱く余裕があるほど強く成ると、貴様はほざくのだな」

 

「ひぃ、ベル君それは勇敢過ぎるよっ……!」

 

「いかがなされますか、シル様?」

 

「何も変わりません。何としてでも、私はベルさんを手に入れる。もう待つのは嫌です、だから少々強引に行きましょう。神の恩恵(ファルナ)を無理やり刻めば、もう逃げられませんから」

 

「――全ては、主が望むままに」

 

 重い腰を上げた猛者が、拳を握った。

 

「駄目――」

 

「遅え、そこで寝てろ」

 

 その暴虐から逃げるべく、ベル君の腕を引っ張って逃げようとしたアーディだったが、最速によって簡単に阻止されてしまう。

 間もなくベル君に向かって振り下ろされた猛者の拳、その絶対的な暴力に少年の「ふごお!?」という見っともない声が教会を木霊した。

 

 勿論、猛者も全力ではないだろうが、ベル君は恩恵を授かっていない只人だ。

 ドワーフや猪人ならまだしも、Lv7の拳を受けてただで済むヒューマンはいない。

 

「――はは。ああ、嬉しいなあ……聞いてた通りだ。オラリオにはこんなに凄い『音』がある」

 

 しかしベル君は意識を失わなかったのは愚か、猛者に拳を落されて、思い出に浸るように微笑していた。

 

「……お前は――いや、それはない。あの男は、七年前に俺が――ならばまさか……」

 

 戦闘に狂う者はいる。

 だがベル君の瞳はあくまで正常、一体どのような出会いがあったのか、彼は正しく狂っていた。

 

 猛者はその姿に誰かを重ねて、足を止める。他のファミリアの面子も、侮っていた兎が秘めていた『誓い』に、暫し驚きに囚われた。

 

 今が好機。

 

 Lv4のアーディでは、この場をどうにかすることができない。

 でも、時の神様はこうした事態を予測していなかったわけではないのだ。

 

 イレギュラーに対処する力として、アーディは『ある炎』を受け取っている。

 

 アルが有していた未来を切り開く紅炎とは相反する青炎。

 

「クロノ・マキア!!!」

 

 その炎は、時を歩みを止める力を有す。

 

 正真正銘、神様たちがいう『チート』だ。止まったときの中では、炎を有しているアーディだけが動くことを許されている。

 

 ただ、『時の炎』は有限だ。

 

 使用すればするほど、その火は失われる。

 それに使用している最中は、物体に触れることはできない。つまり、時を止めている間に邪魔な相手をグサっと……はできないのだ。

 

「でもこれじゃあ、ベル君を動かせないから……」

 

 炎を持っていない方の手で、ベル君に触れる。すると不自然に固まっていた前髪が揺れ、少年の時は再び再始動した。

 

「な、なんですかこれ!?皆、固まって――いや、時が止まってる……?」

 

 誰にでも炎の力を分け与える事が出来るわけではない。ベル・クラネル自身が、この世界にとってのイレギュラーだからこそ可能な『御業』だ。

 

 しかしアーディが、時の代行者であることは勿論、それを推察できるような情報を与えることは許されない。

 

 時を止める所業、一体どうやって説明すればいいものか――。

 

「す、凄い!!!凄いですよ、アーディさん!!!これ、貴方の魔法なんですよね!?」

 

「えっ、ああうん。そう実は私、凄い魔法使いなんだ!!!でもわけ合って、実力を隠さないといけなくて……」

 

「聞いた事があります!世界には表舞台にはでてこない『影の実力者』がいるって……!オラリオにも、迷宮で遭難した冒険者に物資を届ける『運び屋(ウーバー・ダンジョン)』とか、死亡した冒険者の装備がモンスターに食べられちゃう前に、回収してファミリアに届ける小人族がいるとか……!」

 

「そ、そうだねその通りだ!くくく、バレてしまったか!」

 

 どうやら、都合良く解釈してくれたらしい。

 

「でも、これは他の人に言っちゃだめだよ。その……私の正体がバレれば、世界が大変なことになっちゃうから!」

 

「世界が大変なことに……!?それは駄目です!約束が果たせなくなる」

 

「だから私と君だけの秘密、いい?」

 

「はい!!!」

 

「それじゃあ、今の内に逃げちゃおう」

 

「でも強者に背を向けるのは駄目だって……」

 

「初恋モンスターに食べられちゃってもいいの?」

 

「それはもっと駄目ですッ!!!」

 

「それじゃあ行こう。今度は私が、君を守って見せる!!!」




イレギュラー・レコード、とっても面白かったけどダンメモが残ってたらどれだけのボリュームになってたのか気になるな……。
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