時を修正する舞台の客席人(ヴィクティム) 作:ゴリラズダンジョン
シルさん及び、フレイヤ・ファミリアから逃げ出したアーディたちは、宿に逃げ込んだ。
零細ファミリアは、オラリオに本拠地を持っていない者多く、宿暮らしの者も多い。そのため、この都市には多くの宿が存在し、ギルドの管轄外の建物も多い。
身を隠すには持って来いの場所だ。
「どうにか逃げ切れたみたいだね……」
カーテンの隙間から、暗く染まった空を見る。
この時間に、アーディたちを見付け出すのは幾らフレイヤ・ファミリアでも骨が折れるだろう。
都市最大派閥を背負っているのだ。夜はどこに目があるか分からず、猛者や
「ごめんね、ベル君、私がもうちょっと上手くやってれば……」
「アーディさんが謝ることなんてないですよ!むしろ、助けて下さってありがとうございます!!!」
「オラリオに来て早々あんな怪物たちの理不尽に晒されたのに、君は強いんだね」
「理不尽には慣れてますから、はは」
そういうベルの瞳はどこか遠く。まるで、あれ以上の理不尽が日常だったとでも言いたげだ。
「でも、どうしてですか?
「ん、何がー?」
「僕とアーディさんは今日が初対面の筈ですよね?それなのに、助けてくれて……」
「それは私が優しいお人良しだから――って、言えれば良かったんだけどね。報いたい相手がいるんだ。その人に、君は良く似てるから」
「……その人とはもう会う事が出来ないんですね」
「うん、きっとそう。何時まで経っても、私は子供なんだ。想いを引きずって、中々前に進む事が出来ない」
「でもやっぱり、大切な人を忘れないアーディさんはとっても優しいお人良しだと思います。貴女をカッコ悪いという人がいるなら、僕が許さない」
「ふふ、カッコイイね君は」
「か、カッコイイ……初めて言われた……!えへへ」
「私より喜んでどうするのさ。そういうところも、変わらないね」
「……やっぱり、僕は貴方とどこかで……」
「あったことはないよ、本当にね。疲れたでしょ、体も洗ったしそろそろ眠ろう」
「え、まさか一緒に……!?」
「そんな破廉恥なことはしません!私は扉の近くで、同僚さんが来ないか見張ってるから」
「それじゃあアーディさんは眠れないじゃないですか!」
これでもアーディは第二級冒険者だ。
数日眠れなかったとしても、無理で突き通せる。それに、アーディは寝ないことに定評がある。
都市の憲兵として、夜も眠らずにオラリオを守っているのは勿論だが、一時期取り憑かれたように寝ない事に固執していたのだ。
最近になって分かったが、恐らくアーディはもう一度アルと会った時の準備をしていたのだろう。
アルという夢は眠れば覚める。今度あったときは一分一秒でも長くいたかったのだ。
「私は君よりずっとお姉さんなんだよ。心配しなくても大丈夫だから」
「だとしても、一人の夜は寂しいです!」
「……なら、寂しくならないよう少し私の話を聞いてくれる?」
「はい、勿論!!!」
大人しく眠らないなら、退屈な話でもしてやろう。
そう思い、アーディは彼が知らない英雄――『
当然それは、アーディ以外(初恋モンスターを除く)は知り得ない話。自分がアルの大ファン及び、好き好き兎マンなことも相まって、少々脚色してその軌跡を語った。
「正体不明の正義のヒーロー……何だか憧れちゃいます!!!」
君の話なんだけどね、とアーディは心の中で思う。
「アーディさんはジェスターが好きだったんですね」
「あはは、バレちゃった?」
「話を聞いてれば分かりますよ。アーディさん、凄く楽しそうで、悲しそうだったから。もう会う事が出来ないって、きっとその人のこと……ですよね?」
「そこまで見通されると何だか恥ずかしくなっちゃうな……」
「信じて向かい続ければきっと会う事が出来ますよ。明日、あさっては無理でも、向かい続けていればきっと辿り付けます」
「ありがとうベル君。でも私も、諦めてるわけじゃないんだ」
もう会う事が出来ない――そう分かっていたとしても、恋心とは複雑なものである。
「いつか必ず会うよ。そして言うんだ。――
花のような笑みで、花のような表情で、きっと。
これじゃあどっちが初恋モンスターか分からなくなってしまう。
その愛の重さに恐れでも抱いたのか、ベルは目を大きくし、面食らった様子で固まってしまった。
「ほ、ほらもう寝る時間だよ!!!いっぱい話せたし、私もこれで寂しくなくなった」
ベル君も疲れていたのだろう。
そのあと直ぐに、眠りに付いたのだった。
◇◇
「ありがとうアーディ。お前が生き残って、本当に
「アーディちゃんのおかげで、救われた人が大勢いる。改めて『彼』には感謝しなきゃいけないね」
生きるということは必ずしも良い事ばかりではない。
辛いことは勿論ある。でも、アーディは沢山の感謝を受け、沢山に感謝した。
生きていて良かったと、素直に思う。
【貴方が見付けた『
【そうよ。あなたが死んでリオンの絶望の糧になったら良かったのよ】
【自分だけ何も失うことなく生き残りやがって、てめえはアタシよりも救いようがねえ】
【せめて誰かを救う事が出来るならまだしも、これで守られることしかできない弱者だと来た】
でも最近、ふと思う。
もし私が生き残らなかったら、この世界はもっと良くなっていたのではないかと。
だが時間は巻き戻らない。未来は今で、『もしも』は正真正銘の空想だ。
だからこそ今を全力で生きるしかない。それでも、偶に振り返って俯いてしまうのが人間というものだ。
でもそういう時は決まって、あの人が自分を連れ出してくれる。
「――起きて下さい」
そう、私の――私だけしか知らない英雄が。
「起きて下さい、アーディさん」
目を覚ますと白い髪――ではなく、薄紅色の長い髪が目に入った。
「うわっ、モンスター!?」
「どこからどう見ても可憐な娘を見てモンスター呼びとは、アレンさんたちがいたら激おこですよ?」
怪物――ではなく、良く見たら彼女はシルさんだ。
……いややっぱり、モンスターなのは何も間違っていないではないか。
「しまった、私として事が何時の間にか眠って……!」
「それほど、兎さんとのワンナイトが心地良かった証拠ですね」
「ちょっと、言い方!!!変なことは何もしてないって、ガネーシャ様に誓うよ!!!」
「ふふっ、冗談です。アーディさんもたいてい、純真ですからね。ああ、逃げようとしても無駄ですよ。既に、この周囲は包囲されていますから」
懐に入り込まれた時点で、既に逃げる選択肢など捨てている。
それに、さっさとアーディを
ベル君は未だに、ベッドですやすやと寝ている。
「少し、お話をしましょう。時の神を名乗る存在と、貴方の現状について」
もう一度おさらいしておくと、この世界ではアストレア・ファミリアはリューを除いて、全滅こそしていないですが、壊滅しています。
アリーゼたちがいて、アーディも生きていて……というのは、世界にとってあまりにも都合が悪いです。『正義は巡る』というダンまちの世界を構築する一つの『提唱』に応じるには、犠牲は付きものですから。
――とそれらしい理由を言いましたが、単純にアリーゼたちが物語に関わってくると前提が変わり過ぎて、私じゃ物語として面白くすることはできません!アルが救った皆が幸せになる物語は、きっと誰かが書いてくれることでしょう!