時を修正する舞台の客席人(ヴィクティム)   作:ゴリラズダンジョン

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⑤宿でのひと時

 シルさん及び、フレイヤ・ファミリアから逃げ出したアーディたちは、宿に逃げ込んだ。

 

 零細ファミリアは、オラリオに本拠地を持っていない者多く、宿暮らしの者も多い。そのため、この都市には多くの宿が存在し、ギルドの管轄外の建物も多い。

 身を隠すには持って来いの場所だ。

 

「どうにか逃げ切れたみたいだね……」

 

 カーテンの隙間から、暗く染まった空を見る。

 この時間に、アーディたちを見付け出すのは幾らフレイヤ・ファミリアでも骨が折れるだろう。

 

 都市最大派閥を背負っているのだ。夜はどこに目があるか分からず、猛者や白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)はどうしても目立ってしまう。

 

「ごめんね、ベル君、私がもうちょっと上手くやってれば……」

 

「アーディさんが謝ることなんてないですよ!むしろ、助けて下さってありがとうございます!!!」

 

「オラリオに来て早々あんな怪物たちの理不尽に晒されたのに、君は強いんだね」

 

「理不尽には慣れてますから、はは」

 

 そういうベルの瞳はどこか遠く。まるで、あれ以上の理不尽が日常だったとでも言いたげだ。

 

「でも、どうしてですか?

 

「ん、何がー?」

 

「僕とアーディさんは今日が初対面の筈ですよね?それなのに、助けてくれて……」

 

「それは私が優しいお人良しだから――って、言えれば良かったんだけどね。報いたい相手がいるんだ。その人に、君は良く似てるから」

 

「……その人とはもう会う事が出来ないんですね」

 

「うん、きっとそう。何時まで経っても、私は子供なんだ。想いを引きずって、中々前に進む事が出来ない」

 

「でもやっぱり、大切な人を忘れないアーディさんはとっても優しいお人良しだと思います。貴女をカッコ悪いという人がいるなら、僕が許さない」

 

「ふふ、カッコイイね君は」

 

「か、カッコイイ……初めて言われた……!えへへ」

 

「私より喜んでどうするのさ。そういうところも、変わらないね」

 

「……やっぱり、僕は貴方とどこかで……」

 

「あったことはないよ、本当にね。疲れたでしょ、体も洗ったしそろそろ眠ろう」

 

「え、まさか一緒に……!?」

 

「そんな破廉恥なことはしません!私は扉の近くで、同僚さんが来ないか見張ってるから」

 

「それじゃあアーディさんは眠れないじゃないですか!」

 

 これでもアーディは第二級冒険者だ。

 数日眠れなかったとしても、無理で突き通せる。それに、アーディは寝ないことに定評がある。

 

 都市の憲兵として、夜も眠らずにオラリオを守っているのは勿論だが、一時期取り憑かれたように寝ない事に固執していたのだ。

 最近になって分かったが、恐らくアーディはもう一度アルと会った時の準備をしていたのだろう。

 

 アルという夢は眠れば覚める。今度あったときは一分一秒でも長くいたかったのだ。

 

「私は君よりずっとお姉さんなんだよ。心配しなくても大丈夫だから」

 

「だとしても、一人の夜は寂しいです!」

 

「……なら、寂しくならないよう少し私の話を聞いてくれる?」

 

「はい、勿論!!!」

 

 大人しく眠らないなら、退屈な話でもしてやろう。

 そう思い、アーディは彼が知らない英雄――『道化師(ジェスター)に関して語った。

 

 当然それは、アーディ以外(初恋モンスターを除く)は知り得ない話。自分がアルの大ファン及び、好き好き兎マンなことも相まって、少々脚色してその軌跡を語った。

 

「正体不明の正義のヒーロー……何だか憧れちゃいます!!!」

 

 君の話なんだけどね、とアーディは心の中で思う。

 

「アーディさんはジェスターが好きだったんですね」

 

「あはは、バレちゃった?」

 

「話を聞いてれば分かりますよ。アーディさん、凄く楽しそうで、悲しそうだったから。もう会う事が出来ないって、きっとその人のこと……ですよね?」

 

「そこまで見通されると何だか恥ずかしくなっちゃうな……」

 

「信じて向かい続ければきっと会う事が出来ますよ。明日、あさっては無理でも、向かい続けていればきっと辿り付けます」

 

「ありがとうベル君。でも私も、諦めてるわけじゃないんだ」

 

 もう会う事が出来ない――そう分かっていたとしても、恋心とは複雑なものである。

 

「いつか必ず会うよ。そして言うんだ。――貴方(アル)が大好きだって」

 

 花のような笑みで、花のような表情で、きっと。

 

 これじゃあどっちが初恋モンスターか分からなくなってしまう。

 

 その愛の重さに恐れでも抱いたのか、ベルは目を大きくし、面食らった様子で固まってしまった。

 

「ほ、ほらもう寝る時間だよ!!!いっぱい話せたし、私もこれで寂しくなくなった」

 

 ベル君も疲れていたのだろう。

 

 そのあと直ぐに、眠りに付いたのだった。

 

◇◇

 

「ありがとうアーディ。お前が生き残って、本当に(わたし)は嬉しい」

 

「アーディちゃんのおかげで、救われた人が大勢いる。改めて『彼』には感謝しなきゃいけないね」

 

 生きるということは必ずしも良い事ばかりではない。

 

 辛いことは勿論ある。でも、アーディは沢山の感謝を受け、沢山に感謝した。

 

 生きていて良かったと、素直に思う。

 

 

【貴方が見付けた『闇派閥(イヴィルス)』の殲滅に向かったから、アリーゼたちは戦う力を失った。あの時、貴方が死んでいればこうはならなかった筈だ】

【そうよ。あなたが死んでリオンの絶望の糧になったら良かったのよ】

【自分だけ何も失うことなく生き残りやがって、てめえはアタシよりも救いようがねえ】

【せめて誰かを救う事が出来るならまだしも、これで守られることしかできない弱者だと来た】

 

 でも最近、ふと思う。

 

 もし私が生き残らなかったら、この世界はもっと良くなっていたのではないかと。

 だが時間は巻き戻らない。未来は今で、『もしも』は正真正銘の空想だ。

 

 だからこそ今を全力で生きるしかない。それでも、偶に振り返って俯いてしまうのが人間というものだ。

 

 でもそういう時は決まって、あの人が自分を連れ出してくれる。

 

「――起きて下さい」

 

 そう、私の――私だけしか知らない英雄が。

 

「起きて下さい、アーディさん」

 

 目を覚ますと白い髪――ではなく、薄紅色の長い髪が目に入った。

 

「うわっ、モンスター!?」

 

「どこからどう見ても可憐な娘を見てモンスター呼びとは、アレンさんたちがいたら激おこですよ?」

 

 怪物――ではなく、良く見たら彼女はシルさんだ。

 ……いややっぱり、モンスターなのは何も間違っていないではないか。

 

「しまった、私として事が何時の間にか眠って……!」

 

「それほど、兎さんとのワンナイトが心地良かった証拠ですね」

 

「ちょっと、言い方!!!変なことは何もしてないって、ガネーシャ様に誓うよ!!!」

 

「ふふっ、冗談です。アーディさんもたいてい、純真ですからね。ああ、逃げようとしても無駄ですよ。既に、この周囲は包囲されていますから」

 

 懐に入り込まれた時点で、既に逃げる選択肢など捨てている。

 それに、さっさとアーディを撃破(オッタルパンチ)してベル君を|拘束《ウェディング)しない以上、話す余地がある証拠だ。

 

 ベル君は未だに、ベッドですやすやと寝ている。

 

「少し、お話をしましょう。時の神を名乗る存在と、貴方の現状について」

 




 もう一度おさらいしておくと、この世界ではアストレア・ファミリアはリューを除いて、全滅こそしていないですが、壊滅しています。
 アリーゼたちがいて、アーディも生きていて……というのは、世界にとってあまりにも都合が悪いです。『正義は巡る』というダンまちの世界を構築する一つの『提唱』に応じるには、犠牲は付きものですから。
 ――とそれらしい理由を言いましたが、単純にアリーゼたちが物語に関わってくると前提が変わり過ぎて、私じゃ物語として面白くすることはできません!アルが救った皆が幸せになる物語は、きっと誰かが書いてくれることでしょう!
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